12.美花
「ここまで来れば何となくわかるかもしれないけど」
ルリハは私の方を見た。
「私達の持っている世界の見方。それは〝何かを通す〟ことで実体化する。ミカやリンリンが使っている、ペンやクリスタル。そんな感じのモノだ」
「それが何を示すのか。というと簡単な話で、私達は自分達にこの持っているモノを行使しても、何も起きないということ。つまり、アヤカは自身の持っているモノだけでは、別の世界に行くことは出来ない」
なるほど、それがお互いに求め合うことの理由でもあるのか。どちらかの世界だけでは物語は完結しない。両方の世界にあるモノを、2つを1つにすることで、彼らの持っているモノは実体化する。
…でも、別の世界で私はアヤカと出会っている。それは一体どういうことなのだろうか。
ルリハは言葉を続けた。
「この場所のように行ける人が居る。受け取れる人が居る。そして気が付く人が居る。それは過去の自分がアヤカのような存在を〝自分自身に〟送り出せるきっかけを持っているから」
言葉の後に、ルリハはアヤカの方に手を向けた。
「けれど、美花は別の世界で、あるモノをアヤカへ渡した」
「…それが有るから、アヤカ自身を送り出すことが出来る」
渡したモノ…。私は腕を組んで天井を見上げた。それはきっと、別の世界の私がアヤカにしてあげた事。
しばらく考えていると、ルリハは私の事を見ながら口を開いた。
「美花らしさ、キミらしい優しさみたいなものかもしれない」
「…ベランダにはえたドラゴンを、部屋に入れたこととか?」
そう言うと、ルリハは少し笑った。
「それも、確かにそうなのかもしれないな。…私たちがアヤカを別の世界に送るのは、ミカに渡すモノがあるから。本来、与えるべき存在が、一番最初、ミカに〝与えられた〟モノがある」
それを聞いて私はまた考える。
「…もしかして名前?」
私の言葉を聞くと、アヤカは笑顔になった。
「そうです、何となくお分かりでしょうけど、私達には名前は付けられていません。それは人の世界のモノだからと」
「だから、私は美花さんに初めて出会った時、名前を聞かれても何もできなかった。でも、あなたは私の為に名前を考えてくれたのです」
「すごく、すごく、うれしかったんです」
アヤカは私の方を向いて、頭を下げた。
そうか、名前。確かにそうだ。カレンダーを見て、それで月の名前を私の名前と組み合わせて「彩花」って付けた。もちろん覚えている。
…じゃあ、この白い紙に書くのは彼の名前。私の付けた名前になるんだろう。
白い紙に向ってペンを走らせると、私は「彩花」と名前を書いた。
「いいね、よかったよ」
そう言うとルリハはまた同じように、アヤカの手の下に紙を置き、彼はまた同じように手をかざし始める。
青白い輝きが出始め、そしてそれを種の中に。
「これで準備は整いました」
アヤカはルリハと私に向かい、そう言った。
ルリハは輝きの収められた種を手に取ると、窓へ向かって行く。そしてそのまま届け屋さんのカバンの中に入れた。
「…届け屋さんに持って行ってもらうんですか?」
私はルリハにそう聞いた。
「その通り。ベランダに置かれたプランター。キミは〝あの野菜を育てた後〟何も植えてはいないだろう?」
「何も…そうですね、植えてません」
「だったら届け先はそこになる。キミも最初に言っていたことだろ?〝それか鳥が運んできたか〟ってね」
そう言って少し笑うと、ルリハは届け屋さんを送り出した。
ツバサを広げ、天高く飛び立つ。
彼を見送った後、今度は私に2人が話しかけて来た。
「さて、美花さん。今度はあなたの番。ここでやることは完了しました」
と次の瞬間。
アヤカとルリハは手を合わせると、私の肩に置いた。
すると、強い風が吹き始め、私は目を閉じることになった。




