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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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151/155

第150話 白狐神とみんなのお土産


異世界生活103日目。  

七の月2日、夕方。


 湖畔へ続く、南側砕石道路へ入った時、ようやく肩の力が抜けた。


「……帰ってきたな」


 黒いピックアップトラックのフロントガラス越しに、見慣れた景色が広がっている。


 畑の柵。道路脇のポールライト。小川に架かる鋼製の橋。そして、その向こうには湖畔の建物の屋根が見えていた。


 朝、東岸補給基地を出発してから、ずいぶん長い一日だった。


 途中で棘狼の群れに囲まれ、二頭を討伐する羽目になったが、それ以降は大きな問題もなく走ってこられた。


 ……いや、問題がなかったというより、慎重に走ったおかげで問題を増やさずに済んだ、と言うべきか。


「おっちゃん!」


「ん?」


「おうち!」


「ああ。もうすぐだぞ」


 後部座席のチャイルドシートから、ユキが身を乗り出しかけた。


「こら、ベルトはそのまま」


「む!」


「着いてからな」


「うん!」


 ユキの白い狐耳が、嬉しそうにぴんと立っている。その横では、こびゃっこが小さな前足を組んでいた。


「ふむ。無事の帰還じゃのう」


「そうだな」


「びゃっこたちの結界が役に立ったのじゃ!」


「ああ。本当に助かったよ」


「もっと褒めてもよいぞ?」


「はいはい。偉い偉い」


「心がこもっておらぬ!」


「十分こもってるだろ」


 ユキが横から手を上げた。


「こびゃっこ、えらい!」


「うむ!」


「ユキも、えらい!」


「もちろんじゃ!」


「おっちゃんも!」


「ありがとう」


 ……全員が表彰されたらしい。


 助手席のセレナが、小さく笑った。


「皆さん、本当にお疲れ様でした」


「セレナさんも。長距離の移動で疲れたでしょう」


「多少は。でも、馬車で同じ距離を移動することを考えれば、驚くほど快適でした」


「そう言ってもらえると助かります」


「それに、途中の棘狼への対応は勉強になりました」


「勉強ですか?」


「はい。ヒカルさんは、戦う前に安全な場所を確保されましたから」


「子供を乗せてましたからね」


 俺はバックミラー越しにユキを見る。ユキは窓の向こうに見えてきた畑を眺めながら、何やら指を折っていた。


「ミナに、きつね。ミーシャに、ふくろ。トトに、かみ……」


 ……まだお土産の確認をしている。

 それも大事な仕事らしい。


     ◇


 鋼橋を渡り、湖畔の祠に来ると、脇にいた見張りがこちらへ気付いた。


「おっ!」


 ロクだった。その隣には、近衛騎士団の一人が立っている。ロクが大きく手を振った。


「ヒカル! お帰りっす!」


「ただいま、ロク!」


 俺は窓を少し下ろした。


「異常は?」


「こっちは平穏っす。畑も建物も問題なしっすよ」


「よかった」


「そっちは?」


「ちょっと魔物に遭遇した。詳しい話は後でガランたちにもする」


 ロクの耳が動いた。


「魔物っすか?」


「ああ。棘狼の群れだ」


「……群れ?」


 ロクの表情が変わった。


「何頭っす?」


「十頭くらい。二頭を倒して、残りは逃げた」


「結構な数っすね」


「そうなんだ。場所も記録してある」


「了解っす。ガランにも伝えておくっす」


「頼む」


 俺が車を進めようとすると、ユキが窓越しに顔を出した。


「ロク!」


「おっ、ユキ! お帰り!」


「ただいま!」


「無事でよかったっす!」


「ロク!」


「何っすか?」


「おみやげ!」


「……お土産っすか?」


「ある!」


「おお!」


 ロクの尻尾が揺れた。


「そりゃ楽しみっすね!」


「あとで!」


「了解っす!」


 ……見張りへの連絡事項が、一つ増えたようだ。


     ◇


 車を食堂タープテント前に停め、エンジンを切った。すぐに降りようとしたユキを制し、俺は後部座席のドアを開けた。


「はい、到着」


「おっちゃん!」


「ん?」


「ミナ!」


「そうだな。まずミナに会いに行こうか」


