第20話 白狐神、甘い匂いで耐える
ホットミルクを作る。
言葉にすると簡単だが、ここはレイシス皇国の国境砦内である。
石造りの客舎。窓には鉄格子。扉の外には兵士。部屋には病弱な子供に偽装した白狐神、逃亡奴隷だったエルフ青年、オリエント王国の正式使節団。
そして俺は、小さな鍋で牛乳を温めていた。状況だけ見ると、かなりおかしい。
「おっちゃん、まだ?」
「もう少し」
「しあわせのおゆ、にげる?」
「逃げない。焦がさないためにゆっくり温めてる」
「ほっとみるく、えらいけど、よわい?」
「繊細なんだ」
「せんさい」
ユキは薄布を少し緩め、こびゃっこの布袋を抱えたまま、真剣に鍋を見ている。特殊メイクで病弱な子供に見える顔のまま、ホットミルクを待つ白狐神。絵面が強い。
砂糖を少し入れ、木の匙で混ぜる。香りがふわっと立った。薬草臭い部屋に、甘い匂いが混ざる。ユキの耳はフードと包帯で隠れているが、たぶん中でぴくっと動いた。
「きた」
「何が?」
「しあわせのにおい」
「鼻が正確だな」
小さなカップに注いで渡す。量は少なめだ。ここで現代的な食料や甘味の匂いを広げすぎるのは避けたい。
「熱いぞ」
「ふー、する」
ユキは両手でカップを持ち、ふーふーと息を吹きかけた。そして、ちびりと飲む。黒に金の光彩が混じる瞳が、少しだけ緩んだ。
「……うんみゃあ。しあわせ」
「よかったな」
「ユキ、かくれんぼ、がんばった」
「ああ。ものすごく頑張った」
「しっぽも」
「尻尾も偉い」
リュックの中が、もこっと動きかける。
「動かすな」
「しっぽ、しあわせ」
「分かるけど我慢」
「む」
かなり控えめな「む」だった。成長している。方向性は分からないが。
アルノには薄いスープを少し。マリベルが食べさせる。彼はまだ衰弱しているが、医官に二日安静と言われたおかげで、少なくともこの砦内で無理に動かされる心配は減った。
ありがたい。ただし、ここは首輪の国だ。安心など、まだどこにもない。
俺は窓の外を見た。客舎の向こうには、砦の中庭がある。兵士が行き交い、役人らしき者が書類を抱えて走っている。遠くには、鉄格子のある建物。
あそこに子供たちがいた。猫族の女の子。猫族の男の子。三つ編みのおさげのドワーフの女の子。全員、首に輪があった。名前も年齢も、まだ分からない。でも、子供だ。それだけで十分すぎる。
「ヒカル」
ガランが低い声で呼んだ。
「作戦会議だ」
「ああ」
ユキはホットミルクを抱えたまま、俺の横に座る。
「ユキも?」
「静かに聞くだけなら」
「ユキ、しずか」
「肉の話はしない」
「……しずか」
一拍置いたな。今、肉を言うか迷ったな。
大部屋の中央に、俺たちは集まった。ガラン、リーファ、ドラン、ロク、マリベル。アルノは寝台に横になったままだが、意識はある。ユキは俺の隣でこびゃっこを抱えている。
ガランが口を開いた。
「まず状況を整理する。親書は明日、辺境伯の預かり証明が出る。証明後、皇都へ早馬で送られる」
「俺たちはそれまで待機か」
「そうだ。加えて、アルノは医官から二日安静と診断された。これで二日間、この砦に留まる理由ができた」
「情報収集の時間だな」
「そうなる」
リーファが静かに言う。
「ただし、相手もこちらを見ています。特にヒカル、ユキちゃん、アルノは警戒されているでしょう」
「俺は怪しい東方旅人。ユキは病弱な娘。アルノは森で助けたエルフ」
「十分怪しいわ」
「自分でもそう思う」
ドランが腕を組む。
「ワシは鉄格子の子供らが気になる」
「俺もだ」
言った瞬間、ユキの手が俺の服を掴んだ。
「くびに、ひも」
「ああ」
「いたいにおい」
「分かってる」
分かっている。だからこそ、今すぐ動けない。ガランも同じ考えらしい。
