↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベランダにドラゴンがはえて来た。改訂  作者: 松下一成
第4章 わたしの世界で
PR
42/49

6.自分

 部屋に冷たい風が流れているように感じた。リンリンが読み上げたタイトルの物語。それはこの世界で唯一無二のモノ。私がリンリンに見せただけのもので、どこにも出してはいないもの。


 物語を書くきっかけをくれたのはリンリンだった。彼女は絵を見せた時、私に感想を聞いて来た。友達ではあるけれど、同じ美術部員。だから作品に関して言えば、お互いに気を使うことなく、言葉を伝える関係。


 私は見せてもらうと素直な感想を彼女へ届けていた。でも、ある時。私の言葉を聞いて彼女はあることを言ってきた。


「美花は…なんて言えばいいんだろう。世界の見方が別にあるみたいな感じがする」


「…それを知りたいな」


 と、そう言われたもんだから、私はなぜかペンを持って思いついた物語を書いた。でも、特に理由があったわけではない。ただ、私は彼女に、


「こうやって私は世界を見てるんだよ」


 ってことを伝えたかっただけなのだから。


 リンリンは私の書いた物語を読むと「すごいね!」と言ってくれた。


 …でも、どうして物語があの紫色の本に書かれていたのだろうか。確かにこれを見たら本を置いたのは私になる。


「…美花、覚えているかどうか分からないけど」


 リンリンは私の方を見た。


「この物語は私の絵を見て、それで美花が書いてくれたんだよ。だから私はすごくうれしかったんだ。〝私の絵に物語が見えたんだ〟って」


 そうだ、思い出した。リンリンの絵を見て、感じたこと。見えたことをそのまま物語に書き出した。…同じモノを見ていても、私が見えている世界を伝えたくて。


「私が描いてないモノを、美花は物語として書いてくれた」


 リンリンはあの時、絵を描くことを選択した。出来る限りの時間を、明け暮れるまで絵を描くことに使っていた。


 私は美術部だった時から、彼女の真摯な姿勢を見て、かっこいいって。素敵だなって…。自分も何かそういうモノがあったらいいなって…考えて。


 彼女は私の方を見た。


「美花…どうして泣いてるの?」


 私は気が付くと、大粒の涙を流していた。自分では全く意識していなくて、涙は机の上に。優しい目でリンリンは私を見つめてくれた。


 そうか、そうだ。全てが繋がったんだ。ここで。


 私はきっと、物語を書きたかったんだ。


 リンリンがあの時、認めてくれたことに。私が受け取っていなかったんだ。そうか、そうだったんだ。


 アヤカが私の部屋にやってきたことも、別の世界に行ったことも、自分で書いた物語をリンリンが手にして持ってきて…。


 もう一度、私を訪ねて来たんだ。


 何か言わなければ。と私はリンリンに向かって言葉を紡ごうとしたのだけれど、涙がとまらなくて…。


「…しばらく待ってるから、ほら、お茶でも飲んで」


 彼女は自分に出されたお茶を私の方へ持ってきてくれた。


 別の世界で私は銀のペンを持って、物語を書いていた。必要なモノは「世界の見方」。


 でも、それはもう既に私の中に存在するモノ。


 受け取って、認めていなかったのは何よりも私自身。だからきっと私は…リンリンやアヤカが〝認めてくれている〟ってことを知るために、そのために別の世界に行ったんだ。


 だから、私は、私自身が気が付くように種を用意した。


 その種を作るのだって、こっちと同じようにリンリンの絵がきっかけ。


「…わたし、なんていうかその…かっこわるいね」


「何が?」


 リンリンは泣いている私を見て少し安心したのか、優しい笑顔になった。彼女にとって私の涙は言葉に成っていない。だから、伝えなければ。今度はしっかりと受け取ったことを。


「リンリン。私…物語が書きたいんだ。本当は」


 そう言うと彼女は机の上に置かれた煙草を手に取った。


「知ってた。だから待ってた。私はいつの日か美香と一緒に、物語を紡ぐんだろうって」


「高校生の時からわかってた」


 リンリンの目からも涙がこぼれ落ちそうになっていた。


 気が付くのが遅いわけじゃない。気が付く為に必要な条件が揃うまで仕方のなかったことなんだ。


 けれど、条件は揃った。新しい芽が出始めようとしているのを、私達は感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。