祝祭の戦場 断章:祝祭と幻想の国エリュシオン
祝祭の戦場 断章:祝祭と幻想の国エリュシオン
白亜の噴水から弾ける水飛沫が、麗しい水路を流れる陽光にきらめく。そこは『祝祭と幻想の国エリュシオン』——城壁を持たない、巨大王国だ。
鳩の大群が飛び立ち、催しを告げる花火の音が鳴り響く
「さあ聴いてくれ! 浮遊大陸の空を裂き、神々の舞台を揺るがした英雄の詩を!」
広場では色鮮やかな衣装をまとった吟遊詩人が竪琴を鳴らし、芸術家たちがキャンバスに英雄の雄姿を描き殴っている。
行き交う人々は美味なる酒を片手に笑い合い、
子供達は、はしゃぎ駆け回りながら生き生きとこの祝祭の空気を楽しんでいた。
他国から見れば、それはどこまでも楽観的で、幻想に逃避した歪な光景かもしれない。
浮遊大陸で繰り広げられる「祝祭」が、いまや人間の底なしの欲望が渦巻く血の池と化していることを、彼らとて知らないわけではないのだ。
利権に血眼になる有力者たちの生々しい影は、この美しい国にも等しく落ちている。
だが、多くのエリュシオンの民は実利よりも華やかさを、泥にまみれた欲望よりも命の輝きを愛することを選んだ。
街の至る所に点在する、神々の戦場で絶大な戦果を挙げた歴代英雄たちの石像。人々はその前を通り過ぎるたび、畏敬を込めて視線を向ける。
マスターと同調者……
実際には、誰もがその歪な主従関係を理解している。
戦場に立つ英雄とは、生身の人間ではない。マスターが自らの魔力によって創造し、使役する身代わりの人形——『同調者』。
死してもなお復活を繰り返す、ただの所有物に過ぎないのだと、市民の誰もが知っている。
——だが。
「それでもさ、やっぱり俺たちの胸を焦がすのは、あの圧倒的な輝きなんだよ」
「違いねえ!戦場に立たないマスターより、絶対の輝きを放つ英雄様の方が華があるってもんよ。」
賑やかな酒場での人々の声が物語る。
主従の絆。裏方として同調者を支える、比類なき資質を持ったマスターの存在。それは確かに偉大だ。
しかし、冷徹な現実を超えて人々の心に深く、強烈に焼き付くのは、いつだって前線で奇跡を起こす「同調者」の姿だった。
マスターの魔力衰退による引退。戦場での消滅。マスターの死に伴う崩壊。
その多くがすでに世を去り、今も存命している同調者はほんの数人しかいない。
「おい、見たか!? 次の祝祭に向けて、あの御方が動いたらしいぞ!」
「『エリュシオンの盾』マグナス様か!」
賑やかな街の声が、一際大きく跳ね上がる。
豊かな自然と芸術に彩られた楽観の国で、今、すべての人々の関心はもっぱらその存命なる「新しき英雄」へと注がれていた。
神々の強制から始まった戦争は、いまや人間の業に塗り潰されている。
隔離された3つの国家が天空の戦場で刃を交えるその最前線で、美しき国の盾マグナスが、新たな祝祭の幕を押し上げようとしていた。




