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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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第30話 白狐神、のり弁とカップ麺を食す


「のりべん、たぶん、えらい」


 ユキが真剣な顔でそう言った。まだ見てもいない食べ物を、名前だけで評価する白狐神幼女。


 だが、俺は否定しきれなかった。

 のり弁は偉い。安い。うまい。白飯がある。海苔がある。魚がある。揚げ物がある。地球の庶民にとって、のり弁は一種の完成形である。


 いや、異世界の湖畔で何を熱く語っているのか、俺。


「まあ、期待していいぞ」


「きたい、する」


 ユキはこびゃっこを胸に抱え直した。


 その隣で、ミーシャとトトもこちらを見ている。ニナはすでにテーブルの上を見ていた。


「箱?」


「ああ。箱に入ったごはんだ」


「開ける?」


「そう、開けて食べる」


「べんり」


「持ち運び出来るから、まあ便利だ」


 俺はスキルショップで人数分の、のり弁当を購入した。大人用。子供用。アルノとリリアには、量が少なめで食べやすいものを選ぶ。それでも内容はなるべく同じ。


 白飯。海苔。シャケ。白身魚のフライ。ちくわ磯辺揚げ。きんぴら。漬物。子供四人にも同じように入っている。誰かだけおかずが少ない、ということにはしない。ミーシャたちは、まだそういう差に敏感だ。


