8.輝き
私はアヤカが言う言葉の全てに、納得する部分とそうでない部分を見つけながら、それでも、もう1つ聞いておかなければならないことを思い出した。それは私の額に手を当ててきたこと。
私としてはさっきのプランターを用意したとか、そういう話よりも、むしろこっちの方が大切なような気がしてきた。
「ねえ、アヤカ。私の額に手を当てたことと、この本は関係あるの?」
「うん。もちろん」
「…何だったの?あれは」
そう聞くとアヤカは立ち上がり、ぐっと背伸びをするようにして手を上に出す。そして、手を開くと更に背伸びをしたような感じで腕を伸ばし、ゆっくりと下した。
「ミカ、電気を消してくれる?」
アヤカにそう言われ、私は立ち上がると部屋の電気のスイッチを切った。部屋が薄暗くなると、さっきまで何でもなかったアヤカの手が、少しだけ輝いているのが見える。けれど、その時間はわずか数秒。すぐに見えなくなってしまった。
「…今のは?」
「ミカの額に手を当てたのと同じことをやってみたよ」
確かに見えた輝きはプランターの上に置いたのと似ていた。似ていたけれど、それは同系統、という感じ。全く同じものでは無かった。
「…私の時、あの時は青白かった。でも、今のはそれよりも明るかったけど」
「どうして差が、違いがあると思う?」
唐突にそんな質問をしてきた。
私から出て来た輝きと、今、アヤカが手に取った輝き。分かることは取り出しているその先に有るモノの差。私か、そうでないかってことなのか。
それを伝えるとアヤカは私の方を向いた。
「…先に有るモノを見るのがミカの世界。でも、僕は、僕の世界はその手前。ミカに到達するまでの間に有るモノを見る」
「手前?」
「そう、手前。この間言ったと思うんだけど、何を通して世界を見るか。その通じている、通している部分を取り出すと、ああいう輝きに見えるモノになる」
手前というのはつまり、媒体みたいなものだろうか。この場合は空気とか。そういうのをアヤカは自身の力、本の種を作るみたいなもので、なんというか取り出せるのだろうか。でも、もしそうだとしても、取り出す先がなさそうにもみえる。
「…じゃあその輝きに差があるっていうのは、つまり、その…見えている世界が人によって違うってことの証拠みたいなもの?」
「そうだとも言えるね」
なるほど。つまりそういうことか。私から取り出した青白い輝きは、私の手前に存在するもの。それが一体何なのかわからないけれど、アヤカにはそういうのを取り出す力があるらしい。
「だからミカ、あの輝きは〝ある地点から、ある人物がキミ自身を見た時に見える輝き〟だと思ってくれればいい」
アヤカは続けた。
「けれど、輝きは実体化していない。常時、いまもこうしている間にも、輝きは流動性をもって僕とかミカに到達する」
「…さっき部屋の電気を消したら、部屋が薄暗くなった。そんな感じ。僕が浴びている水は出したらしばらくそこにあるけど、これはそうじゃない」
「…そりゃねぇ。つまり輝きって言うのがこの間アヤカが言っていたあれでしょ?フィクションとかそういうのが含まれるんでしょ?」
「うん」
アヤカはベランダに手を向ける。
「だからそこまでが僕の世界。そこから先はミカの世界に有るモノを使う。そうすると輝きは実体化する」
「それがこの本ってわけ?」
「そう」
信じることが出来ない。とはいうものの、こうして手にしてしまっている以上、アヤカが言うことはその通りなんだろうと思う。けど、どうしてプランター。まあこの場合は土になるのだろうけど、実体化するのに土でなければならない理由があるのだろうか。
これ以外では出来ないのだろうか。というより、どうして植物のように、本を作ることが出来たのか。
ちょっと待てよ。
今、アヤカが言ったのはこの本がつまり、私自身の輝き〝でもある〟ということだった。それがどういう理屈かはわからないけど、アヤカを通してプランターの土で実体化した。
ということはこの本の元になる物自体、私の内側とか周辺にすでに存在していた、と言うことになる。
そうなると私はこの本を開かなくても中身を知っているはずである。けど、何が書かれているのかなんて言うのは全く見当もつかない。
中に何が書かれているのか気になって来た。
アヤカは「本、開いてもいいよ」というので私は手に力を入れて開こうとして見た。…のだけれど、開かない。
「あれ?開かない…」
もう一度試してみる。けど、やっぱり開かない。本を縦にしてページが重なっている方を見た。…ちゃんと紙が重なっているように見える。
「アヤカ、これ開かないけど」
「なんでだろうね」
少しだけ笑って返すアヤカを、私は本を通して見つめた。