「助けるにしても、まず情報だ。あの子供たちが何者か。なぜ砦内にいるのか。奴隷管理局の所有物なのか、移送中なのか、砦長の管理下なのか。それを知らずに動けば、全員が危険になる」
ユキはカップを握りしめた。
「だんどり」
「そう。段取りだ」
「ユキ、だんどり、すきじゃない」
「俺も最近、段取りが重すぎて嫌になってきた」
四十歳の元サラリーマンとして、段取りは得意な方だった。会議資料。納期。社内調整。上司の機嫌。客先の無茶振り。だが、今の段取りは命がかかっている。
子供の首輪。神獣の正体。国境砦。外交文書。重い。社内稟議書がかわいく見える日が来るとは思わなかった。
ロクが扉側に耳を向けた。
「外の兵士、二人っす。交代の時間まではまだありそうっす」
ガランが頷く。
「ロク。お前は可能な範囲で音を拾え。尋問室、兵士の会話、鉄格子の建物付近。無理はするな」
「了解っす」
「リーファ。お前は客舎の窓から見える範囲を確認しろ。人の流れ、巡回経路、鉄格子の建物への出入りだ」
「分かったわ」
「ドランは扉側で牽制。兵士が余計に踏み込んできたら対応してくれ」
「任せろ。睨むのは得意だ」
「得意分野が限定的すぎるな」
俺がつい突っ込むと、ドランはにやりと笑った。
「斧を振るよりは穏便だろう」
「それはまあ、そうだな」
マリベルが小さく手を上げる。
「私はアルノさんの治療を続けます。それから、薬師役として医務室の情報を探れるかもしれません」
「医務室?」
「医官が私に治療を任せると言いました。追加の薬草や包帯を求める名目で、医務室と接触できます」
なるほど。マリベル、頼りになる。
「俺は?」
ガランに聞くと、彼は俺を見た。
「ヒカルは目立つな」
「役割が消極的だな」
「一番重要だ。ユキを守れ。必要なら父親役を徹底しろ。お前が動くと、収納や異界の道具を使いたくなるだろう」
「否定できない」
「だから、今は動きすぎるな」
現実的だ。非常に現実的だ。俺は無限収納と現代用品を持っている。便利だが、便利すぎる。使えば使うほど、怪しまれる。今は、変な東方旅人くらいで止めておく必要がある。
ユキが俺を見上げた。
「おっちゃん、うごかない?」
「今はな」
「じゃあ、ユキも?」
「ユキも今はかくれんぼ」
「……くびにひも、でも?」
ユキの声が小さくなる。俺はしゃがんで目線を合わせた。
「ユキ」
「なに」
「助けたいと思うのは悪くない。むしろ、それは大事だ」
「うん」
「でも、今ここでユキが首輪を外したら、ユキが捕まるかもしれない。そうなったら、誰も助けられなくなる」
「ユキ、つよい」
「知ってる」
「ぱちってできる」
「知ってる」
「でも、つかまる?」
「大人はずるいことをする。ユキが強くても、眠らせたり、閉じ込めたり、人質を取ったりするかもしれない」
ユキの手が、こびゃっこの袋をぎゅっと握る。
「ひとじち」
「誰かを捕まえて、言うことを聞かせることだ」
「くさい」
「ああ。すごく臭い」
俺は深く息を吐いた。
「だから段取りだ。助けるなら、ユキが捕まらないようにする。みんなが逃げられるようにする。証拠も考える。砦長が敵か味方かも見極める」
「グレイナー?」
「そう、砦長。匂うか?」
ユキは少し考えるように首を傾げた。
「こわいにおい。つかれてるにおい。あと、かたいにおい」
「固い匂い?」
「いしみたい」
なんとなく分かる気がした。グレイナー砦長は冷たい。計算する。責任を避けたい。だが、単純な悪臭ではないらしい。
「嫌な匂いは?」
「ある。でも、ほかのへいたいより、ぐちゃぐちゃしてない」
「なるほど」
ユキの感覚は、感情や気配の鑑定に近い。ただし表現が幼児語なので、解読が必要だ。
