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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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第97話 白狐神と群れで作る湖畔


 健康診断が終わった午後。

 昼食を済ませて仮設厩舎予定地へ戻ると、午前中にカイルとレイルが打った測量杭が、草地の中に並んでいた。


 場所は職人宿と近衛騎士団宿の東側。大型ガレージ建設予定地からさらに北へ約20メートル。湖岸より一段高く、過去に増水した跡も見当たらない。


 午前中の確認では地盤自体にも大きな問題はなかった。ただし、自然の草地をそのまま馬房の床にはできない。低い部分を均し、排水方向を作り、砕石で締め固める必要がある。


 現在の荷馬車用の馬が3頭。そして、これから来る近衛騎士団20人の騎乗馬。最低でも23頭。


「思ったより大きいな」


 グレゴールが測量杭の間を見渡した。


「馬が23頭だからな。しかも詰め込む気はない」


「通路も要るにゃ」


 ミネットが言う。


「餌、水、掃除。人が安全に馬の横を通れる幅も必要にゃ」


「その辺はガランにも確認した」


 馬房だけ並べればいいわけじゃない。給水場所。餌置き場。道具。糞や汚れた敷料の一時回収場所。それから、暴れた馬がいても人間が逃げられる通路。仮設とはいえ、3か月以上使う可能性がある。