 俺はテーブルに黒い四角い容器を並べた。ふたを開ける。湯気と一緒に、揚げ物と海苔の匂いが広がった。


 ユキの尻尾が立つ。


「おっちゃん」


「何だ」


「におい、えらい」


「食べる前から判断が早い」


「これは、えらい」


「確信が強いな」


 ミーシャは弁当を覗き込んだ。


「これは……箱のごはん?」


「弁当だ。外でも食べられるように、箱に入った食事だな」


「全部、食べていいの?」


「ああ。一人一つ」


 ミーシャは目を丸くした。


「一人一つ……」


 トトも小さく聞く。


「ぼくも?」


「もちろん」


「全部?」


「全部だ。食べきれなかったら残していい。でも、これはトトの分だ」


 トトは容器を両手で持つようにして、じっと見つめた。


「ぼくの分……」


 その声が少し震えていた。こういう時、俺は何を言えばいいのか分からなくなる。食べ物を一人一つもらう。それだけのことが、この子たちにはまだ不思議なのだ。


 ユキがトトを見た。


「トトのぶん」


「うん」


「ミーシャのぶん」


「うん」


「ニナのぶん」


「うん」


「ユキのぶん」


「うん」


「むれ、おなじ」


 トトは小さく頷いた。


「むれ、おなじ」


 ミーシャも、弁当を抱えるようにしながら頷いた。


「……同じ」


 ニナは白身魚のフライをじっと見ている。


「これ、魚?」


「白身魚のフライだ」


「揚げた魚?」


「そう」


「べんり」


「揚げ物を便利に分類するのか」


「骨、なさそう」


「そこは確かに便利だ」


 ドランが横から覗き込む。


「魚を揚げるのか。ほう。香りが良いな」


「ドランは絶対気に入ると思う」


「酒に合うか?」


「今夜も酒はない」


「むう」


 ユキがドランを見た。


「ドラン、さけ、あと」


「厳しいな」


「にくも、あと」


「それで良いのか?」


「のりべん、ある」


「それもそうだな」


 ドランが妙に納得した。のり弁が肉の代わりになるかは微妙だが、今は黙っておこう。


 俺は箸を取り出した。割り箸ではなく、使い回せる箸だ。ついでに、今後の練習用に子供用の箸もいくつか買ってある。箸を持った瞬間、皆の視線が集まった。


「ヒカル、それは?」


 リーファが聞く。


「箸だ。俺の国の食器」


「細い棒二本で食べるの?」


「ああ」


 ドランが腕を組む。


「それで飯が掴めるのか?」


「慣れればな」


 俺は弁当の白身魚フライを箸で持ち上げた。全員の目が、すごく真剣になった。


「おお……」


 ロクが声を漏らす。


「器用っすね」


「いや、俺の世界では普通なんだ。子供も使ってる」


 マリベルが興味深そうに見ている。


「手先の訓練にもなりそうですね」


「なるかもな」


 ニナの目が光った。


「二本で、つかむ」


「君は絶対興味持つと思った」


「やる」


「今日はフォークな。箸は今度、ちゃんと教える」


「む」


 ユキも箸を見ていた。


「ユキも、はし?」


「今度な。今日はフォーク」


「ユキ、できる」


「唐突に自信を出すな。米を全部落とす未来が見える」


「むー」


「むーしても今日はフォーク」


「おっちゃんの、けち」


「安全管理だ」


「はし、やくそく」


「ああ。箸の練習も約束だ」


 約束がまた増えた。俺の人生、異世界に来てから約束の在庫が増えすぎている。俺は全員にフォークを配り、自分だけ箸を使う。そして、食べ方を説明した。


「これは和食の食べ方の一つだ。おかずを少し食べて、ご飯を食べる。味の濃いおかずと、白いご飯を一緒に楽しむんだ」


 ガランが頷く。


「パンで肉汁を受けるようなものか」


「近いかもしれないな」


 俺はシャケを少しほぐして食べ、それからご飯を口に運ぶ。


「こうだ」


 ユキが真剣に見ている。


「おかず、ごはん」


「ああ」


「にく、ごはん?」


「今日は魚だけどな」


「さかな、ごはん」


「そう」


 ユキはフォークでシャケを少し取る。口へ運ぶ。少し塩気のある味に目を丸くし、それからご飯を食べた。


「……おっちゃん」


「どうだ?」


「さかな、ごはん、いっしょだと、えらい」


「和食文化が認められた」


 ユキは今度、海苔の下のご飯を少し食べた。


「くろいの、いいにおい」


「海苔だ」


「のり、えらい」


「のり弁だからな」


「のりべん、えらい」


 予想通り、高評価だった。ミーシャも同じようにシャケを食べて、ご飯を食べる。


「ごはんが、甘く感じる」


「そうそう。それがいいんだ」


「おかずを食べて、ご飯……」


「そう」


「順番があると、食べやすい」


「まあ、好きに食べてもいいけどな」


 ミーシャは少し考えた。


「でも、教えてもらえると安心する」


 その言葉に、俺は少しだけ胸が詰まった。食べ方を教える。食べる順番を教える。ただそれだけで安心する。たぶんこの子たちは、「間違えたら罰を受ける」世界に長くいたのだ。


