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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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153/155

第152話 白狐神とみんなの旗


異世界生活104日目。

七の月3日。 


午後、工事事務所において、三つの門と警備体制、車両の増備、それから新しい事務所。今日の打ち合わせで決めるべきことは、ひと通りまとまった。


 オリエント王国の連絡事務所。近衛騎士団とハンターチームの警備本部。そして、白狐の里自治公館。


 もちろん、どれもまだ図面の上の話だ。だが、施設の役割が決まれば、必要な設備や建物の大きさも考えられる。


 アルノは早速、書類を整理している。セレナは王国側の必要事項を確認し、レオンとベルタは警備本部の設備について相談を始めていた。


 ……よし。これなら、あとは順番に進めていけばいい。そう思ったところで、俺はふと気が付いた。


「そうだ」


 全員がこちらを向いた。


「大使館には、オリエント王国の国旗を掲げられるようにしよう」


 セレナが顔を上げた。


「国旗ですか?」


「ええ。今は連絡事務所ですが、将来、正式な大使館になった時には必要でしょう」


「……そうですね」


 セレナが微笑んだ。


「王国を代表する施設となれば、国旗の掲揚場所は設けたいです」


「じゃあ、旗竿も設計に入れておこう。ただし、正式に掲げるのは王国側の手続きを確認してからですね」


「はい。その方がよろしいと思います」


 レオンが言った。


「なら、警備本部には近衛騎士団旗だな」


「そうですね」


 ベルタが頷く。


「ただし、掲揚方法や取り扱いは騎士団の規則に合わせます」


「もちろん。こちらとしても、そうして欲しい」


 俺は図面に小さな印を付けた。王国連絡事務所には、将来の国旗掲揚場所。警備本部には、近衛騎士団旗。


 ……うん。だいぶ、それらしくなってきた。すると。


「ヒカルさん」


 アルノが言った。


「自治公館には、何を掲げるんですか?」


「……え?」


「白狐の里自治領の旗です」


「……あ」


 全員がこちらを見た。……そういえば。


「まだ、ないな」


 ガランが頷く。


「ないな」


 レオンも頷く。


「ないな」


 セレナが少し笑った。


「自治領として、旗があってもいいと思います」


「……確かに」


 俺は腕を組んだ。白狐の里の旗。……どうする?白狐だから白い狐の絵?いや、単純すぎるか。湖があるから青?森もあるから緑?……こういうデザインは、俺の専門外だぞ。


 すると。


「おっちゃん!」


 ユキが手を上げた。


「何?」


「トト!」


「……トト?」


「トト、かく!」


 俺は思わず目を見開いた。


「……ああ!」


 そうだ。トトがいる。畑の記録も、湖の魚の絵も、いつも上手に描いている。昨日渡した新しい手帳にも、早速絵を描いていた。


「トトに描いてもらうか!」


 ユキが胸を張った。


「うん!」


 アルノが頷く。


「それは良い案ですね」


 セレナも微笑んだ。


「白狐の里に暮らす子供が考えた旗というのは、素敵だと思います」


 俺は少し考えた。


「いや、トト一人に任せるより……」


「む?」


「子供たち皆で考えてもらおう」


 ユキの耳がぴんと立った。


「みんな?」


「ああ。トトを中心に、ユキ、ミーシャ、ニナ。それからテオとミナも」


「ミナも!」


「そう」


 こびゃっこが頷いた。


「よいではないか。里の未来を担う幼子たちが、里の旗を考えるのじゃな」


「……今日は結構まともなことを言うな」


「今日はとは何じゃ!」


 レオンが笑った。


「子供たちの絵を、そのまま旗にするのか?」


「まずは自由に描いてもらう。その中から、皆で話し合ってデザインをまとめればいい」


 ベルタが頷いた。


「正式な旗として使うなら、色や形も統一した方がよさそうですね」


「そうだな。でも、最初から細かい規則を押し付けるつもりはない」


 俺はユキを見た。


「まず、どんな旗がいいか考えてみよう」


「うん!」


「今日の夕方、子供たちに集まってもらうか」


「おっちゃん!」


「何?」


「ユキ、かんとく?」


「今回は参加者だな」


「む?」


「皆と一緒に描くんだよ」


 ユキが少し考えた。


「……ユキも、かく!」


「そうそう」


 ……さて。どんな旗になることやら。


     ◇


 打ち合わせが終わったのは、夕方前だった。アルノとベルタは、早速それぞれの書類を整理し始めている。


 セレナは連絡事務所の必要設備を確認するため、ファビイとヴィオラへ話をするらしい。


 レオンは近衛騎士団の勤務配置を見直すと言っていた。


 ガランはオルフェンたちハンターチームへ、車両と警備本部の話を伝える予定だ。


