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久実は私と恋人関係になったことがメンタルに影響を及ぼしたのか、センターのシングルはそこそこ売れ行きが良かったらしく、何度も歌番組で姿を見ることになった。
久実を攻略するのは、元の関係のおかげもあり、思いの外簡単だった。
しかし、季節はもう6月。ヤツが来るまで、あと9ヶ月。
うちの学校は補講まみれで実質的に夏休みがないから、夏休みで会えなくなることを考えないでいいのは助かりどころ。
(あと、たくみは今、全国ツアーやらフェスやらで学校に来るのも大忙しという時期なので、恋人らしいことが出来なくとも全く変ではないのも助かりどころ)
私は次のターゲットを決めあぐねていた。
加藤灯、小坂ひより、影山美麗、残り3人。
今までの関係性で考えてみても、この3人はクラスメイト以上のものはない。とくに小坂は今年から転校してきたので、共通の思い出も少ない。
……あえて、小坂?いや、順当に加藤か影山をいって──いや影山は今日も学校に来られてない。そもそも会うの自体が難しいぞ。うーん……
「えー、一応うちの学校にも進路希望調査があります。それぞれね、自分の進路書いて、提出ボックスに裏向きで入れておいてください。期限は来週の月曜」
HRの先生の声。
……絶対Googleフォームとかで回答させた方がいいだろうに。なんか変なところでアナログなんだよな。
自分の元に回ってきた紙は、1.2.3.と単純に第三希望まで書き込む簡素なものだった。
えー、1.女優 2 ……え、私進路どうするんだろ。大学行くのかな?この附属高校だから行こうと思えば大学も行けるだろうけど、あれ、考えたことなかった。
思いもよらぬ葛藤に1つ目の枠の文字を消す。
周りはすぐに書き終わるのか、さっさと提出ボックスに入れに行っている。
他にも書き終わってない人はいないかと周りを見渡す。
誰もいないか。まあ、この学校に来てる人なんてそんな感じだよな〜……いいや、あとで考えよう。
机の中に紙をしまった。
「あーもう最悪、遅刻するかも!」
バタバタと私は廊下を走っていた。今日はよりによって最後の時間まで授業を受ける日だったし、今から稽古に途中合流する日。
なのにも関わらず、スマホを教室に置いてきた。
しかも気づいたのが改札でスマホをかざそうとしたとき。
ぜぇはぁと息をしながら階段を上がり、自教室の扉を開ける。
教室の中には、加藤灯が一人、席に座っていた。
「あれ」
「あ、晴世ちゃん。お疲れ様」
「お疲れ様。加藤さん、って何してたの?」
「あー……ちょっとね」
と、手元の紙を裏返した。
「晴世ちゃんは?」
「スマホ忘れてさ」
「ああ、災難だね」
「うん」
自分の席の収納に手を突っ込む、そのとき、空いていた窓から強い風が入った。
うわっ!
空を舞う紙、軽くなびくショートの灯の紙、オレンジ色の空
(あ、このスチルだ……)
ヒラヒラと私の元に紙が降りてきた。
「あ!それは」
思わず中を見る。今朝配られた進路希望調査書が、配られたままの状態だった。
私は常々思っていた。
進路調査書はGoogleフォームの方が楽なんじゃないか?と。Googleがこの世界にないなら、メールでいい。そうじゃないと、今のたくみや、いつもの影山さんのように、学校に来られない人は、紙の進路希望調査書を貰うことも、出すこともできない。
それをなぜ紙にしているのか。
たしか、進路希望調査は、高2の夏にやり、最終確認として高3の夏にももう一回ある。
もしかしたら、奴は本来、そのときにルートに入るんじゃない?
そう、さっきのように風が舞い、スチルのような瞬間が生まれて──
「か、返して!」
加藤の声で我に帰る。
「あ、ごめんね」
「あ、ごめんなさい」
となれば、ここはノンデリかもしれないが、やってみるしかない。
「……あのさ、加藤さんって、進路決まってない?」




