10.透かし
私は銀輝師、リンリンは彩採師。師と呼ばれる存在は本来、先生とか、そういう何かを教える立場に使われる漢字である。けれど、この世界の場合は〝導く〟という方が意味合い的に近い。
じゃあ、何を導くのか。と言われるとそれは私にもあんまり分かっていない部分の話でもある。
人の感情、感性。もしくは何だろうか。感覚を導くとかそんな感じなのかもしれない。
リンリンの彩採師という職業、…と言えばいいのか。それは絵描くことなのだけれど、その絵に使われる絵の具。それは彼女自身が描きたいと思う物を、クリスタルを通して見て決めていく。
「それが彩採師と言われる理由」
クリスタルを通すと、何が見えるのか。私も気になって前に彼女に見せて貰ったことが有る。けれど、特段、そこには普通の世界が見えて、ただそれだけだったのだけれど。
でも、リンリンが見ると〝その人本来が持つモノ〟が見えてくるらしい。そして、それを絵に描くためには、絵の具に本来その人が持っているモノを透過する素材を入れる事。
つまり、彼女が絵を描く、ということは絵の具作りから始まる。しかもそれは、赤と青を使って紫を作るというやり方ではない。
本当に〝素材〟から作っていくわけで。
彼女がメモをとっている姿。その奥の方をみると扉が見える。あそこには沢山の染料と素材が入っている彩採倉庫があって、リンリンはそこから素材を選んで絵の具を作っていく。前に入らせてもらったこともあるのだけれど、私にはよくわからない物が沢山あったのを覚えている。
しばらくアヤカを見ながら、メモを取っていたリンリンはクリスタルとメモ帳を机の上に置き、物が沢山ある机の上に置いてあった植物の葉っぱのようなものを何枚も取り出していく。
「どれがいいか直感で教えてね」
リンリンの感じ。私とアヤカでは話すときに何と言うか雰囲気が別人のようだった。…何と言うかアヤカには優しさみたいなのを持っているけれど、私と話すときは、…なんと言えばいいのか、やるせなさみたいなのを感じる。
…まあそれはいいとして。彼女はアヤカの目の前に1枚づつ葉っぱを出して見せていく。そしてまた1枚、また1枚と見せていく。何枚か出した後、アヤカの目つきが葉っぱにいくのがあった。それを見たリンリンは「これがいい?」と一言。そうすると「はい、それが何となくいいですね」とアヤカが言う。
彼女は「なるほどねぇ」と言うと、その葉っぱを陶器でできた鉢の中に入れた。
「さて、どうしようかな」
彼女は腰に手を当てて目を閉じ、顔を天井へ向けてしばらく何かを考えている様子。そして何か思いついたのか、椅子に掛けてあった、絵の具が沢山ついたエプロンを手に取ると、手慣れてた手つきでそれを着て、そのまま奥の倉庫へ向かって行った。
「ねぇ、アヤカ。あそこに何が有るのか。気になるでしょ?」
私がアヤカの目線の先を見ながら聞いてみた。
「はい、気になります」
私はアヤカを連れてリンリンの向かった倉庫のドアの前に。中ではリンリンが沢山の箱とか瓶とかに収まっている素材を選んでいた。
「凄いですね…。これ全部、絵の具の素材ですか?」
アヤカは素材1つ1つに目をやりながらそう言った。
「そう、長い時間を掛けて集めた物から、近所の公園で見つけた物まである」
とリンリンは答えてくれた。
その人に合わせた、言うなればオーダーメイドの絵の具。使った物も、これから出番がある物も置かれている倉庫は、今まで感じたことのない雰囲気で包まれていた。
リンリンは手にさっき書いていたメモ帳を持ち、アヤカを描くであろう絵を表現するための素材を見つけていく。
「ちょっと、手伝って」
彼女はアヤカに木でできた浅めの箱みたいなものを手渡すと、その上に素材を並べていく。
アヤカはその置かれていく素材をじっと見つめていた。
一通り素材を選び、集めると、今度はそれを絵の具にしなければいけない。…のだけれど、その工程は彼女曰く「アヤカ達との約束」とのことで。だから1人で行わなければいけないらしい。
出来上がるのは明日の夜になると言われた。
私はてっきり、このまま朝方まで作業をするのか、それか語明かすのかとそう思っていたのだけれど、そうじゃないということは、リンリンのやる気は私の予想を超えているらしい。
「…久しぶり。ああいうリンリンを見るのは」
「そうなんですか?普段はそんなに…?」
「うん、そんなに。あそこまでってことはあんまりないかも。…高校の時以来かも」
彼女もまた私と同じように〝自分の世界〟って言うのを持っている。というより、持っていなければアヤカ達と会話をすることは出来ない。
実の事を言えば、私自身が銀輝師になったのもリンリンが居たからというのもある。
高校の時、同じ部活に所属していて。リンリンは私の描いたものを見ては「いいじゃん」と隣でいつも喜んでくれたり、教えたりしてくれた。
そんな彼女にアヤカが求めているモノを伝え、描いて貰おうと考えた私はどこか彼女の友人としてうれしいというか、そんな気持ちになった。