 マリベルは、診療所と自治公館の連携について考えてくれる。


 俺は工事事務所の外へ出た。湖畔には、夕方の柔らかい光が差し始めている。少し離れた場所では、職人たちが森から戻ってきていた。


 ユキが俺の手を引いた。


「おっちゃん!」


「ん?」


「はた!」


「ああ。忘れてないよ」


「トト!」


「呼びに行こうか」


「うん!」


 こびゃっこがふわりと浮いた。


「びゃっこも参加するぞ!」


「お前も描くの?」


「神使として、意見を述べるのじゃ!」


「子供たちの邪魔するなよ」


「分かっておる!」


 ……一番心配なのは、こいつかもしれない。


     ◇


 夕食前。食堂タープの大きなテーブルへ、画用紙を広げた。


 色鉛筆。

 クレヨン。

 消しゴム。

 鉛筆。


 それから、下描き用の紙。以前から子供たちが使っている画材に、予備の紙も加える。


「よし。準備できたぞ」


 最初にやってきたのはトトだった。


「ヒカル、絵描くの?」


「ああ。今日はちょっと特別な絵を描いてほしい」


「何?」


「白狐の里の旗」


 トトが首を傾げた。


「……旗?」


「そう。里の印になるものだ」


 俺は紙へ、簡単な長方形を描いた。


「こういう布を建物の前に掲げるんだ。遠くから見ても、ここが白狐の里だって分かるように」


 トトがじっと見つめた。


「……絵、描いていいの?」


「もちろん」


「何でも?」


「まずは自由に」


 トトの目が少し輝いた。


「……うん」


 そこへミーシャとニナがやってきた。


「何するの?」


 ミーシャが尋ねる。


「旗のデザインだ」


「デザイン?」


「旗に描く絵を考えるんだよ」


 ニナが紙を見る。


「大きさは?」


「……まず、そこを聞くの?」


「旗の大きさ」


「まだ決めてない。今日は絵だけ考えよう」


「分かった」


 ……ニナは何でも寸法から入るな。するとユキが両手を上げた。


「みんな!」


「なあに?」


「みんなの、はただよ!」


 ミーシャが目を輝かせた。


「私たちの旗?」


「そう!」


「描いていいの?」


「もちろん」


 ミーシャが嬉しそうに椅子へ座った。


「じゃあ、かわいいのがいい!」


 ニナが言った。


「分かりやすいの」


 トトが言った。


「遠くから見えやすいの」


 ……おお。もう意見が出始めた。


     ◇


 少し遅れて、テオとミナもやってきた。ミナは子狐のぬいぐるみを抱えている。


「おっちゃ!」


「おう、ミナ」


「なに、しゅゆ?」


「お絵描きだよ」


「おえかき!」


 ミナの耳がぴんと立った。


「ミナも!」


「もちろん」


 俺は小さめの画用紙と、太いクレヨンを渡した。


「好きな絵を描いていいぞ」


「あい!」


 ミナはすぐにクレヨンを握った。……握り方は、まだ三歳児らしい。テオも椅子へ座る。


「俺も描いていい?」


「ああ。好きなものを描いてくれ」


「うん」


 ユキがミナの隣へ座った。


「ミナ!」


「ユキねーちゃ!」


「いっしょ、かく!」


「あい!」


 狐耳の幼女二人が並んでクレヨンを選ぶ。……なんだろう。旗のデザイン会議というより、完全にお絵描き大会だ。まあ、それでいい。最初は自由に描いてもらおう。


     ◇


 トトは、しばらく白い紙を見つめていた。そして、青い色鉛筆を取った。すうっと、紙の下の方へ横に長い線を引く。その上に、緩やかな曲線。


「……湖?」


 俺が尋ねると、トトが頷いた。


「うん」


「いいな」


「ここ、みず」


「そうだな」


 次に緑色。湖の向こうへ、森らしい形を描き始める。……なるほど。白狐の里の風景だ。


 ミーシャは、最初から白い狐を描こうとしていた。


「ユキみたいなの!」


「おお」


「でも、白い紙に白い狐って見えないね」


「確かに」


 ミーシャが考え込む。


「じゃあ、背景を青にする!」


「いいんじゃないか?」


 ユキが自分の紙へ、大きな丸を描いていた。


「おっちゃん!」


「何?」


「ユキ、かいた!」


「……これは?」


「おひさま!」


「おお、太陽か」


「さと、あかるい!」


「いいな」


 ユキは黄色いクレヨンで、丸の周囲へ線を描き足した。……ちょっと線が多いけど、太陽らしくなってきた。


 ニナは、まず鉛筆で長方形を描いていた。


「ニナ?」


「旗」


「うん」


「真ん中、印」


「なるほど」


「左右、同じ」


「左右対称にするのか」


「うん。その方が作りやすい」


 ……七歳で製造工程まで考えている。さすがニナだ。一方、テオは、緑のクレヨンで木を描いていた。


「これは?」


「大きい木」


「森の大木?」


「うん」


「いいな」


 テオが少し照れたように笑う。

 そして、ミナ。


「ミナ、何描いてる?」


「きちゅね!」


 紙には、赤茶色の丸と、そこから伸びる何本もの線。……狐?


