11.選ぶ
私とアヤカは家に帰ってくると、そのまま次の日の夜まで過ごすことに。私は作業、物語を描くことをいつものようにやりながら、向かい側にはアヤカが座って、彼は本棚を見つめ、気になるのが見つかると手に取って読み続けていた。
時折、煙草を吸うために窓を開けたり、お茶を入れたり。そういうことをする以外にはずっと椅子に座り続けることになる。だからなのか、時間が経っていることに気が付かなくて、いつも朝が来たことを小鳥に教えて貰うことになる。
気ままに起きて、描いて、寝る。そんな感じで外から見たら見えるのかもしれない。
届け屋さんがやってきて、それで食事をして。としていると、いつの間にか夕方に。リンリンから電話がかかってくると、私は昨日と同じようにアヤカと一緒に彼女のお店に向かうことに。
けれど、電話を取った時、あることを彼女に言われた。
「美花、あなたが物語を描いている時に使ってるペン。それを持ってきて欲しい」
そう言われたので、私はいつも使っているペンを、布に包んでカバンの中へ仕舞った。
「何に使うんですかね。そのペン」
アヤカが聞いて来た。
「…そうだねぇ、まあ、何となく予想はつくんだけど、今回はアヤカを描くから」
彼女に絵を描いてもらう。ということは初めての事ではない。だから何となくこの先にやることは知っているけれど、それにこのペンを使うというのは、私も初めてのことだから分からなかった。
「何に使うのだろうか」
そんなことを考えながら歩くと彼女の店に。ドアを開けると、彼女は椅子に座って待っていた。
「さて、よく来た。2人とも」
作業場には昨日までなかった小瓶や鉢がいくつも並べられていて、その中には絵の具が入っている。リンリンは椅子を持ってくるとアヤカの前に置いた。
「アヤカはそこに座って欲しい。…のと、1つ、聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか」
アヤカは返事をした。
「…キミの求めるツバサ。その〝1つ目〟に必要なのがキミの姿をしたもの。つまりこの場合は絵になるということでいい?」
「はい」
「ってことはだ、次があるわけでしょ?」
「そうですね、次が…あります」
リンリンは腕を組むと目の前に置いてある白い紙を見つめた。
「…じゃあこれだと大きすぎて持ち運びは出来ないね」
彼女はそう言うと別の部屋に行き、何枚か画用紙を持ってきた。
「サイズ感的にはこれがいいかも」
彼女が手にした紙は文庫本よりもやや大きいサイズの物。それをアヤカに見せた。
「はい…大きさは気にしないので。…でも、いいんですか?」
「なにが?」
アヤカの質問に彼女は絵を描くための画板にセットしながら返事をした。
「その…描いて貰ってというか…時間を使って貰ってと言うか…」
まあ、簡単に言えばこれはアヤカがリンリンに気を使っている。ということになる。確かに彼は彼女に支払う何かを持ってきているわけではない。もしも、対価を支払うとしたらそれは私から払うことになるのだけれど。
するとリンリンはアヤカの正面に立つと、私にやっているようないつも通りの「リンリンパンチ」をアヤカの頭に。
「いいの、私がやりたくてやってんだから。…もし、やりたくないなら絵の具なんか作らないんだから。…というよりもこんなチャンスは中々来ないからさ」
アヤカはお辞儀をすると椅子に座り直してこちらを見た。やりとりを見ていた私の方をリンリンは少しだけ見ると、絵筆をとって白い紙に向かい、アヤカの姿を描き始めた。
彼女の描く絵。そこにはある1点、他の絵を描く人では、描かないモノを描き加える。もちろん、使っている絵の具自体がそもそも他の人が使わない物を使っているのだけれど、それ以上にあるのが、
「その人本来が持つモノを描き足すこと」
…随分と前に、彼女は私の事を描いてくれたことが有る。それは彼女が彩採師になって間もない頃だった。気が向いたのか、気になったのか。彼女は気ままに筆を持ち、私の事を描き出してくれた。
その時の事を思い出すと、今でもあれはなんだったのだろうか。と思う。というのも、彼女が描く絵は〝全てを彼女が描く〟というわけではない。その人本来が持つモノは、描かれる本人が描かなければならない。
これは彼女の考えなのか、それとも絵の具の作り方みたいに〝アヤカ達〟との約束なのか。それは分からない。
ともかく、つまり私自身もリンリンの絵を描くことになった。そして私が描き加えたのは今使っている銀色のペン。…描いてもらった当時はもちろん、普通に仕事をしていたからそのペンは持っていなかったのだけれど。
けれど、リンリンに描き加えるように言われたペンは、数年後、私の手元に来ることになる。
「美花、あんたはこの色のペンを持っている。だから描いて」
と言われて描いた。とすると、今回も同じようなことが起きるだろうと私は思うわけで。それはつまり、アヤカが何かしらのモノを今、描かれている絵に筆を入れて描くことになる。
私は煙草を手に取ると、リンリンが絵を描いているのを眺めていた。




