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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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第44話 白狐神、群れと魚を釣る


 物干し場の屋根が完成した翌朝、食堂で俺は作業予定表を見ながら固まっていた。


 診療所。薬草干し場。ガレージ基礎。祠予定地整備。やることは山ほどある。だが、山ほどありすぎる。


「……今日は休むか?」


 俺がそう言うと、横でコーヒーを飲んでいたガランが少し目を細めた。


「珍しいな」


「休まないと、たぶん俺が壊れる」


「その方がいい。正しい判断だ」


 ユキがこびゃっこを抱えて見上げてくる。


「おっちゃん、きょう、こうじしない?」


「ああ。今日は皆んなで釣りでもするか?」


 ユキの耳が、ぴんと立った。


「つり!」


「ああ。」


「ユキ、おっちゃんと、さいしょにここきたとき、さかなした!」


「そうだな」


「さかな、しお、えらい」


「そこも覚えてたか」


 俺は皆んなに声を掛け、準備する。

 子供たちには、ライフジャケットを着せた。ユキ、ミーシャ、トト、ニナ。全員、湖に近づく時は必須だ。


 ユキは自分のライフジャケットを見て頷いた。


「これ、うくふく」


「そう。浮く服」


 ニナは留め具を見ていた。


「カチッてする。安全」


「分解するなよ」


「しない。今日は」


「今日は、じゃない」


 釣り竿を人数分出し、子供用には針の扱いが簡単な仕掛けを用意する。俺、ガラン、リーファ、ロクが近くで見る。ドランはなぜか竿を持つ前から腕まくりしていた。


「魚と力比べだな!」


「釣りは力比べじゃない」


「むう」


 湖畔の小川近く。以前、釣った場所より少し広い場所に、折りたたみ椅子と簡易タープを置いた。


 ユキは湖を見て、少し眩しそうに目を細める。


「ここ、にかいめ」


「ああ」


「さいしょ、ユキと、おっちゃんと、こびゃっこだけ」


「そうだったな」


「いま、いっぱい」


 ミーシャ、トト、ニナ。リリア。アルノ。ガランたち。ミミとクロメ。


 確かに増えた。湖畔の風景も、あの時とは違って見える。


「群れで釣りだな」


「むれのつり!」


 ユキが小さく跳ねた。


 釣りは、思った以上に大漁だった。まず銀鱗魚。これは以前と同じ。淡白で塩焼き向き。


 そして、今回は別の魚が次々に釣れた。体側に淡い虹色の筋があり、マスに似た引きの強い魚だ。


 鑑定する。



【鑑定結果】

名称:虹マス

分類:淡水魚

食用:可

味:脂があり、香り良好

推奨調理:ムニエル、塩焼き、燻製

危険:なし

備考:以前より個体数が増加傾向。大型水棲魔物の減少、または捕食圧低下の影響が考えられる。



「虹マスってそのまんまか。それにしても沢山釣れたな」


 リーファが水面を見た。


「レイクサーペントがいなくなった影響かもしれないわね。魚を食べる巨大な魔物が消えたなら、増えるのは自然よ」


「水鳥が増えたのも同じ理由か」


 ロクが鼻を動かす。


「湖全体の匂いも、前より生き物が多い感じっす」


「匂いで分かるのか」


「なんとなくっす」


 ユキの竿がぐいっと曲がった。


「おっちゃん! さかな、つよい!」


「竿を立てろ! 巻きすぎるな!」


「さかな、にげるな!」


「俺に言うセリフを魚にも言うな!」


 ガランが横で冷静に補助し、虹マスが上がった。


 ユキは目を輝かせる。


「にじのさかな!」


「虹マスだ」


「にじ、えらい」


「まだ食べてないだろ」


「たぶん、えらい」


 ミーシャも銀鱗魚を釣り、トトは小さな虹マスを釣った。ニナは釣り針よりリールの構造に興味を持ちすぎて、危うく釣りではなく分解教室になるところだった。


「ニナ、釣ってから見る」


「回る仕組み、気になる」


「気になるのは分かる。でも今日は釣り」


「む。わかった」


 昼食はサンドイッチにした。


 卵、ハム、チーズ、野菜、ツナマヨ。子供4人には同じ数、同じ種類。飲み物はりんごジュース。


 ユキはサンドイッチを両手で持つ。


「ぱんに、なかみ」


「そう。挟む料理だ」


「はさむ。べんり?」


 ニナが横から頷く。


「持てる。こぼれにくい。べんり」


「ニナの判定が先に入った」


 トトは小さくかじって笑った。


「やわらかい」


 食後、釣りの休憩中にミミとクロメへフリスビーを投げた。すると、ミミが走り、クロメが跳び、なぜかロクも一歩出た。


 ぱしっ。ロクが反射的にフリスビーを掴んでいた。


 場が止まる。誰も何も言っていない。ロクがフリスビーを持ったまま言った。


「狼族っす」


「まだ誰も何も言ってないぞ」


「先に言っておいたっす」


 ユキが笑う。


「ロク、じょうず」


「ユキちゃんに褒められるなら、まあいいっす」


 午後は、空のマヨネーズ容器を洗って水を入れ、的当て遊びをした。ニナが容器を押すと、細い水がぴゅっと飛ぶ。


「水、飛ぶ」


「水鉄砲みたいなものだ」


「まと、当てる」


「そう」


 ユキ、ミーシャ、トトも交代で遊ぶ。的は空き缶とペットボトル。ユキは的に当てるたびに胸を張った。


「ユキ、みずのゆみ!」


「だいぶ違うが、楽しそうだからいいか」


 ニナは容器の押し加減をすぐ覚えた。


