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「……入ってすぐのときにね、すごくよくしてくれた先輩がいたの。もう卒業してるんだけどさ」
「うん」
「私が期別の曲でセンターになったときとか、もう泣きそうなくらい喜んでくれたり、上京してきて、一人暮らしで不安な中、支えてくれたのはあの先輩だった」
「うん」
「でも、彼氏がいてね。ファンの人に撮られちゃったの。大炎上して、活動休止して、そのまま卒業。今は何も活動してない」
「……そっか」
「……分かんないよね。恋愛禁止されてるのに恋愛ソングばっか歌わされてさ、気持ちなんか分かるわけない。分かるための努力はしようもんなら破門なんだからさ!ファンの人たちも、すごいんだよ。もう一気にバッシング。見た目の否定、人間性の否定、人生の否定、全部。全部見ちゃった」
言い方こそ明るいが、それは辛さの裏がえしだ。
芸能界に入ったばかりの14歳の少女にとって、この事件は相当ショッキングなものだったのだろう。
「そっからさ、恋愛ソング歌ってると、ちょっと冷静になっちゃうんだよね。こんなこと実際にあったら、私どうなっちゃうだろうって」
「なるほどねぇ」
「メンバーはすごくてさ、ファンの人を恋人と思い込む、とか言ってた。無理でしょ、ファンはファン、絶対恋人になれないし」
「タイプの人とか、いないの?」
「一緒に嬉しいことを喜んでくれる、楽しいことをしてくれる、大好きだと思える、人です」
「……ドリカム?」
「いつもの返事。とりあえずこう答えるの。恋愛できないって分かってるくせに、割と聞かれんのよ。ファンの人からも」
「見事なまでに見た目に言及しないね」
「言及できる見た目はね、メガネまで。メガネかけている人が好きです、まで」
「実際はどんな人がタイプなの」
「うーん……もう分かんないな。長く押し殺すとアンテナがなくなる」
次に紡ぐ言葉を少し考えた。
「じゃあ、私にもまだ勝ち目があるってことだ」
「……晴世のそれ、本当によく分からない」
「何で?」
「だって、私のこと好きだけど、私とお試しでいいって、本当に好きならお試しなんかじゃなくてずっと一緒にいたいんじゃない?」
痛いところを突かれる。
私は攻略がしたいだけであり、心から好きではない。それは事実。
「うーん、たしかにそれはそうなんだけど、でも、ハードル高いでしょ?ステップを踏んでくみたいな感じでさ」
「うーん」
「てか、私は信じてる。最後は私のところに来ると」
「は?」
「だって、私と一緒にいるときの久実は、感情も表情もとっても豊かだから、私といるときが一番過ごしやすいはずだもん」
「……すごい自信」
「そうでしょ?」
「……まあ、あながち間違ってはないけどさ」
「改めて、どう?私との賭け、乗らない?」
久実は深く考え込む。頭を捻ったりしつつ、最後には苦しそうな顔で言った。
「乗った」
「オッケー」
となれば、作るべきは既成事実。
私は久実に近寄り、久実の髪の毛を耳にかきあげた。
何をしようとしているか分かった久実は、ギュッと目を瞑った。
「──まって!」
唇を両手で押し返される。
「うん、待つよ」
「やっぱり、裏切りになると思うの」
「……そっか」
「だから」
久実の顔が近づく。私の右頬に柔らかい感覚があった。
「……私が卒業するまで、待ってほしい」
「……いいよ」
思わず互いに笑みが溢れた。




