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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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第3話 白狐神の方針は「にく」


 朝飯は、思ったより豪華になった。


 パン。

 スクランブルエッグ。

 ソーセージ。

 野菜スープ。

 それから、ユキの強い要望により焼き鳥。朝から焼き鳥。四十歳の胃には少し重い。だが、ユキは違った。


「にく、うんみゃあ」


 白い尻尾をふわふわ揺らしながら、ユキは焼き鳥を両手で持っている。


 シャワーを浴びて、リンスインシャンプーで洗って、ドライヤーで乾かしたおかげで、ユキは見違えるほど綺麗になっていた。


 白い髪。

 白い狐耳。

 白いワンピース。

 ふわふわの大きな尻尾。


 どこからどう見ても、神秘的な神獣幼女である。ただし、口元には焼き鳥のタレがついている。


「ユキ、口」


「ん?」


「タレついてる」


「たれ?」


「肉を偉くしてるやつだ」


「たれ、えらい」


「はいはい」


 俺はウェットティッシュを出し、ユキの口元を拭いた。ユキはむっとした顔をする。


「ユキ、じぶんでできる」


「できるならタレをつけるな」


「たれが、ユキについた」


「自分から行ったんだよ」


 ユキは少し考える。


「たれ、ユキすき?」


「知らん。タレに聞け」


「たれ、しゃべる?」


「しゃべらない」


「じゃあ、おっちゃん、きいて」


「俺はタレの通訳じゃない」


 朝から会話がひどい。だが、こういうやり取りをしていると、昨日まで森で一人だった子供には見えない。


 いや、正確には神様らしいが。白狐神。神名、ユキ。俺が名付けた。そこまで考えて、俺はスープを飲む手を止めた。


「……さて」


 ユキの耳がぴくりと動く。


「にく?」


「今、食ったろ」


「じゃあ、なに?」


「今後の方針だ」


「ほうしん?」


「これからどうするか、って話だ」


 ユキは焼き鳥をもぐもぐしながら首をかしげた。


「ここにいる」


「まあ、それも一つの選択肢だな」


「ここ、ユキのねるところ」


「知ってる」


 小川のそば。大きな木の根元。地面に描かれた鳥居。ユキが一人で寝ていた場所。結界のおかげで低級魔物は近づきにくい。水もあって、木の実もある。


 キャンプスキルと収納があれば、しばらくはここで生活できる。だが、問題は山ほどある。俺は手元に枝を持ち、地面に簡単な丸を描いた。


「まず、現状確認だ」


「げんじょう」


「今どうなってるかってこと」


「ユキ、きれい」


「それも現状だが、話が進まない」


 俺は地面に箇条書きのように線を引いていく。


「一つ。ここは異世界っぽい」


「いせかい?」


「俺のいた場所とは違う世界だ」


「おっちゃん、にほんからきた」


「ああ。たぶん帰り方は分からない」


「かえる?」


 ユキの耳が少し伏せた。

 しまった。俺は言葉を選ぶ。


「今すぐ帰る方法は分からない、ってだけだ」


「おっちゃん、かえる?」


「帰れるなら帰りたい気持ちはある」


 ユキの尻尾が、少しだけしゅんと下がった。


「でも」


 俺は続けた。


「少なくとも、ユキを一人で森に置いて帰る気はない」


 ユキが俺を見る。


「ほんと?」


「ああ」


「ほけん?」


「保険付きだ」


「ほけんりょうは?」


「肉は高いから、今回は偉いって言うだけでいい」


 ユキの尻尾が少し戻った。


「おっちゃん、えらい」


「はい、保険成立」


「あと、にく」


「結局俺から取るのか」


「にくは、べつ」


「別会計みたいに言うな」


 ユキは満足そうに焼き鳥をかじった。まあ、少し元気が戻ったならいい。俺は話を続ける。


「二つ。俺にはスキルがある」


 地面に文字を書く。基本スキルは鑑定。収納。マインドフルネス。この三つは、元世界の資格由来みたいだが、後は固有スキルは四十の手習い。


「鑑定でいろいろ調べられる。収納は容量無限、時間経過なし。マインドフルネスは、非常時に深呼吸で心を落ち着けられる。四十の手習いは、趣味や娯楽、スポーツ由来の技術を覚えられる」