ガランが興味深そうに聞いていた。
「ユキの匂いの感じ方は、かなり重要だな」
「ただ、本人は肉で世界を分類するからな」
「にくは、えらい」
「ほら」
ユキは真顔だった。作戦会議は一旦終わり、各自が動き始めた。
ロクは扉近くで耳を澄ませる。リーファは窓辺で外を見る。ドランは腕を組んで扉のそばに立つ。完全に圧が強い門番である。
マリベルはアルノの包帯を整えながら、追加で必要な薬草のリストを作るふりをしていた。
俺は、部屋の隅でノートを出す。もちろんマリベルに渡したものとは別に、俺用にも持っている。
書く内容は、段取り。
一、ユキ偽装維持。
二、アルノ身柄保護。
三、親書預かり証明確認。
四、シオン情報収集。
五、鉄格子の子供三名の身元確認。
六、奴隷狩り五名の尋問結果確認。
七、脱出経路確保。
八、ミミとクロメの回収方法確認。
書いていて頭が痛くなった。やることが多い。異世界六日目のタスク量ではない。元の世界の新人研修なら、とっくに人事面談案件である。
「おっちゃん、かいてる」
「ああ。やることリストだ」
「だんどり?」
「そう。段取り」
「にく、ある?」
「段取り表に肉はない」
「だめ」
「駄目なのか」
ユキは俺の膝に近づき、ノートを覗き込んだ。そして、覚えたばかりの数字を見つけたらしい。
「2」
「お、分かるのか」
「2、えらい」
「なぜ?」
「に」
「次は?」
「9」
「く」
「にく」
「はいはい」
ユキは満足そうに頷いた。
「おっちゃん、2と9、かく」
「今は作戦メモだ」
「にくのだんどりも、いる」
「……確かに食事計画は必要か」
俺は余白に小さく書いた。
九、ユキの食事とホットミルク。
「9!」
ユキの目が輝いた。
「そこに食いつくか」
「9、にく」
「この項目はホットミルクも含む」
「しあわせ」
少しだけ部屋の空気が軽くなる。重い話の中で、ユキの肉信仰は妙に強い。いや、助かっているのかもしれない。俺たち全員、重苦しさに飲まれそうなのだ。
その時、ロクの耳がぴくりと動いた。
「ガランさん」
「何だ」
「廊下の兵士が話してるっす。鉄格子の子供たちのことっす」
全員の空気が変わる。ユキの手が俺の袖を掴む。ロクは耳を澄ませた。
「……『猫の姉弟とドワーフの小娘』って言ってるっす。昨日、奴隷管理局の馬車が故障して、この砦で一時預かりになったらしいっす」
「移送中か」
ガランが低く言う。
「行き先は?」
ロクはさらに耳を動かす。
「……『西辺収容所へ戻すか、神務院の検査に回すか、上から指示待ち』って」
俺の背筋が冷えた。神務院。またその名前だ。アルノが小さく息を呑んだ。
「神務院……」
リーファの表情が険しくなる。
「シオンと同じ流れかもしれないわ」
ユキが俺を見上げた。
「しんむいん、くさい?」
「たぶん、かなり臭い」
「くびにひも、する?」
「する可能性が高い」
ユキの瞳が揺れる。
「おっちゃん」
「今は動かない」
「でも」
「でも、忘れない」
俺は自分にも言い聞かせるように言った。
「まず名前。人数。移送予定。見張り。首輪の種類。命令石の所在。そこを調べる」
「だんどり」
「ああ」
ユキは唇を結んだ。
「ユキ、がまんする」
「偉い」
「でも、あとで、ひも、とる?」
「取れる段取りを探す」
「やくそく」
「約束だ」
約束してしまった。いや、するしかなかった。子供たちの首輪を見て、何もしないまま終われるほど、俺はもう鈍くいられない。
無趣味の四十男だった頃なら、ニュースを見て眉をひそめるだけだったかもしれない。
だが今は違う。目の前にいる。ユキの手が震えている。アルノが首輪のない首で息をしている。なら、段取りを組む。怒りを燃料にして、ハンドルは握りしめる。
