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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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43/61

第43話 白狐神、初めてペンキを塗る。


 唐揚げを「かみのにく」と認定した夜から、3日が経った。


 その3日の間に、湖畔の拠点はさらに工事現場らしくなった。風呂ユニット、洗濯ハウス、倉庫の屋根には、ソーラーパネル用の架台が取り付けられた。


 最初は仮置きだったポータブル電源も、雨風を避けられるように屋外用収納箱や倉庫内へ移し、配線も保護管に通した。見た目はまだ開拓村なのに、電源まわりだけ妙に現代的である。


 異世界の湖畔で、俺は何をしているんだろう。いや、生活基盤を作っている。たぶん。きっと。そう信じたい。


「おっちゃん、きょうは?」


 ユキが青ライン入りヘルメットをかぶり、こびゃっこを抱えて俺を見上げた。


「今日は洗濯ハウス前の物干し場に屋根を作る」


「せんたくものの、いえ?」


「まあ、そうだな。洗濯物の家だ」


「せんたくもの、むれ?」


「そこまで広げるな」


 ニナは黄色ヘルメットをかぶり、腰には小型作業ベルト。短いラチェットと小型ペンチが収まっている。赤いワゴン台車には、直交クランプ、自在クランプ、短い単管パイプ、メジャー、軍手がきれいに積まれていた。


 かなり様になってきている。


「ニナ、準備できたか?」


「できた」


「今日も安全第一で」


「安全第一」


 ニナは短く答えたが、目はすでに単管パイプを見ている。あれは職人見習いの目だ。7歳のはずなのに、たまに現場歴15年くらいの空気を出す。


 ドランも作業ベルトをつけていた。


「ヒカル、今日はワシも屋根を組むのだな?」


「ああ。ただし脚立を使う。脚立の上で暴れるな。片足立ちもするな。屋根の上で酒の話もするな」


「最後は関係ないだろう」


「ドランの場合は関係ある」


 ユキが胸を張った。


「ドラン、きゃたつ、あんぜん」


「分かっておる、監督」


「おさけ、あと」


「監督もそこを言うか」


 リーファが横で笑っている。


「ユキ監督、だいぶ板についてきたわね」


「ユキ、かんとく。あんぜんだいいち」


「頼もしいわ」


 まずは下回りだ。洗濯ハウスの前に、物干しスペースの範囲を決め、水糸を張る。そこに単管パイプで柱と下枠を組んでいく。


 ニナは俺が指示した位置に短いパイプを運び、クランプを仮留めする。


「ここは直交クランプ。柱と横パイプを直角に固定する」


「直角」


「そう。こっちは自在クランプ。角度を少し変える時に使う」


「角度」


「分かるか?」


 ニナは無言で頷き、ラチェットでカチカチと締めた。


 カチ、カチ、カチ。音がやたら気持ちいい。


「締めすぎるなよ」


「止まったら、少し」


「そう。力いっぱいやると金具が傷む」


「わかった」


 少し前まで、ニナは何でも「べんり」で片付けていた。今は、構造を見て、力加減を覚えている。成長が早い。ドランが感心したように髭を撫でた。


「ニナ、筋がいいぞ」


 ニナは少しだけ胸を張った。


「工具、好き」


「ワシもだ!」


 下回りは昼前には組み上がった。洗濯ハウス前に、単管パイプの四角い骨組みができる。まだ屋根はないが、これだけでも一気に工事感が出た。


 ただ、問題が一つ。


「目立つな」


 ガランが腕を組んで言った。


「金属の光が反射する。湖側から見れば、かなり目につく」


「だよな」


 陽に当たった単管パイプは銀色に光っている。ここは追手や神務院を警戒している拠点だ。必要以上に目立つのはまずい。


「塗装するか」


 俺は茶色の屋外用塗料、刷毛、塗装用トレイ、養生シートを出した。そしてユキとニナに、使い捨ての白い防護服を渡す。


 ユキが広げた防護服を見て首を傾げた。


「おっちゃん、これ、なに?」


「塗料が服につかないようにする服だ」


「ふくの、ふく?」


「そう。服の上に着る服」


「むずかしい」


「俺も説明していて少し混乱した」


 防護服を着たユキは、青ライン入りヘルメットと相まって、白狐神というより小さな現場作業員だった。こびゃっこは防護服の中に履いている、サロペットの胸ポケットに入れられている。