「おっちゃん、へんなことできる」


「だいぶ変だな」


「ユキも、ぱちってできる」


「お前も相当変だぞ」


「ユキ、かみさま」


「そうだったな」


 俺は現在の取得済み手習いを確認する。



【固有スキル 取得手習い】

・狩猟

・キャンプ


【基本スキル】

・総合鑑定士資格・整理収納アドバイザー資格・マインドフルネス スペシャリスト資格


【加護】

・白狐神ユキの小さな加護


【現在保有ポイント】

魔石ポイント:4,750



「昨日よりだいぶ減ってるな……」


 ライフル。

 狩猟セット。

 キャンプ用品。

 シャワー道具。

 ポータブル電源。

 食料。

 服。

 靴。


 必要なものばかりだったが、ポイント消費は大きい。棘狼スパイキーウルフの魔石で350ポイント戻したとはいえ、支出の方が多い。


「三つ。魔石ポイントが必要だ」


「ませき、にくのもと」


「雑だが間違ってない」


 魔石ポイントがなければ、ショップで物が買えない。今は食料も道具もポイント頼みだ。このまま買い続けたら、いずれ尽きる。


「だから魔石を集める必要がある」


「まもの、たおす?」


「それが一番早い」


 だが、ここで俺は腕を組んだ。


「問題は、俺が魔物退治を仕事にしたいわけじゃないってことだ」


「しごと?」


「ずっと魔物を探して撃って、解体して、魔石を取る生活はしんどい」


「おっちゃん、よわい?」


「弱い。あと、精神的にきつい」


 昨日の棘狼を解体した感触は、まだ手に残っている。狩猟スキルがあるからできた。だが、平気になったわけではない。俺は元サラリーマンで、無趣味の四十男だ。魔物ハンターとして第二の人生を歩みたいわけではない。


