第23話 白狐神、首輪の国から逃げる
ミーシャ、トト、ニナ。三人の子供の首から、奴隷首輪を外した。命令石も首輪も、すでに俺の収納の中だ。証拠は残していない。
だが、安心するには早すぎる。むしろ、ここからが本番だ。
鉄格子の部屋の外では、巡回兵二人が縛られて転がっている。殺してはいない。口には布。手足はロープ。ロープワークの手習いが、まさか異世界の国境砦で巡回兵を縛るために活躍するとは思わなかった。
人生、何が役に立つか分からない。いや、役の立ち方が物騒すぎる。
「急ぐぞ」
ガランの声は低い。俺はミーシャたちを見る。
「声は出さない。走りすぎず、俺たちから離れるな」
ミーシャはトトの手を握りしめ、必死に頷いた。
「はい」
トトは泣きそうな顔でミーシャにしがみついている。
「おねえちゃん……」
「大丈夫。静かに」
八歳の子が、六歳の弟を落ち着かせている。胸が痛い。ニナは落ちた首輪のあった床を見てから、自分の首を触った。
「首、軽い。べんり」
「今は便利を噛みしめるより逃げるぞ」
「逃げやすい。べんり」
「そうだな、逃げやすいは便利だ」
もう訂正する余裕はない。ユキは俺の手を握っている。特殊メイクで病弱な子供に見える顔のまま、薄布の奥で、黒に金の光彩を宿した目だけが真剣だった。
「おっちゃん」
「どうした?」
「ひも、とれた」
「ああ」
「でも、ここ、まだくさい」
「だから逃げる」
「うん」
ロクが廊下の奥を確認する。
「南東側の通用門まで、今なら行けるっす。ただ、客舎の方で交代の兵士が動き始めてるっす」
「ドランたちと合流できるか?」
「途中で合流するなら、倉庫裏っす。ドランさんが動けば音で分かるっす」
「ドランの存在感、便利だな」
「便利枠が増えたっすね」
ニナが小さく反応した。
「べんり?」
「仲間に君と同じドワーフの、便利なおじさんがいるんだ」
ガランが短く指示を出す。
「リーファ、先行。ロク、音を見る。ヒカルは子供たちとユキ。マリベルは後ろ。俺が前を押さえる」
「了解」
俺たちは鉄格子の建物を出た。夜の砦は、昼とは違う顔をしていた。
石畳は冷たく、壁は黒く沈んでいる。ところどころに松明の火が揺れ、風に焦げた匂いが混ざる。遠くで馬が鼻を鳴らし、兵舎の方から低い笑い声が聞こえた。
まだ、砦全体は気づいていない。今なら行ける。行けるはずだ。そう思った瞬間、遠くで声が上がった。
「おい、見張りがいないぞ!」
早い。早すぎる。俺の背中に冷たい汗が出た。
「見つかった?」
マリベルが小声で言う。ロクの耳がぴくりと動いた。
「まだ場所は特定されてないっす。でも鉄格子の建物の異常には気づかれたっす」
ガランが即断した。
「走る」
「静かに、じゃなくて?」
「もう遅い。音より距離だ」
切り替えが早い。ランクSの判断、怖いけどありがたい。
「ミーシャ、トト、ニナ。走れるか?」
俺が聞くと、ミーシャはすぐ頷いた。
「走れます」
トトは震えながらも頷く。
「ぼくも……」
ニナは短く言った。
「走る」
「よし。行くぞ」
俺はユキの手を握り直した。
「ユキ、走るぞ」
「しっぽ、むー」
「今は尻尾も我慢」
「しっぽ、がんばる」
「偉い」
俺たちは駆け出した。子供達に合わせゆっくりと走る。
石畳の上を、足音を殺す余裕もなく進む。リーファが先行して曲がり角を確認し、ロクが音を拾う。ガランは前方で兵士と鉢合わせしそうになるたびに、道を変えた。
砦の中庭を横切る直前、客舎の方から大きな音がした。
どん。低い衝撃音。ドランだ。
「今の、ドランさんっす」
ロクが言う。
「音が大きいから置いてきたのに、結局こうなる!」
