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初恋は四つの君を殺してしまう。【長編小説】  作者: 金森 亮
第七章 愛の注ぐ先

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第32話 献身、それは自己満。

 虐めの一件も一段落して、僕と彼女には再び平穏が訪れていた。僕は彼女達への保護欲が増える一方で、それが次のデートを企画することに繋がっていった。


 『……アカリを復活させるようなことは避けないと。』


 これからの主役は彼女達だけであり、僕はアカリに必要で彼女達に不必要なことには知らん顔をすることにした。これが、僕の考える彼女達の《《幸せ》》だった。



 8月8日月曜日、僕は彼女と函館駅で待ち合わせをしていた。やがていつも通りの景色の中に、いつもの彼女がやってきた。


「おはようございます、陽太くん。」

「おはよう、愛花梨。悪いな、付き合わせちゃって。」

「で、デートは別に普通ですから!」


 三ヶ月前、青森デートのとき、彼女は「青春を大切にするべき」だと言っていた。僕は彼女の好みを優先するあまり、普通のデートを無視していた。

 そこで、僕はいかにも青春っぽいデートを行うことにした。今日はその代表格、『映画館』でデートをすることになっていた。


「実は映画館に行くの、今日が生まれて初めてなんです。」

「そ、そんなこと……あるか。」

「えぇ。普段はスマホとにらめっこしていますから。ですが、映画館ってどんなところなんでしょうか。」

「ポップコーンを貪り食う場所だな。」

「絶対そんなことないと思うんですけど……。」

「あ、言い忘れいていたけど、今日観る映画は恋愛モノだな。」

「陽太くんも恋愛モノの映画を観るんですね。」

「まぁ、いろんな恋模様を見てみたいからな。」

「陽太さん、やっぱり浮気するんですか?」

「それは論理が飛躍し過ぎてないか……。」


 僕らは定番のポップコーンを買って席についた。すると、彼女は何かをスマホで検索した後、僕を見てニヤケてきた。


「ど、どうしたんだよ。」

「折角ですから、手を繋いで観ましょう。記事にそう書いてありましたから。」

「……僕らホラー作品を見るわけじゃないからな?」

「そこはこだわらなくていいんです。」


 僕らはポップコーンを買ったことも忘れて、固く手を結んだ。


 映画の内容は主人公が過去に遡ってヒロインを救うという、よくある純愛モノで、よくも悪くも王道の展開だった。

 少し退屈気味だった僕は横に目を向けると、口をぽかんと開けて映画に集中する彼女の姿があった。僕は彼女へ未知の世界を教えられたことに鼻高々だった。



「初めての映画はどうだった?」

「ちょっと音は大きかったですが……お話が繊細で見入っちゃいました。」

「悪くはなかったみたいだな。まぁ、これからはこんな感じの発見がいっぱい出てくると思うから、好きなものを見つけてみるといいよ。」

「……そうします。」



 それからというもの、僕らは少し期間をあけて『カラオケ』や『ゲーセン』でデートをし、彼女の好奇心を必要以上にくすぐった。自然が大好きな彼女でも、未知の世界を十二分に堪能できているようで、僕も心が幸せで満ちていった。


 『僕は彼女達と上手く日常を送れている。これなら、僕は彼女達をもっと成長させられるかもしれない。』


 僕の瞳は彼女が成長する様子をまじまじと見つめていた。未来を紡ぐ糧になると疑うことをしなかった。



 だが、そんな彼女の成長は一変した。

 夏休みが終わり9月に入ると、彼女は目に余る言動をし出した。


 9月10日土曜日、僕らは地元の遊園地を訪れていた。場内を一通り回って、カフェで落ち着いていた時のことだった。


「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」

「なんだよ、急に改まっちゃって。」

「……陽太は、どうして私達にここまでしてくれるの?」

「僕は昔の愛花梨じゃなくて、いまの愛花梨を幸せにしたい。ただ、それだけだよ。」

「それは無茶よ……。私達は価値観が同じでも性格が全然違うし、陽太にとってみれば私達は厄介者なの。」


 僕は久しく聞いていなかった彼女の自虐に目を皿にした。いままでの成長ぶりを一蹴するような言葉が、僕の固定観念を揺さぶった。


「そんな自分をさげすんで……急にどうしちゃったんだよ。」

「どうもしてないわよ。ただ、私達の考えを言っただけ。」

「……そこは僕の好き好きなんだから、それぐらい自由でいいだろ。」

「でも、私達が陽太の首を絞めるかもしれないのよ……?」

「そのときは絞め殺されておくよ。」

「……馬鹿なの?」

「あぁ、僕は筋金入りの馬鹿だ。そんな僕を愛してくれる愛花梨は天才だな。」


 段々と喧嘩腰になっていった彼女は、諦めてこの話を終わらせた。僕は彼女が何を目論んでいるのか気付けず終いだった。



 しかし、彼女の卑下は留まるところを知らず、デートや登下校の度に自分の存在を否定し続けた。

 僕が彼女の言葉を冗談で片付ける度に、彼女は溜息を一つつくようにもなった。


 『まさか……僕と別れたいのか?』


 彼女の止まらない自虐に、僕は酷く惑わされていた。そこで、僕は彼女のことを熟知しているある人物に電話をかけた。


「……もしもし。こんばんは、美海さん。」

「こんばんは、陽太さん。久しくお話していませんでしたね。」

「すみません。中々一段落しなくて……。」

「二人が元気ならなんでもいいんですよ。それで、今日はどうしたんですか?」

「愛花梨の話です。ここ最近はいまの人格も成長してきて、自分を肯定するような言動も増えてきました。」

「そうですよね。私も愛花梨とやり取りしていて、成長しているなって思う瞬間がありますから。」

「ですが、今日の愛花梨は、自分を散々罵倒した挙句、僕にとって自分は厄介者なんだと言ったんです。」

「それはまた急ですね……。」

「……僕、馬鹿なんでどうしてこうなったのか分からないんですよ。」


 加瀬先輩はしばらく沈黙を続けると、一つの答えを導いてくれた。


「……愛花梨も一人で生きられないことぐらいは悟っているのかもしれません。あの子は頭がいいですから。」


 僕はその言葉に血の気が引いて、彼女との未来に暗雲が立ち込めた。


「ごめんなさい……美海さん。」

「な、なんでしょうか?」

「……僕はいまの彼女達と生きたいです。そうするって、もう決心したんです。」


 しばらくの間、先輩はマイクに声をのせなかった。先輩は僕に何を伝えるべきか、じっくりと考え抜いていた。


「陽太さんがいまを大切にする気持ちはよく分かります。ですが……愛花梨にも愛花梨なりに決断があると思うんです。」

「決断……ですか。」

「私は出来ることなら、陽太さんに愛花梨の決断を受け入れてほしいです。」

「その決断が、僕の理想とかけ離れていても……ですか?」

「えぇ。」


 僕はこの《《決断》》とやらの正体を、薄々察していた。


 『愛花梨は成長する決断したんだ。つまり、愛花梨の最終的な目標は…………






 統合なのかもしれない。』


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