シャーロットの屋敷へ潜入調査
これから仕えることになる、リース子爵家。屋敷の使用人は私の応募を歓迎している様子だった。
面接に伺った際も、応対したメイド長のイライザは、そのことを隠そうともしなかった。
「――以前は、北部のヴィンセント殿下のお城でお仕えしていたそうね」
「はい。殿下にはとてもよくしていただきましたが、私事で王都へ移ることになりまして。新しいお勤め先を探していたのです」
イライザは、私が差し出したヴィンセント殿下のお城からの紹介状に目を通していた。
殿下は、私が無事に採用されるようにと、丁寧な紹介状を持たせてくれたのだ。
「紹介状を見る限り、勤務態度に問題はなさそうね」
「はい。お仕事はひととおり任せていただいておりました」
イライザは頷く。
「実は、あなたのような人が来てくれないかと思っていたのよ。この屋敷は、このところ人手不足でね。ご存じかしら。ご当主のリース子爵様は、近々侯爵の位を授かるの。お屋敷も、もっと広いところへ移ることになるでしょうし、今の人数ではとても回しきれないのよ」
確かに、風の噂では、シャーロットが近々ランスロット殿下の婚約者に内定するのに伴って、リース子爵は侯爵に叙されるらしい。所領も広がるだろうし、使用人たちが忙しくなるのは想像に難くない。
「あなたにはぜひ、シャーロットお嬢様付きのメイドになってもらいたいの。実を言うと、お嬢様付きのメイドが、このところ立て続けに辞めてしまって」
「そうだったのですか」
――お嬢様付き、という言葉に、私の目がきらりと光る。
シャーロットのそばに仕えることができれば、それだけ多くの情報を集められるかもしれない。
「お嬢様は、もうすぐランスロット殿下の婚約者に内定されるわ。そうなれば、今より一層ご自身に磨きをかけていただかなくてはならないのに。まったく、困ったものよね」
「そういうことでしたら、ぜひ私にお任せください」
私は平静を装って答えた。
「頼もしいわ。お嬢様は、ああ見えて少し気難しいところがおありなの。最近は、殿下の妃となる重圧からか、使用人にきつく当たられることも増えていて。でも、あなたならきっとうまくやってくれるでしょう。早速、受け入れの準備を整えるわね」
「ありがとうございます」
そんな具合に、私の採用はトントン拍子に決まった。
潜入が叶って、ひとまず安心した私だったけれど。一方で、社交界でいつも人当たりよく振る舞っていたシャーロットの印象と、イライザの語る彼女の姿がかみ合わず、少し戸惑ってもいた。
(でも、シャーロットのそばにいられれば、手がかりをつかむのはずっと楽になるはずだわ)
私はそう思って、この時はそこまで深く考えなかった。
***
ヴィンセント殿下のお城を発った私は、その足で馬車に乗り、リース子爵家のお屋敷を目指した。
かのお屋敷は、北部領からほど近い場所にあった。
馬車を降りて、使用人用の勝手口の扉を叩くと、中から不機嫌そうな顔をしたメイドが出てきた。
「今日からこちらでお世話になります。リアと申します」
「ああ、お嬢様付きの新人ね。今度は少しは骨のある子だといいけど」
メイドはそう言って、気だるそうに私を中へ通した。
使用人の控室をひととおり案内されたあと、新しい制服を手渡される。
私は鏡の前に立って、今一度、念入りに自分の変装を確かめた。
この日のために、私は念には念を入れて変装を重ねてきたのだ。
髪はダークブラウンに染め直し、顔の半分を覆うほど大きな、薄く色の入った丸眼鏡をかける。頬にはそばかすまで描き込んで、メイドキャップを目深にかぶり、伏し目がちにしていれば――鏡の前には、どこからどう見てもコーネリアには見えない、ただの冴えないメイドが立っていた。
(さすがにこれだけ変装すれば、シャーロットにもばれないはず)
せっかく生まれ持った可憐な容姿を、こうして塗りつぶしてしまうことに、多少心が痛まないでもないけれど。これも自分の無実を証明するためだと思えば、致し方ない。
着替えを済ませると、私は早速シャーロットのもとへ向かった。
「お嬢様。お嬢様付きの新しいメイドをお連れしました」
「リアと申します。よろしくお願いいたします」
先輩メイドに付き添われて部屋に入ると、シャーロットはいたく不機嫌そうに、こちらを睨みつけてきた。
「――新しいメイド? そんなの聞いていないんだけど」
「少し前に、お嬢様付きの者が立て続けに辞めてしまいましたので、彼女はその代わりです。今後のご用命は、彼女にお申し付けください」
「ああ、まったく。また使えないメイドがのこのこやってきたってわけ。私は忙しいのよ。使えなかったら、またすぐにクビにしてやるから」
「は、はい。お役に立てるよう頑張ります……!」
とっさにそう答えたものの、内心、私は混乱していた。
(えっ……これ、本当に私の知っているシャーロット……? こんなに不機嫌そうな彼女、今まで見たこともないんだけど)
表情に出さないよう気をつけながら、私は頭の中を整理する。
記憶の中のシャーロットは、いつもランスロット殿下に寄り添っていて、愛嬌があって可憐な感じだった。目の前のこの不機嫌そうな彼女と、どうしてもイメージがつながらない。
(もしかして……シャーロットって、裏表があるタイプだったのかしら……)
意図せず知り合いの裏の顔を知ってしまい、なんとも気まずい気持ちになる。
けれど、それを相手に悟られるわけにはいかなかった。
「ほら、ぐずぐずしないでよ。今日はランスロット様に王宮へ呼ばれているの。すぐに支度をしないと間に合わないじゃない」
「しょ、承知しました!」
あまりの変貌ぶりに一瞬ひるんだものの、私は気を取り直して、シャーロットのお召し替えに取りかかった。