「ここでは、少しくらい間違えても大丈夫だ」


 俺はそう言った。ミーシャが顔を上げる。


「本当?」


「ああ。米を落としても怒らない。魚を先に全部食べても怒らない。フォークの持ち方が変でも怒らない」


 ユキが頷いた。


「おっちゃん、こめ、にげても、おこらない」


「米粒限定の話ではない」


 トトが白身魚のフライをかじった。


「外、さくってする」


「うまいだろ」


「うん。中、やわらかい」


「白身魚のフライは強い」


「つよい?」


「おいしいってことだ」


 トトはもう一口かじった。さくっ。小さな音がした。その音で、トトの耳が少し立つ。


「さくっていう」


「ああ」


「楽しい」


「そうか」


 食感で楽しいと思える。いいことだ。ニナはちくわ磯辺揚げを見ていた。


「これは?」


「ちくわの揚げ物」


「穴、ある」


「あるな」


「穴、べんり?」


「そこは俺にも分からない」


「指、入る?」


「入れるな」


「見るだけ」


「見るだけでも怪しい」


 ドランは白身魚フライを食べ、力強く頷いた。


「これは酒に合う」


「はい出た」


「だが飯にも合う」


「それは分かる」


「魚を揚げて飯と合わせる。良い発想だ」


「俺が考えたわけじゃないけどな」


 ロクは海苔の下のご飯を掘っていた。


「黒い薄いものが貼ってあるっす」


「海苔だ。海藻を薄くしたもの」


「海の草っすか」


「そう」


「湖じゃないんすね」


「地球の海だな」


「ヒカルの世界、食べ物の加工が細かいっすね」


「たぶん、食い意地が技術を育てた」


「説得力あるっす」


 リーファはきんぴらを少し食べ、目を細めた。


「甘辛い根菜……これも面白いわね。保存にも向きそう」


「リーファも分析派か」


「旅では食べ物の保存が大事だもの」


 マリベルは漬物を慎重に食べた。


「酸味と塩気がありますね。発酵食品に近いのでしょうか」


「近いな」


「胃を刺激しすぎない量なら、食事の補助に良さそうです」


「医療目線が強い」


 リリアはのり弁当を丁寧に食べていた。フォークで少しずつおかずを取り、ご飯を食べる。


「これが、ヒカルさんの国の食事……」


「庶民の味だけどな」


「とても、整っています」


「整ってる?」


「味が濃いもの、淡いもの、揚げたもの、焼いたもの、食感が違うものが、一つの箱に収まっています。家内管理の食事としても、とても参考になります」


「のり弁をそこまで分析する人、初めて見た」


 だが、リリアの目は真剣だった。奴隷としての習慣ではなく、生活を作る人として食事を見ている。それは悪くない変化だと思った。


 アルノは小さめの弁当をゆっくり食べていた。


「食べやすいです。魚の塩気が、ご飯と合いますね」


「無理するなよ」


「はい。少しずついただきます」


 マリベルが横で頷く。


「今日はこのくらいなら大丈夫です。油ものは少なめに」


「了解」


 のり弁当は好評だった。特に白身魚のフライは子供たちに人気だった。ユキは最後にご飯粒を一つフォークで追いかけていた。


「にげる」


「米粒がな」


「おっちゃん、はし、べんり?」


「箸の方が米粒は取りやすい」


「ユキ、はし、やる」


「だから今度な」


「やくそく」


「ああ。箸の練習も約束だ」


 ニナが空の容器を見て言う。


「この箱、使える?」


「使い捨てだな」


「もったいない」


「洗って小物入れにするか?」


 ニナの目が光る。


「する」


「じゃあ、きれいなものだけ残す。汚れが強いものは廃棄」


「はいき、べんり」


「そこは便利だな」


 食後、のり弁だけでは少し物足りない。いや、普通なら十分だ。ただ、体力を使っている。子供たちも安心して食べ始めたところだ。それに、温かい汁物がもう少し欲しい。


「温かい汁物が欲しいよな」


 スープは出せる。だが、ここはもう一つ、日本の便利食品を投入してみたい。


 カップラーメン。ただし、味は無難に塩ラーメン系。刺激の強い辛いものや、匂いの強いものは避ける。


 この世界には平打ちのパスタのような麺料理があるらしい。なら、麺そのものへの抵抗は少ないはずだ。


 俺はカップラーメンを人数分出した。


「これは、塩ラーメン。即席の麺料理だ」


 カップを並べ、ふたを少し開ける。かやくと粉末スープを入れ、熱湯を注ぎ、ふたを閉じる。全員が、カップをじっと見ている。


「待つ」


 俺は言った。ユキが首を傾げる。


「まつ?」


「三分待つ」


「さんぷん」


「そう」


「にくじゃない」


「今日は麺だ」


「めん」


 ニナがカップを見ている。