 チャイルドシートのベルトを外すと、ユキがぴょんと地面へ降りた。こびゃっこも、ふわりと浮かび上がる。


「さて、びゃっこの凱旋じゃ!」


「ただ帰ってきただけだろ」


「魔物を退けて帰還したのじゃぞ!」


「ユキも!」


「もちろんじゃ!」


 そんな二人を見ていると、食堂タープの方から小さな声が聞こえた。


「……う?」


 振り返ると、そこには赤茶色の狐耳。小さな尻尾。そして、こちらを見つけた途端に大きく開いた目。


「ユキねーちゃ!」


「ミナ!」


 ミナだった。食堂タープのそばでテオと一緒に遊んでいたらしい。こちらへ走り出そうとして、少しよろけた。


「ミナ、ゆっくり!」


 ユキが両手を広げる。


「あい!」


 ミナは一度立ち止まった。……おお。ちゃんと止まれた。そのまま小走りで近づき、ユキへ抱きつく。


「ユキねーちゃ!」


「ただいま!」


「おかえり!」


 ぎゅうっ。二人の狐耳が、並んで揺れている。


「ミナ、いいこ?」


「うん!」


「まってた?」


「あい!」


 ミナが何度も頷く。


「おっちゃ!」


「ただいま、ミナ」


「おっちゃ、おかえり!」


「ちゃんと帰ってきたぞ」


 ミナが両手を伸ばした。


「だっこ!」


「はいはい」


 俺はミナを抱き上げた。小さな身体が腕へ収まる。ついこの間まで診療所の寝台で休んでいた子が、今はこうして元気に抱っこを要求してくる。……よかったな。


 その横から、こびゃっこが顔を出した。


「ミナよ。びゃっこも帰ってきたぞ!」


「こびゃこ!」


「うむ!」


「だっこ!」


「……む?」


 ミナが俺の腕の中から、こびゃっこへ手を伸ばす。


「おぬし、ヒカルに抱かれておるではないか!」


「こびゃこも!」


「びゃっこは追加の荷物ではないぞ!」


 ……帰って早々、いつもの調子だな。


     ◇


「ところで、ミナ」


「う?」


「約束、覚えてるか?」


 俺が尋ねると、ミナは首を傾げた。


「やくしょく?」


「お土産だよ」


 その言葉に、ユキが勢いよく手を上げた。


「おみやげ!」


「……!」


 ミナの狐耳が立った。


「ミナの?」


「そう。ミナの」


「あゆの?」


「ああ」


 俺はミナを一度地面へ降ろし、収納を開いた。取り出したのは、東岸補給基地の移動販売商人から買った包みだ。


 柔らかな布で包まれた、少し大きめの品物。……金貨一枚。改めて考えると、なかなかの買い物だった。だが、ミナが喜んでくれるなら安いものだ。


「はい、ミナ」


「……う?」


 包みを渡す。ミナは両手で受け取ると、じっと見つめた。


「これ、ミナの?」


「そうだよ」


「……あけゆ?」


「ああ。開けてごらん」


 ミナが布の端をつまむ。するり。包みが開き、中から柔らかな子狐のぬいぐるみが現れた。


「……!」


 ミナが固まった。小さな狐耳が、ぴんと立つ。


「きちゅね……」


 そっと、ぬいぐるみの耳へ触れた。


「きちゅね!」


「そう。子狐だ」


「ミナの?」


「ああ。ミナのだよ」


 次の瞬間。


「きちゅねー!」


 ミナがぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。尻尾がぶんぶん揺れる。


「ユキねーちゃ!」


「うん!」


「きちゅね!」


「ミナ、きつね!」


「あい!」


 ユキも嬉しそうに頷く。


「おそろい!」


「おしょろい!」


 ……なるほど。狐族のミナ。白狐神のユキ。そして、子狐のぬいぐるみ。確かに狐仲間だ。


「びゃっこも狐じゃぞ!」


 こびゃっこが横から主張すると、ミナが振り返る。


「こびゃこも!」


「うむ!」


「こっち!」


「……何じゃ?」


 ミナがぬいぐるみを片腕に抱え直し、もう片方の手を伸ばした。


「こびゃこ、だっこしゅゆ!」


「……またかえ!」


 こびゃっこが後ずさる。


「びゃっこは神使じゃ! 布玩具とは違うのじゃ!」


「こびゃこ!」


「むう……」


 結局、こびゃっこは観念したように高度を下げた。ミナが、ぬいぐるみとこびゃっこをまとめて抱きしめる。


「きちゅね! こびゃこ!」


「……むぎゅう!」


 ユキが横から覗き込んだ。


「ミナ、うれしい?」


「あい!」


「なら、よし!」


 ……金貨一枚の価値は、十分あったな。


     ◇


「お帰りなさい、ヒカルさん」


