表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋は四つの君を殺してしまう。【長編小説】  作者: 金森 亮
第二章 学校生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/39

第8話 ようやっと出会えた。

 深夜2時、僕はスマホのバイブレーションに叩き起こされた。地震が何かかと思い画面に目を向けると、そこには「着信 水島」の文字列があった。


「……もしもs。」

「今すぐベイエリアに向かって!」


 水島は緊迫した様子で、僕に電話越しからそう叫んだ。彼女に何か異常があることは察した。


「ど、どうしたんだ!?」

「……愛花梨の位置情報が、自宅からどんどん離れていってるのよ!このままだと、愛花梨、また死にに行くかもしれないわ!」


「……ベイエリアに向かってるんだな?」

「確証はどこにもないけど、緑の島は閉まっているし……。私、宇賀浦に住んでるから、愛花梨の到着に間に合わないかもしれないの。だから……。」

「分かった。すぐ出る。位置情報に変化があったらまた教えてくれ。」

「えぇ……頼んだわよ。」


 僕は紙を適当に引き千切って、朝までには帰宅すると書き留めておいた。そして財布とスマホを両手に握りしめ、市電に沿って一路ベイエリアに向かった。


 ベイエリアは赤レンガ倉庫などが立ち並ぶ函館の一大観光地だ。だが、少なくともこんな夜遅くに訪問する場所ではなかった。


 『……彼女は本当に世話を焼かせる人だ。ついこの間、彼女は死のうとしないと断言したはずなのに、次は何を企んでいるんだ?』


 息を切らして函館市街を疾走する僕に、仮説を立てるだけの余裕はなかった。彼女が死んでいないことを切に願っていた。



 ベイエリアの前哨戦である赤レンガの倉庫が見えてくると、僕は水島に彼女の現在地を尋ねた。


「あ、愛花梨は……?」

「毎年、クリスマスツリーが建つ場所、分かるかしら……?」

「あ、あぁ、もう目の前だ。」


 海沿いに目を向けていると、人影のようなものが見えた。そこに向かって最後の力を振り絞り、僕は遂に彼女の姿を捉えた。


「お、おい! 愛花梨!」


 近隣に住宅もないので、僕がそう怒鳴ると、彼女はこちらを覗いてきた。


「……どうしてこちらに、陽太くんがいらっしゃるんですか?」

「なんだよ……その言い回し。」

「いつも通りに振る舞っていますけど……?」

「なにもいつも通りじゃ……いつも通り……。」


 このとき、僕は未だ発現していない最後の人格の存在が頭を過った。敬語かつ僕を君呼びしているにも関わらず、彼女との心理的な距離はそこまで感じられなかった。


「どうしてここに来たんだよ……。」

「函館の湾岸が見たくなったんです。」

「……家の前にドックあるだろ。」

「そうではなくて、普段観光客で賑わっているこの地に完全な静寂が訪れているんですよ。その光景を想像したら、居ても立ってもいられなかったんです。」

「まぁ、この時間でも案外明るいもんだな。」

「この街に産まれた恩恵ですね。」


 彼女の言うように、現在時刻は深夜2時半ながらも、函館の街は幾つかの街灯によって照らされ、幻想的な景色を引き出していた。


 ただ、彼女の行動は明らかに常軌を逸しているもので、まるで自分の意思に従う義務でも負ったような素振りだった。

 僕の目には、小学生の彼女にあった自由奔放で天真爛漫という性格が、捻くれた形で継承されているように映った。


「こんなことしていたら、そろそろ家の人も怒るんじゃないのか……。」


 彼女は僕と視線を合わせた。朗らかな笑みの中には、少しだけ寂しさが滲んでいた。


「そう忠言されるなら、まずは陽太くんが私を叱ってください。」


 僕は彼女を叱ることはせず、代わりに彼女の身体に抱きつくことをした。


「へぇっ……?」

「愛花梨。僕は愛花梨に、もう危ないことをしないでほしいんだよ。」

「別に大丈夫ですよ。本当に危ないことはしませんから。」

「……僕を心配で眠らなくさせている。それでも大丈夫だって言えるのか?」

「それは……。」


 ようやっと出会えた彼女の五つ目の人格は、いわゆる「不思議ちゃん」というものに挙動不審を加味したものだった。


 そして、この人格もまた僕の抱き着きに拒絶反応は示さなかった。彼女もまた、アカリから分裂した人格だった。


