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島の娘  作者: M38
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第6話

「あなたは……ボバリー家の未亡人!」

「そうだよ! いまごろ気がついたのかい? あんた、エマって女だろう? 島からきた! ちょっとばかし美人だからって、リードさまにまで手を出そうだなんて! 義理の妹だけでも我慢ならないってのに!」

「コホン、コホン……あの……わたしはただ、高熱でうなされているというので迎えにきただけで……」

「高熱? なにいってんだい! 熱なんて出ちゃいないよ! ピンピンしてるわよ!」

「ハアハア……やめて……許して!」


 隣りの家の未亡人は女とは思えないほど強い力でわたしの腕をしめつけた。

 抵抗に疲れ果てたわたしにぜんそくの発作が出はじめ、遂には床にへたりこんでしまった。


「なにしてんだい! 早くお立ちよ! それとも、尻尾を巻いてトットと逃げるかい?」

「おいおい、女同士でなにをしているんだ!」


 奥から背の高い男が出てきた。


「ハアハア……ダニエル……? どうしてここに……?」

「それはこっちのセリフだよ、ハニー! 我慢できずにこんなところまできてしまったんだね?」

「ゴホン、ゴホン……ハニー? ちょっとダニエル! ふざけるのは……ハアハア……くるしい……」

「過呼吸かな? ボバリー夫人! エマが興奮しているので送ってきます。他の女との情事を目の当たりにするのは、深窓の令嬢にとって酷というものです!」

「ハアハア……ダニエル、やめて……」

「なんですって! リードさま! わたくしよりその小娘を取るっていうの!」

「ボバリー夫人! 若さには勝てないですよ? ここらでお別れしましょう」

「だったら……貸したお金を返しなさいよ! こんな小娘と遊ぶために使われたのかと思うと、くやしくてくやしくて!」


 ドカッ! ガタッ!


「うっ……ゴホッゴホッ……」


 夫人がわたしの背中を蹴った!

 床に倒れたままわたしは、ゼーゼーと苦しい息遣いをくりかえすだけだ。

 疲れてしまってなんの抵抗もできない。


「なんてことをするんだ! 夫人! 訴えてもいいんですよ!」


 ダニエルがわたしを庇う仕草をした。

 誤解を受けるだけだから、もうこれ以上は放っておいてほしい。


「ダニエル! 反対にこちらからリード家を借金で訴えてやる! そして言いふらしてやるわ! ダニエル・リードとエマ・カーライルが密会していたとね!」


 わたしは絶望の底に突き落とされた。

 ダニエルが怪しく目を光らせながら我が意を得たりという表情をした。


「ボバリー夫人! 借金の返済はこれで!」

 

 ダニエルがポケットから手形を出し夫人に渡した。

 

「ぼくらのことは言いふらしてもかまいませんよ! さあ、エマ、行こう! 我々の愛の巣へ!」

「……ハアハア……ゴホッ……」

「まあ! なんてことなの! くやしい! エマとやら! あんたは絶対に許さない!」


 ボバリー夫人は恐ろしい目でわたしをにらみつけると、手形を片手にドアを閉め部屋の中へ入っていった。


「ハアハア……待って……」


 酸欠で頭がもうろうとしてきた。

 ダニエルはわたしを立たせ抱えるようにして階段を降りはじめた。

 足がふらつき視界も定かではない。

 階段を下りたところで誰かが待ちかまえていた。


「うまくいったわね!」

 

 クロエだった。


「クロエ……ハアハア……」

「フフ、エマ! 苦しそうね? しばらく話をしないほうがいいわ」

「クロエ! 夫人が着替えているすきに早く屋敷に戻ろう!」

「そうね!」

 

 わたしはクロエとダニエルに両脇を抱えられ馬車に連れ戻された。

 継母が手ぐすねひいて待っていた。

 すべては仕組まれていたのだ。


「ダニエルさま! うまくいきましたか?」

「カーライル未亡人! 思った以上にボバリー夫人は反応を示してくれましたよ! おれとエマの噂は、瞬く間に社交界を駆け巡ることでしょう!」

「やったわね、ダニエル!」

「ゴホッゴホッ……なんてことを……!」

「エマ! 話すなって言ったでしょ! いいからあんたはそこで苦しんでなさい! 屋敷に着いたらいいことが待っているから!」

「ハアハア……」


 わたしは3人にまわりをがっちり固められたままリード家へ向かった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


「さあ、やっと着いた! どうエマ? 少しは発作はおさまったかい? そんなんじゃ役に立たないからね!」

「父上や伯父上たちは夫婦そろって出掛けた。今夜は帰らないよ」

「ハアハア……オリバーは? セバスチャンは?」

「エマ嬢、ご心配なく! セバスチャンも父上たちと出掛けさせたから! オリバーの面倒はおれが見るって言ってね!」

「ダニエルったら、どうやってセバスチャンまで屋敷から追い出せたの?」

「議会派の連中に頼んでリード家所有の土地で暴動を起こしてもらったんだ! いまごろ話し合いの真っ最中さ。切りのいいところで譲歩させてリード家に有利になるように終わらせてもらえる予定だ。それなりの見返りをあとで支払わないとな!」

「ダニエルさま、議会派と手を組んでも大丈夫なのでございますか?」

「なに、かまわん。もうすぐ王党派は倒される。おれは早い段階で見切りをつけただけだ」

「では、ご家族を裏切られるおつもりで?」

「未亡人、カーライル家も王党派から早めに脱却されたほうがよいですよ。おれでよければお力になります」

「まあ! なんと心強いお言葉! では、議会派にツテがお有りなのですね?」

「はい。一緒に寝返ったほうが賢い選択といえましょう。おっと、こうしてはいられない! おれはオリバーの様子を見てきます! あとはよろしく!」


 ダニエルはサッサと屋敷に入っていった。

 彼の向かった方向にはオリバーの部屋がある。

 不安と恐怖で胸が押しつぶされそうだ。

 オリバーのことが心配で仕方がない。


「ハアハア……いったい……あなたたちは何をたくらんで……ゴホッゴホッ……」

「少しおだまりよ! あんたは大人しくわたしたちに従っていればいいんだ!」

「お義母さま、エマを少し休ませたほうがいいわ。わたしの部屋に移動しましょう」

「そうだね。夜にはまだ間があるし……アハハハ……」

「ウフフフ、フフ……」


 継母とクロエが再び怪しく笑いはじめた。

 気力体力ともに衰えてしまったわたしは、なすすべもなく2人に連れられ屋敷内に入っていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 クロエの部屋に連れていかれたわたしは、ハーブティーを飲まされしばらくすると息も落ち着いてきた。

 隣りの未亡人に蹴られた背中がジンジンと痛んでいる。

 疲労困憊のあまり何も出来なくてぼうっとしてしまった。

 島での過酷な労働でもこんなに疲れ切ったことはない。

 それだけさっきの出来事がショッキングだったのだろう。

 そんななかで継母たちからとんでもない事実を聞かされた。


「妊娠……? クロエが……?」

「しーっ! 大きな声で言わないでよ! 困ってるの! おねえさま、力を貸して」


 いきなりしおらしい顔をしてクロエが懇願してきた。

 クロエに赤ちゃんが?

 いったい誰の子供なの?

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