昼前、マリベルは薬草と包帯を求める名目で医務室へ向かうことになった。付き添いとしてリーファが行く。
ガランは砦長側との手続き確認。ロクは客舎周辺で音を拾う。ドランは留守番兼威圧。俺とユキは、アルノのそばに残る。
「おっちゃん、ユキ、いかない?」
「病弱な子がうろうろしたら怪しい」
「ユキ、びょうじゃく」
「そう」
「びょうじゃく、たいへん」
「普段のユキが元気すぎるだけだ」
「ユキ、げんき」
「知ってる」
ユキは少し不満そうにしたが、布袋のこびゃっこを抱えて寝台の横に座った。
アルノが小さく言う。
「ヒカルさん」
「どうした?」
「もし、神務院が関わっているなら……子供たちは危険です」
「ああ」
「彼らは、魔力や血筋だけでなく、夢や伝承に反応する者を探していました。シオンもそうでした」
「猫族やドワーフの子も?」
「可能性があります。特に子供は、まだ力が不安定で……利用しやすいと、彼らは言っていました」
利用しやすい。その言葉で、腹の奥が熱くなった。俺は息を吐く。マインドフルネス。
一、息を吐く。
二、吸う。
三、視界を広げる。
四、今できる行動を選択する。
怒りに飲まれるな。ユキが俺を見た。
「おっちゃん、こわいにおい」
「悪い。抑える」
「ちょっとだけ」
「ああ。ちょっとだけ」
アルノは申し訳なさそうに目を伏せた。
「すみません。嫌な話ばかりで」
「謝るな。情報は必要だ」
「はい」
「シオンのことも、子供たちのことも、知らなきゃ動けない」
俺はノートに書き足す。
十、神務院は子供の不安定な力を狙う可能性。
十一、鉄格子の三人も検査対象か確認。
十二、命令石の保管場所。
ユキが横から覗き込む。
「12」
「そこは肉じゃない」
「1と2」
「惜しいな」
「2ある」
「あるな」
「ちょっと、えらい」
「数字評価が雑だな」
その時、扉の外で兵士が咳払いをした。
「静かにしていろ。使節団とはいえ、ここは砦だ」
ドランが扉の内側から低く返した。
「子供が数字を勉強しておるだけだ」
「……そうか」
兵士はそれ以上言わなかった。ドランの圧、便利。しばらくして、ガランが戻ってきた。
「親書の手続きは明朝だ。辺境伯の代理人が砦へ来るらしい」
「辺境伯本人じゃないのか」
「辺境伯は本拠にいる。だが印章権限を持つ代理人が来る」
「なるほど」
「それから捕縛者だが、奴隷追跡官の補助員だったことは確認された。ただし、森の中での記憶が曖昧で、証言に一貫性がないそうだ」
催眠術がまだ効いている。俺は内心でほっとした。
「問題になりそうか?」
「グレイナーは面倒だと判断している。使節団と揉めるほどの価値はないと見ているようだ」
「価値、か」
「そういう男だ」
ガランは声を落とした。
「だが、鉄格子の子供たちについては口が重かった」
「聞いたのか?」
「直接ではない。砦内に奴隷管理局の臨時預かりがあるのか、と探った」
「反応は?」
「『砦の管轄ではない』とだけ言った」
「つまり、あるんだな」
「おそらく」
責任を避ける言い方。砦長グレイナーらしい。管轄ではない。つまり、砦内にいても砦長の自由にはならない可能性がある。
奴隷管理局。神務院。辺境伯。国境砦。権限が絡み合っているだけ厄介だ。だが、厄介なら厄介なりに隙がある。
責任の押し付け合い。手続きの空白。移送待ち。確認待ち。そこに段取りを差し込めるかもしれない。
夕方前、マリベルとリーファが戻ってきた。マリベルは薬草と包帯を抱えている。
「医務室で少し話を聞けました」
「どうだった?」
マリベルは扉の外を気にしてから、声を落とす。
「鉄格子の子供たちは、明後日の朝に西辺収容所へ送られる予定だったそうです。ただし、神務院からの使者が来れば、そちらが優先されると」