俺は走りながら突っ込んだ。だが、次の瞬間、倉庫裏からドランが現れた。肩にアルノを担ぎ、片手には自分の斧。背後に、荷物をまとめた布袋がある。
「遅いぞ!」
「こっちの台詞だ!」
「兵士が客舎に来たから、少し寝てもらった」
「少し?」
「少しだ」
その「少し」の基準は聞かないことにした。アルノはドランの肩の上で青い顔をしている。
「すみません……自分で歩けず……」
「謝るな。今は運ばれろ」
俺は短く言った。マリベルがアルノの状態を見て頷く。
「揺らさないでくださいよ」
「善処する」
ドラン、それは揺れるやつだ。そうして、合流したことで人数が増えた。
俺、ユキ、ガラン、リーファ、ドラン、ロク、マリベル、アルノ、ミーシャ、トト、ニナ。
十一人。こびゃっこは布袋。ミミとクロメは砦外。コミューターバスなら乗る。だから、そこまで行く。
「南東通用門まであと?」
俺が聞く。
「百メートルちょっとっす。ただ、門に二人」
ロクが答えた。
「開いてるか?」
「閉まってるっす。小門っすね。鍵が要るっす」
ガランが舌打ちした。
「突破するか」
「音が出るぞ」
「もう音は出ている」
確かに。背後では兵士の声が増えている。
「脱走だ!」
「鉄格子の奴隷がいない!」
「使節団の客舎を確認しろ!」
もう時間はない。俺はマインドフルネスで息を整える。
一、息を吐く。
二、吸う。
三、今できること。
「鍵がなくても、門を開ければいいんだな?」
俺は言った。ガランが俺を見る。
「何かあるのか?」
「工具ならある」
「どんな?」
「この世界で見せたら説明が面倒なやつ」
「なら急げ」
俺は収納から、ボルトカッターと小型バールを取り出した。ついでに布で持ち手を巻き、金属音を少しでも抑える。
ニナの目が光った。
「それ、べんりそう」
「今それを見抜くのか。将来有望だな」
「べんりなもの、すき」
「逃げ切ったら見せてやる」
「ほんと?」
「本当だ。だから走れ」
「走る」
南東通用門の前には、兵士が二人いた。
こちらに気づき、槍を構える。
「止まれ!」
ガランが前に出る。剣は抜かない。距離を詰め、片方の槍を弾き、柄で腹を打つ。ロクがもう一人の足を払う。リーファが布を投げて視界を塞ぐ。殺さない。でも、兵士二人は数秒で倒れた。
「ヒカル!」
「分かってる!」
門の鎖にボルトカッターを噛ませる。重い。硬い。だが、現代工具を舐めるな。
「くそっ……!」
全体重をかける。ガキンッ! 鎖が切れた。
ニナが小さく言う。
「すごい。べんり」
「だろ」
バールでかんぬきを持ち上げる。ガランも手伝う。ドランがアルノを下ろさず、肩で門を押した。
「ふん!」
ぎぎぎ、と重い音を立てて、小門が開く。外の冷たい空気が流れ込んだ。砦の外。自由の匂い。いや、まだ自由ではない。門を出ただけだ。
「出ろ!」
ガランが叫ぶ。俺たちは外へ飛び出した。
時間は2時29分。砦南東側、外縁の低い石垣の陰。予定より少し早い。ただし、完全に発覚した。背後で鐘が鳴り始める。
警鐘。夜の砦に、金属の音が響く。
カン! カン! カン! トトがびくっとして泣きそうになり、ミーシャが抱きしめる。
「大丈夫。走って」
ニナは息を切らしながらも、門を振り返る。
「鐘、ふべん」
「今はかなり不便だな!」
俺は石垣の陰まで走り、収納を開く意識を向ける。出すのは、ワンボックスのコミューターバス、十四人乗り、四WD。
この世界では、完全に異物だ。だが今は構わない。隠す段階は終わった。逃げる段階だ。
「全員、少し下がれ!」
俺が言う。次の瞬間、暗闇の中に、白いワンボックスが現れた。大きい。四角い。この世界の荷馬車とは何もかも違う。
ガランたちは一瞬だけ固まった。ミーシャ、トト、ニナも当然固まった。だがニナだけは、目を見開いて言った。