 僕が到着してから五分ほどで水島もやってきたが、誰が見てもヘロヘロな状態で言葉の一つも発せそうにない様子だった。


「愛花梨、ここにももう一人、お前を心配している人間がいるんだ。だからこれからは普通n……。」


 僕がそう言おうとすると、水島はそれに被せるようにこう言った。


「待って北山くん、それ以上はなにも言わないで。」

「……お、おう。」

「愛花梨……夜中に女一人で立ち歩くのは、たとえ日本でも危ないし、第一、市の条例違反よ。」

「そ、そうなんですか……?」

「もう帰るわよ、お家に。」

「……あと少しだけ、この景色を見ちゃ。」

「大丈夫よ。大人になったら、この景色はいくらでも見れるから。」


 水島はそう言い彼女の背中を押して、帰宅させようとする。彼女もそれを渋々受け入れ、3時を軽く過ぎた頃、無事に彼女の自宅に着いた。前回と同じく、家の明かりは灯っていた。


 僕と水島は途中まで、一緒に帰ることにした。この数日間で、僕は水島に山ほど質問が生まれていたこともあり、早速水島にこう問うのだった。


「なぁ、前にも何度か、愛花梨が深夜徘徊したことはあったか?」

「それは分からないわね。一々愛花梨の位置情報を把握していたら、それこそ本質的にストーカーじゃないの。」

「まぁ、たしかに。というか、どうして二人位置情報を共有しているんだ?」

「今更すぎないかしら……それ。」

「悪かったな。今更気が付いたんだよ……。」


「待ち合わせをするためよ。」

「待ち合わせ?」

「中学時代から、今日みたいに愛花梨がどこかに消えることはよくあったわ。そのせいで、愛花梨、待ち合わせの時間になっても中々来ないの。高校受験で一緒に塾に通っていたときが、一番酷かったわね。」

「それで愛花梨の居場所を把握できるように、位置情報を共有したってわけか。」

「そうよ。結果的には大正解だったわね。」


 プライベートを明かし合う中である以上、彼女と水島の人間関係は、僕と彼女のそれを遥かに上回っており、僕は所詮同性でもないのに、なぜか水島に嫉妬に近い劣等感を抱いた。


「……さっき私が北山くんの話を遮ったのはね、北山くんが「普通」って言いかけたからよ。」

「普通って言葉の、なにがいけないんだ……?」

「今日の一連の行動は、今の愛花梨にとっては普通なのよ。北山くんの言おうとしていた普通は、その愛花梨の普通を否定することに繋がるわ。」


 彼女の五つの人格には、それぞれの価値観の範囲内で個別に普通が存在している。僕が異常だと思ったことも、僕の普通が働いたことだ。

 彼女の所作を否定してはいけないと分かりきっていたはずなのに、僕はこんな初歩的なミスをしでかそうとしていた。


 普通を常識だと勝手に錯覚して、危うく彼女を否定しかけた僕は、彼氏候補として情けなくなった。


「僕が無知だった……。本当にありがとう。」

「たしかに、今の愛花梨の行動は世間からしてみれば、常識知らずでしかないわ。もう、元の人格が復活してもいい頃合いだと思うのよね……。」

「……まぁ、一日じゃ変わらないか。」

「私はこの二年と少し、愛花梨に施せるだけのことはしてきたはずよ……。」

「そうなんだろうな。」

「……だから、私は未だに愛花梨の人格を取り戻せていないことが悔しいのよ。」


 水島は自分に呆れたような口調でそう言った。きっと水島にとっての愛花梨とは、本来の人格を有している愛花梨でしかないのだろう。


 『それなら四つの人格に支配された愛花梨は一体何者になるんだよ……。』


「……水島と同じにしちゃ悪いけど、僕も悔しい。昨日、屋上で愛花梨に本心を伝えたはずなのに、四つの人格に支配されたままだからな。」

「そうよね。」

「でも、愛花梨は僕らの本心に気付いているよ。愛花梨だって馬鹿じゃないんだからさ。」

「それはそうだけど……。」

「僕らは明後日からも、普通に愛花梨と接すればいいんだ。水島の普通と僕の普通で、愛花梨の青春に花を添えるんだよ。」

「その発想って、もしかして愛花梨由来かしら?」

「いかにもそうだな。」

「……凄いわね、愛花梨って。」

「なんせ僕の自慢の……親友だからな。」


 僕は少し呑気だった。変化があって一日という微々たる時間の経過が、僕を呑気にさせたのだ。そのうち彼女の人格が元通りになると本気で信じ込んでいた僕に、現実を受け入れるだけの覚悟はどこにもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