第22話 光降る戦域、影這う愛執
祝祭の戦場 22:光降る戦域、影這う愛執
【器の舞台】
金髪ショートの髪を激しく揺らし、銀色に輝く巨大なハンマーを縦横無尽に振り回すタニアの姿は、まさに戦場の中心、輝く太陽そのものだった。
青黒い軽鎧に包まれた豊かな肢体。激しい動きに合わせて、膝上の赤いフレアスカートが鮮やかに翻る。額から流れる汗が、戦場の砂塵の中でさえ美しくきらめいていた。
「たああッ!はあッ!!」
──ゴシャッ!メリッ!!
敵兵が軽々と弾き飛ばされ宙を舞う。
一人で数人の敵兵を容赦なく蹴散らし、肉を砕く衝撃音と悲鳴が響き渡る。
その時、後方の高台からタニアを狙う弓兵の一団が現れた。かなりの人数だ。
「弓矢の嵐をご賞味あれ!タニア!勇み足だったな!!」
弓兵達が一斉に構える。
「勇み足ではありません、退きなさい!」
一瞬の溜めの後、タニアは躊躇うことなく、その豪腕で銀のハンマーを撃ち出すように投げつける。
――応えたハンマーは、凄まじい旋風を巻き起こしながら猛烈に回転した。
ただの投擲ではない。巻き起こった突風が周囲の敵兵をなぎ倒し、真空の刃となって弓兵たちを文字通り木っ端微塵に粉砕していく。圧倒的な質量と破壊力の嵐。
武器を手放し、一瞬だけ丸腰となったタニアだが、その緑の瞳に微塵の動揺もない。
「戻れ!」
強く念じると、ハンマーは再び烈風を纏い、狂暴な軌跡を描きながら彼女の手元へと吸い込まれるように戻ってきた。
ガシィィン、と硬質な音を立ててそれを片手で受け止める。
だがこれで終わりではなかった。
「いいや、お前はどう見ても前に出過ぎだ!ノクシアをナメるな!焼き払え!!」
──正面の拠点の影に潜んでいた伏兵部隊
魔法攻撃が彼女を襲うが、ハンマーが輝き、タニアの周囲に展開された淡い光のバリアがそれを完全に霧散させ、彼女の美肌に傷一つつけさせない。
「バッ、化け物か!?ええい、そう何度も防げるものか!もう一度放てええ!」
タニアがハンマーを構えて溜めを作ると、魔道部隊は青ざめ蜘蛛の子を散らすように撤退して行く。
「申し訳程度」に残った拠点を剛腕一閃フルスイングで崩落させ、タニアは呼吸を整える。
滴る汗を拭うその凛とした佇まいに、味方の兵士たちは狂喜の声を上げた。
「タニアがいれば、俺たちは負けない!」
「一騎当千……いや、それ以上だ!」
「汗すらも神々しい……まさに、戦の女神だ……!」
戦場の重苦しい空気は、彼女という「光」の存在によって、文字通り勝利の祝祭へと塗り替えられていた。
【アークの屋敷、早朝。】
屋敷の訓練場に重量武器を振り回す風切り音が鳴り響いている。
銀色のハンマーを手に入れてからも、タニアは奢ることなく、ただひたすらに鍛錬を積んでいた。
「奢ってはダメです……まだまだ……」
武器はあくまできっかけに過ぎず、それを振るう己の力量が伴わなければ意味がないことを、彼女は痛感していた。
振り下ろし、構え、呼吸を整える。
無駄のない洗練された動き。跳ねる金髪と、きらりと光る緑の瞳が朝日に映える。
「……今日も、必ず強くなる。」
彼女は静かに呟く。
ふと屋敷の窓に目を向けると、やはりアークは朝に弱く、まだベッドの中で泥のように眠っていた。
「ふふっ、本当に朝に弱いのですね……」
タニアは愛おしそうに微笑むと、再び己を追い込むようにハンマーを構えた。
【ノクシアのセレナの屋敷】
対照的に、こちらの空気は重く淀んでいた。
ケイは不機嫌さを隠そうともせず、深く椅子に腰掛けていた。愛用の双剣を眺める瞳には、暗い不満が満ちている。
これまでに幾多の戦場で、圧倒的な強者として君臨してきたケイ。気に入った強敵や儚い弱者を蹂躙し、なぶり殺し、それを「作品」と称して仕留めてきた。
ケイにとって明確な敗北は、これまでにも記憶にはなかった。
だが、先日の戦いは違った。あの男は……
「セレナ姉さん、聞いていいかい。」
「どうしたのですか?ケイ。」
「勝ったはずなのに……気分が悪いんだ。肉体は僕が切り裂いて、僕が生き残った。だけど、何だか僕が完全に負けたような気分なんだ。あいつの目が、魂が、最後まで僕に屈しなかった……」
ダンは致命傷を負いながら不敵に笑ってみせた。勝負には勝ったが、精神的な部分において、ケイは完膚なきまでに敗北した事を認めるしかなかった。
お気に入りの「作品」にするどころか、自分の心を逆にかき乱されたのだ。
セレナは静かに歩み寄り、ケイの前に膝をついて、その狂気に満ちた顔を優しく包み込んだ。
彼女のケイに対する溺愛には、一切の裏表がない。歪んでいようとも、本物の愛だった。
「悩むことはありません、ケイ。彼は死に、ケイは生きている。この事実は動きません。あなたはこれからも、大好きな作品をいくらでも作れる。けれど彼は、もう二度と息をしない、物言わぬただの亡骸……ふふっ……これ以上明確な勝敗がありますか?あなたは勝ったのですよ、私の可愛いケイ。」
「そう、だけど……」
「完璧でなくていいのです。何度失敗しても、私は何度でもケイの失敗を受け止めます。あなたのすべてを愛しています。だから、安心して、また私のところへ帰ってきなさい。」
セレナの 無条件な全肯定の愛に触れ、ケイは答えず、静かにその場を去った。
だが、その横顔はほんの少しだけ嬉しそうに、救われたように綻んでいた。
一人残されたセレナは、去っていった扉を見つめ、陶酔したように自らの頬に手を当てた。
「ケイ……私の最高傑作……もっとたくさんの経験をして、私の世界を広げてくださいね……ふふっ……」