「だから、短期方針と中期方針を分ける」


「たんき?」


「すぐやること」


「ちゅうき?」


「その次に考えること」


「ながい」


「大人の話は長いんだ」


「にくは?」


「肉は短期方針に入れておく」


「よし」


 ユキは真剣に頷いた。そこだけ真面目になるな。俺は枝で地面に丸を三つ描いた。


「まず短期方針」


 丸の中に一つずつ書く。


 一、安全確保。

 二、食料と水の確保。

 三、情報収集。


「この三つだ」


「にくは?」


「食料の中だ」


「にく、大事」


「分かった。食料。カッコs肉多め」


 地面に「肉多め」と追加した。ユキが満足げに頷く。


「おっちゃん、わかってる」


「分かりたくなかった」


 まず安全確保。ここは鳥居結界がある。ユキの力で低級魔物は防げる。俺も鳥居を描けるので、ユキが放電すれば結界を張れる。これは大きい。


「ただし、強い魔物に効くかは分からない」


「つよいまもの、こわい」


「そうだな。だから、まず周囲を調べる」


「ユキ、におい、わかる」


「助かる」


 ユキは鼻をひくひくさせた。


「くさいの、わかる」


「魔物の匂いか?」


「まもの、くさい。うそつきも、くさい」


「うそつきまで分かるのか」


「こころが、すっぱい」


「嫌な表現だな」


 ユキの嗅覚と神様直感。俺の鑑定。狩猟スキルの追跡と気配察知。合わせれば、周囲の安全確認はできそうだ。


「次に、食料と水」


 水は小川がある。洗浄用には使える。飲むなら煮沸推奨。ショップで飲料水を買えるが、ポイント節約のためには現地の水を活用したい。


「煮沸用の鍋と浄水器が欲しいな」


 キャンプショップを検索する。


 携帯浄水器。

 大型ウォータージャグ。

 煮沸用鍋。

 アルコールストーブ。

 ウォータータンク。

 水質検査キット。


「あるな……」


 便利すぎる。ただし、全部買えばまたポイントが減る。


「必要最低限にしよう」


 携帯浄水器と大きめの鍋、水質検査キットを候補に入れる。買うのは後でいい。


 次に食料。ショップで買える。狩猟で肉も取れる。川があるなら釣りもできるかもしれない。


「釣りスキルも候補だな」


 四十の手習いが反応する。



【四十の手習い候補】

・釣り

川や湖で魚を捕獲する技能を取得。

関連ショップ:釣具、餌、クーラーボックス、魚処理道具など。



「釣りか……」


 悪くない。魔物を狩るより精神的に楽そうだ。魚ならユキも食べていたらしいし、川の魚が安全なら食料になる。


「ユキ、魚は捕れるか?」


「とれる」


「どうやって?」


「じっとする。くる。ぱちってする」


「電気漁法じゃねえか」


「でんき?」


「いや、まあ、お前の場合は神様漁法か」


「ユキ、さかなとれる。えらい?」


「偉いけど、乱獲はするなよ」


「らんかく?」


「取りすぎると魚がいなくなる」


 ユキは真剣に小川を見た。


「さかな、いなくなるの、だめ」


「そうだ。だから必要な分だけ取る」


「ひつようなぶん」


「今日食べる分くらいだ」


「にくは?」


「肉の話に戻るな」


 最後に情報収集。ここが一番大事だ。この世界がどこなのか。近くに人里はあるのか。言葉は通じるのか。通貨は何か。魔物の危険度はどのくらいか。ユキのような神獣はどう扱われるのか。