「おっちゃん」


「ん?」


 ユキが青ライン入りのヘルメットを被り、測量杭の外側に立っている。


「ここ、おうまの、おうち?」


「そうなる予定だ」


「まってる、あかり、つける?」


「ああ。ただし馬がびっくりしない明るさでな」


「おうまも、かえる?」


「仕事が終わったら、ここへ帰ってくる」


「じゃあ、いる」


「いるな」


 ユキが満足そうに頷いた。


     ◇


「その前に、今日は地面だ」


 俺は全員を規制区域の外へ移動させた。


「重機を出す。俺が合図するまで入らないでくれ」


「重機!」


 レイルの狐耳が立った。


「やっと実物が見れるな」


「ああ」


 俺は異空間収納を開く。まずブルドーザー。


「これがグイグイ」


 ずん。


「……」


 職人7人が黙った。次。


「ツチノコ」


 ミニバックホーが現れる。さらに振動マカダムローラ。


「ゴロゴロ」


 最後にプレート転圧機。


「地面ぶるぶる」


 4台を十分に離して配置する。


「……名前との落差がすごいな」


 グレゴールが呟いた。


「俺に言うな。ユキが名付けた」


 ユキが胸を張る。


「…まあ、本人が気に入ってるならいいか」


 グレゴール諦めが早いぞ。

 ボルガは別の意味で固まっていた。


「これ……全部、ヒカル一人で動かすの?」


「一度に一台だけな」


「そりゃ当たり前だろ!」


「そこへ突っ込む程度には冷静なんだな」


 《蒼岩の盾》の4人も初めて実物を見る。ナージャがグイグイを見上げた。


「映像より大きい!」


「あまり近づくなよ」


 セルドもタイヤではなく履帯を見ている。


「これ、車輪じゃないんですね」


「柔らかい地面でも沈みにくくするための履帯だ」


 オルフェンは周囲を見る。


「上に乗ると、死角が多そうですね」


「その通り。だから動いている時は絶対に勝手に近づかない」


「了解しました」


 フィンはゴロゴロを見た。


「この大きな筒で地面を押すのですか?」


「押すだけじゃない。振動も使って締め固める」


「映像の音は、これだったんですね……」


     ◇


 ドランはツチノコと地面ぶるぶるを見慣れている。ただしグイグイとゴロゴロが実際に動くところを見るのは今日が初めてだ。


「ヒカル」


「何だ」


「昨日の映像で見たが、本当にあれで土を押すのか?」


「まあ実際に見てくれ。規制線の外でな」


「分かっておる」


 妙に素直だ。新しい機械を前にすると、ドランも職人側になるらしい。


     ◇


 その前に規制区画を作る。これまでも使っていたカラーコーンとカラーバーに加えて、今回は新しいものを出した。


「これは?」


 エリオットが見る。


「A型バリケード」


 緑を基調にした樹脂製のA型脚。二脚一組の間へ、上下2本の単管パイプを固定できるタイプだ。


「工事区域の境界を、もう少しはっきりさせたい」


 俺は一台組んで見せた。脚に単管を上下通す。位置を合わせてクランプを締める。


「この金具は、他の単管と同じか」


 グレゴール。


「基本は同じ。締め過ぎも駄目だが、緩いのはもっと駄目」


 俺がラチェットを回していると、横から視線を感じた。ニナだ。


「やる?」


「ああ。頼む」


「うん」


 自分の工具箱から、使い慣れた単管クランプ用ラチェットを取り出し、腰の道具差しに入れる。


 俺が片脚を支えながら、上側から単管を合わせクランプを掛ける。カチ、カチ、カチ。ニナがラチェットで締める。


「上、固定」


 次。カチ、カチ。


「下、固定」


 手際がいい。


「……」


 ボルガがニナを見る。


「これ、いつからやってるの?」


「二か月前くらい」


「教えたら、すぐ覚えたぞ」


 ドランが少し得意そうに言う。


「ニナは畑の柵も作ったそうじゃ」


「ドランが自慢するところなのか?」


「ワシの後輩じゃからな」


 ニナがラチェットを腰へ戻す。


「ラチェット、べんり」


「そこは変わらないな」


     ◇


「じゃあ皆にも一本ずつ渡す」


 作業人数分の単管用ラチェットを追加で出した。ボルガ、グレゴール、エリオット、カイル、レイル、バドル、ミネット。全員が受け取る。


「王都で見せて貰ったヤツだな。こういう工具まで規格が揃ってるんだな」


 グレゴールが感心する。


「同じ寸法のメネジなら、毎回工具を持ち替えなくていい」