 声を掛けてきたのはリリアだった。食堂の方から、ミーシャとトトも顔を出している。


「ただいま、リリア」


「長旅、お疲れ様でした」


「ありがとう。みんなは変わりなかった?」


「ええ。工事も畑も、いつもどおりでしたよ」


 リリアが微笑む。


「ただ、ミナちゃんは朝から何度も車の来る方を見ていました」


「そうだったのか」


「ユキたちが帰ってくるのを、ずっと待っていたみたいです」


 ミナはぬいぐるみを抱えたまま、胸を張った。


「ミナ、まった!」


「偉かったな」


「ムフー!」


 ……その笑顔を見ると、帰ってきた実感が湧いてくる。だが、俺にはまだ仕事が残っていた。


「さてと」


 ミナが子狐のぬいぐるみとこびゃっこをまとめて抱きしめているのを眺めながら、俺は収納を開いた。


「ミナのお土産は渡せたし、次はみんなの分だな」


「おっちゃん!」


 ユキが勢いよく振り返った。


「みんなの、おみやげ?」


「そう。東岸の商人さんから、いろいろ買ってきただろ」


「うん!」


 ユキが胸を張る。


「ユキ、くばる!」


「じゃあ、お手伝いを頼もうかな」


「まかせて!」


 ……頼もしい返事の配達係が誕生した。俺は食堂タープの大きなテーブルへ、東岸補給基地で買った品物を順番に並べていく。


 布製の小物入れ。革の工具袋。手帳。石鹸。小さな金属製の杯。木製の工具箱。髪飾り。菓子と茶葉の箱。


 次々と出てくる品物を見て、近くにいたトトが目を丸くした。


「ヒカル、それ全部買ってきたの?」


「ああ。みんなへのお土産だ」


「そんなに?」


「気付いたら、この量になってた」


 アルノが横から覗き込む。


「……ヒカル」


「何?」


「王都で仕入れでもしてきたのですか?」


「東岸の補給基地だよ」


「補給基地で、これほどの品を?」


「ちょうど移動販売の商人が来ててな」


 アルノが納得したように頷く。


「なるほど。駐屯地などへ定期的に来る商人ですか」


「そうそう」


「しかし、これでは商会の大口取引ですね」


「商人も喜んでたよ」


 横でユキが両手を上げた。


「おみやげ、はっぴょー!」


「……発表会なのか?」


「うん!」


 ……もう始まっているらしい。


     ◇


「まずは、子供たちからだな」


 俺が言うと、ユキが大きく頷いた。


「ミーシャ!」


「はーい!」


 食堂の片付けを手伝っていたミーシャが駆け寄ってくる。


「どうしたの、ヒカル?」


「これ、ミーシャに」


 俺は花模様のついた布製の小物入れを渡した。


「わあ……!」


 ミーシャが両手で受け取る。


「可愛い!」


「料理を手伝う時の小物を入れたり、普段使いにしてもいいぞ」


「ありがとう!」


 ミーシャは小物入れを開き、中を覗き込んだ。


「これなら、髪紐も入れられる!」


「もちろん」


「大切にする!」


 ユキが満足そうに頷く。


「ミーシャ、えらい!」


「ユキも、ありがとう!」


「ムフー!」


 ……まだ自分の番でもないのに、ユキの方が嬉しそうだ。


「次はトト」


「僕?」


「ああ」


 俺は紙束を綴じた小さな手帳を取り出した。


「これ、東岸の商人さんから買ってきたんだ」


 トトが受け取り、そっと表紙を開く。


「……紙?」


「そう。こっちの世界の職人が作った紙だ」


「……へえ」


 トトが指先で紙の表面を撫でる。


「ちょっとざらざらしてる」


「日本のスケッチブックとは違うだろ」


「うん。でも、これも描きやすそう」


「湖で見つけた魚とか、森の木とか。気になったものを描いてみたらどうだ?」


 トトの目が輝いた。


「いいの?」


「もちろん」


「じゃあ、最初は……」


 トトが周囲を見回す。そして、ミナを見た。


「子狐のぬいぐるみを抱いてるミナを描こうかな」


「いいな」


「こびゃっこも!」


 ユキが言った。


「うん!」


 トトが笑った。


「一緒に描くよ」


「びゃっこは布玩具ではないぞ!」


 ミナの腕の中から、抗議の声がした。……絵になるな、これは。


     ◇


「ニナ!」


 ユキが次の名前を呼んだ。


「うん!」


 黄色いヘルメットを抱えたニナがやってきた。今日は《始マリノ祠》の工事を手伝っていたらしく、作業着の袖には少し土が付いている。


「工事、お疲れ様。はい、これ」


 俺は革製の小さな工具袋を渡した。ニナが受け取った瞬間、目を輝かせた。


