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初恋は四つの君を殺してしまう。【長編小説】  作者: 金森 亮
第二章 学校生活

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第6話 復縁≠恋人

 4月8日、今朝のニュース番組は、東京の桜が満開を迎えたと報じた。対する函館の桜は未だにニ分咲きで、僕は満開の桜を待ち遠しく想っていた。


 『僕らは恋人に戻れたのか。せめて親友ぐらいにはなっただろうか……。』



 今日の彼女は既に教室に居り、相変わらず髪の毛は跳ねたまま、一人孤独に着席していた。昨日の一件による寝不足が原因のクマによって、彼女の内向的なムーヴが助長されていた。


 黙って自席に着席すると、僕は扉の向こうから複数人に直視されていることに気付いた。いつまでも目と目が合うので、僕は薄気味悪いとは思いつつも、彼女と言葉を交わそうとした。


「おはよう、愛花梨……。」

「……おはよう。」

「昨日は流石に寝られなかったか……?」

「……まぁ、うん。自業自得だよ。」


 非常に短文ながら、彼女は僕に何らかの返答をするようになった。昨日と比較すると、あまりにも大きな大きな進展だった。僕は彼女の心を、どうにかしてこじ開けられたようだ。


 それでも未だに彼女には、一定の距離感を保たれていることが否めない。また、無愛想な態度も相変わらずで、昨日、僕の前で散々目を潤ませていた女性とも、到底思えない。


 こればかりは、彼女との会話量に左右される要素だと思い、僕はとりとめのない話で無理矢理、会話を繋ごうとした。



「愛花梨、ずっとタブレットを観ているけど、なにをみてるんだ?」

「……見ちゃ悪かった?」

「い、いや、そんなことはない。単なる僕の興味本位だよ。」

「……多重人格の他のケースを調べている。多分、前に他の私が陽太に言ったやつ。」

「前っていうか、まだ昨日のことだろ……。」


 そうは言ったものの、冷静に考えてみると、昨日と人格が異なる以上、彼女は昨日の出来事の経緯を感知できない。それは出来事に対する印象が希薄なことに起因する。

 事実、彼女は事の経緯を、何も覚えていないと断言した。


 僕は彼女が、別人格に関して、事実だけしか確認できないという不自由な環境で、よくこの数年間を耐え忍んだと感服した。ここだけは、従来の人格の精神を継承しているようだった。



「論文を見ているのか?」

「これが結構面白いの。夢に出てくる自分自身が別人格とか、二つの人格が瞬間的に切り替わったりとか……色々。」

「愛花梨の場合は、一日毎に人格が交代するんだよな?」

「……そうみたい。少なくともこの日記帳には、そう書いてある。」


 彼女は一冊の分厚い日記帳を取り出した。表紙には名前だけが書いており、僕は中身もさぞかし端的に仕上げているものだろうと推察していた。


「見てもいいか?」

「……絶対にダメ。」

「ま、まぁ、そうだよな。ごめん。いつか時期が訪れたら見させてもらうよ。」


 恐らくは彼女の四つの人格の発現と、毎日の出来事が記されているのだろう。

 閲覧を拒否するということは、僕に見せられないページが存在するということで、まだ信頼関係は発展途上だということを身に染みて感じた。



 授業中、僕は彼女に対する、こんな疑問が浮かび上がった。


 『愛花梨の解離性同一性障害は一向に解消されない。でも、彼女を虐めた輩がこの場にいない。彼女は今、何の脅威から己を護ろうとしているんだ……?』


 僕には何一つとして候補が思いつかなかった。僕はこれから彼女と親交を深めれば、いずれ候補が仰山現れてくるものだと納得し、一旦この話題を打ち切ることにした。



 昼休みになり、水島が僕らの元にやってきた。水島は何か言いたげな様子だった。


「北山くん、昨日は本当にお手柄だったわね。」

「僕がお手柄なら、水島は大手柄だな。」

「……二人は運命的に紡がれているのかしらね。」

「は、はは……。」


 やがて水島は彼女の方を向き、両手で軽く机を叩いてこう言うのだった。


「愛花梨。まだ私がこの世で生きているっていうのに、よくも死のうと思ったわね。」

「……本当にごめん。」

「私だけじゃないわ。周りのみんなは愛花梨の敵じゃないし、愛花梨と両想いの北山くんだっているのよ……。昔と今では、背負っているものが何もかも違うの。」

「……うん。分かった。」


 水島は達観的な視点から、彼女に現実を突きつけた。彼女は現状、「根暗」ながらも、現状を客観的に把握できるよう、精一杯の努力をしていた。僕は彼女が、ある程度は未来への希望や期待を、取り戻せているように思った。



 するとどういうわけか、僕ら三人の傍へ、一昨日に校則違反を指摘された女子がやってきた。僕が彼女に決闘でも挑むのではないかと思い危惧していると、その女子はこれまたどういうわけか、深々と頭を下げてきたのだ。


「愛花梨ちゃん……おとといは本当にごめんね。私、喧嘩腰になっちゃって。」

「み、美夏みか……。」


 最初に喧嘩を仕掛けたのは彼女だったが、美夏という女子は独特な訛り口調でそう謝った。そして、御丁寧に喧嘩の経緯まで語り出した。


「私ね、高校生活が始まって、少し有頂天だったの。それで化粧した自分を、愛花梨ちゃん否定された気がして、つい怒らさっちゃった(怒っちゃった)の……。」

「……そうだったんだ。」

「もう、次はあんなことしない。だから、愛花梨ちゃん。私を許してくれないかな……?」


 彼女はしどろもどろしていた。女子に喧嘩を仕掛けた彼女と、今の彼女は解離した存在だった。美夏という女子が謝罪に至った背景を、全く認知出来ていなかった。 


「……こちらこそ、ごめん。」


 彼女が何に謝っているのかは分からないが、彼女はとり得る策の中で最善策をするのだった。


「美夏。多分これは、大丈夫って意味合いよ。」

「……うん。」

「ありがとう、愛花梨ちゃん。」


 どうやらこれで一件落着したようで、僕は緊張が一気に解け解放感に包まれた。


 美夏という女子は一言で表すなら『天真爛漫』で、クラスの中心的な人物と言って差し支えない存在感を示していた。茶味がかった髪と丸っこい目が彼女の人懐っこい印象を増加させていた。そうやって勝手に容姿を観察していると、美夏という女子は唐突にこう言い放った。


「それはそうと……北山くんと愛花梨ちゃんって付き合っているの?」

「……へ?」 「……へ?」

したって(だって)、さっき薫ちゃんがそう……。」

「あ。」 「あ。」


 そもそも、彼女と水島と会話をしている時点で、僕は周囲から一定の注目を浴びているため、あの水島の発言によって、僕はワケあり美人の交際相手であると確信された。これで一昨日に僕が彼女をなだめたことや、彼女を名前呼びをしている点の辻褄が合うことだろう。


 僕は彼女と目を合わせた。僕はこれの蜜月な関係が恋人なのか、そうでないのか、彼女に何かしら答えて欲しかったのだが、ただでさえ「根暗」な性格の彼女は、やっぱりそっぽを向いてしまった。


 全員が全員、水島の暴露を聞き入れていたわけではない。だが、少なくとも、この美夏という女子と女子一行は、青春の景色に目をきらめかせており、もう僕らが弁明する余地なぞ、どこにもなかった。


 この出来事の張本人である水島は、僕に対して悪びれる様子もなく、僕が目を細めて露骨にヘソを曲げていても、かえって開き直ったような態度で微笑んでいた。


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