「いいね」


 ボルガが早速回す。カチカチカチ。


「これは癖になる音だね」


「遊ぶなよ」


「分かってる」


「顔がドランと同じだぞ」


「失礼だね!」


「なぜ毎回ワシが巻き込まれる!」


 そのドランが、今度は教える側へ回った。


「ラチェットはの、戻す時に外れぬ。じゃからこうして――」


「方向切替はここ」


 ニナも隣で説明する。


「締める。ゆるめる」


「ほう」


 レイルが動きを確認する。


「片手で早いな」


「狭い場所だとかなり楽だぞ」


「こりゃあいい」


「今日から使っていい」


「ありがたい」


 こうして職人全員でA型バリケードを組み、カラーコーンとカラーバーも併用して、厩舎予定地をぐるりと囲った。入口は一か所。重機が出入りする側は広め。


「ユキ。監督頼むぞ」


「かんとくさま、あんぜん」


「よし!」


     ◇


 俺はブルドーザーことグイグイに乗って、3番チャンネルで無線を入れた。


「こちらヒカル。厩舎予定地。重機作業を開始する。規制区域内への立入り禁止。以上」


 ユキの無線から、少し遅れて声が返る。


『こちらユキ。かんとくわかった。みんな、みる。以上』


     ◇


 最初はグイグイ。エンジンをかける。低い音が響いた瞬間、職人たちの表情が変わった。


「動いた……」


 カイル。


「いや、動く機械なんだから動くだろ」


「分かってる。分かってるが……」


 グイグイを前へ進める。ブレードを下げる。ザザザァザァ!表土が一気に押されていく。


「おお……!」


 レイルが声を上げた。草と表土を薄く剥ぎ、低い部分へ土を寄せる。ただし排水予定側の勾配は残す。


 一度に深く押さない。何度か往復。

ニナとレベルを確認しつつまた薄く調整。


「速いな……」


 グレゴール。


「人間が鋤と鍬でやったら何日だ?」


「人数次第だが、今日中にここまで均すのは厳しいだろうな」


 ボルガは腕を組んでいる。


「鍛冶もそうだけど、これも人間を要らなくする道具じゃないね」


「というと?」


「人が何を作るか決めて、機械に力仕事をやらせる」


「そうだな」


「操作する人間が下手なら、速く失敗するだけだ」


「それも正しい」


 昨日からボルガは、道具そのものより使い方を見るようになっている。


     ◇


 整地を終えグイグイを停止。ブレードを接地し駐車する。


「ニナ」


「うん」


「記録してくれ」


「グイグイ、セイチ カンリョウ」


 ニナが、工程記録をメモに書く。


「よし」


 次はゴロゴロ。


「本当に毎回止めるんだな」


 グレゴールが言う。


「俺が二台同時に乗れるわけじゃないからな」


「いや、ヒカルなら、そのうち何かやり出す気がしてな」


「俺は魔法の重機使いじゃない」


 ユキが規制線の向こうから言う。


「おっちゃん、ひとり、ふたつ、しない」


「ほら。監督にも禁止されてる」


「強いな、監督」


「ユキ、かんとくさま」


     ◇


 ゴロゴロをゆっくり走らせ、振動を入れる。ドドドドドド……。地面へ低い振動が伝わる。


「映像より腹に来るな」


 ドランまで驚いていた。


「お前も実物は初めてだったな」


「ツチノコと地面ぶるぶるは体験済みじゃが、これは初めてじゃ」


「どうだ?」


「乗りたい」


「何に使うんだよ」


「とりあえず、あちこち無意味に転圧する」


「やめろ!」


 ボルガが頷く。


「気持ちは分かる」


「お前まで乗るな!」


     ◇


 路床の初期転圧が終わったところで、砕石を入れる。必要量は午前中に面積と厚みから計算してある。


「これから砕石を出す。全員退避確認」


 職人たちをバリケードの外へ下げる。


「配置展開する」


「分かった」


 もちろん、半透明の配置輪郭が見えるのは俺とユキ、こびゃっこだけだ。

高さ。範囲。側溝予定地を避けて、排水桝予定位置も空ける。


「よし」


 配置確定。道路工事の際は一定区間毎に展開したが、今回は一度に展開する。ザザザザー!さっきまで土だった地面へ、ほぼ均一な厚みで砕石が現れた。


「……」


 沈黙。


「え?」


 ミネットの猫耳が立つ。


「今、どこから来たにゃ?」


「ショップから買って、直接配置した」


 レイルが足元と俺を交互に見る。


「だから昨日の道路映像で、妙に資材運びの時間が短かったのか」


