表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋は四つの君を殺してしまう。【長編小説】  作者: 金森 亮
第五章 生活環境について

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/39

第20話 家庭=孤独

 僕は緑茶を一口含んだ後、次のように主張した。


「……孤独でいると、自分の愚痴をこぼす先がないから、一人で多くの感情を抱えることになるんだよ。」

「それがなんだと言うんですか……。」

「……愛花梨は、人格を切り替えることで、その重荷を解消しているんだよ。だから、お前が障害を完治したいと思っていても、目の前の孤独がそれを許してくれないんだ。」

「なにを……言っているんですか……?」

「つまり、お前から孤独が消えない限り、倉持愛花梨は永遠に人格が五分割されたままなんだよ……。」

「クラスでお友達と話していても、こうして陽太くんとお話していても……ですか?」

「あぁ、そんなんじゃ何も変わらない……。」


 彼女は口をつぐんだ。僕は強固な理屈の通った主張をしたため、彼女に二の句は継がせなかった。彼女自身も自分を省みて、未だに孤独であると悟っているようだった。


 少しして、彼女は僕に屈託のある笑みを浮かべた。そして、こんな悲観的な物言いをしてきた。


「……私は孤独なのかもしれません。ですが陽太くんに無理なら、私はどうやっても孤独を拭えないじゃないですか……。」

「いいや、そうでもない。僕は絶対に、愛花梨の孤独を打ち消してみせる。」

「どうやってですか……?」

「簡単だよ。小学生の僕らになくて、今の僕らにはあるものを使えばいいんだ……。」


 僕は彼女にその方針を説明した。彼女は僕の時間を浪費するからと、負い目を感じている様子だったが、最後には無事に承諾してもらえた。彼女が散々消極的だったわけは知れなかったが、来週から実践に取りかかろうという約束に漕ぎつけた。


「……これで話も一段落ついたし、僕はそろそろ帰ろうかな。」

「分かりました。玄関までお見送りします。」

「明日は休みだから、しっかり身体を休ませるんだよ。」

「もちろんです、ありがとうございまs……。」


 彼女はそう言って立ち上がると、身体が左右によろめき、ベッドの方に戻っていった。そして、最後には意識を喪失して、ベッドに倒れ込んでしまった。


「あ、愛花梨……⁉ ど、どうしたんだ⁉」


 僕は何が起きたか分からず、数秒の間、唇を紫にして彼女の顔を見つめていた。

 やがて状況を把握した僕は、彼女の首に手を当てて脈の有無を確かめた。だが、彼女は至って正常な脈拍をしており、それ以前に彼女の呼吸音が僕の耳に届いていたのだ。僕は彼女が貧血でも引き起こしたのかと思ったが、それはすぐさま見当違いだと気付いた。


 僕は部屋の壁掛け時計に目を向けた。時刻は23時57分を指していた。今は日付が変わる直前、すなわち、彼女の人格が切り替わる前後の時間帯だった。



 0時を過ぎると、彼女は少しずつ瞼を開いて僕の方を見つめた。


「……驚いた?」

「一瞬、心臓が飛び出そうになったよ……。」

「それはごめんね。どうしても、軽く意識を喪っちゃうの。いつも日付が変わる前後は、布団で横たわる習慣があるんだけど……今日は仕方なかったね。」

「僕こそ、悪かったよ……。」

「いいんだよ。……たった今、人格が切り替わったから。」

「……最近、あんまり会っていなかったな。」

「そうだね。でも昨日の私、少しお転婆だったでしょ?」

「かなりお転婆だったな。」

「……昨日は付き合ってくれてありがとう。すごく疲れたけど、すごく楽しかった。」

「期待に応えられてよかったよ。」


 僕は彼女の別人格が、彼女に憑依する瞬間を目の当たりにした。演技では成し得ない、口調から視線、態度や仕草の変化が顕著に現れていた。これが多重人格者の日常だった。


「……私には、義理の姉がいるの。」


 彼女はベッドに座り直して、思い出したかのようにそう呟いた。


「ぎ、義理の姉って……愛花梨、お前、お姉さんがいるのか?」

「歳の差は一歳だけどね。私の父は、母の二番目の旦那さんで、お姉ちゃんのお父さんは、母の最初の旦那さんなの。」

「……二人は異父姉妹なのか。」

「そういうことになるね。」


 僕はその義姉の存在が、彼女の日常にどう干渉しているのか気になった。そして、日曜日になったことも忘れ、彼女にこんな質問を投げ掛けた。


「その……お姉さんはどんな人だ?」

「温厚で人情味溢れる、私の尊敬する人だよ。私が一人暮らしを始めたとき、頻繁に家を訪ねてきては、私に家事から何まで教えてくれたの。今使っているキッチン道具とか家具も、全部お姉ちゃんに選んでもらったものを使い続けているから。」

「……もしかして、柔軟剤もか?」

「そ、そうだけど……え?」

「た、単なる勘だから気にするな。」

「……お姉ちゃんの知恵があったから、私はこうして生きれているんだと思う。」

「その……お姉さんとは暮らせないのか?」

「私の別人格が、お姉ちゃんを突き放しちゃったの……。関係修復は、もう絶望的かな。」

「そうか……。」

「……また、会いたいんだけどね。」


 そう言うと、彼女はスマホを立ち上げて、一枚の写真をこちらに提示してきた。


「これ、四年前の私とお姉ちゃん……。」


 写真の上には、馴染み深い小学六年の彼女と、髪艶のよい一人の少女が突っ立っていた。二人とも満面の笑みを浮かべており、僕はこの二人が、いずれ絶縁状態に陥ることを想起すると徐々に鳥肌が立ってきた。


『……待てよ。この少女、たしかどこかで。』


 だが、僕はこの少女に既視感があった。背丈が彼女よりもやや低くて、黒髪ロングで髪艶がある。そんな女性を僕は知っていた。


「……お姉さん、名前はなんて言うんだ?」

「藤乃美海……だったと思います。」


 僕の問いは、結果的に必要な問いだった。確信までは一歩届かないが、ほとんど確信を掠めていた。日常に潜んでいた違和感が、結びついたような気がした。今日、僕の脳内は、今にも破裂しそうなほどの情報過多に見舞われたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