10.描く
静かなひと時をカフェで過ごす。なんて言うのはかなりおしゃれである。出されたサンドウィッチを食べ終えると、ゆっくり紅茶を飲みながらそんなことを思った。
アヤカはこの場所に生えている植物が気になっていたのか、立ち上がると、そのまま花や木が生えている近くに行って、そこからじっと観察を始める。
まあ、確かにアヤカでなくとも、この場所は気になることが沢山あるのだけれど。
私はアヤカの興味に付き合おうと、店員さんに代金を支払い、彼の元へ足を進めていった。
「…もう少し上の階にも行ってみない?」
中庭から上を見上げると、上の階の様子が少しだけ見える。アヤカに提案すると「はい、そうしましょう」という返事が返ってきた。
店員さんに挨拶をして、再び図書館の中に戻ると階段を上っていく。
「ミカさん、ここにも案内図がありますよ」
アヤカに言われて案内図を見ると、あることに気が付いた。7階より上は「予定地」と書かれている。
「これって、どういうこと何でしょうか」
「生長していくのかもね…もしかしたら」
ここはツバサを持った者たちの記憶の保管庫。時間が進むにつれて、記憶は外から運び込まれ、積み上げられていく。だからきっと、置き場はその分だけ必要になってくるのだろう。
「だからきっと…この建物は昔から生長してきたんだと思う」
「…ミカさん、7階には展望台があるみたいですよ、行ってみませんか?」
私もその展望台というのに興味が出た。一体何の景色が見えるのだろうか。階段へ向かうと、7階へ足を進めた。
すると確かに案内図にあった通り、これより上の階はまだ「出来ていない」感じがする。それでも、本は置かれていて、それを運んでいる人もいた。
展望台と書かれた立札。向こう側にはドアが見える。
アヤカはドアノブに手を掛けると、ゆっくりと開いていき、外から風が入ってくる。
「…すごいな。どうなってるんだ」
目の前に広がったのは「自分たちがさっきまで居た街」の景色だった。目線は同じ高さにありながら、別の空間、世界に居る。という感じもする。
「…直ぐ近くに在って、行ける人と行けない人が居る。っていうのはこういうことだったんだ…」
アヤカは景色を見ながらそう呟いていた。
ルリハの言っていた「距離を取ったのは人の方」という言葉にどこか納得してしまうような、そんな風景。実は身近で、気軽に来ることが出来そうな距離感。
「…こういうことだったんだ」
風景を見ながらそんなことを考えていると、アヤカが話しかけて来た。
「師匠は、ルリハさんはミカさんに何をやってもらいたいんでしょうか」
「多分、やってもらいたいというより、私が〝やること〟なんだと思う。それの準備をしてくれているってことは」
「どういうことですか?」
私は自分の手を見つめた。
「私はきっとこのままなんだろうって、別の世界で考えてたんだと思う。…でも、こうやってルリハやアヤカが、その、準備をしてくれているってことは、そう言うことだと思うんだよね」
ここまできて、私が、私の目の前にあること。あとはそれをやるだけ、そうすればきっと、
「過去の自分に話を付けることが出来るのだから」
私たちは展望台を後にして、そのまま元居た部屋に戻ることに、部屋のドアを開けようとしたとき、ちょうどルリハが現れた。
「おお、いいタイミングだね。ちょうど準備が整ったんだ。…カフェはどうだった?」
「はい、すごく良かったです」
とアヤカが答える。
「そうか、なるほど。じゃあ今度私も行ってみるか」
ルリハはそう言うと、部屋のドアを開ける。目の前にある机の上に2つ、あるものが置かれていた。
「…これは、そうだよね。そう言うことだよね」
1つは「植物の種」、そしてもう1つは「紫色の本」だった。
ルリハはテーブルの方へ向かうと、私たちの方を見た。
「さて、ミカは何となく感じ取っていると思うけど」
「…はい、何となくは」
「この図書館の役割―」
ルリハは種と本。その両方を指さした。
「これを必要な人へ送り出すこと」
私はその言葉と一緒に、アヤカを見つめていた。