「そういうこと」


 グレゴールが額を押さえた。


「ドランの『見れば分かるが、見ても分からん』がまた来たぞ」


「ワシは正しかったじゃろ」


「説明を放棄しただけだろ」


     ◇


 ただし、配置しただけで完成ではない。


「端は人間が直すぞ」


「おう」


 グレゴールたちがレーキを手にして、砕石の端を均す。カイルとレイルは勾配を見ながら高さを調整する。


「ここ3センチ高い」


「こっちは足す」


 エリオットが笑う。


「内装より大雑把な数字のはずなのに、土木も結構細かいな」


「水は数センチを見逃してくれないからな」


 カイルが答える。


「なるほど」


     ◇


 側溝と排水桝はツチノコを使う。


「今度は掘るぞ」


 バケットを下ろす。ザクッ!土がすくい上がる。


「おお!」


 レイルが一歩出かけて、すぐ止まった。


 側溝予定線に沿って浅く掘削。排水桝部分は少し広く深く。仕上げは後で人力確認する。


「どうじゃツチノコは?」


 ドランが得意そうにボルガへ言う。


「だから何で得意顔なのさ」


「先輩じゃ」


「何の?」


「異界重機の見学歴」


「役職でも技術でもないだろ!」


     ◇


 掘削が終わると、今度は際の転圧。


「ドラン」


「おう」


「地面ぶるぶる、教えてやってくれ」


「任せろ」


 プレート転圧機を前へ出し、エンジン始動する。ブルルルル!ドランの両腕が振動する。


「こうやって少しずつ進める。無理に引っ張る必要はない。曲げる時はの――」


 職人たちが真剣に見ていると、ボルガが言った。


「手が痺れそうだね」


「長時間やればの。じゃから交代する」


「そこ大事」


 俺が口を挟む。


「疲れた状態で続けない。人間まで転圧されるなよ」


 最初はドラン。次にカイル。レイル。グレゴール。バドル。ミネット


 全員が短時間ずつ交代して際を締める。ミネットは特に楽しんでいる様だ。


「にゃ・にゃ・にゃ・にゃ・にゃ…振動で思わず声が出るにゃ・にゃ・にゃ・にゃ・にゃ……」


「なぜ語尾だけが出る?」


「方言にゃ・にゃ・にゃ・にゃ・にゃ……!」


     ◇


 その頃。


「おっちゃん」


 ユキが俺を呼ぶ。


「こびゃっこ、しゃしんとびでお」


「ああ」


 三脚には工事記録用の通常カメラ。こびゃっこが写真と録画をしている。


「こびゃっこ」


「何じゃ?」


「次、空撮頼む。重機を全部止める」


「了解じゃ!」


 俺は全車両の停止を確認。


「空撮開始。高度10メートル位で工事区域の全域を頼む」


「心得ておる」


 こびゃっこが専用の小型4Kカメラを首から安全分離ストラップで下げる。背面の1.54インチモニターを確認。


「録画よしじゃ」


 そして両前足でカメラを構える。


「こびゃっこ、行きます!」


 ふわっ。白い毛玉が浮かび上がる。そのまま小型カメラを構えて、ゆっくり厩舎予定地の外周へ回る。


「……連邦の白い毛玉ドローンだな」


 思わず口から出た。ユキが双眼鏡を覗きながら言う。


「こびゃっこ、しろい」


「そうだな」


「けだま?」


「本人に言うなよ」


     ◇


 工事は続く。だが、湖畔全員がここへ集まっているわけではない。アルノ、ミーシャ、トトは畑に行き、こちらが食堂で休憩に入った頃、赤いワゴンを引いて戻ってきた。


「ヒカルさん」


 アルノが声を掛ける。


「また収穫できました」


 ワゴンを見ると、赤いトマトと艶のあるナスが積んである。


「結構あるな」


「前回収穫後に小さかった実が、かなり育ちました」


「加護があるとはいえ早いな」


 ミーシャが嬉しそうにトマトを持つ。


「これ、今日の夕飯に使える?」


「マルタとリリアに相談だな」


「うん!」


 トトはスケッチブックを開いた。


「ナス、まえより、ながい」


「記録した?」


「うん」


 絵の横には日付と、大きさを示す線。ナージャから教わったのか、風向きらしい矢印まで入っていた。


「これ何?」


「かぜ」


「もう斥候記録が混ざってるな」


「ナージャに教えてもらった」


「良いところはどんどん取り入れていい」


     ◇


 診療所ではマリベルが午前中の健康診断結果をまとめている。紙の数字だけではなく、俺の医療身体鑑定結果と、彼女の身体鑑定結果を突き合わせる。


