式典
祝宴の当日。リース子爵邸には、朝から大勢の貴族や要人たちが集まっていた。
招待客たちは、それぞれ華やかな装いに身を包んでいる。
そんな華やかな喧騒を横目に、私は足早に廊下を進んでいた。
今日は、私の顔見知りの貴族たちも何人か出席するはずだ。万が一にも正体がばれないよう、いつもよりメイドキャップを目深にかぶり、そばかすや顔色の化粧も念入りに施した。
「リア、何をぐずぐずしているの。早く私のドレスの仕上げを手伝ってよ」
私室に入るなり、シャーロットが私を怒鳴りつけた。
彼女は、先日リース子爵にねだって仕立ててもらった、真新しいドレスに身を包んでいる。
明るいサックスブルーの生地に、クリーム色のフリルがふんだんにあしらわれた、これまた派手な色合いのドレスだ。
装飾が多いぶん着付けも面倒なタイプで、シャーロットは朝からこのドレスと長いこと格闘していた。
すでに数人がかりで着付けにあたっているところへ、私も加わって手伝っていると。
シャーロットが不機嫌そうにつぶやいた。
「早くしないと、ランスロット様のお出迎えに間に合わなくなっちゃうじゃない。殿下には、私が真っ先にご挨拶しなければならないのに――あなたたちがぐずぐずしているから」
そう言われても、私たちは今日も朝早くから準備に飛び回っていて忙しいのだ。
ただでさえ人手が足りないのに、こんな盛大な催しを始めてしまったせいで、使用人たちはてんてこ舞い。準備にもあちこち遅れが出始めていた。
そもそも、こんなに派手で着づらいドレスを選んだのはシャーロットのほうでは――と、喉元まで出かかった言葉を、私はぐっと飲み込んだ。
(さっさと着付けを片付けて、持ち場に戻らないと。今日は、何としてでもやり遂げなければならない任務があるんだから)
しばらく格闘したのち、使用人総出でなんとかシャーロットの着付けを終わらせると、私は急いで次の現場へ向かった。
***
今回の祝宴は、昼の園遊会に始まり、夜の晩餐会まで続く。
屋敷の庭を開放した広々とした芝生の前庭には、すでに大勢の貴族たちが集まっていた。
ランスロット殿下の到着を告げる鐘が鳴らされると、奥の車寄せに、金の紋章をあしらった馬車が入ってくるところだった。周囲の人々の視線が、一斉にそちらへ注がれる。
「ランスロット殿下、お待ち申し上げておりました」
ランスロット殿下が馬車から降り立つと、待ってましたとばかりに、シャーロットが駆け寄っていった。
黄金色の髪に、燃えるような橙色の瞳。「黄金の獅子」の異名にたがわぬ、華やかな王子様だ。
――そして、私に捕縛状を出した張本人でもある。
私は、給仕の盆を持つ手に、思わず力がこもるのを感じた。
今朝方あれほど格闘したシャーロットのドレスは、殿下の隣で、会場じゅうの視線を釘づけにしている。
「シャーロット、今日も一段と美しいね」
「嬉しいですわ。今日は殿下がわたくしどもの屋敷にお越しくださると伺って、張り切っておめかししましたの」
シャーロットは、いつものようにまんざらでもない笑みを浮かべて、ランスロット殿下にすり寄っている。
その後ろから、屋敷の主であるリース子爵夫妻がやってきて、にこやかに殿下へ挨拶を述べた。
「殿下、もしよろしければ、ぜひ当家の敷地をご案内させていただけませんか。周りを美しい森や花園に囲まれておりまして、景観が自慢なのです」
「ほう、それはぜひ見てみたいな」
リース子爵の提案で、一行は敷地の散策に出かけることになった。
散策には、執事のベイワーズも付き添うことになったらしい。そばで聞き耳を立てていた私は、内心でガッツポーズをした。
(関係者が出払っている今が、潜入の絶好のチャンスね……!)
私は周囲の様子を窺いながら、それとなく屋敷の中へ引き下がる。そのまま執事の控室に忍び込んで、まんまと地下室の鍵を手に入れた。
***
鍵をエプロンのポケットに隠し、以前見つけた廊下の突き当たりへと急ぐ。周囲に気づかれないよう細心の注意を払いながら進んでいると、不意に背後から呼び止められた。
「ちょっと、そこの君」
「は、はい。何かご用でしょうか」
振り返ると、そこにいたのは見知らぬ人――と思いきや、どこかで見覚えのある青年だった。カフェオレみたいなやわらかい茶色の髪に、榛色の瞳……。
(思い出した。以前、ヴィンセント殿下のお城で鉢合わせした、パーシヴァルだわ……)
私は、動揺が顔に滲み出そうになるのを、なんとか堪えた。




