表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/34

第27話 白狐神と逃げられないおっちゃん


 その夜、俺たちは森の外縁で一泊した。湖までは、明日の昼頃には出られる見込みだが、無理をして夜の森を進む理由はない。


 負傷者がいて、子供もいる。リリアもまだ本調子ではない。そして俺は、ここ数日で人生何回分かの緊張を味わった。もう十分だ。夜道チャレンジはもう終了したい。


「ここなら結界を張れるわ」


 リーファが周囲を確認しながら言った。木々の間に、少し開けた場所がある。倒木が風よけになり、地面も比較的乾いている。すぐ近くに小さな沢もあった。


 ロクが鼻を動かす。


「魔物の匂いは薄いっす。人の匂いもないっすね。ただ、夜は何が来るか分からないっす」


「じゃあ、野営だな」


 俺は収納からテント、マット、寝袋、ランタンを出した。もう見慣れたはずのガランたちも、やはり収納からぽんぽん物が出てくる光景には微妙な顔をする。


「ヒカル」


「何だ?」


「今さらだが、お前の収納の中は、戦略物資そのものだな」


「俺もそう思う」


 まさか自分の世界の整理収納アドバイザー資格が、異世界で戦略扱いされるとは思わなかった。人生、収納から始まる戦争もあるらしい。いや、ない方がいい。


 俺は二台のバギーを収納し、周囲に目立つ物を残さないようにした。ユキは草地にしゃがみ、指先で小さな鳥居を描いている。


「ここ、ねるところ?」


「ああ。今夜はここで寝る」


「とりい、いる」


「ああ、頼む」


 ユキが指先を鳥居に触れさせる。


 ぱちっ。小さな白い火花が走り、地面の鳥居紋が淡く光った。空気が少しだけ柔らかくなる。森のざわめきが、遠くへ下がったような感じだ。


 ミーシャが目を見開く。


「また、静かになった」


 トトも猫耳をぴんと立てた。


「怖いの、少し減った」


 ニナはしゃがんで、鳥居紋をじっと見ている。


「鳥居、べんり」


「それも、べんりに入るのか?」


「安心、べんり」


「確かにそうだな」


 ユキは胸を張った。


「ユキの、とりい、えらい」


「ああ。かなり偉い」


 その言葉に、ユキは満足そうに尻尾を揺らした。


 夕食は簡単にした。温かい野菜スープ。ロールパン。スライスした焼豚ハム。子供四人には同じ量。大人にも同じように配る。ユキは自分の皿を見て、ミーシャたちの皿を見る。


「おなじ」


「ああ。同じだ」


「むれ、おなじ」


「そうだな」


 ユキは少し考えてから、真面目な顔で頷いた。


「にくもおなじ、だいじ」


「そこに着地するか」


 だが、たぶん合っている。


 ミーシャはまだ、配られる量を確認する癖が抜けていない。トトも、自分の分が本当に自分のものか不安そうに見ている。ニナは単純に肉を見ている。リリアはスープを受け取って、まだ少し遠慮した。