「ヒカルさん」


 無線から声が来た。


『こちらマリベル。診療所。成人分の結果整理、半分ほど終わりました。緊急に再検査が必要な人はいません。以上』


「こちらヒカル。了解。急がなくていい。結果票は今日中じゃなくても構わない。以上」


 健康診断は、やっただけでは意味がない。記録して、次回と比べるところまでが仕事だ。


     ◇


 一方、洗濯ハウス。あとで様子を見に行くと、リリアがマルタへ全自動洗濯機の使い方を説明していた。


「ここへ洗剤を入れて、このボタンです」


「本当に、それだけ?」


「量は衣類によって変えますが、基本は」


「洗うのも、すすぐのも?」


「はい」


「水を絞るのも?」


「はい」


 マルタが洗濯機を見た。


「……料理より衝撃かもしれない」


「私も最初はそうでした」


「王都の宿じゃ、これだけで半日仕事だよ」


「だからこそ、使い方を皆さんにも覚えていただこうと思って」


「当然だね。自分たちの洗濯は自分たちで回すよ」


「助かります」


 いい事だ。これならリリアやミーシャに、新しく増えた大人全員の洗濯を背負わせずに済む。


     ◇


 厩舎予定地へ戻る途中、食堂側を通る。そこにはシートを被せた6人乗りオフロードバギーが2台。今日は午後の巡回に使うらしい。


「これが例のバギーですか」


 セルドがシートをめくりかけて、ガランに止められた。


「勝手に触るなよ」


「すみません、先輩」


「ヒカルの車両だ。まず説明をしてからだ」


 ナージャが完全に目を輝かせている。


「これ、馬より速いんですよね?」


「場所による」


「操縦は?」


「自転車を全員が安全に乗れるようになってからだ」


「ええっ!」


「順番だ」


「また段取り!」


「嫌なら教えない」


「乗ります! 自転車、完璧にします!」


 フィンが苦笑する。


「ナージャ、分かりやすいですね」


「フィンも乗りたいでしょ?」


「……興味はあります」


「ほら!」


 オルフェンもバギーを見ている。


「巡回には有用そうです」


「だからこそ、先に操作と危険性を覚えてもらう」


 ガランが言う。


「全員がマウンテンバイクを一通り乗りこなしたら、次はバギーだ」


「はい!」


 《蒼岩の盾》4人の返事が妙に揃った。


「後輩を乗り物で釣ってないか?」


 俺が言う。


「教育目標だ」


「本当か?」


     ◇


 巡回は二班に分かれた。ロク、リーファ、ナージャ。3人はマウンテンバイク。ナージャも昨日よりかなり安定している。今日のところはガランのマウンテンバイクに乗る。


「ナージャ」


 ガランが言う。


「今日は森の外周まで。細い獣道へ入るな」


「分かりました、先輩」


「下りで速度を出し過ぎない」


「はい」


「異常を見つけたら2番」


「はい!」


 ロクが笑う。


「昨日よりだいぶ乗れてるっすね」


「猫族だから!」


「昨日ふらついてたっすけど」


「昨日は昨日!」


 リーファが穏やかに言う。


「話してないで、出るわよ」


「はい!」


 3台が静かに走り出す。昨日まで徒歩だった斥候も、自転車で森へ向かう。妙な光景だが、かなり実用的だ。


 残るガラン、オルフェン、セルド、フィンはバギー。ガランがを運転する。


「全員、シートベルト」


「これですね」


「走行中は勝手に身を乗り出さない」


「はい」


「武器は固定」


「了解しました、先輩」


 エンジンが掛かる。ぶるん。後輩3人の顔が一斉に変わった。


「おお……」


「だから遊びじゃないぞ」


「分かってます!」


 怪しい。


「では湖岸巡回へ出る。2番を使用する」


「了解」


 バギーがゆっくり走り出した。セルドが後ろから手を振ろうと身を乗り出し、オルフェンに腕を掴まれている。ちゃんとリーダーがいるなら大丈夫そうだ。


     ◇


 午後4時半。砕石の均しが終わり、職人を全員外へ出す。


「最後、ゴロゴロで締める」


 エンジン始動。ゆっくりと走り、振動と転圧を行う。重なり幅を取りながら往復する。今度はニナ以外にカイルとレイルの外から高さを見る。


「東側、いい」


「北西も問題なし」


 数回転圧して停止し、エンジンを切る。全員で出来形を確認する。足で踏んでも沈み込みはほとんどない。排水溝予定部分も確保。排水桝の掘削位置もずれていない。グレゴールが周囲を見る。


