7.イッツアスモールワールド
こうして俺は、社長と面と向かっての面接をなんとか乗り切った。想像とはだいぶ違っていたけれど、とにかく俺はやり切ったのだ。さらにはこの場で採用も決まったんだから、結果だけ見れば大成功と言って差し支えないだろう。
そんな俺を山田さんは出口までお見送りしてくれた。俺とは秘密を共有している身だから、山田さんもそれなりに安心したらしかった。
「いやいやいや、今日はお疲れ様! ほんとにお疲れ様! というか俺も疲れたわ……。
うちの社長、あんな見た目だけどさ、本当にヤバいことをやってる人でもやってた人でもないから。そこだけは俺から念を押しとくわ。
あと言ってることも相当だけど、あれ、社長なりの茶目っ気だからね」
「となると、どこまで本当の話だったんですか?」
「いや、今日言ってたことはほぼ事実じゃねえかな?」
それなら余計にダメじゃない?
「とにかくさ、弋くんは正式に『イセカイ運輸』に入社が決まったわけよ! いやめでたいね! 本当ならこのまま一緒に飲みにでも行きたいとこなんだが、今日は俺も仕事があってな。悪い!」
現在時刻はまだ昼の十二時。この人はよく昼から飲みに行くことでもあるんだろうか。俺は「機会があればお願いします」なんて定型文を返した。
「――じゃあ確認だけど、仕事始まりは来週ね。今日と同じで、正面の入口じゃなくて教えた所から入るように。わからないことがあれば連絡くれれば返すから。それじゃ、今日は気をつけて帰れよ。お疲れ!」
そう言って、駆け足で山田さんは戻って行った。
初めて会った時は、あのやんちゃそうな見た目からどんな人なんだろうと不安が大きかったけど、親切で明るくていい人だった。司波社長も……ほら、人は見た目じゃないって山田さんでもわかったことだし。それに悪い人じゃないよって山田さんも言っていた。だからきっと、大丈夫なんだろう。たぶん。
「――さて、用事も済んだし帰ろうかな。お昼はどっかで食べてこ」
この辺に来たのは、異世界に転移したというあの日が初めてといってもいいくらいだった。あの時は無意識に知らない場所を目指して走っていたような、そんな気がする。そして辿り着いたのがこの地。だから土地勘もないし、もちろんお店なんて全然知らない。
スマホを開いて近くの適当な店でも探す。調べてみると思っていたよりもいくつもヒットした。載ってる写真を見る限り、オシャレめな雰囲気のところが多いように見えた。
余談だけど、ふと地元のお店をネットで調べるとそこそこ近くに全然知らない食堂とかカフェみたいなのがあったりする。こういうのって、へー知らなかったーと思うのと、そして結局行くことはないことまでセットであるあるだと思う。
さて、そんなことも考えながらスマホとにらめっこすること約五分。
「よし、ここにするか」
俺は検討に検討を重ね……。
「やっぱこういう店になるんだよな」
最終的に、日本全国どこにでもあるチェーン店に決まった。ほら、これからは毎日ここに通うわけだし、知らない店とか今日行かなくてもいつか行くからさ。いつか、ね。
そうと決まれば、何を食べるかは考えながら向かうとしよう。あそこならメニューもだいたい頭に入っている。そう思ってスマホから外した視線を正面に向けた。
「――あ!」
声の主は俺の視線の先、こちらに歩いてきていた女性だった。その女性は俺の顔を視認すると、俺にも聞こえるくらいで声を上げた。
「……?」
なんだろう。一見すると目線は俺に向いているように見える。
ただしこういう時、「自分のことだな」と思って反応をしたら全然別の人だったり、例えば自分の後ろ、たまたま直線上にいた相手の知り合いを見てただけだったりして、反応してから気づいて一人で恥ずかしい! ってなることが鉄板。もはやそれが道理なんじゃないかと思うほど。
かと言って、「そうかな……?」なんて躊躇いながら後ろをおずおずと振り返るのもなんだかかっこ悪い、気がする。
よってこれらを踏まえると、「あーはいはい用があるのは俺じゃないのはわかってますよ」って初めからわかってる顔をして平然と何もしないのが得策。これこそ、この世をうまく平穏に生きるための俺流の知恵という――。
「もしかして、あの時に助けようとしてくれた方ですか?」
「……はい?」
しかし予想と道理に反して、駆け足で近づいてきた彼女は確実に俺に話しかけた。思わず俺は間の抜けた返事になった。
「覚えてますか? 先日、私が知らない人に絡まれていたところを、公園の前で助けてくれた――」
「………………あ、もしかしてあの時の?」
「はい。あの時はありがとうございました!」
ぺこりと小さく頭を下げる彼女を見て思う。異世界だって実はすごく近くにあったんだ。現実世界なんて、それはもう狭いもんなんだ、って。