 分からないことが多すぎる。


「町か村を探す必要がある」


 俺がそう言うと、ユキの耳が伏せた。


「ひと、こわい」


「人に会ったことあるのか?」


「ある」


「どんな人だ?」


 ユキは少し黙った。それから、小さく言った。


「おおきい声。こわい顔。ユキをつかまえようとした」


 俺の背筋が冷えた。


「いつ?」


「わからない。まえ」


「何人くらい?」


「さんにん。くさい。いやなにおい」


「逃げたのか?」


「とりい、かいた。まもの、くるなってした。でも、ひとは、ちょっと入ってきた。だから、ぱちってした。にげた」


 結界は低級魔物には効く。だが、人間には完全には効かないらしい。ユキを捕まえようとした人間がいた。それは重要な情報だった。


「……町に行くのは慎重にした方がいいな」


「おっちゃん、ひと?」


「俺も人だ」


「おっちゃん、くさくない」


「そうか」


「へんなにおい。でも、わるくない」


「褒められてるのか?」


「ほめてる」


「じゃあ受け取っておく」


 ユキが人を怖がるなら、いきなり町へ連れて行くのは危険だ。そもそも、この世界で白狐神がどう見られるか分からない。


 神聖視されるならまだいい。だが、捕獲対象や珍獣扱い、あるいは魔物扱いされる可能性もある。


「まずは俺一人で偵察か……いや、それも危ないな」


 ユキを一人で置いていくのは避けたい。結界があるとはいえ、絶対ではない。かといって連れて行けば目立つ。白い狐耳と尻尾の五歳児。しかも神様。目立たないわけがない。


「フード付きの服がいるな」


「ふーど?」


「耳を隠せる服だ」


「みみ、かくす?」


「人里に行くならな。怖い人に見つからないようにするためだ」


 ユキは耳を触った。


「ユキのみみ、だめ?」


「だめじゃない。むしろ可愛い」


「かわいい?」


「あー……いい感じってことだ」


「ユキ、かわいい?」


「まあ、可愛い」


 ユキの尻尾がぶんぶん揺れる。


「もっと」


「すごく可愛い」


「もっと」


「朝から褒め要求が多いな」


「ユキ、なまえある。きれい。かわいい」


「自信がすごい」


「おっちゃんがいった」


「責任が俺に来た」


 俺はキャンプショップの衣料品から、子供用のフード付きポンチョ、マント、帽子を探した。


 あった。


 防寒用ポンチョ。

 レインポンチョ。

 フード付きケープ。

 子供用アウトドアジャケット。


「耳と尻尾を完全に隠すのは難しいな」


 尻尾が大きい。むしろ隠そうとすると不自然に膨らむ。背負い袋でも背負わせるか。いや、五歳児に大荷物は無理だ。


「しっぽ、かくす?」


「町に行くならな」


「しっぽ、いや?」


「いやじゃない。ただ、目立つ」


「しっぽは、べつのいきもの」


「別の生き物なら余計に目立つ」


 ユキは自分の尻尾を抱えた。


「しっぽ、かくれる?」


「大きめのマントなら何とかなるかもしれない」


「しっぽ、くるしい?」


「苦しくないようにする」


「なら、いい」


 人に会う準備として、服装は必要。ただし、すぐに町へ行くかは別問題だ。俺は地面の丸の隣に、次の丸を描いた。


「中期方針」


「ちゅうき」


「少し先の話だ」


 一、拠点作り。

 二、ポイント収入の安定。

 三、人里調査。

 四、帰還方法の情報収集。


「まず拠点だ」


「ここ?」


「今のところはここでいい。ただ、雨や寒さを考えると、テントだけでは不安だ」


「てんと、えらい」


「偉いが、家ではない」


「いえ?」


「雨風をしっかり防いで、安心して寝られる場所だ」


 ユキは大きな木の根元を見る。


「ここ、ユキのいえ」


 その言葉に、俺は少し困った。ユキにとっては、ここがずっと寝てきた場所なのだ。葉っぱを集めて、鳥居を描いて、結界を張って、一人で眠っていた場所。


 それを否定したくはない。


「ここを、もっとちゃんとした家にするんだ」


「もっと?」


「ああ。雨が降っても濡れない。寒くても震えない。虫も入りにくい。飯も作れる」


「にくも?」


「肉も焼ける」


「いえ、いる」


「判断が早いな」


 家を作るなら、大工や建築の技術が欲しい。だが、今回の四十の手習いは職業ではなく趣味や娯楽、スポーツ由来だ。建築士は選べない。


 なら、趣味として該当するものは何か。DIY。日曜大工。ログハウス作り。ガーデニング。家庭菜園。ブッシュクラフト。


 鑑定が提案する。



【四十の手習い候補】

拠点整備に適した手習い:

