7.ツバサの図書館
「ミカさん、リンさん。外に行きましょう」とアヤカが言い、私たちはドアを開けて外に出た。…夜空の広がる、静かな空。さっきまで雨が降っていたのだろうか、そんな風が頬を撫でて来た。
「見送りは必要でしょ。…いつの世界でも」
リンリンは煙草を咥えながら私にそう言ってきた。
「まあ…そうだね、見送り。必要かも」
「それじゃ、行きますね」
アヤカはそう言うと、リンリンは手を振って「行ってらっしゃい。美花、私は向こうで待っているから」と一言。
私はその言葉に頷くと、アヤカの目を見つめた。彼は私の手を取り、1つ、2つと羽ばたく。
ルリハと同じように空を飛ぶのをイメージしていたのだけれど、実際には体が飛んでいるというより、周りの景色が動いていくように感じる。
目を閉じて、アヤカの動きに委ねることに。…やがて動いている感じがゆっくりと、風の動きが静かになっていく。
その気配を感じて、目を開けると、そこには白っぽく、少しだけ濃淡の付けられた建物、立派な建物が現れた。
「行きましょうか」
そうアヤカは私の手を取って、そのまま歩いていく。大きな扉が火炊くと、その場所が一体何なのかは一目でわかった。
「…図書館」
「そうです、でも、ただの図書館ではありませんよ」
「…すごい」
図書館の中に入ると、本が置かれている雰囲気、音を周りが吸収して訪れている静けさ。その中で歩いている音がいくつか聞こえる。
本を持って歩く人、何かを見つけに来た人。その人たちをよく見ると、私達とアヤカ達。その両方が存在している。
「2つの世界の住人たちが居ますね」
アヤカは図書館の様子を見ながら私にそう言った。すると、正面に有る階段を下りてくる人物が見えた。
「やあ、来ることが出来た。と言うことはツバサを持つことが出来た。ということだね。アヤカ」
出てきたのは見たことがある、会ったことのある人物。ルリハだった。
「師匠、そうです。美花さんが私にツバサをくれました」
「なるほど、なるほど。…さて、じゃあ君たちがこれから知ることになるのは、この図書館の事、世界の事。そして、ミカにはやってもらいたいもう1つの事がある」
ルリハは2階の方を指さした。
「話が出来る空間、これからアヤカが住む場所へ案内するよ」
ルリハは「付いて来なさいな」と軽く手を動かす。私とアヤカは目を合わせると、彼に付いて行くことになった。
図書館。蔵書はどのくらいになるのだろうか。吹き抜けの大きな空間、壁には沢山の本が並べられて入れられている。梯子を掛けて上の方にある本を取り出す人もいれば、足元にかがんで低い位置の本を取り出している人。
台車に積まれた本を何人かで運んで、本棚に入れている人もいた。
「…この人たちはここで働いているんですか?」
私は歩きながらルリハに質問した。
彼は少しだけ考えると、
「働く…と言うより、私達が次に来た場所。次に来る場所…。と言えばいいのかな。そこでやることがあって、その為にはこの図書館がいるんだ」
「だから、何というか、私やアヤカが出来ることがここにあって、居るという感じかな。…それを外から見た時、働くと言えばそうなのかもしれないけれど」
わかったような、わからないような感じがする。
「さてと、着いたよ。ここがアヤカのこれからの…作業場、居る場所になるかな」
ルリハは両手を使って木でできた引き戸を開けようと手を掛けた。でも、私はその景色に何か見覚えがある気がする。…どこだろうか、つい最近まで見ていた気がするのだけれど。
私の思っていたことが確信になったのは、引き戸が空いた瞬間だった。
「…ここ、私の部屋?」
目の前に広がったのは私の部屋に似ている景色。というよりも同じである。置いてある机や椅子。コップまで。
でも、唯一なかったのは本だった。
あれだけあった本が無い。壁には空の本棚が壁一面に有るだけだった。
ルリハは窓の方へ向かうと、私達の方を見ながら開ける。
「これからは、ここがやってくる場所、そして送り出す場所になる」
すると、開けた窓から羽の音が聞こえて来た。やってきたのは、見たことある人物、というか生き物というか。
それは届け屋さんだった。