「……工具袋!」


「そう。細かい金具や、予備の部品を入れるのに使えるだろ」


 ニナが袋を裏返し、縫い目を確認する。


「革、厚い」


「ああ」


「縫い目も、しっかり」


「さすが、見るところが違うな」


 ニナは袋の口を開き、中を確かめた。


「これ、ドリルビットも入る?」


「入ると思うけど、工具用のケースとは分けた方がいいな」


「うん」


「何を入れるかは、自分で決めていいぞ」


 ニナが頷いた。


「ありがとう、ヒカル」


「ああ。大事に使ってくれ」


「うん!」


 ニナは早速、腰道具との収まりを確認し始めた。


     ◇


「テオ!」


 ユキが呼ぶと、少し離れたところから犬族の少年がやってきた。


「僕にもあるの?」


「もちろん」


 俺は木製の車輪付き玩具を渡した。


「昨日、車を動かしてみたいって言ってただろ」


「……あっ!」


 テオが目を丸くする。


「車だ!」


「まあ、こっちは馬車に近い形だけどな」


 テオは車輪を指で回した。ころころころ。


「動く!」


「そうだろ」


「これ、どうなってるんだろう?」


「車輪と軸で回るようになってるんだ」


「……へえ!」


 テオは平らな板の上へ置き、軽く押した。木製の玩具が、ころころと進む。


「おお!」


 その横でユキがしゃがんだ。


「テオ」


「何?」


「ぶーん!」


「車の音か。ははは。ぶーん!」


 ……いや、エンジンは付いてないぞ。それでも二人は楽しそうに走らせている。するとテオが顔を上げた。


「ヒカル!」


「ん?」


「ありがとう! 大切にする!」


「ああ。いつか本物の車についても教えてやるよ」


「うん!」


 ラウルが少し離れたところで、その様子を見守っていた。……あの子も、ようやく子供らしい顔が増えてきたな。


     ◇


「じゃあ、大人組だな」


 俺が言うと、ユキがテーブルへ戻ってきた。


「リリア!」


「はいはい」


 リリアが笑いながら近づく。


「どうしたの?」


「おみやげ!」


 俺は香りのよい石鹸を渡した。


「リリアにはこれ」


「石鹸ですか?」


「東岸の商人さんが扱ってた。香草を使ってるらしくて」


 リリアが包みを少し開き、香りを確かめる。


「……いい香り」


「だろう?」


「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」


 俺はもう一つの包みを取り出した。


「こっちはマルタに」


「私にもあるのかい?」


 近くで夕食の支度をしていたマルタが振り返った。


「ああ。いつも美味しい食事を作ってもらってるからな」


「なんだい、改まって。ヒカルだって、いつも食材を用意してくれてるじゃないか」


「まあ、そうだけど」


「それに料理はあたしの仕事だよ。遠慮なんかしなくていいんだ」


 そう言いながらも、マルタは包みを受け取ると、嬉しそうに目を細めた。


「おや、石鹸かい。いい香りだねえ」


「香草入りらしい。東岸の商人さんが勧めてくれたんだ」


「へえ、こりゃ上等だ。ありがとね、ヒカル」


「気に入ってくれたならよかった」


「今夜の夕飯、少し張り切らないといけないね」


「いや、お土産で料理を増やさなくてもいいぞ」


「ははっ! 分かってるよ。冗談さ」


 ユキが二人の間から顔を出した。


「マルタ!」


「なんだい、ユキ?」


「いいにおいでしょ!」


「そうだねえ。あとで一緒に嗅いでみるかい?」


「うん!」


「でも、食べ物じゃないからね。そこは間違えちゃ駄目だよ」


「む!」


 ユキが真剣に頷いた。


「せっけん、たべない!」


「そうそう。偉いねえ」


 ……マルタに掛かると、白狐神も普通の五歳児だな。


     ◇


「あら、セレナさん。その髪留め、素敵ですね」


 リリアがセレナの髪に目を留めた。


「ああ、これですか? 東岸でいただいたんです」


 薄い青色の石をあしらった髪留め。俺が商人から買ったものだ。いつの間にか着けていたらしい。


「へえ、綺麗じゃないか。誰からもらったんだい?」


 マルタが尋ねると、セレナが微笑んだ。


「ヒカルさんからです」


「おや! ヒカル、なかなか気が利くじゃないか!」


「いや、旅の記念にと思って」


「ふふ。とても気に入っていますよ」


 そこへユキが顔を出した。


