5.私たちとして。
ルリハが私の絵を持っているということは、私に世界の見方を教えてくれたのは彼になるのだろう。
ツバサはお互いに求めるモノ。…彼にはツバサがあった。
それはつまり、ルリハの持っている絵に何か1つ足されたから。
だから、自分が何をすればいいのか。あの白い紙に何を書けばいいのか。それは私が過去にやっていて、知っていること。…知らなかったとしても、私の内側に存在するモノ。
…アヤカが言っていた「私の内側で実体化している言葉」というのはこのことだろう。
でも、何を足したのだろうか。…もう1つと言うのは。
「…何?じゃあ美花にとっても、アヤカにとっても、ルリハは師匠ってこと?」
「…まあ、そうなるかも」
リンリンが言うことは、その通り。確かにそうだ。アヤカにとっては世界の見方を、ツバサを求めた私には…材料と言えば良いのか、それを持ってきてくれた。
「何もないと思ってたけど、アヤカと私。共通する部分があったんだ」
「共通って言うよりかは共有じゃない?」
「共有…」
リンリンは少し笑うと、椅子に座って煙草の箱を手に取った。
「ねえ、美花。私達…というより、私と美花がやっていること。それに必要な力って言うのは、元々その人の内側に何か有って、それで教えて貰ったって言うのは知ってる?」
「…リンリンが絵描きだったってことでしょ?」
「そう、私は絵描き。正確に言えば成ろうとしていた。これで何とかやっていこうって、いきたいって思ってて、毎日そうやって過ごしてさ」
私はリンリンと一緒に話していた部活の時の事を思い出していた。
「ある日、訪ねて来たんだよね。あの人たちが」
「…うん、私もそんな感じだったけど」
彼らがやってくるのは決まって雨の日。風や雨粒と共にやって来る。布を纏い、顔はあまり見えないようにして、名乗らない。ただ一言だけ、
「世界の見方。その中の1つを教えます」
とだけ言ったのを覚えている。
そしたらそれから私は銀のペンを見つけることになって。きっとリンリンはクリスタルを見つけることになったんだろう。
…彼女が言いたいことは、自分とは全く関係のない世界の見方を、アヤカ達が教えてることはなく、自分が持っているモノに対して教えてくれるということ。だと思う。
リンリンは絵を描いていた。だから世界の見方も、クリスタルを通して、描きたいモノ、それを描く為の絵の具の作り方を知ることが出来たんだと思う。
…となると私は何なのだろうか。
特に文章を書いていたわけではない。物語なんか書いたことも無かった。ただ、何となく過ごしていた日々。確かにリンリンと一緒に学生時代は美術部に入っていて、作品を作っていたことは有るけれど。
私は煙草を吸っている彼女を見つめた。
彼女はやっていた。毎日絵を描き続けていた。それが何になるのか。という周りの声も聞かず、ひたすら彼女は絵を描き続けていたのを私は知っている。
だからこそ、リンリンが〝アヤカ達〟から世界の見方を教えて貰った時、一番喜んだのは彼女ではなく、私だった。
「ねえ、リンリン」
「なに?」
「その…何回も聞かれたことだと思うんだけど、どうして絵を描こうと思ったの?」
私がそう聞くと、彼女は少し笑って、それから少し考えて言ってくれた。
「目の前に描きたいものが有るから…っていう理由ではない言葉が欲しいって感じがするね」
「うん、もちろん」
彼女は私の方を見た。
「その言葉って言うのは、美花も多分同じ。というか、似たようなものだと思う。美花も文章や物語を書くって、どうしてやっているか考えたことある?」
「ないかも…」
「きっと、私が絵を描いたり、美花が物語を書いたりするのに適した理由なんか、多分、存在しないと思うわけ」
リンリンは置いてあった絵筆を手に取った。
「ただ、そうだね、1つ言えることがあるとしたら」
「あるとしたら?」
「それはきっと、子供の時みたいに〝どうなるのかな〟って瞬間を作り出したいからだと思う」
「…どうなるのか」
「そ、大人って…成ってみてわかったけど〝あ、これはこうなるんだ〟って勝手に想像して、やらなくなるでしょ?他の人がやっているのとかを見ることもあるから。でも、子供はやるじゃん。だから、多分、私たちはそのまま大人になったのかもね」
何となく私はリンリンが言っていることが分かる気がする。
…じゃあきっと、私の所にルリハが訪れたってことは、私の中に、リンリンが言うような感覚があったのだろうか。
私が気づいていない感覚ってやつが。