「この紙の器、お湯へいき?」


「耐熱だ」


「たいねつ」


「熱に強い」


「べんり」


 ロクが鼻を動かす。


「いい匂いしてきたっす」


「だろ」


 ドランは腕を組んで待っている。


「三分は長いな」


「酒を待つ時より短いだろ」


「酒は待つ価値がある」


「ラーメンにもある」


 ミーシャはカップを見つめていた。


「この中で料理ができるの?」


「そうだ。お湯を入れて待つだけ」


「鍋を使わないの?」


「使わない」


「不思議……」


 トトはふたの隙間から出る湯気を見ている。


「いい匂い」


「熱いから触るなよ」


「うん」


 ユキはじっと三分を待っていた。途中で一度、俺を見る。


「おっちゃん」


「まだ」


「まだ?」


「まだ」


「さんぷん、ながい」


「あと少し」


「めん、がんばってる?」


「たぶん戻ってる」


「もどる?」


「乾いた麺がお湯で柔らかくなる」


「めん、ふっかつ」


「大げさだな」


 そして三分。俺はふたを開けた。湯気が上がり、塩ラーメンの香りがタープの下に広がった。


 ユキが目を輝かせる。


「しろい、めん!」


「熱いから気をつけろ」


 俺は自分のカップで、箸を使って麺を持ち上げた。少し冷ましてから、すする。


 ずずっ。全員が固まった。


「……ヒカル」


 ガランが真顔で言う。


「今の音は、作法なのか?」


「俺の国では麺を食べる時、すすることがある」


「すす……る?」


「こうやって空気と一緒に麺を吸う」


 俺はもう一度やって見せる。ずずっ。ユキが目を丸くする。


「おっちゃん、めん、すった」


「そうだ」


「ユキも、すう」


「熱いから少しずつな」


 皆にはフォークを渡した。麺を巻き取る感じで食べてもらう。この世界には平打ちパスタがあるので、フォークで麺を食べる感覚は分からなくもないらしい。ただ、カップから食べるのはやはり不思議なようだった。


 ユキはフォークで麺を持ち上げ、ふーふーして食べた。


「……うんみゃあ」


「塩ラーメンもいけるか」


「しおの、めん、えらい」


 ミーシャは麺を巻き取るのに苦戦していた。


「長い……」


「途中で噛んでいいぞ」


「噛んでいいの?」


「もちろん」


「切っていいの?」


「ああ」


 ミーシャは少し安心したように麺を食べる。


「温かい。さっきのご飯と違って、つるつるしてる」


「麺だからな」


「これもヒカルさんの国の食べ物?」


「ああ」


「ヒカルさんの国、食べ方が多い」


「食の国だからな」


 トトは慎重に食べる。


「温かい。つるつるする」


「熱くないか?」


「大丈夫」


「スープは少しずつな」


「うん」


 ニナは麺を見つめている。


「長い。べんり?」


「長さは便利かなあ」


「食べるの、時間かかる。いっぱいある感じ」


「それはちょっと分かる」


「カップ、熱い。でも持てる。べんり」


「そこは確かに便利だ」


 リリアはスープを一口飲んで、驚いた顔をした。


「これは……短時間で作った味とは思えません」


「そこが即席麺の恐ろしいところだ」


「保存できるのですか?」


「ああ。かなり長く」


「旅の食料として、とても優秀ですね」


 ガランも頷いた。


「湯さえあれば食えるなら、遠征用としては強い」


「軽いしな」


「ただ、匂いは出る」


「そこは注意だな」


 マリベルは少し考える。


「塩分は高そうですね。衰弱者には量を見た方がいいです」


「そこも正しい。皆、スープは残しても構わないから」


 ドランは麺をすすろうと挑戦した。


「こうか?」


 ずっ。途中でむせた。


「ぐっ、これは難しい!」


「無理するな!」


 リーファが笑いを堪えきれず、肩を震わせている。


「ドラン、戦斧より苦戦してるわね」


「斧は吸わん!」


「そりゃそうだ」


 ロクも挑戦したが、耳を伏せた。


「吸う力加減が分からないっす」


「慣れだな」


「鼻に匂いが上がりすぎるっす」


「狼族には難易度高いのか」


「狼族っすけど、たぶん関係ないっす」


 ユキも小さくすすろうとした。


「すー……」


 麺は上がらない。


「む」


「無理しなくていい」


「おっちゃん、できる」


「四十年近い修行の成果だ」


「めんの、しゅぎょう」


「いや、そんな大層なものではない」


 自分で言っておいて、少し恥ずかしくなる。ともあれ、カップラーメンも好評だった。ただし、啜る食べ方は難しいらしい。この国の作法もあるから無理強いはしないが。箸と合わせて、今後の練習項目がまた増えた。