「しっぽ、すこし、むーする」


「汚れない為だ。少し我慢してくれ」


「しっぽ、よごれるのいや、がまんする」


「偉いぞ、監督」


 ニナも防護服を着る。黄色ヘルメットだけが目立つ。


「ニナ、動きにくいか?」


「少し。でも下の服に塗料つかない」


「そうだ」


「べんり」


「これはべんりで合ってるな」


 塗装開始。


 俺とドランが高い部分を塗り、ユキとニナは低い部分を刷毛で塗る。ミーシャとトトは少し離れた場所で、リリアと一緒に刷毛洗い用の水や布を準備してくれる。


「ユキ、塗りすぎるな。垂れる」


「たれる?」


「こう、ぽたぽた落ちる」


「あ」


 ユキの塗った場所から、茶色の塗料が一筋垂れた。


「たれた」


「だから言っただろ」


「おっちゃん、たれた」


「俺が垂らしたみたいに言うな」


 ニナは丁寧だった。刷毛に少しだけ塗料をつけ、薄く伸ばしていく。


「上手いな」


「むら、いや」


「職人か」


 ドランは豪快に塗りそうで意外と丁寧だった。ドワーフは細工に強いというのは本当らしい。問題は、塗りながら一輪車と転圧機とツチノコの話を始めることくらいだ。


「この単管も良いが、ツチノコの腕の機構は――」


「ドラン、集中してくれ」


「おお、すまん」


 ガランとロクは湖畔を警戒しながらも、必要な材料を運んでくれる。リーファは森側の確認。マリベルは食堂でアルノとトトに薬草干しの注意を教えている。

 リリアが言う。


「ヒカルさん、塗料の匂いが強いので、子供たちは長時間近づけない方が良いですね」


「ああ。少しやったら休憩にする」


 ユキは不満そうに刷毛を握った。


「ユキ、まだぬれる」


「監督は休憩も仕事だ」


「きゅうけいも、しごと」


「そう。倒れたら工事が止まる」


「じゃあ、やすむ」


 納得が早い。現場監督の教育も順調である。間に休憩を挟み塗装が終わると、単管の骨組みは落ち着いた茶色になった。銀色の反射が抑えられ、湖畔の景色にも少し馴染む。


「乾燥に1日置く」


「今日、屋根つけない?」


 ミーシャが聞いた。


「ああ。塗料が乾いてからだな」


 ニナが少し残念そうにする。


「屋根、明日?」


「明日だ」


 ユキが胸を張る。


「だんどり」


「そう、段取り」


 そして翌日、塗料はしっかり乾いていた。


 今度は屋根の作業だ。まず、波板を固定するための垂木を単管の上に乗せる。普通なら専用金具を使うところだが、今回は水道配管用のサドルバンドを使って固定した。


「これは水道管を固定する金具だが、垂木を押さえるのにも使える」


 ニナが見て頷く。


「違う使い方」


「そう。使える物は使う」


「工夫」


「おお、いい言葉だ」


 まず俺が脚立に上がり、インパクトドライバーで単管と垂木を金具で固定し、見本を見せる。


 続いてドランが脚立に上がり、俺が下から垂木を渡す。ニナは低い位置で金具とビスを準備。ユキは少し離れて腕を組み、監督らしく見守っている。


 ドランがインパクトドライバーで垂木を取り付けていく。彼には前もってインパクトドライバーを使った練習をしてもらっている。


「しかし、この道具は本当に凄いな。あっという間に固定できる」


 ニナが羨ましそうな目で見ている。

俺はニナに言った。


「流石にあのインパクトドライバーは、ニナの手には大きすぎるからな。後で力は弱いが、ニナの手の大きさでも使えるドライバーの使い方を教えるよ」


 ニナの目が光った。


「本当?やった」


 ユキがドランを注意する。

 