「セレナ、きらきら!」


「ありがとうございます、ユキ」


「おっちゃん、えらい!」


「……お、おう」


 こびゃっこが横から頷いた。


「うむ。ヒカルも少しはおなごの扱いが分かってきたようじゃのう」


「余計なお世話だ!」


 マルタの笑い声が響いた。……まったく。髪留め一つで、ずいぶん賑やかになるものだ。


     ◇


「次はマリベル」


「私にも?」


 マリベルが振り返る。


「もちろん」


 俺は小さな布袋と栞を渡した。


「薬草を入れる袋と、手作りの栞」


「まあ……」


 マリベルが布袋を開く。


「これは使いやすそうですね」


「乾燥した薬草を入れたり、分類するのにどうかなって」


「ありがとうございます。診療所で使わせてもらいます」


 栞の方も手に取り、微笑んだ。


「こちらも素敵ですね」


「書類や本を読む時にでも」


「大切にします」


 ユキが胸を張る。


「マリベル、えらい!」


「ありがとうね、ユキ」


 ……お土産を渡すたびに表彰される仕組みらしい。


     ◇


「アルノ」


「はい?」


「これ、お土産」


 俺は革製の書類留めを渡した。


「王都の職人が作ったものらしい」


 アルノが受け取り、留め具を確かめた。


「……なかなかよい作りですね」


「書類を束ねるのに使えるかなと思って」


「ええ。大変助かります」


 アルノは一度、俺の顔を見た。


「ヒカル」


「何?」


「異界の文房具を扱うようになってから、こちらの道具の良さも改めて感じることが増えました」


「そうか?」


「はい。こちらには、こちらの職人の技がありますから」


「……そうだな」


 俺も頷いた。日本製品の便利さばかり考えがちだが、この世界にも優れた職人はいる。今回の買い物でも、それはよく分かった。


「ありがとう、ヒカル」


「どういたしまして」


「これで報告書の整理も、さらに捗りそうです」


 ……アルノ、本当に事務仕事が好きなんだな。


     ◇


「ラウル」


 俺が声を掛けると、ラウルが近づいてきた。


「私にもあるのか?」


「もちろん」


 俺は革表紙の小さな手帳を差し出した。


「これ、使ってくれ」


「……手帳?」


「ああ。これから公国へ戻る準備もあるだろうし、記録しておきたいことも増えると思って」


 ラウルが手帳を開く。紙を一枚、二枚とめくった。


「……ありがたい」


「筆記具は別に用意するよ」


「いや、十分だ」


 ラウルが表紙をそっと撫でる。


「三年間、まともに自分の持ち物を持てなかったからな」


「……」


「こういうものを、また使えるとは思わなかった」


 俺は小さく頷いた。


「これから、いろいろ書けるさ」


「ああ」


 ラウルが少し笑った。


「まずは、ここで世話になったことから書いておこう」


「大げさだな」


「大げさではない」


 その声は静かだった。


「忘れてはいけないことだ」


 ……そうか。


「じゃあ、よろしく」


「ああ。ありがとう」


 ユキが横から頷く。


「ラウル、えらい!」


 ラウルの表情が柔らかくなった。


「ありがとう、ユキ」


     ◇

 続いて酒呑みたちだ。


「ドラン、ボルガ、ガラン!」


「おう!」


 ドランが振り返り、ボルガも近づいてきた。


「何じゃ?」


「東岸の土産だよ」


 俺は小さな金属製の杯を三つ取り出した。


「王都の職人が作ったものらしい」


 ドランが一つ受け取る。


「ほう……」


 杯を持ち上げ、底と縁を確かめた。


「いい仕事をしておるな」


「そうか?」


「うむ。薄く仕上げてあるが、縁はきちんと整えてある」


 ボルガも杯を手に取り、角度を変えながら眺めた。


「金属の厚みも揃ってるね」


「職人はやっぱり、最初にそこを見るんだな」


「当たり前だ!」


 二人が同時に答えた。……息ぴったりだな。ガランは杯を受け取ると、にやりと笑った。


「なるほど。酒用か?」


「まあ、そうだな」


「気が利くじゃないか、ヒカル」


「ただし、飲みすぎるなよ」


「分かっている」


「本当か?」


「もちろんだ」


 ……怪しい。意外とガランも酒呑みだからな。ユキがガランを見上げた。


「ガラン」


「ん? どうした、ユキ」


「おさけ、さんばい?」


「……」


 ガランが固まった。


「……三杯までか?」


「む」


