シャーロットのお屋敷へ潜入調査③
すると、シャーロットは続けざまにこんなことを言い出した。
「ランスロット様は、いつまでもコーネリアを捕らえられずにいて苛立っておいでなの。当然よね。だって、凶悪な暗殺犯が野放しになっているんだもの」
「まったくだ。殿下のご心痛は察するに余りある。一体どこに隠れているのだか」
「本当よ。きっと、あのアーチャー公爵が匿っているに違いないわ。それなのにあの方ったら、あろうことか捜査をやり直して、私の身辺まで調べるべきだとおっしゃっているらしいの」
シャーロットの発言に、一瞬だけ、食堂の空気が張りつめたような気がした。
子爵夫妻は意味深に顔を見合わせ、ややあって、リース子爵夫人が口を開いた。
「ま、まさか。そのようなこと、殿下がお許しになるはずがないわ。ランスロット殿下は、なんとおっしゃっているのかしら」
「ランスロット様は、そんなのは無駄だと一蹴なさったに決まっているでしょう。公爵も、愚かなことを言い出すわよね」
シャーロットはそう言って、公爵をなじった。
そして、思い出したように先ほどの話題に戻る。
「そういうわけだから、私はランスロット様を元気づけて差し上げたいの。私の可憐な姿をご覧になれば、きっとご機嫌も直るに違いないわ。今あるドレスはもう流行遅れのものばかりだし。だから、新しいものを仕立てて。ね、お父様」
「――仕方がないな。あまり無駄遣いはしないように」
リース子爵は、愛娘のおねだりには甘いらしい。渋々ながら了承すると、シャーロットはすっかり上機嫌になった。
***
食堂からの帰り、私室までシャーロットのお供をしていると、彼女は不意にこんなことを言い出した。
「――本当に、コーネリアはどこに隠れているのよ」
シャーロットは私室のソファにもたれかかり、気だるそうにため息をつく。
「早く見つかって処罰されてくれないと、私の身も危ないのよね……」
(……それは、どういうこと?)
素知らぬ顔で聞き耳を立てていると、シャーロットはため息まじりに続けた。
「今は国王陛下が病床に臥せっておいでだから、ランスロット様さえ丸め込めればいいけれど……陛下が目を覚まされたら、そうはいかなくなる。そうなる前に、何としてでも片をつけてしまわないと。私が危ないのに……」
「それって、一体どういう……」
思わずつぶやいてしまったのが聞こえたのか、シャーロットはこちらを振り向くと、きっと私を睨みつけた。
「あなたには関係のないことよ。私の前で余計な口をきかないで」
「も、申し訳ございません。お許しください」
慌てて頭を下げると、シャーロットは私を一瞥しただけで、それ以上は咎めなかった。
結局、その場で詳しく聞くことはできなかったけれど。どうやら彼女には、何か隠していることがあるらしい。
***
さらに数日後、もう一つ気にかかることがあった。
それは、いつものように仕事を終えて、控室に戻る途中のことだった。
この日、私はたまたま、普段は使わない屋敷の廊下を歩いていた。
私は仕事の合間を縫っては、こうして屋敷に不審なものがないかを調べて回っていたのだ。使用人たちは皆、激務で出払っていることが多いので、こうしてこっそり抜け出してコソコソしていても、あまり怪しまれない。
この日も仕事を抜け出して、人気のない廊下を進んでいくと。
廊下の突き当たりの物陰に、見慣れない古びた扉があることに気がついた。
屋敷に採用された時、私は屋敷の中をひととおり案内してもらっていた。
けれど、その時この扉については、何も説明されなかった気がする。
訝しみながらドアノブに手をかける。しかし、扉には鍵がかかっていた。
「リア、こんなところで何をしているのです?」
振り返ると、そこにはメイド長のイライザが、しかめ面で立っていた。
「そこは立ち入り禁止ですよ。初日に言いませんでしたか?」
「すみません、存じませんでした。扉の奥には何があるのですか?」
「あなたが知る必要はありません。ただの地下室です。水が染み出して足元が危ないので、普段は立ち入りを禁じているのですよ。ほら、わかったらさっさとお行きなさい」
イライザに追い払われて、私はおとなしくその場を引き下がった。
その後も、ひととおり屋敷の中を調べてみた。けれど、ほかに不審なものは見つかっていない。
リース子爵夫妻やシャーロットの私室も、隙を見てあらかた調べてみたものの、事件につながりそうな手がかりは得られなかった。
(あと気になる場所があるとすれば……あの突き当たりの先の地下室くらいなのよね……)
念のため、あの施錠された扉の先も確かめておく必要があるだろう。けれど、扉には鍵がかかっている。まずは鍵のありかを突き止めて、それから人目につかないように忍び込まなければならない。
どうやって忍び込むか――私はひそかに考えを巡らせていた。




