第19話 誓いのドレスと錆びた泉 前編
祝祭の戦場19 誓いのドレスと錆びた泉 前編
街の店先に飾られた純白のウェディングドレス。
ティレナはその前に立ち、幸せそうに微笑んでいた。緑の髪が陽光を受けて柔らかく揺れる。
隣にはダンの姿。
「もうすぐ結婚式だな。ティレナに似合うドレスも買ったし、式が待ち遠しい。ああ…もう待ちきれないぞ。」
彼の声は弾んでいた。
ティレナは少し不安げに瞳を伏せる。
「同調者の私が、こんな幸せになっても良いのでしょうか?」
ダンはこれを力強く満面の笑みで肯定する。
「もちろん良いのさ!何も心配はいらない。どんなことだって二人で乗り越えよう。」
ダンは迷いなく答えた。
高らかに幸せを表現する歌を歌いながら、自らの胸をドン!と叩いてティレナに「大丈夫!」をアピールしようとしてダンはむせてしまう。
「ウェッ!ゲホッゲホッ!」
その背中をティレナが優しくさする。
世間知らずで少し頼りなく、けれど真っ直ぐで優しいダンをティレナは愛していた。
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式を目前に控えた頃、無情にも「祝祭」が始まる。
転送装置の前に立つティレナを、ダンは見送る。
「ティレナ、今日の護衛は二人だ。念には念を。絶対に無理をするんじゃないぞ。」
「分かっています。私は生きて帰ってきます。あなたが私の帰りを待っていてくれるのだから。」
光に包まれ、ティレナは戦場へと転送された。
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ノクシアとエリュシオンの戦い。
草原に降り立ったティレナは、指輪を見つめる。光りを放つフェイトチャーム――命の光。
まだ大丈夫……だが赤くなればもう後がない。
「まだ……大丈夫だよね。」
彼女は護衛二人と共に後方支援に従事していた。
勇ましい女戦士は大斧を握り、筋骨隆々の男は重鎧に身を包む。
ティレナは草原でマナを集め、拠点へと運ぶ。戦況を支える地味な役割だが、彼女にとっては生き残るための選択でもあった。
しかし戦場は不穏な空気に包まれていた。
天空に浮かぶノクシアの器に突然凄まじい勢いで光が集まり、エリュシオン陣営はどよめく。
「はあっ!?何が起きた!?」
「1人や2人やられた程度ではあれほど急激に動くはずがない!」
この戦場はいつもと何かが違う……
ティレナの胸にざわめきが走る。
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不安を抱えつつも、後方で役割をこなすティレナ。
その時、異変は突然訪れた。
静寂を破るかのように
「ぐあッ!?何だッ!?」
女戦士が苦痛の声を上げて仰け反る。何者かに攻撃を受けたのだ。
すぐに体勢を立て直し斬りかかるが、相手の姿は朧げで当たらない。
ティレナも重鎧の男も目を凝らすが、敵の輪郭は霞んでいた。
「ハイドかい?卑怯者め!堂々と姿を見せてみな!!」
女戦士は勘を頼りに大斧を振り回す。
だがかすりもしない
ーーーズバッ!!
次の瞬間、女戦士は脚を深く斬りつけられ、動けなくなる。
「クッ、まだだっ!」
必死に斧を投げるが、虚空を裂くだけ。
朧げな存在が姿を現す。
黒い舞踏風の衣を纏い、銀の短髪を揺らす美少年。女と見間違うほどの容姿だが、その眼は冷酷で、右目は赤く光っていた。
ティレナは息を呑む。
この容姿の特徴に彼女は覚えがあった。
「ひっ……双剣のケイ!?」
最近、戦場に突如として現れた絶望の象徴。その名は既に噂となっていた。
ケイはティレナを見て微笑む。
「やあ、お姉さん、はじめまして。この戦場に来てからずっと見ていたよ。お姉さんならきっと良い作品になってくれるってね。」
ティレナにはその言葉の意味が理解できなかった。
「下がってろ。ふざけた奴だ。」
ティレナを制して、重鎧の男が前に出る。臆することなくケイへと突撃するが、攻撃はことごとく空を切る。まるで予知されているかのように。
彼も熟練の兵士だ。盾も織り交ぜた読みづらい攻撃を必死に繰り出すが、ケイには全く通用しない。
ケイの双剣が閃き、男の鎧を打ち据える。怯んだ隙を突いて目潰しの粉を投げつけた。
「ぐおっ!眼が!」
視界を奪われた男は闇雲に武器を振り回すが、もはや無力だった。
ティレナはその光景に違和感を覚える。
(こいつ……殺せるのに、わざと生かして無力化している?どうして?)
ケイはニヤリと笑い、狂気を孕んだ瞳をティレナへと向けた。




