ヴィンセント視点③
コーネリアが城を去ってから、城の中は以前よりも少しだけ静かになった――ヴィンセントはそう感じていた。
今日は、久しぶりにコーネリアから近況を知らせる手紙が届いた。
手紙には、こう書かれていた。
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ヴィンセント殿下
お変わりありませんでしょうか。私はなんとか元気にやっております。
新しいお勤め先は、そちらよりもさらに忙しく大変ですが、なんとか食らいついています。
例の件ですが、やはりお嬢様やご当主ご夫妻は、何か事情をご存じのように思います。ただ、はっきりとした証拠はまだ見つかっていません。もう少しこちらに留まって、調べを進めてみるつもりです。
リア
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手紙を読み終えると、そばで様子を窺っていたロイドが口を開いた。
「いまだ、確かな証拠は見つかっていないようですね。まあ、あまり期待はしていませんでしたが」
「そうそう簡単に見つかるものでもないだろう。向こうとて、用意周到に構えているはずだ」
言いながら、ヴィンセントはコーネリアが潜入しているリース子爵邸の方角を見やり、遠い目をする。
「そもそも、本当に証拠など見つかるのでしょうか。やはり、彼女がでまかせを言っているだけなのでは」
「私はそうは思わない。彼女は自分からリース子爵家の調査を申し出て、実際に屋敷に潜り込んでいる。逃げることが目的なら、とうの昔に姿をくらましているだろう」
ヴィンセントの中でも、コーネリアへの疑いが完全に晴れたわけではなかった。
けれど、彼女は気丈に振る舞っている。自身の無実を証明し、ヴィンセントが追う事件の真相をも明らかにしたいと言って、実際に行動に移しているのだ。
「あんなふうに真剣な眼差しで私の前に立っていた彼女が、嘘をついているとは思えないんだ」
「確かに……思い返してみれば、彼女は最初から一貫して、自分は無実だと訴えておりましたね」
ロイドも、それは認めた。
彼女が城にいた間も、特段不審な振る舞いはなかった。
「むしろ、危惧すべきなのは、調査を続けるうちに、何かの拍子で彼女の正体が露見してしまうことだ。リース家に正体が知られれば、彼女は一巻の終わりだ」
差し迫った危険は、今まさにリース家に潜入しているコーネリアに向けられている。
――それなのに、自分は彼女を危険な敵の巣窟へ送り出しておいて、こうして何もせずに待っているだけでいいのだろうか。
「ロイド、一つ頼みがある。急ぎ、リース子爵に連絡を取ってくれ」
「リース子爵に、ですか。それはまた、どうして……」
「近々、リース子爵邸で、侯爵への叙爵が決まったことを祝う宴が催されるらしい。私も様子見がてら、それに出席してみようと思う」
「ええっ!? 本気ですか。しかし殿下は、長く社交界から距離を置いておられたではありませんか」
ロイドは困惑していた。しかし、ヴィンセントの決意は固い。
「このまま、彼女一人にすべてを背負わせておくのは気が引ける。心配しなくても、祝宴に顔を出すくらいで怪しまれることはないだろう」
「それは、そうですが……」
言ってから、ロイドは思い出したように付け加えた。
「それに、宴にはランスロット殿下もお出ましになるという噂です」
「それは好都合だ。私も、久しぶりに弟の顔が見たくなったところだよ。父上が病床に臥せっておられる間、あいつには多くのことを任せきりにしてしまっているからね」
ヴィンセントは、口の端をわずかに持ち上げてつぶやいた。
ロイドはただちにリース子爵家へ使いを走らせ、来たる祝宴に、ヴィンセント殿下が出席することが決まった。
***
二週間後、リース子爵邸で盛大な祝宴が催されることは、屋敷に仕える私の耳にも入っていた。
「お客様は、国じゅうからお集まりになるわ。ランスロット殿下をはじめ、要人や貴族の方々が大勢お見えになるから、くれぐれも失礼のないようにね」
「はい」
メイド長のイライザは、今回の祝宴の準備を取り仕切っている。招待客の名簿を握りしめながら、忙しそうにあちこち駆け回っていた。
一方、使用人たちの反応はさまざまだった。
ただでさえ忙しい日々の仕事に加えて、前代未聞の大宴会が開かれるとあって、屋敷の中は混乱を極めていた。
「まったく、旦那様も人使いが荒すぎるわ」
「本当よ。ただでさえ人手が足りないのに、この上大勢のお客様を招いて祝宴だなんて。正気とは思えないわ」
「ほら、そこ。無駄口をたたく暇があったら手を動かして」
イライザに叱られて、先輩メイドたちはそそくさと持ち場へ散っていった。
そんなやり取りを横目に、私も忙しい合間を縫って、会場や晩餐の準備を整えていく。
目の回るような日々を送りながら、私はひそかに、ある考えを巡らせていた。
(宴の間は、使用人もお屋敷の方々も、皆お客様の相手にかかりきりになるはず。その隙に、まだ足を踏み入れていないあの地下室を調べることができれば……)
あれから私は、隙を見ては何度もあの部屋への侵入を試みていた。けれど、扉は施錠されていて入れない。その後調べてわかったことだが、地下室の鍵は、執事のベイワーズが常に管理しているらしい。
屋敷を取り仕切る執事ベイワーズの控室には、屋敷じゅうの部屋の鍵が保管されている。
彼はその控室で寝泊まりしているから、夜、皆が寝静まったあとに鍵を盗み出すことはできない。かといって日中は、私のほうが仕事に追われて手が離せない。ベイワーズがいつ控室に戻ってくるかも読めないし、こっそり鍵を拝借して、ばれないうちに戻しておくのは難しかった。
(でも宴の当日なら、ベイワーズはずっと旦那様に付き添っているはず。私の手さえ空けば、その隙に控室に忍び込んで、鍵を拝借できるわ。ほかの使用人たちは給仕にかかりきりだろうし、私が少しの間姿を消していても、きっと気づかれない)
たとえ気づかれたとしても、皆忙しくて、わざわざ探しに来る余裕などないだろう。
そう考えて、私は決行の日を、祝宴の当日に決めた。