「私は、皆様の後で……」


「今…」


 俺が言う前に、ユキが言った。


「リリア、いまたべる」


 リリアは一瞬固まり、それから小さく笑った。


「はい、ユキ」


 昨日より、少しだけ返事が自然になっている。それだけで、ちょっと安心した。


 食後に、見張りの順番を決める。ガラン、リーファ、ロク、ドラン。マリベルは治療担当なので休ませる。俺も一応入ると言ったが、ガランに却下された。


「お前は明日も運転だ。寝ろ」


「でも」


「寝ろ」


「はい」


 圧が強い。ガランも運転するのだが、ランクSの「寝ろ」は、上司の「今日中によろしく」より強い。逆らえない。


 テントの中で、ユキが俺の寝床に潜り込んでくる。


「ユキの寝袋は隣だぞ」


「おっちゃん、にげる」


「逃げないよ」


「でも、ねると、いなくなるかも」


 俺は少し黙った。ユキは森で一人だった。眠って、起きて、誰もいない日々を過ごし、それが彼女にとって当たり前の生活だった。


 初めて会った時は、一人の生活が当たり前で、寂しさの概念も知らない感じだっだが、俺やガランたちと一緒にいる内に、一人になることを恐れるようになったのだろう。


 だから、寝る時に袖を掴む。それを、ただの甘えとは言えない。


「分かった。今日はこっちで寝ろ」


「うん」


 ユキはこびゃっこを抱え、俺の腕に尻尾をかけた。


「おっちゃん」


「ん?」


「あした、みずうみ?」


「ああ。湖に出る」


「ユキの、かりのいえ?」


「そうだ」


「ほんとのいえ、つくる?」


「ああ。作る」


「むれのいえ」


「そうだな。群れの家だ」


 ユキは満足そうに目を閉じた。


「よし」


 そう言ってユキは、あっという間に眠りにつく。


 翌朝。異世界生活十日目。人生で一番内容の濃い十日間を過ごした後の朝の森は、薄い霧に包まれていた。


 以前マリベルに聞いたところ、今は三月。こちらでは三の月と言うそうだ。俺はこちらに来た時の元世界の日付を覚えていないが、なんとなく同じ三月だったような気がする。


 今日の日付は三月二十九日。曜日は第六曜日。元世界の土曜日にあたる。


 冷たい空気の中で、ミミとクロメが周囲を嗅ぎ回っている。ロクは眠そうな顔で、でも耳だけはしっかり動いていた。


「追手の匂いはなしっす」


「本当か?」


「少なくとも近くにはいないっす。街道側の匂いも薄いっすね」


「助かる」


 簡単な朝食を済ませ、俺たちは再び二台のバギーを出した。一台目は俺。

二台目はガラン。昨日と同じ配置だ。


 ユキは前席でシートベルトを締められながら、胸を張った。


「くびじゃない。からだ、まもるひも」


「そうだ。よく覚えてるな」


「ユキ、せんぱい」


 ニナが金具を見ながら言う。


「この留めるところ、べんり」


「勝手に外すなよ」


「今は、しない」


「走ってる時も絶対しない」


「わかった」


 毎回ここは確認が必要だ。ニナは悪気なく構造を理解しようとする。そのうち、俺が目を離した隙にバギーのシートベルトを分解しそうで怖い。


 早速、出発した。森の中を、二台のバギーがゆっくり進む。朝露に濡れた草。低い枝。根が盛り上がった地面。沢を越え、倒木を避け、時々バギーを収納して徒歩で抜ける。


 面倒だ。でも、昨日より皆が慣れてきていた。トトも酔い止めの飴を舐めながら、昨日ほど青い顔をしていない。


「トト、大丈夫か?」


「うん。今日は、ちょっと大丈夫」


「それはよかった」


「でも、揺れる」


「すまんな、我慢してくれ」


 ユキが隣で頷く。


「もりのくるま、げんき」


「元気すぎるな」


「おしり、ぼよん」


「そこは言わなくていい」


 後席でミーシャが少し笑った。その笑い方は、まだ小さい。でも、砦の鉄格子の中で見た顔とは違う。


 リリアも、トトが酔わないように水を渡したり、ミーシャの尻尾が引っかからないよう気にしたりしていた。


「リリア、無理するなよ」


「はい。座ったままでできることだけにします」


「本当に?」


「……努力します」


「よし」


 少しずつだ。リリアはまだ、自分が何もしないことに不安を覚える。だが、「座ったままでできることだけ」という折り合いをつけられるようになった。進歩である。


 昼前、森の匂いが変わった。湿った木の匂いの奥に、水の匂いが混ざる。


 ユキが顔を上げた。


「みず」


「湖か?」


「おおきいみず」


 ロクも二台目から声を上げた。


「水の匂いっす! かなり大きいっすね!」


 ガランが少し前に出て、地形を確認する。


「もうすぐ抜ける。だが、予定よりかなり東に出るな」


「東?」


「ああ。湖の南側だ。仮拠点は南西側だから、湖岸沿いに戻る必要がある」


「どれくらい?」


「昼食後に移動して、車で行ければ、夕方には着けるはずだ」


 俺はホッと息をつく。夕方になるが、ようやく戻れる。そのままバギーを走らせると、木々の間が明るくなっていき、空が広がる。視界の先に、光る水面が見えた。


 湖だ。昼頃、俺たちは湖畔の南側へ出た。森が途切れ、視界いっぱいに水が広がる。大きな湖。波打つ水面。小砂利の浜。草地。遠くに水鳥の影。


 久しぶり、と言うほど長く離れていたわけではない。だが、俺には妙に懐かしく見えた。


「湖だ……」


 思わず呟く。ユキが前席で身を乗り出そうとする。


「みず!」


「ベルトしてるから乗り出すな」


「みずうみ!」


「ああ、湖だ」


「ゆきの、みず!」


「所有権がでかいな」


 ユキは尻尾をぶんぶん振った。ミーシャ、トト、ニナは初めて見る大湖に言葉を失っていた。


「……海?」


 ミーシャが呟く。


「湖だ」


「向こう岸、見えない」


「かなり大きいからな」


 トトは耳を立てて水音を聞いていた。


「怖くない音」


 ニナは小砂利の浜を見た。


「走りやすそう」


「そこに注目するのか」


「バギー、いける」


「確かにその通りだ」


 小砂利の浜と草地が続いている。森の中より、ずっと走りやすい。仮拠点は湖の南西側。つまり、湖岸沿いに西へ戻ればいい。


 その前に、まずは昼食だ。俺たちは湖から少し離れた草地にバギーを止めた。タープテントを張って、簡易の休憩場所を作る。


 ユキがまた鳥居紋を描く。


「ここ、ひるごはんのばしょ」


「頼む」


 ぱちっ。淡い光が走る。ミミとクロメがその内側で丸くなる。魔犬二頭も、もう鳥居結界に慣れてきたようだ。


 ここで、次の段取りだ。食べて、休んで、湖岸沿いに西へ進む。灯りのある場所まで、あと少し。



【収支報告】


異世界生活九日目〜十日目昼前


開始残高:865,476 pt


今回の購入:

・一泊野営用追加食材、スープ材料、ロールパン、焼豚ハム、朝食用食材 120 pt(約12,000円)

・子供用酔い止め風飴、水分補給用品、アルノ・リリア用経口補水飲料補充 45 pt(約4,500円)

・バギー燃料補充分、簡易整備用品、軍手 80 pt(約8,000円)


今回支出合計:245 pt(約24,500円)


現在残高:

865,476 pt − 245 pt = 865,231 pt


円換算目安:

865,231 pt × 100円 = 約86,523,100円相当


続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