「昼過ぎには草地だったよな」


「ああ」


「今はもう建物を建てる地面だ」


「まだ厩舎はないけどな」


「それでもだ」


 カイルがしゃがんで砕石を見る。


「この上に鉄板?」


「そう。明日は下地を確認してから滑り止め付き大型鉄板を敷く。その後、単管の骨組み」


「U字溝?だったか。側溝も先に入れたい」


「そうだな。排水を先行しよう」


「了解」


 仕事の話が、もう普通に通じる。昨日まで客だった人間が、今日は現場の職人になっている。


     ◇


「おっちゃん」


「ん?」


 規制線の外から、ユキが手を挙げた。


「きょう、おわり?」


「地面はな」


「おうまの、おうち、まだ?」


「明日から上を作る」


 ユキが整地された広い場所を見る。


「いま、ゆか?」


「床の下だな」


「みえなくなる?」


「最後はな」


「でも、だいじ?」


「一番大事かもしれない」


「なんで?」


「下が駄目だと、上も傾くから」


 ユキはしばらく考えた。


「おうちも、したから?」


「ああ」


「むれも?」


「……急に難しいこと聞くな」


「む?」


「いや。たぶん、そうなんだろうな」


 最初から仲間だったわけじゃない。一緒に飯を食って、仕事を教えて、失敗して、少しずつ役割を決める。見えなくなる部分ほど、あとで効いてくる。


「じゃあ、した、だいじ」


「それでいい」


「うん」


     ◇


 完成状況の空撮を終え、上空から、こびゃっこが降りてくる。


「空撮終了じゃ!」


「お疲れ様」


「どうじゃ。撮影見習いの評価は」


「今日は合格」


「主任復帰は?」


「まだ」


「厳しい!」


「無断撮影した奴が言うな」


「信用とは積み重ねじゃのう……」


「自分で言うと重みがないな」


 ユキが言う。


「こびゃっこ、ちゃんと、つづける」


「はいなのじゃ……」


「監督強いな」


     ◇


 夕方。森側から無線が入る。


『こちらロク。森外周巡回。異常なしっす。ナージャも転倒なし。帰還するっす。以上』


 続いて湖岸側。


『こちらガラン。湖岸巡回。異常なし。バギーで帰還する。以上』


「こちらヒカル。了解。厩舎予定地の地盤整正、今日の工程終了。以上」


 今日は基礎の、そのまた下。明日は排水設備を入れ、床を作り、単管を立て始める。その先には屋根。給水。灯り。馬房。また仕事は増える。でも今日は、皆で作業を進めた。


 そして別の場所では、畑、診療所、洗濯、警備が、それぞれ誰かの手で動いている。


「おっちゃん」


「何?」


「ひとり、しなかった」


「ああ」


「ちゃんと、できた」


「俺が褒められてるのか?」


「うん」


「五歳児に仕事の分担を褒められる40歳……」


「おっちゃん、えらい」


「肉と同じ評価じゃないよな?」


「ちがうよ」


「よかった」


 少し間を置いて、ユキが笑った。


「やっぱり、おにくも、えらい」


「比較対象から外してくれ」


 今日も湖畔は平和だった。そして、草地だった場所には、23頭以上の馬が帰ってくるための地面ができた。


 まだ屋根も壁もない。それでも帰る場所というものは、たぶんこうやって、見えない下から作っていくんだろう。


     ◇


【第96話・収支報告】


異世界生活75日目

日付:六の月4日

オリエント王国歴952年


開始残高:3,134,399pt


今回の購入:


・プラスチック製A型バリケード、規制用単管パイプ、クランプ、追加カラーコーン・カラーバー一式

 186pt(約18,600円)


・職人7人用単管クランプ対応ラチェット

 84pt(約8,400円)


・仮設厩舎床下用砕石、路盤材

 460pt(約46,000円)


・測量杭、マーキング用品、レーキ等土工用手工具追加分

 75pt(約7,500円)


今回支出合計:805pt(約80,500円)


現在残高:


3,134,399pt − 805pt = 3,133,594pt


円換算目安:


3,133,594pt × 100円 = 約313,359,400円相当

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