11.送付
「必要な人へ送り出すこと。記憶の送り出しはアヤカの持っている〝世界の見方〟を使う」
「アヤカの持っている…」
ルリハは私の方を見て、アヤカに手を向けた。
「ミカは私とアヤカ、両方にツバサを与えたことになる。でも、それはお互いに。という約束のもと、成り立つ事。だからこそ、別の世界に居る美花が受け取ることが出来る」
ルリハは机の上に置かれたものを指さした。
「別の世界に送るためには、形を別なモノにする必要が有る」
私、美花はツバサを求めている。求める相手はアヤカ。けれど、送る先の世界では、師と呼ばれる職業、ルリハやアヤカ達と会話の出来る人物。その距離は遥か遠くに成って、離れている。
だから、直接、会話。言葉を使って伝え合うには、ある〝気づき〟を美香に持ってもらう必要があるのだという。その為の形を別なモノへ。と言うことらしい。
「まずは本から行こう。…アヤカ、お願い」
その言葉にアヤカは頷いた。きっと彼はさっきの言葉で私がなにをするのか、というのが分かったようだった。左手を本の上、右手を種の上に置くと、そのまま目を閉じた。
「…ミカはアヤカの世界の見方がなんなのか、それを知っているのかい?」
「いえ…知らないですね」
「そうか、キミたちの事だから、既に知っていると思ったのだけれど」
しばらくじっとしていると、アヤカの手が僅かばかりに輝きだした。
「アヤカが持っている世界の見方。それは、〝成分を見る〟こと。そしてそれを別の世界に送るための記憶として留めておくことが出来る」
ルリハが言うには、本の成分を植物の種に記憶させることが出来るらしい。そしてそれを別の世界で芽を出させ、生長させることで、本が出来上がる。…なんとも信じることが出来ないけれど、今の私であれば、何となく理解することが出来る。
けれど、それ以上に私が思ったこと、それは、
「私とリンリンの持っているモノを合わせたみたいな…」
と言いかけると、ルリハはお茶を差し出してくれた。
「アヤカは私の弟子だ。そしてミカに世界の見方を教えたのは私。…リンリンの絵の具の成分の見方。それらが合わさっているってことは、つまり世界は繋がっているってことだよ」
…どこかで見たことが有るような、感覚になっていたのはそういうことだったのか。
「でも、どうして植物の種なんですか?」
ルリハは少し考えると、私に笑顔で言葉をくれた。
「うーん…簡単に言えば、別の世界にはそこでしか構築できない、そういうモノだから。としか言いようがないんだけど…要はミカみたいに私達と会話をするためには、言葉を使うでしょ?」
「はい」
「言葉っていうのは〝そのまま表れた〟わけじゃなくて、時代を超えて形になって記憶されている。それはつまり、最初の成分から始まって、今に来ているってことだから」
ルリハが言うにはその世界には、その世界の成分が存在するという。だからこちら側のモノを持っていっても、それは別のモノになるらしい。
だからこそ、周りにあるモノ。気づきを取り込める植物の種というのが一番適しているのだという。
アヤカの手の輝きはやがて空中に浮き、青白く見えた。そしてそれをそのまま種の方へ持っていくと、同じように手を向ける。
「…すごい」
輝きはまるで生きているかのように、動き、やがてゆっくりと種の中へ。輝きが全て中へ行くと、アヤカは目を開けた。
「よし、これで〝きっかけ〟は中に居るね」
ルリハは自分のカバンを開けると、私に白い紙を見せて来た。
「ここから先はミカ、あなたにやってもらいたいこと」
そう言うと、机の上に白い紙を置いた。