・DIY

・日曜大工

・ブッシュクラフト

・家庭菜園

・ロープワーク


最優先候補:DIY、ブッシュクラフト



「DIYか……」


 無趣味だった俺には遠い世界だ。休日にホームセンターへ行って木材を買い、棚を作るような人たち。偉いなと思っていた。まさか異世界で必要になるとは。


「ブッシュクラフトってのもあるな」


 自然の中で道具やシェルターを作るアウトドア技術。今の状況にはかなり向いている。


「ただ、ポイントがな……」


 魔石ポイントは有限だ。狩猟、キャンプ、シャワー用品でかなり使った。拠点整備には道具も資材も必要になる。ポイント収入を安定させなければならない。


「二つ目。ポイント収入」


 魔石を得るには魔物を倒す必要がある。しかし、危険な魔物を追って森を歩き回るのは避けたい。


「罠を使うか」


 狩猟スキルには罠の基礎がある。低級魔物が通る道を見つけ、危険が少ない場所に罠を仕掛ける。ただし、ユキや普通の動物が引っかからないように注意が必要だ。


「鑑定とユキの匂いで、魔物の通り道を探す。罠で弱い魔物を狙う。無理はしない」


「まもの、とる?」


「必要な分だけな」


「にく?」


「魔石が主目的だ。食えるなら肉も考える」


「まものにく、うまい?」


「種類によるだろうな」


「たれ、つける?」


「だいたいの肉はタレで何とかなる気がしてきた」


「たれ、つよい」


「強いな」


 釣りも取るかどうか悩む。魚が安定して取れれば、食費を抑えられる。ショップの食料に頼りっぱなしではポイントが減る。


「釣りは取得候補だな。あとは家庭菜園」


「かてい?」


「野菜を育てる趣味だ」


「やさい」


 ユキの顔が露骨に曇った。


「やさいは、えらくない」


「その認識を変えるためにも育てる」


「にくを育てる?」


「それは畜産だな。趣味でやるには重い」


「にく、はえる?」


「生えない」


「ざんねん」


「肉が生えたら怖いだろ」


 家庭菜園ができれば、野菜を現地で確保できる。ただし、土や種、水、日当たり、害獣対策が必要だ。時間もかかる。すぐには役に立たないが、中期的には有効だ。


「三つ目。人里調査」


 ここが一番難しい。情報は必要。だが危険もある。


「まずは遠くから見るだけだな」


「みるだけ?」


「ああ。村や道を探す。人の様子を見る。危なそうなら近づかない」


「ユキもいく?」


「置いていくのも危ない。連れていくなら、耳と尻尾を隠す」


「おっちゃん、だっこ?」


「長距離は無理だぞ。腰が死ぬ」


「おっちゃん、よわい」


「四十歳の腰を舐めるな。弱いぞ」


「おっちゃんのこし、がんばれ」


「俺の腹の次は腰を励ますのか」


 移動用の道具も欲しい。リュック。子供用の背負子。いや、五歳児を背負うならアウトドア用チャイルドキャリアがあるかもしれない。


 検索すると、あった。


「あるのかよ……」


 登山用のチャイルドキャリア。子供を背負って山道を歩くための道具。


「登山スキルも候補だな」



【四十の手習い候補】

・登山

山道歩行、ルート判断、装備管理、体力配分を取得。

関連ショップ:登山靴、リュック、雨具、防寒具、地図用品、チャイルドキャリアなど。



「登山、かなり使えそうだ」


 森の移動。

 道なき道の歩き方。

 天候判断。

 体力配分。

 装備。


 ユキを連れて移動するなら必要になる可能性が高い。


「でも、今すぐ全部取るとポイントが足りない」


 俺は腕を組む。優先順位を決める必要がある。今日やること。


 一、周辺調査。

 二、水と食料の安定。

 三、罠設置。

 四、簡易拠点の強化。

 五、必要なら新しい手習い取得。


「今日の新規取得は、できれば一つまでにしたい」


「ひとつ?」


「ああ。ポイント節約だ」


「にくは?」


「肉は別枠だが、節約する」


「むー」


「むーじゃない。ポイントが尽きたら肉も買えない」


 ユキが真顔になる。


「ぽいんと、だいじ」


「分かってくれたか」


「ませき、とる」


「危なくない範囲でな」


 ユキは小さな拳を握った。


「ユキも、てつだう」


「無理はするな」


「ユキ、におい、わかる。ぱちってできる。とりい、できる」


「確かに助かる」


「ユキ、えらい?」


「ああ、偉い」


 ユキの尻尾が揺れた。俺はふと気になって、ユキを鑑定する。



【鑑定結果】

対象:白狐神ユキ

年齢:五歳相当

状態:健康、満腹、清潔、やや眠気

神力:微弱回復傾向

備考:名付け、食事、清潔な衣服、安心できる環境により安定化しています。



「……清潔な衣服と安心できる環境で神力が安定するのか」


 神様なのに、必要なものが子供と同じだ。いや、子供だから当然か。


「どうした、おっちゃん」


「ユキは、ちゃんと飯を食って、風呂に入って、安心して寝ると元気になるらしい」


「ユキ、にくで元気」


「肉だけじゃない」


「しゃわーも?」


「ああ」


「どらいやーも?」


「たぶん」


「ふかふかも?」


「かなり重要そうだ」


 ユキは真剣に頷く。


「ふかふか、かみさまにだいじ」


「新しい神学だな」


 つまり、ユキを安定させるには生活環境を整える必要がある。これは俺の方針とも一致する。まずは安全な生活。それから情報。無理な冒険はしない。俺は地面に大きく丸を描いた。