「大きい。べんりそう」
「感想が早いな!」
ユキは少しだけ嬉しそうに言った。
「くるま」
「ああ。乗るぞ」
俺はスライドドアを開ける。
「全員乗れ! 奥から詰めろ! アルノは後部座席に寝かせる!」
自動車運転の手習い。同時に、車両購入時に入れたチャイルドクッションと毛布が役に立つ。シートに毛布を広げ、アルノを横にする。マリベルがすぐに支える。
「アルノさん、少し我慢してください」
「はい……」
ミーシャとトトはリーファが誘導する。
「ここに座って。手すりを掴んで」
「これ、何ですか……?」
ミーシャの声が震えている。
「今は動く部屋だと思って」
「動く……部屋?」
ニナは座席を撫でている。
「やわらかい。べんり」
「シートベルトは後で説明する! 今は座って!」
俺はユキを助手席ではなく、二列目へ座らせる。隣に俺が座りたいが、運転しなければならない。
「ユキ、ここでリーファと一緒だ」
「おっちゃんは?」
「前で動かす」
「おっちゃん、いなくなる?」
「すぐ前だ。見える」
ユキは不安そうに俺を見た。
「おっちゃん、にげるな」
「いや、皆んなで逃げるんだ」
「くるま、にげる?」
「そうだ。車が逃げる」
「車、べんり」
ニナが後ろから言う。そして、ドランが最後に乗り込む。
「ワシはどこだ?」
「後ろ! 斧を窓にぶつけるな!」
「分かった」
ロクが外を見て叫ぶ。
「追っ手、門から出てくるっす!」
「乗れ!」
「おっちゃん。ミミとクロメは?」
「後で回収する!」
ロクが乗り込む。俺は運転席へ飛び乗りキーを回す。エンジンがかかり低く唸る。全員がびくっとして、トトが泣きそうになる。
「うわっ……!」
「大丈夫! これは馬なしで走る!」
「馬がないのに!?」
「説明は後だ!」
ライトを点灯させ、ギアを入れアクセルを踏む。車が動き出した。石と土の道を、ゆっくり、しかし馬車よりはるかに速く。
「うおっ!」
ドランが声を上げる。
「静かに!」
「無理だ! 床が動いておる!」
「車だからな!」
ガランは窓の外を見ていた。
「速いな」
「まだ本気じゃない」
「これで?」
「ああ」
「異界人は本当に厄介だな」
「俺もそう思う」
砦の背後で、兵士たちの声が遠ざかる。馬で追ってくる可能性はある。だが、こちらは四WDのコミューターバスだ。道が荒れていても、ある程度行ける。もちろん、舗装道路ではない。無理をすれば横転する。段取り、段取り。速度は上げすぎるな。
2時51分。予定より一分遅れで、林の近くへ到着した。
「ミミ! クロメ!」
ロクが窓を少し開け、低く呼ぶ。闇の中から、二つの影が飛び出した。灰色のミミと黒いクロメ。ユキの小型守護結界の光が、足元で淡く消えていく。
ユキも叫ぶ。
「ミミ、クロメ、こっち」
二頭は最初、車を警戒した。そりゃそうだ。いきなり白い巨大な箱が唸っている。犬でなくても警戒する。ロクが降り、二頭の頭を撫でた。
「大丈夫っす。乗るっす。変な馬車っす」
「馬車じゃないけど、今はそれでいい!」
スライドドアを開ける。ミミが匂いを嗅ぎ、ユキを見る。クロメも続く。ユキは窓越しに小さく言った。
「ミミ、クロメ、むれ。のる」
その一言で、二頭は乗る。ロクが車内通路に座らせる。
「群れ、強いな」
俺は呟いた。ロクも乗り込み、ドアを閉める。
「全員乗ったか?」
俺は叫ぶ。ガランが数える。
「ヒカル、ユキ、ミーシャ、トト、ニナ、アルノ、マリベル、リーファ、ドラン、ロク、俺、ミミ、クロメ。こびゃっこ。全員だ」
「今こびゃっこを人数に入れたか?」
「ユキが怒るだろう」
「すまん。正しい判断だ」
ユキが頷いた。
「こびゃっこも、いる」
「いるな」
