1.雨の日
「私は雨、雨の日が好きだ」
気が付くと私は雨の降る中、傘をさして街を歩いていた。いきなり景色が別世界へ。…周りを見渡すと、どこか懐かしい見慣れた風景。街並み、都会の雰囲気。そういうモノが私を包み込んでいく。
これからどこへ向かえばいいのか。それは何となく知っているらしい。今から家に帰る途中、その帰り道。
ふと気が付くと、視線は大通りから離れた路地裏に。白い服を纏った子供のような人影が消えて行くのが見えた。私の足はその路地裏へ向かって行く。一歩ずつ。
まるで、あの日、あの時、出来なかったことを取り戻すような感覚で。
白い布を纏っていたのは少年のようだった。素足で、足は土がついている。私は慎重にその少年に話しかけた。
「…一体どうしたの?こんなところで」
そういうと、少年は何も言わず、ただ足元を見つめていた。私はもっていたハンカチで少年の顔を拭いてあげると、あることに気が付く。
「片目が青、もう片方が紫…」
オッドアイの少年。綺麗で澄んだ瞳をしている。…私はどこか怪我をしていないか、少年の体を見ようとした。すると、あるものが見える。
「…これって、尻尾?」
白い布の端っこから少しだけ見える。人の体にはないはずの尻尾。私の視線に気が付いたのか、少年はそれをさっと、ひっこめた。
「ああ、ごめんね。大丈夫だよ。私は他の人と違って…その、キミをどうこうするつもりはないから」
私は周囲を見渡すと、人がいないことを確認する。大通りを避け、このまま路地裏を使って家に帰ることにした。途中、家に食べ物や着替えも何もない事を思い出し、私は少年を目立たない場所に連れて行くと、急いで買い物へ向かう。
「少し、待っててね」
少年は頷くと、私は周囲を確認しながら歩きだした。立ち寄ったのは商店街。雑貨屋、服屋、食料品店が並んでいる。私はとりあえず適当に要るモノをかき集め、購入すると少年の元へ戻った。
「…ごめんね、家になにもなくてさ」
買い物袋を片手に持ち、もう片方の手を少年の背中に添えて歩き始める。
私の家は街を過ぎた閑静な住宅街。その端の方にある、年季の入った木造の一軒家。1人で住むには十分すぎる大きさをしているが、この場所に借りるとなるとこの家しか空いていなかった。
「…あんまり見られたくないよね」
私は買ってきたばかりの服を少年に渡すと、そのままお風呂場へ案内した。…シャワーと蛇口の操作を説明すると、少年はうなずいてこちらに頭を下げて来た。
「…私は何か食べる物を作るから、シャワー浴びて来てね」
そう言い、私は台所へ向かった。
作るのは野菜と魚のスープ。買ってきた食材を鍋に入れ、水を入れて煮込む。
作っている途中、脱衣所から音が聞こえて来た。少年が出たのだろう。私が振り返ると、そこには白いTシャツをきた彼が立っていた。白い布を纏っていたからわからなかったけど、さっぱりとしたショートカットの銀髪。それと、さっき見えた尻尾が後ろ側に見える。
「尻尾、いいの?隠さなくて」
「はい、助けていただいてありがとうございます」
と彼はお辞儀をした。
私はリビングに案内すると、椅子に座らせ、出来たばかりのスープをお皿に入れ、彼の目の前に差し出す。スプーンを手に取るとスープと共に野菜を口の中に入れて食べ始めた。
すると、私の方を見つめて、話始める。
「…僕の名前はアヤカって言います。…お姉さんの名前は?」
「私?私の名前はミカ。漢字で書くとこんなの」
テーブルの上に置いてあった紙とペンを使って、私は自分の名前を書くと、それをアヤカの目の前に差し出す。
「…僕と似ていますね」
私はその言葉を受け取ると、少し笑ってしまった。アヤカはそんな私を少しだけ眺めていたけれど、目の前にあるスープを食べることに夢中になっていく。
すっかりと食べ終わった彼は、ソファーで横になると眠ってしまった。きっと雨に打たれて疲れていたのかもしれない。私は隣の部屋から布団を持ってくると、掛けてあげることに。もしかしたら、長い時間、走ってきたのかもしれない。
足をよくみると、傷だらけだった。
私は少年を起こさないようにゆっくり移動すると、窓を開けて、煙草の箱を取り出す。空には綺麗な月が出ていて、冷たい風が心地いい。
立ち上る紫煙の向こう側に見える、庭の草木を眺める。
「アヤカは…どうしてあの場所に居たのだろうか」
雰囲気的に、なにかこう、事情がありそうな感じもするのだけれど、この世界は〝私の世界〟とは別の世界。〝彼ら〟も実体感を持って、文字通り住んでいる。
「…起きたら、話を聞いてみようかな」
そう呟くと、煙草を消して窓を閉めた。