「ドラン、きゃたつ、ゆっくりおりる」


「分かっておる!」


「監督。その調子だ」


「うん」


 薄いブラウンの透明波板を1枚ずつ乗せる。光は通すが、直射日光は少し和らぐ。雨も避けられる。洗濯物にはありがたい屋根だ。


 専用の波板釘を打つ。波板の山部分に、パッキン付きの釘を使って固定していく。


 コン、コン、コン。音が湖畔に響く。ニナが興味津々で見ている。


「釘、山に打つ?」


「そう。谷は雨水が溜まりやすい」


「水、入る。だめ」


「その通り」


「屋根、考えること多い」


「多いぞ。屋根は家を守るからな」


 ユキがこびゃっこを抱え直した。


「やね、えらい」


「屋根はかなり偉い」


 最後に、単管パイプの先端へ安全キャップをはめる。むき出しのパイプ端は危ない。引っかけたり、ぶつけたりすると怪我をする。


「これは絶対につける」


 俺が言うと、ニナがすぐに頷いた。


「けが、だめ」


「そう」


「安全第一」


「完璧だ」


 物干し竿を並べると、ようやく形になった。


 洗濯ハウスの前に、茶色の骨組みと薄いブラウンの透明屋根。風通しがよく、雨を避け、目立ちすぎない。ちゃんとした物干し場だ。


 リリアが手を合わせるようにして見ていた。


「これなら、雨の日でも干せますね」


「洗濯物の防御施設だ」


 リリアが少し笑った。


「では、しっかり守りますね」


「頼りにしてる」


 ミーシャは物干し竿を見上げる。


「ここに服を干すの?」


「ああ。洗った服をここに並べる」


「私もできる?」


「もちろん。背が届かないところは台を使おう」


 トトが小さく言う。


「ぼく、洗濯バサミ係ならできる」


「重要な係だ」


 ユキも屋根を見上げている。


「ユキのしっぽ、ほす?」


「ここで尻尾は干さない。風呂場で乾かす」


「リーファ、ふわふわにする」


「そうだな」


 夕食は、皆でコロッケを作ることにした。じゃがいもを茹でて潰し、炒めたひき肉と玉ねぎを混ぜる。小判型に丸めて、小麦粉、卵、パン粉をつける。


 リリアは俺の手順を真剣に見ていた。


「これも、ヒカルさんの世界の料理ですか?」


「ああ。家庭料理の定番だな」


「レシピを残してもよろしいですか?」


「もちろん。むしろ増やしていこう。リリアのレパートリーに入れてくれ」


 リリアの目が少し明るくなった。


「はい」


 ミーシャはコロッケを丸めるのが上手かった。トトは少し小さめの丸を作る。ニナは形が妙に正確だった。ユキは最初、こびゃっこサイズのコロッケを作ろうとした。


「こびゃっこ、たべる?」


「食べない」


「じゃあ、ユキがたべるのつくる」


「ユキの食べれるサイズでな」


 揚げると、きつね色のコロッケが次々に並ぶ。かぼちゃのスープ、野菜サラダも用意した。


 さらに晩酌のつまみに、俺はチーズちくわの甘辛炒めを作る。


「これは俺がスキルなしでも作れた数少ない料理だ」


 ドランが身を乗り出す。


「酒に合うのか?」


「合う」


「採用だ!」


「早いな」


 ちくわの穴にチーズを詰め、輪切りにして、醤油風調味料と砂糖で甘辛く炒める。香ばしい匂いが広がる。


 ユキが鼻をひくひくさせた。


「これ、なに?」


「チーズちくわの甘辛炒め」


「ちーずち...ながい」


「名前は長いが美味い」


 ユキは一口食べた。


「……うんみゃあ。むにむに、なか、とろ」


「食感が独特だろ」


「むにとろ」


「新しい食レポ語が生まれた」


 ミーシャも食べて目を丸くする。


「中が伸びる」


 トトは慎重に噛んで、少し笑った。


「おもしろい」


 ニナは断面を見ていた。


「穴にチーズ入れる。熱でとける。おいしい」


「構造評価が入った」


 ドランはビールを片手に力強く頷いた。


「これは酒に合う!」


「でしょうね」


 ガランも静かに食べている。


「保存性は低いが、士気は高くなるな」


「また軍事評価か」


 リーファはチューハイを飲みながら笑った。


「この拠点、食事で士気を上げすぎじゃない?」


「衣食住のうち、食が暴れてる自覚はある」


 マリベルはコロッケを食べて頷いた。


「油物が続く日は量を見ましょう。でも、美味しいです」


「医療担当の冷静なブレーキ、助かる」


 アルノも少しずつ食べていた。


「こういう料理、初めてです。外がさくっとして、中が柔らかい」


「体調が戻ったら、もっと食べられる」


「はい。楽しみにします」


 夕食後、リリアはノートにレシピを書き込んでいた。


 コロッケ。

 かぼちゃのスープ。

 チーズちくわ甘辛炒め。


 湖畔拠点の料理帳が、少しずつ増えていく。


 ユキは満腹で、こびゃっこを抱えながら物干し場を見た。


「おっちゃん」


「なんだ?」


「せんたくもののいえ、できた」


「ああ。できたな」


「むれのふく、ぬれても、だいじょうぶ」


「そうだな」


 雨が降っても、洗濯物を干せる。夜道には灯りがある。風呂には湯が出る。トイレは水で流れ、屋根の下で飯を食べ、部屋で眠れる。


 まだ仮だ。まだまだ足りない。でも、ここはもう、ただの湖畔ではない。白狐神の群れが暮らす場所として、少しずつ形を持ち始めていた。



【収支報告】


異世界生活16日目

日付:四の月5日・第五曜日

オリエント王国歴952年


開始残高:735,141 pt


今回の購入:

・風呂ユニット、洗濯ハウス、倉庫用ソーラーパネル架台追加固定材、配線保護材、屋外収納用品 2,450 pt(約245,000円)

・物干し場用単管パイプ、直交クランプ、自在クランプ、ベース金具、固定金具 1,850 pt(約185,000円)

・屋外用茶色塗料、刷毛、ローラー、塗装トレイ、養生シート、使い捨て防護服 620 pt(約62,000円)

・垂木、サドルバンド、水道配管用固定金具、ビス、釘、波板専用釘 780 pt(約78,000円)

・薄ブラウン透明ポリカ波板、安全キャップ、物干し竿、洗濯小物追加 1,150 pt(約115,000円)

・夕食用コロッケ材料、かぼちゃのスープ材料、野菜サラダ材料、米、飲料水補充 260 pt(約26,000円)

・晩酌用チーズちくわ甘辛炒め材料、缶ビール、缶チューハイ、子供用りんごジュース 240 pt(約24,000円)

・レシピ記録用ノート、筆記具、保存容器追加 80 pt(約8,000円)


今回支出合計:7,430 pt(約743,000円)


現在残高:

735,141 pt − 7,430 pt = 727,711 pt


円換算目安:

727,711 pt × 100円 = 約72,771,100円相当


続く

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