時間は2時54分。南東街道へ入る。計画より5分以上早い。
森の外縁に沿う道は、思ったより荒れていた。ところどころ石があり、轍が深い。俺は速度を落とし、ハンドルを握る。
怖い。すごく怖い。後ろには首輪を外した子供たち。隣の国境砦から追手。横転すれば終わりだが、手は動く。自動車運転の手習いが、体に染み込んでいる。
「おっちゃん」
後ろからユキの声。
「どうした?」
「くるま、すごい」
「だろ」
「でも、しっぽ、むー」
「今は出すな!」
「む」
「逃げ切ったら出す!」
「やくそく」
「ああ!」
トトが小さく言った。
「これ、どこに行くの?」
ミーシャが弟を抱えたまま、俺を見る。
「廃村だ」
「廃村?」
「森の外縁にある。今日はそこまで行く。そこで少し休む」
「また、首輪……つけられる?」
その声は、小さかった。でも車内に重く落ちた。俺は前を見たまま言う。
「つけさせない」
「本当に?」
「本当だ。ユキが外し、俺たちが連れて出た。もう戻さない」
ミーシャは何も言わなかった。かわりに、トトを抱く腕に力が入った。
ニナがシートベルトを触っている。
「これ、なに?」
「体を守る帯だ」
「ひも?」
ユキが反応した。
「くびじゃない。体、まもる」
俺は即座に説明する。
「首のひもじゃない。怪我しないように体を支えるものだ。苦しくない」
ニナはしばらく触ってから言った。
「怪我しない。べんり」
「そうだな。これは便利だ」
ユキも納得したように頷く。
「くびじゃないなら、いい」
背後に小さな灯りが見えた。追手か。それとも砦の見張り塔か。ロクが窓から匂いを拾う。
「馬の匂い、遠いっす。追ってきてるっすけど、距離はあるっす」
「追いつかれるか?」
「この速さなら大丈夫っす。ただ、道を知られてるなら先回りが怖いっす」
ガランが地図を広げる。
「南東街道をしばらく進み、古い石橋の手前で脇道に入る。廃村はその先だ」
「車で通れるか?」
「馬車なら通れた道だ。今も残っていれば」
「嫌な条件だな」
「森の道に絶対はない」
「聞いたことある台詞だ」
俺は慎重に速度を保つ。コミューターバスのサスペンションが揺れ、車内で小さな悲鳴が上がる。トトがミーシャにしがみつき、ニナはなぜか足元の構造を覗き込もうとしている。
「ニナ、今は座ってろ」
「下、どうなってる?」
「あとでな」
「べんり、知りたい」
「生きて着いたら見せる!」
「わかった」
この子、機械や工具に対して好奇心が旺盛過ぎる。
やがて古い石橋が見えた。月明かりの下、半分崩れた欄干が白く浮かぶ。ガランの指示通り、その手前で右へ入る。森の外縁を沿う細い道だ。枝が車体を擦る。ぎぎ、と嫌な音がする。
「車、痛い?」
ユキが心配そうに聞く。
「少し擦っただけだ」
「くるま、がんばれ」
「車も群れか?」
「くるま、えらい」
ニナが言う。
「ユキ、車って群れ?」
ユキは少し考えた。
「くるま、むれの、のりもの」
「なるほど」
何がなるほどなのか分からないが、ニナは納得していた。
車を暫く走らせると、時間は4時を回っていた。空がわずかに白み始める前に廃村に着く。崩れた石壁。屋根の落ちた家。草に埋もれた井戸。人の気配はない。
ロクが先に降りて周囲を確認する。ミミとクロメも続く。
「魔物の匂いは薄いっす。人の匂いは古いっす。今はいないっす」
ガランが頷く。
「ここで一旦止まる」
俺はエンジンを切った。静寂。エンジン音が消えた瞬間、世界が戻ってきたような気がした。
森の匂い。夜明け前の冷たい空気。遠くの鳥の声。そして、車内の息遣い。俺はハンドルから手を離した。
指が震えていた。怖かった。本当に怖かった。
「……着いた」
誰にともなく言う。ユキがゆっくり立ち上がろうとして、リュックがもこっと動いた。