「強く押すと遠い。弱いと近い」


「そうだ」


「水の力、べんり」


「遊びの中にも学びがあるな」


 夕方、釣果を確認すると、銀鱗魚が8匹、虹マスが17匹。必要以上に釣らないつもりだったが、今日は人数も多い。夕食分と、燻製や保存分に回せる。


 夕食は魚づくしにした。晩酌用に銀鱗魚の塩焼き。さらに冷奴。主菜は虹マスのムニエル。ご飯。豆腐の味噌汁。


 冷奴を出した瞬間、リーファが首を傾げた。


「これは……豆の料理?」


「豆腐だ。大豆を加工したものだな」


 リーファは一口食べ、目を細めた。


「不思議。昔、森のエルフがこれに似たものを作っていた話を聞いたことがあるわ」


「エルフが?」


「豆を潰して、固めた白い食べ物。今はほとんど残っていない古い食文化だと思っていたけれど」


「もしかすると、異界人が伝えたのかもな」


 マリベルも冷奴を食べて頷いた。


「柔らかくて、胃に優しそうです。治療食にも使えそうですね」


「俺の世界ではヘルシーな料理って言われることが多い」


「ヘルシー?」


「体に負担が少ない、健康的、みたいな意味だ」


「なるほど。これは良いですね」


 アルノも嬉しそうに食べた。


「衰弱している時でも食べやすいです」


「診療所を作ったら、豆腐料理も献立に入れよう」


 エルフチームが豆腐に食いついた。リーファ、マリベル、アルノ、リリアまで、かなり真剣に味を確認している。


 ドランは銀鱗魚の塩焼きを持って言った。


「こっちは酒に合う」


「ドランは安定してるな」


 ガランも塩焼きを食べて頷く。


「魚も悪くない。遠征食に加工できれば使える」


「軍事評価も安定してるな」


 ロクは虹マスのムニエルを食べて耳を動かした。


「これは香りがいいっす。焼いたバターの匂いが強いのに、魚の匂いを消しすぎてないっす」


「斥候の鼻コメントが料理番組みたいになってきた」


 ユキはムニエルを一口食べた。


「……うんみゃあ」


「どうだ?」


「にじのさかな、えらい」


「虹マスな」


「にじます、えらい」


 ミーシャはご飯と魚を交互に食べる。


「魚とご飯、合う」


「米料理に慣れてきたな」


 トトは味噌汁の豆腐を見ている。


「白いの、ふわってする」


「豆腐だ」


 ニナは冷奴をじっと見た。


「形ある。でもやわらかい」


「そうだな」


「壊れやすい。慎重に持つ」


「今日はべんりじゃないんだな」


「これは……ふしぎ」


「ニナの分類が増えた」


 晩酌には缶ビールとチューハイ。つまみは銀鱗魚の塩焼きと冷奴。ドランは銀鱗魚を食べ、ビールを飲み、満足そうに息を吐いた。


「休みの日も悪くないな!」


「むしろ休みの日が大事なんだよ」


 リリアは食器を片付けながら、少しだけ笑った。


「今日みたいな日があると、明日からまた動けますね」


「そうだな」


 湖畔には、釣り竿が干され、フリスビーが置かれ、的当て遊びに使った空のマヨネーズ容器が並んでいる。


 工事ばかりではない。食べる。遊ぶ。休む。たぶん、それも家を作ることの一部なのだ。


 ユキはこびゃっこを抱え、満腹そうに言った。


「おっちゃん」


「なんだ?」


「きょう、たのしかった」


「ああ。そうだな」


「また、つりする」


「しよう」


「さかな、ひつようなぶん」


「覚えてたか」


「うん。ありがとして、たべる」


「偉いぞ」


 俺は湖を見た。レイクサーペントがいなくなった湖は、少しずつ姿を変えているのかもしれない。魚が増え、水鳥が増え、そして湖畔には白狐神の群れが暮らし始めた。


 休みの日のはずなのに、結局いろいろ分かった。明日から、診療所を作る。でも今日は、これでいい。


 ユキが小さく欠伸をした。


「おっちゃん、にじます、また」


「明日じゃないぞ」


「む」


「診療所が先だ」


「しんりょうじょ、えらい?」


「かなり偉い。怪我や病気を治す場所だからな」


 ユキは少し考えた。


「じゃあ、しんりょうじょ、えらい。にじますも、えらい」


「両方偉いでいいか」


「うん」


 湖畔の夜に、魚を焼いた匂いと、味噌汁の湯気が残っていた。休むための1日は、思ったよりちゃんと、俺たちの暮らしを進めてくれた。



【収支報告】


異世界生活17日目

日付:四の月6日・第六曜日

オリエント王国歴952年


開始残高:727,711 pt


今回の購入:

・子供用ライフジャケット追加、釣り竿追加、仕掛け、釣り餌、魚処理用品、クーラーボックス追加 520 pt(約52,000円)

・昼食用サンドイッチ材料、パン、卵、ハム、チーズ、野菜、ツナマヨ、りんごジュース 190 pt(約19,000円)

・フリスビー予備、的当て遊び用小物、洗浄用ブラシ、遊び用空容器追加 60 pt(約6,000円)

・夕食用調味料、バター、小麦粉、豆腐、味噌、米、薬味、飲料水補充 210 pt(約21,000円)

・晩酌用缶ビール、缶チューハイ、冷奴用薬味追加 180 pt(約18,000円)

・保存用塩、燻製準備用品、魚保存用袋、保冷剤 150 pt(約15,000円)


今回支出合計:1,310 pt(約131,000円)


現在残高:

727,711 pt − 1,310 pt = 726,401 pt


円換算目安:

726,401 pt × 100円 = 約72,640,100円相当


続く

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