11.分岐点
アヤカが部屋にやってきてから、私の体というか、心と言うか。何か変化を感じるようになってきた。それは朝起きるのがスムーズになったとか、食欲がいつもよりある。とか。そういうのではない。
というのも、アヤカから〝輝き〟について聞いた時から、それが気になり始めた。私はその言葉を聞いてから、テレビとかネットとかを見るときに、文字を見ているのか、動画を見ているのか、それともその手前にある輝きを見ているのか。
と言うことである。
何かを伝えようとしている相手も、輝きを持っていてそれを私に届けている。
これは見た目の話ではなく、言葉にならない範囲の事が、自分の周囲に存在していて、その人とコミュニケーションを取るときはその範囲が触れ合うことによって起きること。みたいな。
多分、アヤカと話しているとこの感覚が身につくんじゃないか。と私は思う。
アヤカは確かに存在するのだけれど、実体感がほとんどない。触れても、触れられてもその感触がほぼ存在しない。けれど、そういう存在と毎日話をしたり、観察したり、知らないことを聞いたりすると、だんだんと輝きっていうモノが何を指しているのかが分かってくる。
「…ような気がするだけなのかなぁ」
ベッドから天井を見つめながら、私はそう言った。
彼の言っていることは理解できる。…部分もある。けれど、彼の言っていることが私にとって何なのかということが分からない。
私は彼に初めて会った時の事を思い出していた。
「ここではないけれど、同じ世界から来て、それでアヤカは私と同じで。私にはツバサがあるけれど、気が付いてない。それで、準備が整うまで住む…と」
この中で私が何となくわかることは、アヤカは私の中にある、私自身が気が付いてないツバサというモノを覚まさせること。その彼が言うツバサと言うのは、ここまでの彼との会話を経て、出て来た1つの考え方としては「私が思っているツバサ」ではないかもしれないというもの。
単にツバサと聞けば空を飛ぶ鳥を想像する。人にツバサがあると言えば背中に付くものだろうとそう思っていたのだけれど、多分そうじゃない気がする。
「…ツバサって言うのは、多分、アヤカなりの比喩的表現なのかもしれない」
そんなことを考えながら、枕元に置いてある私の本を手に取った。特に何も考えず、銀の模様を見つめることに。すると、あることに気が付いた。
「流れは1つの方向。それはそうか、だってこれは跡…でもなんだ?この途中で分岐しそうになっている場所がある」
私の考えが正しければ、模様は上から下へと流れている。これは生まれてた時から今の今までの私に辿り着くまでに歩いて来た足跡みたいなもの。だから途切れることなく、流れのような模様に成っているのだけれど、一か所だけ方向を変えようとしている地点がある。
「…うーん?…いや」
寝ている体を引き起こし、ベッドの上で腕組みをして考える。人生の分岐点。なんていうのは誰にでもあるもので、他からの力によってもある。自分から選択肢を選ぶってこともある。
もしかして、私の気が付いていない所で何か別の自分の進むべき道があったのだろうか?
私はアヤカの方を見た。
「アヤカと私は同じ…ってことは、これはアヤカ側の過去なのでは?」
もちろん、過去にあった分岐点に、私自身が気づいていないっていうのもあるのかもしれない。けれど、この地点を見つめていると、アヤカの言っていた「キミの過去は僕の過去だから」という言葉が頭をよぎっていく。
「どうなんだろう」
アヤカに聞いてみたい気持ちになったのだけれど、他の人の過去を聞くというのは…何と言うか聞きにくいモノである。けれど、気を使っていても何も始まらない。私はアヤカにこの分岐点の事について聞いてみることにした。
「ねぇ、アヤカ。この部分なんだけどさ」
私は本を持って、その分岐している場所を指さしてアヤカに話しかけた。
「これって、私とアヤカの両方の過去を、その跡を表しているならと思って」
「うん。そうだね、それで合ってるよ」
「じゃあ、この分岐の場所は、アヤカにとっても何かあったってこと?」
アヤカは少し考える。
「うーん…何かあったという大げさなことじゃないけどね。結局、選ぶか選ばないかということだけなんだけど、その先の展開から未来は別の形になるわけじゃない?」
「そしたらもう、そこから先は感覚の世界の話だから」
そう語るアヤカの目は、どこか遠くを見ているように感じた。
「でも、僕がここに来たということ。そしてミカがその分岐点に気が付いたということも、実はそれに似ている」
「似てる?」
「うん。感覚の世界の話。僕は多分きっと、そんなミカの感覚に託していたんだと思うよ」
そう言うと彼はベランダの方を向いた。
「…今度は僕の番。僕のを実らせよう」
私はその言葉を見守ることにした。