「最終的な方針はこれだ」


「これ?」


「生き残る。ユキを養う。帰る方法を探す。ただし無理はしない」


 ユキは丸を見た。


「やしなう?」


「飯を食わせて、服を着せて、寝床を用意して、面倒を見るってことだ」


「ユキ、おっちゃんに、やしなわれる?」


「ああ」


「にくも?」


「肉も」


「しゃわーも?」


「シャワーも」


「ふかふかも?」


「ふかふかも」


 ユキはじっと俺を見た。それから、にへっと笑った。


「おっちゃん、ユキの群れ」


「ああ。群れでいいよ」


「おっちゃんは、なに?」


「何って?」


「ユキの、なに?」


 俺は少し詰まった。名付け親。保護者。同行者。いろいろ言い方はある。だが、五歳児に難しい言葉を言っても仕方ない。


「世話係だな」


「せわがかり」


「飯を出したり、風呂に入れたり、危ないものから守ったりする係だ」


「おっちゃん、ユキのせわがかり」


「まあ、そうだ」


 ユキは満足げに頷いた。


「よし。おっちゃん、がんばれ」


「急に上から来るな」


「ユキは、かみさま」


「神様でも、靴はちゃんと履け」


「むー」


 俺は立ち上がった。方針は決まった。まずは周辺調査。テント周辺を拠点として、半径を少しずつ広げる。

 

 危険があれば撤退。魔物の足跡や通り道を鑑定。水場と食べられる植物、開けた場所を確認。必要なら罠を仕掛ける。無理に遠出はしない。


「ユキ、出かけるぞ」


「にくもつ?」


「携帯食を持つ」


「にく?」


「ビーフジャーキーを少し」


「びーふ?」


「硬い肉だ」


「もつ」


 俺は収納から小さなリュックを出した。ユキ用だ。中には水、小さなタオル、ビーフジャーキー、飴、予備の靴下を入れる。


「重くないか?」


 ユキに背負わせる。ユキはその場でぴょんぴょん跳ねた。


「だいじょうぶ」


「無理するなよ」


「ユキ、つよい」


「強い五歳児ほど信用できない言葉はない」


 俺はライフルを確認する。


 弾薬。

 ナイフ。

 防護手袋。

 水。

 救急用品。

 ロープ。

 携帯食。

 簡易タープ。


 全部収納に入っている。手元には最低限のものだけ。便利すぎて、逆に忘れ物が怖い。出発前に、ユキが地面に鳥居を描いた。


「まもの、くるな。ここ、ユキのいえ」


 指先から、ぱちっと放電。鳥居が淡く光り、結界が張られる。俺も隣にもう一つ鳥居を描く。


「これでいいか?」


「おっちゃんのとりい」


 ユキがそこにも放電する。結界の光が少し強くなった。


「二重結界か」


「にじゅう?」


「二つってことだ」


「ふたつ、とりい。つよい」


「ああ。強そうだ」


 ユキは嬉しそうに頷いた。


「ここ、まもる」


「頼もしいな」


「ユキ、えらい?」


「偉い」


「おっちゃんも、えらい?」


「俺はこれから頑張る」


「じゃあ、あとでえらい」


「評価待ちか」


 俺は森の先を見る。見知らぬ世界。どこに町があるかも分からない。どんな人間がいるかも分からない。帰る方法も分からない。

 生き残る。ユキを養う。無理はしない。四十歳から始めるには、だいぶ過酷な手習いだ。だが、無趣味だった俺の人生に、初めて明確な目的ができたのかもしれない。


 不安はある。かなりある。だが、方針は決めた。



「行くぞ、ユキ」


「おっちゃん」


「ん?」


「きょうのほうしん」


「ああ」


 ユキは小さな手を上げた。


「にくを、とる」


「違う。周辺調査だ」


「にくも?」


「……取れたらな」


「よし」


 白い尻尾が、朝の光の中でふわふわ揺れる。俺は苦笑しながら、ユキの歩幅に合わせて森の中へ踏み出した。


 異世界生活二日目。今後の方針は決まった。まずは、安全確認。次に、食料確保。そして、ポイント収入。最後に、人里調査。


 ただし、ユキの中ではどうやら一番上にこう書かれているらしい。


 肉。


 ……まあ、神様の機嫌を取るのも、保護者の仕事ということにしておこう。


続く

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