次なる調査へ向けて
翌朝、そうと決まれば、私は早速動き出した。
まずは事件の情報を集めるため、久しぶりにアルバスに連絡を取ってみる。
前回と同じように手紙を書いて呼び出すと、数日後、アルバスはすぐさま北部へ駆けつけてくれた。
私たちは、人目につかない裏路地の大衆酒場で顔を合わせる。ここなら、誰かに怪しまれる心配もない。
「アルバス。ヴィンセント殿下が追っている十五年前の事件のことを、ご本人からお聞きしたわ。十五年前、殿下の母君である先の王妃様が暗殺された件について、何か知っている?」
「ええ、存じ上げております。旦那様から伺ったことがございます。しかし、あの事件は社交界では禁忌として扱われ、真相は今なお闇に包まれたままです。……殿下は、今も真相を追っておいでだったのですね」
アルバスは、当時の事件に心当たりがあるようだった。
けれど、この話題には表沙汰にできない事情がある。だからこそ私は事件のことを知らなかったし、社交界でその話が出ることもなかったのだろう。
「今回の事件で使われた毒が、十五年前の事件と同じものらしいの。毒の出どころを突き止められれば、二つの事件を解決する手がかりになるかもしれないわ」
「毒が同じものだったとは……驚きました。ひょっとすると、この事件は我々が思っている以上に根が深いのかもしれません」
「当時のことで、何か覚えていることはない? 今回の事件にも関係しそうなこと。どんな些細なことでもいいわ」
「うーん、そうですね……」
アルバスは唸った。
そして、しばらく考え込んだあと、思い出したように口を開いた。
「そういえば、今回の事件が十五年前の事件と関わりがあるとお聞きして、一つ思い出したことがございます」
「それは何?」
「シャーロット様の母君、リース子爵夫人のことです。夫人はもともと、先の王妃様にお仕えしていた侍女の一人でした。あの茶会の場にも、侍女として控えていたはずです。そして先の王妃様が亡くなられたあと、夫人は今の王妃様にお仕えすることになりました。王妃様は夫人をとりわけ重用されているご様子で、リース子爵家が取り立てられたのも、その縁があってのことだと聞き及んでおります」
リース子爵夫人が、先の王妃様と今の王妃様の両方に仕えていたなんて、初耳だった。
(茶会の場にいた侍女……)
ヴィンセント殿下の話では、疑いがかかったのは、蒸留酒を差し出したアールズ伯爵夫人と、それを造ったレギアス公爵の二人だけだった。けれど、もし毒が口にされる直前に仕込まれたのだとしたら――王妃様のすぐそばに控えていた侍女にも、その機会はあったことになる。
「夫人は、何か事件について知っているのかしら」
まだ憶測の域は出ない。けれど、やはりリース子爵家の周辺は調べてみる必要がある。私はそう思い始めていた。
「実は、我々も秘密裏にリース子爵家を調べておりましたが、なかなか有力な手がかりがつかめません。かの家は、今でこそシャーロット様の大抜擢で影響力を強めておりますが、もとは小さな家柄でした。子爵ご本人は社交界にもあまりお出にならず、噂では、この北部のどこかに所領をお持ちで、普段はそちらのお屋敷で過ごしておられるとか」
「わかったわ。私のほうでも探ってみる」
「それから、お嬢様。旦那様も奥様も、お嬢様の無実を信じておられます。今も王宮に捜査のやり直しを訴え続けておいでです」
「……そう。お父様たちにも、私は元気だと伝えてちょうだい」
私は席を立ち上がった。
今手に入れた情報をもとに、もう一度状況を整理してみよう。アルバスと無事に連絡が取れて、家族の様子を知ることができたし、自分が無事であることも伝えられた。
アルバスに別れを告げ、お城に戻ろうとした時、不意に呼び止められた。
振り返れば、アルバスが憂いを帯びた瞳でこちらを見つめている。
「お嬢様、一つだけお願いがございます。どうか、あまりご無理はなさらないでください。いつまでもヴィンセント殿下のもとに身を寄せずとも、我々のもとへお戻りいただくこともできるのです。我々が用意した場所に、お嬢様を安全にお匿いすることも可能です。殿下は今でこそお嬢様を匿ってくださっていますが、それがいつまで続くとも限りません」
「心配しないで、アルバス。私は大丈夫よ」
私はアルバスを安心させようと努めた。
こう見えて、私は打たれ強いほうなのだ。
転生前のコーネリアがどうだったかはともかく、今の私は、贅沢な暮らしをして周りにちやほやされていなければ生きていけない、というわけではない。
ただ、いつまでも自分の命が危険にさらされたままでは困る。
状況が好転しない以上、私も自分にできることを探さなければ。
「できる限りのことをしてみるわ。もちろん、無理はしないから。また連絡するわね」
そう言って、私はひとり、お城へと戻っていった。




