10.彩花
近所の駐車場に車をとめ、荷物を持って歩きリンリンの家の前に。チャイムを鳴らすと「美花でしょ?」と中から声が聞こえた。ドアノブに手を掛け、ドアを開けると想像通り。玄関から続く廊下には絵が立てかけられて置いてある。…何枚も。
体を横にして中に入って進んで行く。
「リンリン、冷蔵庫は?」
「…そこだよ」
どうやら冷蔵庫までは到達していたらしい。よく見るとまだ新品の冷蔵庫。中を開けると飲み物以外は何も入っていなかった。買ってきた食材を入れてドアを閉めると、リンリンの声がする方へ向かって行った。
絵の具、筆…。これはパレット?かな。沢山の物の中には絵画の本や服とかも置かれている。
冒険を続けていくと開けた部屋に出た。おそらくリビングだろう。リンリンは椅子に座っていた。
「ようこそ、私のアトリエに」
「…アトリエならもう少しそれらしくしなよ。来る人にとってはちょっとした冒険だよ。これじゃ」
気が付くと肩に居たアヤカがいない。来た道を見てみると、彼はリンリンが描いた絵を1枚づつ見つめていた。
「とりあえず、夕食にしようよ」
「もうそんな時間?」
「そうだよ」
私は買ってきた食材を使って簡単な料理を作った。よかった、紙皿とかを買ってきて。リンリンに聞いたら「皿はどこかにある」とだけしか言わなかったから。
「やっぱりおいしいね」
作った料理を食べるリンリン。本当にあの時に戻ったかのように感じた。私はリンリンがどんな絵を描いているのか気になって周囲を見渡す。その多くは立てかけられていて、飾られている感じはしなかった。
「…これって全部リンリンが描いたやつなの?」
「ほとんどは。でも、バイトの1つで近所の子供たちに絵を教えてるんだよね。そういうのも置いてあるから」
なるほどね、それでも凄い量ではあるけど。
と目線を動かしていくと、明らかに「今描いてます」みたいな雰囲気の場所に目が留まる。絵には白い布がかけられていた。
私の目線に気が付いたのか、リンリンはベランダに向かうと窓を開けて外に出た。
「…煙草を吸うならこっち。ここが喫煙所ね」
そう言われ、ベランダに向かうと差し出されたサンダルを履いて外に出る。ポケットから煙草を取り出した。
するとリンリンは指を指した。
「あそこの上に置いてあった。本が。…でも、どうしてあそこに置いたの?」
指の先にあったのは、いくつかのプランターが置かれている棚。話を聞くとプランターの上に本は置かれていたらしい。
「置くならこっちにある椅子の上とか、そういう所に普通は置くんじゃない?」
「あー…多分ほら、気づかれたくなかったんだよ。椅子のある方は窓があるでしょ?そしたら中から見えちゃうかなって」
「ふーん…」
アヤカがプランターの上に本を置いた理由。今の私なら理解は出来るけど、リンリンからしたら当然、どうしてって言葉が出てくるわけで。
「…それよりも、美花にみてもらいたいモノがあるんだよね」
リンリンはサンダルを脱ぐと、真っ直ぐに布のかけられている絵に向かった。私はそれをベランダ越しから見ていると、彼女は私の方を見て笑顔になった。
リンリンが布を外した瞬間、私はある言葉を口にしていた。
「…彩花だ」
描かれていたのは過去の世界で見たアヤカの姿絵そのものだった。でも少しだけ差があって、彼が持っている本は紫色をしていること。それと―
「笑顔…」
あの時描かれたアヤカはどこか真剣な表情をしていた。でも、この世界のアヤカは嬉しそうに笑っている。
「…この間からね、実はこの子がどうしても私に描いて欲しいって言ってきてるみたいだったから。…もちろん会ったことはないけど、いたら素敵じゃない?」
そう笑いながらリンリンは私の方を見た。いつの間にかアヤカは彼女の肩の上に。
「…どう?物語は書けそう?」
カバンから紫色の本を取り出すと、開いてリンリンの方を向いた。
「うん、なんか面白い話が書けそうだよ」
私はリンリンからペンを渡してもらうと、物語を書き始めた。
おしまい。