「明後日」
二日ある。いや、二日しかない。アルノの安静期間と同じ。この砦に留まる理由がある間に、子供たちの移送日が来る。
偶然か。物語なら都合が良いと言うところだが、現実なら心臓に悪いだけだ。
ユキが言う。
「おっちゃん」
「分かってる」
「だんどり」
「ああ。段取りだ」
俺はノートを閉じた。今日の時点で分かったこと。鉄格子の子供たちは奴隷管理局の預かり。神務院の検査対象になる可能性。明後日朝に移送予定。グレイナーは関わりたくない。捕縛者の証言は崩れている。親書の手続きは明朝。
そして、俺たちには二日ある。
「ガラン」
「何だ」
「今夜、もう少し情報を集めたい」
「誰が動く?」
「まずはロクの耳。マリベルの医務室経由。リーファの観察。俺は……動きたいが、今は動かない方がいいんだよな」
「そうだ」
「分かってる」
ユキが俺の手を握る。
「おっちゃん、いっしょ」
「ああ。俺はユキといる」
「こびゃっこも」
「いる」
「しっぽも、むー」
「あとで少しだけ出そう」
ユキの目が輝いた。
「しっぽ、ふわふわ?」
「窓から見えない場所でな」
「ほっとみるく?」
「夜に少し」
「にく?」
「控えめに」
「む」
「二回目の控えめな『む』だな。偉い」
ユキは少しだけ誇らしげにした。その日の夜。客舎の小部屋で、俺はユキのリュックを外した。白い尻尾が、ふわっと広がる。
「しっぽ!」
「声が大きい」
「しっぽ、しずか」
ユキは小声で尻尾を抱えた。こびゃっこも布袋から少しだけ出してやる。
「こびゃっこ、くらくなかった?」
もちろん返事はない。でもユキは満足そうだった。俺は小さなカップにホットミルクを作り、薄く焼いた肉を一切れだけ出す。
「今日はこれだけだ」
「にく」
「一切れだけ」
「2?」
「一切れ」
「9?」
「増やすな」
「む」
「三回目」
ユキは肉を大事そうに食べた。その顔を見ていると、少しだけ息がしやすくなる。
砦の中。首輪の国。鉄格子の向こうの子供たち。それでも、今この小部屋だけは、ユキのしっぽとホットミルクとこびゃっこの場所だった。
俺はユキの頭を撫でる。
「今日も頑張ったな」
「ユキ、かくれんぼ、まけてない」
「ああ。負けてない」
「でも、くびにひも、いや」
「俺も嫌だ」
「おっちゃん、たすける?」
「助ける方法を探す」
「ユキも」
「無理はしない」
「だんどりして」
「ああ。段取りして」
ユキはホットミルクを飲み、白い尻尾を抱えたまま、小さく頷いた。
「ユキ、まつ。でも、わすれない」
「俺も忘れない」
その夜、俺はノートに最後の一行を書いた。
十三、子供たちを助ける場合、最優先はユキの安全。
それを書いてから、少しだけ迷い、もう一行足した。
十四、でも、見捨てない。
段取り表に感情を書くのは、社会人としてはあまり良くない。だが、今夜は必要だった。忘れないために。
俺はノートを閉じた。明日、辺境伯代理が来る。親書は早馬で皇都へ向かう。そして、この砦のどこかで、首輪をつけられた子供たちが眠っている。
俺たちに残された時間は、二日。いや、たぶん、それより短い。
【収支報告】
開始残高:990,136 pt
今回の購入:
・ユキ用ホットミルク、少量の肉、飲料水補充:10 pt(約1,000円)
・アルノ用スープ、消化食、包帯・薬草風小物補充:40 pt(約4,000円)
・情報整理用ノート類・小物補充:10 pt(約1,000円)
今回支出合計:60 pt(約6,000円)
現在残高:
990,136 pt − 60 pt = 990,076 pt
円換算目安:
990,076 pt × 100円 = 約99,007,600円相当
続く