 ユキが考える。


「マリベル、きめる」


「……ははは!」


 ドランが大笑いした。


「ガラン! お主も酒の量まで管理されるのか!」


「笑うな、ドラン!お前と一緒にするな」


「わはは! ユキの言うことなら逆らえんじゃろ!」


「別に逆らうつもりはない。だが、なぜマリベルなんだ?」


 ユキが真顔で答えた。


「からだ、だいじ!」


「……そうだな」


 ガランが苦笑する。


「分かった。飲みすぎないようにする」


「なら、よし!」


 ドランがまだ笑っている。


「おぬし、すっかりユキに頭が上がらんのう!」


「お前も同じだろうが!」


「む?」


 ユキがドランを見た。


「ドランも?」


「……うむ」


「おさけ、ほどほど!」


「分かったわい!」


 ……平和だな。


     ◇


 木製の工具箱は、グレゴール、エリオット、カイル、レイル、バドルへ渡した。


「みんな、いつもありがとう」


 俺が言うと、グレゴールが大きく頷いた。


「こちらこそ。こりゃ立派な箱だな」


 エリオットは蓋の作りを確認し、カイルとレイルは木目を眺めている。


「丁寧な仕事だ」


「こっちは留め具も丈夫そうだ」


 バドルは木彫りの装飾を指でなぞった。


「いい彫りだ。石とはまた違う面白さがある」


「気に入ってもらえたならよかった」


 グレゴールが笑う。


「道具を入れるには少し上等すぎるかもしれんな」


「何を入れるかは任せるよ」


「じゃあ、大事な測定具でも入れるか」


 ニナが横から顔を出した。


「グレゴール」


「何だ?」


「箱、使う前に、なまえ」


「……名前か」


 グレゴールが笑った。


「分かった。名前を付けておくよ」


「まちがえない」


「そうだな」


 ……工具管理担当の確認も入った。


     ◇


「次はハンターチームだな」


 俺は革紐付きの小物入れを取り出した。ロク、リーファ、オルフェン、セルド、フィンへ順番に渡していく。


「携行品を入れるのに使ってくれ」


 ロクが受け取り、腰へ当ててみた。


「おお、これは便利そうっすね」


「野外で使いやすい形だろ」


「そうっす。軽いし、邪魔にならないっす」


 リーファは紐の長さを確かめている。


「なるほど。弓を引く時も邪魔にならなさそうね」


「そう思って選んだんだ」


「それなら、巡回の時に使わせてもらうわ」


 リーファが革紐を肩へ掛け、弓を引く時の動きを軽く確かめた。


「うん。これなら大丈夫そう」


「よかった」


「ただ、雨の日は少し手入れが必要かしら」


「革だからな。濡れたら乾かして、必要なら手入れしてくれ」


「そうね。せっかくの贈り物だもの。長く使いたいわ」


 リーファが微笑んだ。


「ありがとう、ヒカル」


「ああ。役に立てば嬉しいよ」


 オルフェンも頷いた。


「革もなかなか丈夫そうですね」


 セルドが笑う。


「ヒカルさんは、俺たちの使い方まで考えて選んでくれたんですね」


「まあ、せっかくなら使えるものがいいからな」


 フィンが小物入れを開き、嬉しそうに頷いた。


「ありがとうございます!」


 ユキが手を上げる。


「みんな、あんぜんだいいち!」


「そうだな」


「おしごと、がんばる!」


 ロクが笑った。


「もちろんっす、ユキ!」


 リーファも頷く。


「ええ。でも、無理はしないわよ。ユキちゃん」


「なら、よし!」


 ……巡回前の訓示みたいになってきたな。


     ◇


「ナージャ!」


「はーい!」


 ナージャが近づいてきた。


「何を買ってきてくれたの?」


「これ」


 俺は猫の意匠が彫られた木製の髪飾りを渡した。


「おっ、可愛い!」


「気に入った?」


「もちろん!」


 ナージャが髪へ当ててみる。


「どう? 似合う?」


「うん。いいと思うぞ」


 ユキが勢いよく頷いた。


「ナージャ、かわいい!」


「ありがとう、ユキちゃん!」


 ナージャが嬉しそうに笑った。


「これは大切に使わないとね」


 ……よかった。喜んでもらえたようだ。


「で、ミネット」


「にゃ?」


 ミネットが顔を出した。


「お前にはこれだ」


 俺は小さな魚の形をした木製の髪飾りを渡した。


「……魚?」


「ああ」


「……」


 ミネットが髪飾りを見つめる。

 しばらく沈黙。……あれ? やっぱり駄目だったか?


