第9話 真実
「かなでー、部屋から出ない?」
「…」
「もう夜だよ。お腹すかないの?」
「…」
「もう退屈で死にそうだよ。」
「…」
奏は部屋に戻ってからずっとベッドに突っ伏していた。心がソワソワして落ち着かなくて、今日のことが頭から離れない。時おり「うーん」と、唸っては無駄にゴロゴロとベッドの上を転がっていた。
「あっ!ジャンが来た!」
「えっ!うそ!」
「うん、嘘だよ。」
ガバッと起き上がり慌てる奏に、セツの楽しそうな声が降ってくる。
「セーツー!!」
「だって、奏が話し相手になってくれないから。」
ぶう、と不貞腐れるセツに奏はため息をついた。
「…仕方ないわね。まぁ、ちょうど貴方に聞きたいことがあったのよ。」
「え?」
「悪魔憑きってなに?この前言ってたじゃない?愛美のことを悪魔憑きって呼んだでしょ。」
「ああ、あれちゃんと聞いてたんだぁ。」
感心したような声でセツは言って、奏の目の前に座った。
「悪魔憑きっていうのは、悪魔と契約したものの事を言うんだ。つまり、彼女が悪魔と契約してたってこと。」
「悪魔と?精霊じゃなくて?」
「うーん、あれは間違いなく悪魔だったよ。」
「聖女って精霊と契約するんじゃないの?私みたいに。それとも、愛美は聖女じゃないってこと?」
「ううん、彼女は間違いなくこの世界では聖女だよ。ただ、誰と契約するかは本人の自由なのさ。」
「本人の?」
「うん、そうだよ。」
頷かれて奏は眉間にシワを寄せた。
「でも、私は貴方を選んでないけど」
「それは愛美に記憶操作されているからだよ。」
「え?」
驚いて顔を上げれば、セツは楽しそうに笑った。
「間違いなく僕は奏と契約したんだ。だけど、その記憶は消されちゃったみたい。しかも姿が見えないようにされちゃって、参ったよあの時は。だから、奏が城を出てくれて本当に助かったよ。城の外なら彼女の魔力も届かないから、僕も姿を表せたって訳さ。」
「ん?遠征は?あの時だって愛美は近くにいなかったよ。」
「ああ、気付いていなかったんだね。あの時、愛美はついて来ていたんだよ。」
「えっ!?そうなの?」
驚けばセツはこくんと頷く。
「愛美にはずっと悪魔が憑いていたの?」
「そうだよ。だからこそ、人の心を魅了して操っていたんじゃないか。」
「え!?」
再び衝撃の事実に今度は飛び起きて、セツの脇をギュッと持ち上げた。そのまま振ってセツを問い詰める。
「魅了ってなに!?誰を!?どうして!?」
「魅了は魅了だよ。彼女のことを好きだと思い込ませて、自分の都合が良いように動かすんだ。」
「誰を魅了していたの?」
「誰って、手当たり次第だろうね。」
「ジャンも!?」
ぶんぶんとセツを振る奏の勢いは止まらない。
「彼の場合わぁぁぁ」
セツは振られ過ぎて酔ったのか、目を回してその場に座り込んでしまった。
「あ…ごめん。つい」
「うぅぅ...ぎもぢわるい。ひどいよぉ」
「ご、ごめんってば。」
慌てて奏はセツの背中を擦ってあげる。尻尾が気力なく垂れ下がるが、それを奏は何となく可愛いと思ってしまった。
ふふっと久しぶりに笑みが零れると、セツは嬉しそうだった。
「でも、そっちの名前が先に出るんだね。」
「えっ?」
「王子様の方じゃないんだね。ジャンは?って聞いたから。」
「あっ、えっ、ちょっと今のなし!」
「奏って分かりやすいねっ。」
ニヤニヤと笑うセツにこれ以上からかわれたくなくて、奏は話題を変える。
「それで、悪魔と契約するとどうなるの?」
「話そらせたぁ。」
「うっ…」
「まぁ、良いや。──端的に言えば悪魔の能力を使えるようになるよ。」
ただ、とセツは渋い顔をする。
「奏にとって悪魔がどういう存在か分からないけど…僕たち精霊としては良くないよ。」
「良くないって?」
「悪魔は心を惑わす生き物なんだ。だから、他の生き物に取り憑いて、その生態系を崩してしまうんだよ。」
「生態系を?」
「そうだね。例えば、王族に取り憑いたとしようか。そうすると、争い好きな奴らは戦争になるように仕向けるんだ。で、戦争に巻き込まれた人間は死んでいく。って感じかな。」
「明るく言うわね。厄介って思ってる?」
訝しんでセツを見ればのほほんとした顔をして、手を舐めて毛繕いをしていた。
「思ってるさー。」
「あなた、危機感ないって言われない?」
「良く言われるー。」
ニコニコ笑って答えるセツに奏は返す言葉を失くした。
「で、話を戻すよ。そんな悪魔が愛美には憑いてる。」
「じゃあ、まずいんじゃ」
「だね。しかも質が悪い。憑いてるって言ったけど、正しくは契約しているからね。今のところは、愛美が優勢なのか悪魔を利用している感じだったけど、悪魔が彼女を乗っ取ったら大変なことになる。」
「他とは違うの?」
「そりゃあ違うさ。悪魔憑きでもあの娘は聖女だからね。奏もそうだけど魔力が桁違いさ。だから、悪魔が利用しようとしたら、戦争だけじゃすまないんじゃない?そうなる前に手を打たないと」
「何か方法はあるの?」
「あるよー。魔封じのアクセサリーを彼女に身につけさせれば、悪魔は本来の力を発揮できなくなる。あとは…」
言いかけてセツは口を閉ざした。不思議に思って奏が首をかしげると、セツはぷにぷにの肉球を自分の口に当てて「内緒」と、楽しそうに笑っていた。