「おお。狐か」


「あい!」


「こっちは?」


「しっぽ!」


「なるほど」


 尻尾が五本くらいある。……まあ、そこは自由だ。


「ミナ、できゆ!」


「早いな!」


「ムフー!」


 ミナが胸を張ると、こびゃっこが横から覗く。


「ふむ。なかなか味のある狐じゃのう」


「こびゃこ!」


「何じゃ?」


「きちゅね!」


「うむ。立派じゃ!」


 ミナが嬉しそうに笑った。……褒め上手だよな、こびゃっこは。


     ◇


 しばらくすると、テーブルの上には色とりどりの絵が並んだ。


 湖。

 森。

 大木。

 白い狐。

 太陽。

 建物。

 畑。


 ……そして、なぜかジャガイモ。


「ユキ」


「む?」


「この丸いの、何?」


「じゃがいも!」


「……旗に?」


「むれの、はたけ!」


「なるほど」


「じゃがいも、えらい!」


「それは今朝も聞いた」


 ミーシャが笑った。


「じゃあ、とうもろこしも描く?」


「とうもろこし!」


 ユキの耳が立つ。するとトトが少し困った顔をした。


「……全部描いたら、いっぱいになる」


「そうだな」


 俺は頷いた。


「旗は、遠くから見ても分かる方がいいからな」


 ニナがすぐに言った。


「印、少ない方がいい」


「そうそう」


 ミーシャが考えた。


「じゃあ、白い狐と湖?」


 トトが頷く。


「森も」


 テオが言った。


「大きい木」


 ユキが手を上げた。


「おひさま!」


 ……全部入れると、結構な数になるな。だが、まだ決める必要はない。


「いいぞ。今日は候補をいっぱい出そう」


 俺は皆へ言った。


「最後に、どれを使うか考えればいい」


 トトが頷いた。


「じゃあ、もう一枚」


「もちろん」


 新しい画用紙を渡す。トトは今度、紙の中央へ大きな白い狐の形を描き始めた。その下には、青い湖。背景には緑の森。そして、狐の上に小さな太陽。


 ……おお。かなり旗らしくなってきた。ミーシャが覗き込む。


「かわいい!」


 ニナも頷いた。


「分かりやすい」


 テオが言った。


「木、ある」


 ユキが胸を張った。


「しろぎつね!」


 ミナも紙を覗き込む。


「きちゅね!」


 こびゃっこが腕を組んだ。


「うむ。なかなかよいではないか」


 俺も頷く。


「いいな、トト」


 トトが少しだけ頬を赤くした。


「……まだ、途中」


「そうか」


「色、考える」


「ゆっくりでいいぞ」


 トトが真剣に紙へ向き直った。……いい顔だ。


     ◇


 夕食の準備が進み、厨房からマルタの声が聞こえてきた。


「そろそろご飯だよ!」


「はーい!」


 ミーシャが返事をする。だが、トトはまだ色鉛筆を動かしていた。俺は横から声を掛ける。


「トト」


「ん?」


「今日はここまでにしよう」


「……もう少し」


「続きは明日でもできる」


「……うん」


 トトが少し名残惜しそうに色鉛筆を置いた。


「ちゃんと取っておくからな」


「うん」


 俺は画用紙を一枚ずつ確認し、名前を書いてまとめる。すると、ニナがすぐに言った。


「折らない方がいいよね」


「そうだな」


「箱に入れる?」


「頼めるか?」


「うん」


 ……ニナはこういう時、気が利く。するとユキが自分の絵を持ち上げた。


「おっちゃん!」


「何?」


「ユキの、はた!」


「太陽とジャガイモだな」


「びゃっこも!」


「ああ。ちゃんといるな」


 ユキが満足そうに頷く。


「むれの、はた!」


「そうだな」


 ミナが自分の紙を持ち上げた。


「おっちゃ!」


「おお」


「ミナの!」


「狐だな」


「きちゅね!」


「うん。よく描けた」


「ムフー!」


 そこへ、ラウルが食堂へやってきた。午前中に足を休ませていたらしく、今度は杖を持っている。


「ずいぶん賑やかだな」