「ヒカル」


「ん?」


「これ、私に?」


「そうだけど」


「……魚?」


「ああ」


「……にゃ」


 ミネットが小さく呟いた。


「……可愛いにゃ」


「おお!」


 俺は思わず声を上げた。


「よかった!」


「でも……」


「ん?」


「猫族だから魚なのかにゃ?」


「……」


 ……鋭い。ユキが横から言った。


「ミネット!」


「にゃ?」


「つりとおさかな、すき!」


「……」


 ミネットがユキを見る。


「……まあ、嫌いじゃないにゃ」


 そして髪飾りを頭へ付けた。


「どうかにゃ?」


 ユキが胸を張る。


「ミネット、かわいい!」


「……にゃ!」


 ミネットの尻尾が嬉しそうに揺れた。


「ユキにそう言われたら、文句は言えないにゃ」


 ……助かった。


     ◇


「最後は、みんなで分けるものだな」


 俺は大きな箱をいくつか取り出した。工事職人たちへは、焼き菓子と茶葉。近衛騎士団へも、全員で分けられる菓子と茶葉だ。


「おお!」


 職人たちから声が上がった。


「王都の菓子か!」


「久しぶりだな!」


「休憩時間が楽しみだ!」


 グレゴールが笑う。


「おいおい、明日まで取っておけよ」


「分かってますよ、親方!」


 ……いい反応だな。


 近衛騎士団の方では、レオンとベルタへ箱を渡す。


「レオン。ベルタ。これは騎士団のみんなへ」


「我々にも?」


「ああ」


 レオンが箱を見る。


「ありがたい。皆も喜ぶだろう」


 ベルタが中身と数量を確かめた。


「分配はこちらで行います」


「頼む」


「公平に配りますので、ご安心ください」


 レオンが小声で言った。


「……俺の分は、少し多めにしてくれないか?」


「副団長」


「……冗談だ」


 ベルタが無表情で頷く。


「では、通常どおりです」


「……はい」


 俺は笑いを堪えた。ユキが横から言った。


「ベルタ、えらい!」


「ありがとうございます、ユキ」


 レオンが肩を落とす。


「……俺も副団長なんだがな」


「レオンも、えらい!」


「……!」


 レオンの顔がぱっと明るくなった。


「おお!ありがとうユキ!」


 ……単純だな、この副団長。


     ◇


「さて……」


 俺はテーブルを見渡した。品物は、ほとんどなくなっていた。


「これで全員に渡せたかな」


 アルノが頷く。


「はい。大きな抜けはないと思います」


「よかった」


 ユキが満足そうに胸を張った。


「おみやげ、かんりょう!」


「お疲れ様、ユキ」


「ムフー!」


 すると、こびゃっこがふわりと浮いてきた。


「ヒカルよ」


「何?」


「びゃっこの鈴は?」


「……あ」


「忘れておったな!」


「いや、ちゃんとあるよ」


 俺は小さな鈴を取り出した。チリン!澄んだ音が響く。


「おお!」


 こびゃっこが嬉しそうに前足を伸ばした。


「よい音じゃ!」


