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初恋は四つの君を殺してしまう。【長編小説】  作者: 金森 亮
第五章 生活環境について

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第22話 夜分遅くに失礼します。

 6月7日火曜日、19時過ぎ。僕は部屋に籠ってある準備をしていた。若干の緊張を感じつつも、20時の到来を待ち侘びていた。


 これ以上、彼女が夜間に孤独を抱くことは、絶対に避けたかった。しかし、彼女に負荷を掛けて藪蛇と化すことも避けたかった。


 そこで、僕は二人で夜が更けた頃に連絡を取り合い、与太話でもしようと提案をした。時代と環境が可能にしてくれた、孤独を埋め合わせる最強の術だった。

 すると、彼女もこの案に同調してくれ、実際に通話することが決まった。


 ただ、昨日の彼女は「根暗」な人格だったので、僕は通話が思うように行かないことを懸念して、通話を今日以降に延期させた。当の彼女は、僕との通話を切望していたのだが、僕は無理矢理押し切って今晩にさせた。



 20時過ぎ、僕は彼女に電話を掛け、三コール目で発信音が途絶えると、代わりに彼女の声音が聞こえてきた。


「も、もしもし、あ、愛花梨か……?」

「もしもし。そうだよ。私は紛れもない倉持愛花梨です。」

「や、夜分遅くに失礼します……。」

「緊張しているの?」

「……た、多分、本当に緊張しているんだと思う。」


 僕は変に緊張してどもってしまった。彼女の顔を窺えないことが、僕の緊張を仰いだ。


「別に緊張することないよ。画面の向こうにいるのはいつもの私だから。」

「そ、そうだよな。」

「……でも、なんか凄い新鮮だね。二人で電話するなんて。」

「まぁ、どうだ。少しぐらいは騒がしくなったんじゃないか?」

「少し……というかかなりだね。」

「効果テキメンって奴だな。」

「そうみたいだね。……ありがとう。私のために提案してくれて。」

「まぁ、僕には大義があるからな。」

「大義……?」

「アカリを是が非でも幸せにする大義だよ。」

「……頼もしい彼氏さんで良かったよ。」

「なんだよそれ……。」


 電話越しの彼女は、自宅で落ち着いていることもあり、平穏という様相を呈していた。彼女の孤独はそれ相応に打ち砕けているようで、自己肯定に近い発想を覚えさせることも出来た。

 いまなら彼女の本音を引き出せると踏んだ僕は、早速今日の収穫を活用することにした。


「愛花梨。」

「どうしたの?」

「もう一度、お姉さんと……美海さんと会ってみる気はないか?」

「本当に陽太は、いつも突拍子もない質問をするよね……。」

「とにかく、愛花梨の意思が聞きたいんだ。」

「会いたいよ。機会があるならね……。だって、お姉ちゃんに面と向かって謝りたいから。」

「そうか。まぁ、そうだよな。」

「……でも、私はお姉ちゃんの家を知らないし、どこで何をしているかも知らない。考えたところで、空論でしかないよ。」

「連絡手段はあるんだろ?」

「だけど、長い間無視しているから、もう……。」


 彼女は加瀬先輩の宛先が、既に形骸化していると錯覚していたので、もはや手立ては一つしか残されていなかった。


「分かった分かった。」

「分かってもらえて良かったよ。」

「それはそうと愛花梨、僕のために一日、暇な日を作ってくれないか?」

「急にどうしたの?」

「単にお宅にお伺いしたいだけの話だよ。」

「お、お宅って……それは別にいいけど。」

「良いんだな? それじゃあ頼んだ。ありがとうな。」

「う、うん……。」


 その後は暫く他愛のない話で盛り上がり、気が付いた頃には、次期に午後9時半を回ろうとしていた。しかし、彼女の口調は一向に疲れを帯びる気配がなく、むしろ日常の話から飛躍して、流行りの話に踏み込んできた。


 僕はそれがアカリの復活を示唆しているように感じた。言い草は多少違えど、その積極性は僕に往年のアカリを思わせた。


 『今後も愛花梨にこの積極性というか向上心が続けば、孤独を愛花梨自身で浄化出来るようになるかもしれない。』


 僕は彼女に気を遣ったせいでかなり体力を消耗していたものの、ここは彼女の積極性を引き出すときだと思い、なんとか踏ん張ることにした。


「……ねぇ、陽太。」


 以降も幾らか会話していると、突然彼女がこう問い掛けてきた。


「ん、どうした?」

「陽太の誕生日っていつだっけ……?」

「10月8日だよ。入れ歯の日だな。」

「ありがとう。入れ歯の日……覚えたよ。」

「……そう言われてみれば、僕も愛花梨の誕生日を知らないんだよな。」

「7月4日だよ。陽太流に言うなら……梨の日になるのかな。」

「『愛花梨』だもんな。……でも、7月4日ってわりともうすぐだな。」

「そうだね。もう一ヶ月を切ってるよ。」


 僕の優秀な脳は、話の主題が僕の誕生日でないことを理解していた。


 記憶を遡ると、僕は小学生の頃、彼女に誕生日を祝われたことがあった。正確には友人が僕に誕生日の品を渡す瞬間を、偶然彼女が目撃してしまい、僕は少しだけ叱られて、お祝いの言葉を受け取ったのだった。几帳面だった彼女が、その日付を忘れるわけがなかった。


 この問いの裏側には、誕生日を祝ってほしいという彼女の念願が隠されていた。現に僕を悟らせる時間かは知らないが、しばし無言が続いた。


「……もうそろそろ寝支度しようかな。喋り疲れちゃったし。」

「そうだな。もう十時ゆっくり休めよ。」

「今日も楽しかったよ。ありがとう。」

「こちらこそ。」


 そうして無事に三時間の通話は終了した。僕は彼女と同じように就寝体制に入って、布団に包まっては今さっきまでの会話をそらんじることにした。



 そのうち、実は彼女だけではなく、僕の夜分にもぽっと灯りが点っていることに気が付いた。動画をしらみ潰しに視聴する、普段の機械的な僕とは違い、今日は少しだけ人情味のある生活を過ごせていた。


 僕は今日の対話を序盤から振り返っていたため、数十分が経った頃に誕生日の話題に辿り着いた。アカリが復活する契機としてはこれ以上ない機会だった。そのため、僕はこの機会を重要視していた。


『アカリの復活は絶対に彼女の幸福へと繋がる。僕が型破りな行為に及んだとしても妥当性が保証してくれる。僕はアカリのためにここで怯んではいけないんだ……。』


 四つの人格に対する権威は、完全に喪失させていた。


 ただ、そう持論を展開したところで、僕には真っ先にやらなければならないことがあった。彼女とお姉さんを引き合わせることだった。僕はこれを以てまた考え直すことにし、回想に踏ん切りをつけて眠りについた。


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