9.やること
「さてと…」
私はリンリンが置いて行った紫色の本を手に取ると中を見た。タイトルから始まって、あの時書いた物語がしっかりとした文字で書かれていた。
「なにから話せばいいのかな」
とアヤカの方を見ると、彼も私の事を見ていた。
「…ツバサはこれってこと?」
「もちろん。僕にツバサをくれたからね。美花にもツバサをってこと」
それは何となくわかる。でも、私が聞きたいのはそう言うことじゃなくて、もっとなんていうか本質的な部分の話…。
「…アヤカはどうして私に教えてくれるの?」
聞こうと思っていたこと。どうして私に教えに来たのか。確かにアヤカにツバサを渡すことになった。でも、なんていうんだろう、どうして出会うことが出来たのか。ってのは気が付いたからだけど、それでもアヤカが教えるってことには関係ない気がする。
「教える、というか…」
アヤカは少し考える。
「1つだけ言えるとしたら、美花に〝その姿勢〟が無ければ僕は何もしなかった。…というより、出来ないからね」
私はアヤカの返事を聞いてまた少し考える。
「でもほら、美花には自分のやることが見えたわけでしょ?じゃあこれからはそれをやればいいんじゃない?」
「…アヤカはこれからどうするの?」
私の言葉にアヤカは少し笑った。
「どうもしないよ?美花は公園とか森とか。僕たちが居る場所に行ったことあるでしょ?」
「うん」
「そこに生えている草木に〝あなた達はこれからどうするの?〟って聞かれてもねぇ。それってどうにかなることじゃないから」
まあ、確かに。それはそうか。
持っている紫色の本を見つめた。
「これはアヤカのモノ?返した方がいい?」
「それはもちろん、美花のモノだ。僕のじゃないよ。次に繋がっていくモノ。言うなれば序章とか前書きの部分だから」
「序章…前書き?」
「そうだよ。物語は形式上、幕を下げることになるのだけれど、でもそしたら次の幕開けがある。そうやって次に行くから」
「次に…」
「うん。だからこそ僕が来たんだから。そうじゃないと」
本を手に持ったまま、椅子に座ると自分で書いた物語を眺めることにした。するとアヤカは机の上にやって来て、私の前に座った。
「そう言えば美花」
「なに?」
「明日、リンリンの家に行くんでしょ?」
「…うん、そうだね」
「僕もついて行く」
「…てっきり勝手についてくると思ってたけど」
「まあ、それはそうなんだけどね。少し気になることがあって」
そう言って彼はプランターへ戻っていった。
次の日、私は車を走らせて近所のスーパーに買い出しに出かけ、ある程度の物を買っていくことに。
「きっとリンリンの家にはなにもないだろうから」
学生時代から彼女の事を知っていると、家がどんな感じになっているのか想像できる。
一応、住所をスマホに打ち込むと、ホルダーに固定。
アヤカは私の肩ではなく、後部座席に置かれたカゴの中へ。どうやら居心地がいいらしい。
しばらく走らせていると、リンリンの家が見えて来た。
「あれ…やっぱりそうだよね」
目の前に現れたのはアパートではなく一軒家。大分古い感じがするけど、しっかりと作られているのは外観からわかる。
「やっぱりそうだ」
ずいぶんと昔のことだったから覚えて無かったけど、彼女の家は私が過去の世界で住んでいた家と同じ。どこかで見たことが有るとはずっと思ってた。




