8.軌跡
「それで?具体的にはどうするつもりなの?」
公園からの帰り道、リンリンが私に聞いて来た。…確かに。物語を書きたいって言う自分の内側の事に気が付いたのはいいけれど、一体何から手を付ければいいのか。そこまで考えているわけではない。
「…どうしようかな」
考えていると、肩に戻ってきたアヤカが頬をつついた。彼の方を見ると、リンリンの方に手を向けている。
「そうだ…リンリンは今、なんて聞けばいいのかな。どういう感じでやってるの?」
「どうやって絵を描いているかってこと?」
「うん」
「美花が思っている通りだと思う。そのまま、同じ感じで描いているよ」
なるほど、じゃあバイトをしながら絵を描いているって言うのは続けてる感じなのか。
と私は考えたのだけれど、リンリンは言葉を続けた。
「…でも、実は本当に最近、というかこの間の週末の話なんだけど、この街の展覧会みたいなのに出展してみないかって話が来てさ、出したんだよね。私の絵」
「そうなの?凄いじゃん」
「でさ、その時来て絵を見てくれた人が私の絵を気に入ってくれてさ、別の場所で開くのにも出してみないかって言われたんだ」
彼女の話を聞くと、絵を出すのはもう少し先になるらしい。だから絵を新しく描き始めようとしていて、考えている時にアヤカが置きに行った紫色の本に気が付いた、とのことだった。
「…それにしてもびっくりしたよ。昨日まで何も無かった場所に、紫色の本が置いてあるんだもん」
「ああ…それは、うん。ごめん。私も自分で決めたことだったんだけどね」
とか凄く適当な言い訳をするしかない。だって置いたのは私じゃない。アヤカだ。良かったよ、リンリンが私の書いた物語を覚えてくれていて…。
と考えていると、あることを思いつく。
さっきのリンリンの言葉。私は私の世界を書けばいい。ってことは私は私の続きをやればいいんじゃないのか?
自分が今、ここに居るってことはそう言うことなんだから。
「ねえ、リンリン」
「なに?」
「絵を見て物語を書く。ってことから始めようと思ってる」
「…それは、あの日の続きからってこと?」
あの日の続き。リンリンに見せた「私の世界の見え方」。それを私が書いたからこそ、今日の私がここに居る。じゃあ、あの時の続きからやることで、その先へ行けるだろうと私はそう思った。
「うん。続きから。リンリン、信じて貰えないかもしれないけど」
「ちょっとの時間だったけど、私は自分の置いて来たモノを見に行ったんだ」
彼女は静かに、私の話を聞こうと歩く速度を緩めた。
「…そしたら?」
「うん。そしたらね、全然。今と別人みたいな生活をしてた。楽しそうだった」
「きっとあれが私が成りたかった姿で、きっと私が成しえることが出来る姿だったんだって。今なら思えるんだよね」
リンリンは腕を組むと、空を見上げた。すると何を思ったのかアヤカは私の肩から飛び立ち、今度はリンリンの肩に着地した。
「美花、今描いている絵。もう少しで完成するんだよね」
「…うん?」
「だからさ、その絵を見てさ、同じように物語を書いてみない?」
「いいの?」
「というかそうないと。だって私がもうここに居るってことはそういうことでしょ」
気が付くと私達はアパートに戻って来ていた。リンリンはポケットからスマホを出すと、何かを確認していた。
「そうだな…明日の20時位に私の家に来てよ」
「いいけど…でも、もう少し早く行くよ。夕食作ってあげるから」
そう言うとリンリンは笑顔になった。
「美花の料理が食べれるってこと?」
「…そうだよ、久しぶりにね」
リンリンは笑顔で頷くと、そのまま自転車に乗って行ってしまった。私は彼女を見送ると、今度はアヤカの方を向く。
「…さて、こうなったわけだけど」
「うん。いいじゃん。動き出したよ」
彼の言葉を聞いた後、空を見上げてまた、夜風を感じると部屋に戻ることにした。