「子供たちに旗を考えてもらってるんだ」


「旗?」


「ああ。白狐の里の」


 ラウルが少し驚いた顔をした。


「……この里の旗を、子供たちが?」


「そう」


 ラウルはテーブルの絵を見た。そして、ゆっくりと微笑んだ。


「……いいな、そういうの」


「だろ?」


「私がいた軍では、旗は部隊の誇りだった」


 ラウルが静かに言った。


「どれほど離れていても、旗を見れば、自分がどこへ戻ればよいか分かる」


「……そうか」


「この子たちにとっても、そういう旗になるといい」


 俺は頷いた。ラウルたちが湖畔へ来て、まだ十日。だが、もうこの里の一員だ。テオも、ミナも。もちろん、最初からいた子供たちも。皆で考え、皆で決める。そういう場所にしていきたい。


     ◇


 夕食前。トトの描いた旗の候補を、皆がもう一度眺めていた。


 青い湖。

 緑の森。

 大木。

 白い狐。

 そして、朝日。


 まだ完成したデザインではない。色も形も、これから考える。それでも、何となく白狐の里らしい。


「おっちゃん」


 ユキが俺の服を引っ張った。


「ん?」


「はた、できる?」


「ああ。皆で考えればな」


「いつ?」


「明日も続きを描いて、もう少し相談してからかな」


「うん!」


 ユキがトトを見た。


「トト!」


「ん?」


「はた、よろしく!」


 トトが少し驚いた顔をした。そして、小さく頷く。


「……うん」


 ニナが言った。


「出来たら、寸法決める」


「そうだな」


 ミーシャが笑う。


「私、布を選びたい!」


「いいね」


 テオが言った。


「俺も手伝う」


「もちろん」


 ミナが両手を上げた。


「ミナも!」


「はいはい」


「ミナ、できゆ!」


「分かってるよ」


 こびゃっこが胸を張った。


「では、びゃっこは旗の監修を――」


「お前は子供たちの絵を勝手に直すなよ」


「何じゃと!」


「特に稲荷寿司や酒樽を描き足すな」


「なぜ分かったのじゃ!」


「やっぱり考えてたのか!」


 ユキが笑った。ミナも笑う。トトも、少しだけ笑った。


     ◇


 俺は食堂タープの外へ目を向けた。夕暮れの湖畔。湖面には、まだ太陽の光が残っている。その反対側には森。そして、俺たちが暮らす建物。

 

 最初は、ただの湖畔だった。ユキと二人で暮らすための、小さな拠点だった。それが今では、里になろうとしている。


 門を作り、警備を整える。王国との連絡事務所を置いて、自治公館も作る。車両を増やし、道路を整え、食堂を建てる。……やることは山ほどある。


 でも、今日一番大切な仕事は、もしかすると別のところにあったのかもしれない。


 子供たちが、自分たちの里の旗を描くこと。この場所を、自分たちの家だと思えること。それが何より大事なのかもしれない。


「おっちゃん」


「ん?」


 ユキが俺を見上げた。


「びゃっこのさと」


「ああ」


「みんなの、おうち」


「そうだな」


「はたも、みんなの」


「ああ」


 ユキが満足そうに頷いた。


「なら、よし!」


 ……本当に。それでいい。湖畔の夕方に、子供たちの笑い声が響いていた。新しい里の旗は、まだ白い画用紙の上にある。でも、その旗が掲げられる日は、そう遠くないのかもしれない。


続く


     ◇


【第152話・収支報告】

異世界生活104日目/七の月3日/オリエント王国歴952年

項目ポイント・状況

開始残高(第151話終了時)3,114,180pt

新規スキル取得0pt

新規設備購入0pt

旗のデザイン用画材既存在庫を使用

自治領旗の製作デザイン検討のみ

旗竿・掲揚設備設置計画のみ

今回支出合計0pt

第152話終了残高3,114,180pt

円換算目安:311,418,000円相当(1pt=100円)

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