「おっちゃん」
「何だ?」
「しっぽ」
「出していいぞ」
その言葉を聞いた瞬間、ユキの目が輝いた。俺は後部ドアを開け、廃屋の陰に全員を誘導する。外から見えにくい場所で、ユキのリュックを外した。白い尻尾が、ふわっと広がる。
「しっぽ!」
「声は小さく」
「しっぽ、ふわふわ」
ユキは尻尾を抱えた。こびゃっこも布袋から出す。
「こびゃっこ、にげた」
ミーシャ、トト、ニナがその様子を見ている。白い狐耳。大きな白い尻尾。黒に金の瞳。もう病弱な人族の子供ではない。
ミーシャが息を呑んだ。
「あなたは……」
ユキは振り返る。
「ユキ」
「本当に……ユキなの?」
「ユキは、ユキ」
ミーシャは少し迷ってから、深く頭を下げようとした。
ユキが慌てる。
「さま、だめ」
「え?」
「ユキ、さまじゃない。ユキ」
ミーシャは目を瞬かせた。
「……ユキ」
「うん」
「助けてくれて、ありがとう」
トトも小さく言った。
「ありがとう……」
ニナも続く。
「ありがとう。首、べんりになった」
「最後だけ少し違うな」
ユキは胸を張り、少し緊張した顔でぎこちなく言った。
「どういらしまして」
ミーシャが泣きながら笑った。トトも少し笑った。ニナも笑顔で首を触って、また言った。
「軽い。べんり」
それでいい。今は、それでいい。俺はその場に座り込みそうになるのを堪えた。まだ終わっていない。追手は来るかもしれない。首輪は外したが、魔力痕跡が残っている可能性もある。
ここから先の段取りが必要だ。でも、今だけは、少しだけ息を吐く。
ガランが近づいてきた。
「成功だな」
「まだ途中だ」
「それでも、成功した」
「……そうだな」
俺はユキを見る。白狐神ユキ。小さな幼神。首輪の国から、三人の子供を連れて逃げた子。ユキは尻尾を抱き、こびゃっこを膝に乗せていた。
「おっちゃん」
「ん?」
「にく」
「今か」
「みんな、げんきがいる」
その言葉に、俺は苦笑した。そうだ。肉は偉い。ホットミルクも偉い。そして、今は全員に温かいものが必要だ。
「分かった。少し休んだら、朝飯にする」
「ユキ、よやくする」
「予約か」
俺は笑った。笑えた。夜明け前の廃村で、逃亡者だらけの一団が、白いコミューターバスの横に集まっている。
絵面はもう、異世界というより何かの事件現場だ。だが、三人の子供の首には、もう輪がない。それだけは、確かだった。
ロクがふと耳を動かした。
「……待ってくださいっす」
全員の空気が、また硬くなる。ガランがすぐに剣の柄へ手をかけた。
「追手か?」
「違うっす。もっと近い。人の匂いがあるっす」
「この廃村に?」
「はい。かなり弱ってるっす。血と泥と……エルフの匂いっす」
リーファの表情が変わった。
「エルフ?」
俺は息を吐いた。ようやく着いたと思ったら、これだ。いや、見つけてしまった以上、放っておけるわけがない。段取り表に、また項目が増える音がした。
⸻
【収支報告】
異世界生活8日目
開始残高:947,286 pt
今回の購入:
・ボルトカッター、小型バール、工具用消音布 120 pt(約12,000円)
・追加毛布、チャイルドクッション、車内養生用マット 180 pt(約18,000円)
・遮光用布、簡易カーテン固定具、後部荷室用防水シート 90 pt(約9,000円)
・予備燃料携行缶補充分、車内用水、非常用軽食 220 pt(約22,000円)
今回支出合計:610 pt(約61,000円)
現在残高:
947,286 pt − 610 pt = 946,676 pt
円換算目安:
946,676 pt × 100円 = 約94,667,600円相当
続く




