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(無実の罪で)指名手配中の悪役令嬢。メイドに転身して事件を調査していたら、王子殿下から溺愛されました……?!  作者: あきはる


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地下室へ潜入!


扉を開けると、その先には下へ続く階段があった。

廊下で見つけたランプの明かりをかざしながら進むと、湿気とかび臭い匂いが鼻をつく。


「滑りやすいから気をつけて」


「はい」


ヴィンセント殿下がそう言って、私に手を差し出してくれる。私はその手を取って、地下室へと続く階段を降りて行った。


薄暗い中、私はヴィンセント殿下とともに下へと降りていく。もともと怖がりな私は、あたりに漂う陰険な雰囲気にビクビクしていたけれど、ヴィンセント殿下の方は、特に気に留めていない様子だった。


階段を一階分ほど降りたところで、もう一つの扉に行き当たる。重い鉄の扉に、鍵はかかっていなかった。


前を歩いていたヴィンセント殿下が、きしむ扉を押し開けた。



「これは……」


ヴィンセント殿下が、壁に据え付けられた古いランプに火を移すと、あたりがほの暗く照らし出された。


中は倉庫のようになっていて、一間を区切るやつに、年季の入った背の高い戸棚が並んでいた。一見すると、ここは何年もの間使われていないように見える。


「ずいぶんと古い倉庫ですね」


私はあたりをきょろきょろと見回しながら、通路を奥方へと進んでいく。戸棚の上にはよくわからないガラクタや古い書類が無造作に置かれていた。


ーー本当に、こんなところに事件の手がかりがあるのだろうか。


かび臭さに鼻をつまみながら、棚を一つ一つ眺めていた時――。私は、あるものに目を留めた。


「あれ……? これって、もしかして」



私が指さした先にあったのは、小さなワインのコルクだった。


よくある、ワインの瓶の口をふさぐための栓。

でも、私が目に止めたのは、そのコルクにアーチャー公爵家の紋章と醸造年、それに製造番号が刻印されているからだった。


「このコルク、アーチャー家の紋章が入っています。醸造年も今年のものですし……収穫祭の時に持ち込んだワインのコルクじゃないでしょうか。どうしてこんなものが、ここにあるんでしょう」


そのコルクは、棚の突き当たりにある小さな書き物机の上に無造作に転がっていた。


拾い上げてみると、確かに、真新しいアーチャー家の紋章が刻まれている。


「確かに、こんな古めかしいガラクタ倉庫に、こんな真新しいコルクが置いてあるのは不自然だ。

それにこの刻印。君が収穫祭でシャーロット嬢に渡したワインのコルクかもしれないね。どうしてそれがここに残されているんだろう」


横から、ヴィンセント殿下が顔を出した。

そして、私が手渡したコルクをしげしげと眺める。


(もしかして、シャーロットが国王陛下のもとへ持っていったワインは、あらかじめ一度開けられていたという事……?)


――訝しみながら、ほかにめぼしいものがないか調べていると、今度はヴィンセント殿下が何かを見つけた。


「これは、一体何だろう」


「……どれですか?」


ヴィンセント殿下は、指先で黒く小さな丸い粒をつまみ上げていた。

丸薬のようなその粒が、コルクの置かれていた机の上に、いくつか散らばっている。


私は首を捻った。なんだか、薬の粒のように見えるけれど。具体的になんの薬なのか見当もつかなかった。


しかし、ヴィンセント殿下はこれをしばらく眺めていた後、不意に何かを閃いたかのように目を見開いた。


「ーーずっと、事件に使われた毒がどんなものなのか考えていたんだ。十五年前の事件でも、今回の事件でも、犯人は時間が経つと毒性を失う、特殊な性質を持っている」


ヴィンセント殿下は、指先の黒い粒を眺めながら続けた。


「ただの毒液ではないのだろうと、私は推測していた。水に溶けるだけの毒なら、ひとりでに毒性を失う理由が説明しづらい。だから、あの毒には時間経過で揮発する性質があるのではないかと考えていたんだ」


「揮発……ですか」


私は前世の記憶を手繰り寄せながらつぶやいた。


理科は得意ではなかったけれど、その言葉には聞き覚えがある。確か、液体や固体が蒸発して、気体になってしまうことだったはずだ。ガソリンやアルコールなんかは、放っておくと揮発して、自然に成分が抜けていってしまう。


つまり、毒そのものが、時間とともに空気の中へ逃げていってしまう――ということだろうか。


「ーーこれが、事件に使用された毒物、という事なのでしょうか?」


「わからない。ただ、これは一度持ち帰って調べる必要があると思う」


ヴィンセント殿下は頷いた。


それから私たちは、もう一度倉庫の中を念入りに調べて回った。けれど、机の上のコルクと謎の黒い粒のほかには、怪しいものは見当たらなかった。


倉庫の中にあるのはほとんどが使い古された家具や備品ばかり。コルクのあった書き物机の周辺以外は、そもそも長いこと使われていなかった形跡がある。


ひととおり見て回ったところで、ヴィンセント殿下が息をついた。


「ここには、ほかにめぼしいものはなさそうだ。でも、このコルクを見つけただけでも収穫はあった。事件に使われたワインの瓶は、まだ証拠品として保管されているはずだ。栓や刻印を照らし合わせれば、何かわかるかもしれない」


「それに」と、ヴィンセント殿下は、さっき机の上で見つけた黒い粒をいくつか、ポケットから取り出して見せた。


「私は、急ぎ屋敷に戻って、この粒の正体を突き止めらつもりだ。倉庫の中には、毒薬の類はほかに見当たらなかった。怪しいのは、コルクのそばにあったこの丸薬くらいだろう」


ヴィンセント殿下は、あの黒い粒に何か引っかかるものを感じているようだった。


「ひとまず、会場へ戻りましょう。あまり長く抜けていると、周りに怪しまれてしまいます」


私もそろそろ持ち場に戻らなければ。サボっていることに、誰かが気づいてしまうかもしれない。


それに、ベイワーズが戻ってくる前に控室へ鍵を返しておかないと、大騒ぎになってしまう。


ヴィンセント殿下も頷いて、私たちは地下室を後にした。


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