 食後、ユキはカップを覗き込んでいた。


「おっちゃん」


「何だ?」


「めん、いなくなった」


「食べたからな」


「また、いる?」


「また今度な」


「やくそく?」


「……まあ、たまにな」


「たまに、やくそく」


「また増えた」


 ニナが横から言う。


「カップ、洗う?」


「これは廃棄する。汚れが強いからな」


「もったいない」


「じゃあ一つだけ、きれいに洗って構造を見る用に残すか」


「見る」


「食べ物を入れるのには再利用しないぞ」


「わかった」


 食後、テントの寝床を整えた。子供たちは固まって寝られるように大きめのテント。リリアはその近く。


 アルノはマリベルが確認しやすい場所。ガランたちは見張り交代。ミミとクロメには毛布を敷いた。


 ミーシャは寝床を見て、少しだけ戸惑っていた。


「ここで寝ていいの?」


「ああ」


「朝になっても、ここにいていい?」


「もちろん」


 トトが小さく聞く。


「起きたら、どこかに連れていかれない?」


「連れていかない。ここで朝飯を食べる」


 ユキが横から言う。


「あさも、ごはん」


 トトはユキを見る。


「朝も?」


「うん。むれ、あさごはん」


 ニナが毛布を触る。


「ふかふか。べんり」


「寝具の評価もそれか」


「寝るの、べんり」


「まあ、生きるにはかなり便利だな」


 リリアは子供たちの寝床を整えようとして、またマリベルに止められていた。


「リリアさん、指示だけです」


「ですが」


「座ってください」


「……はい」


 マリベルは強い。リーファがユキの尻尾を軽く整える。


「ユキちゃん、寝る前に尻尾を踏まれないようにね」


「リーファ、しっぽがかり」


「まだその係なのね」


「うん」


「光栄ね」


 ユキは当然のように俺の寝床へ入ろうとした。


「ユキの寝袋は隣だぞ」


「おっちゃん、にげる」


「逃げないって」


「でも、ねると、いなくなるかも」


 俺は少し黙った。昨夜も同じようなことを言っていた。湖畔に戻っても、不安が消えるわけではない。家がまだテントだから、という話でもない。


 ユキの中には、森でひとり目を覚ましていた記憶が残っている。首輪の子供たちも、きっと似たようなものを抱えている。朝になったら、誰かがいなくなるかもしれない。


 連れていかれるかもしれない。置いていかれるかもしれない。その不安は、灯り一本とホットミルク一杯で全部消えるほど簡単ではない。


「分かった。一緒でいい」


「うん」


「ただし、こびゃっこと尻尾が俺の顔に乗らないように」


「しっぽ、がんばる」


「信用はしてない」


 ユキはこびゃっこを抱え、俺の袖を掴んで丸くなった。


「おっちゃん」


「何だ?」


「のりべん、えらい」


「気に入ったか」


「めんも、えらい」


「よかったな」


「でも、ほっとみるく、いちばん、しあわせ」


「そうか」


 ユキは少し考えた。


「やっぱり、にくもいる」


「明日な」


「やくそく」


「ああ。明日も何か肉を出す」


 また約束が増えた。俺は湖の波音を聞きながら目を閉じた。


 テントの外には、ポールライトの小さな灯り。タープの下には、片づけたテーブル。そして周りには、首輪のない子供たちと、眠れる場所を得たリリアとアルノ。


 まだ仮だが、始まった。ここを家にする作業が。夜の見張りの声が、遠くに聞こえる。


 湖の波音が、近くに聞こえる。ユキの尻尾が、俺の腕にからまってきた。逃げられない。いや、逃げる気はないが。明日から、家を作るつもりだ。群れの家を。



【収支報告】


異世界生活十日目・夜


開始残高:863,696 pt


今回の購入:

・シャケと白身魚フライののり弁当、子供用のり弁当、アルノ・リリア用小さめ弁当 180 pt(約18,000円)

・塩ラーメン系カップラーメン、湯沸かし用燃料補充、フォーク類 95 pt(約9,500円)

・箸、練習用箸、予備食器、片付け用ゴミ袋 45 pt(約4,500円)

・ミミとクロメ用追加水皿、犬用毛布追加分 35 pt(約3,500円)

・夜間用ランタン電池補充、見張り用携帯ライト予備 50 pt(約5,000円)


今回支出合計:405 pt(約40,500円)


現在残高:

863,696 pt − 405 pt = 863,291 pt


円換算目安:

863,291 pt × 100円 = 約86,329,100円相当


続く


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