「どこに付ける?」


「そうじゃのう……」


 こびゃっこが考える。


「籐籠に付けるかの」


「それがいいな」


「うむ!」


 俺はこびゃっこの夜用の籐籠を収納から取り出し、持ち手の付け根へ鈴を取り付けた。


 軽く揺らす。チリン!


「おお!」


「どう?」


「うむ。なかなか風情があるのう!」


 ユキが頷く。


「こびゃっこ、ちりん!」


「うむ!」


 ミナも子狐のぬいぐるみを抱えたまま、鈴の音へ反応した。


「ちりん!」


「そうだぞ」


「こびゃこ、ちりん!」


「……む?」


 ミナがこびゃっこへ近づく。


「だっこしゅゆ!」


「……またかえ!」


 俺は思わず笑った。


「首に鈴を付けたら、ますます人気者だぞ」


「びゃっこは鈴付きの玩具ではないのじゃ!」


 しかし、ミナはもうこびゃっこへ両手を伸ばしている。


「こびゃこ!」


「……やれやれ」


 こびゃっこが、観念したように高度を下げた。ぎゅうっ。ミナが、子狐のぬいぐるみと一緒に抱きしめる。


「きちゅね! こびゃこ!」


「……うむ」


 ユキも横から抱きついた。


「みんな、いっしょ!」


「むぎゅう!」

 

 俺は思わず笑った。すると、ユキが何かを思い出したように、ぴんと狐耳を立てた。


「おっちゃん!」


「ん? どうした?」


「まだ!」


「まだ?」


「おみやげ!」


「……あれ? 誰かの分を忘れてたか?」


 ユキが首を横に振った。


「ちがう!」


「違う?」


「おっちゃんの!」


「……俺の?」


「うん!」


 そういえば、帰りの車の中でもそんな話をしたな。


 みんなのお土産は買ったものの、自分の分は何も買っていなかった。するとユキが、自分の木製の鳥の玩具を貸してくれると言ってくれたのだ。


「もしかして、鳥の玩具か?」


「うん!」


「でも、あれはユキのお土産だろ?」


「む!」


 ユキが真剣な顔で首を横に振った。


「ユキと、おっちゃんの!」


「……二人の?」


「うん!」


 俺は収納から、東岸補給基地で買った木製の鳥の玩具を取り出した。


 小さな台の上に、二羽の鳥が並んでいる。片方の頭を指で押すと、もう片方が持ち上がる仕組みだ。


「これだな?」


「うん!」


 ユキが嬉しそうに受け取ると、鳥の頭を指で押した。コクン。


「こっち、ぺこり!」


 反対側を押す。コクン。


「こっちも、ぺこり!」


「ははっ。やっぱり面白いな」


「ムフー!」


 ユキは二羽の鳥を交互に動かしてから、俺へ差し出した。


「おっちゃん!」


「ん?」


「これ、ふたりの!」


「そうか。俺とユキのお土産にしてくれるのか」


「うん!」


 ユキが二羽の鳥を指さした。


「こっち、ユキ!」


「うん」


「こっち、おっちゃん!」


「……なるほど」


 俺は思わず笑ってしまった。二羽の鳥が並んでいるから、俺とユキ。ユキなりに考えてくれたんだな。


「ありがとう、ユキ。嬉しいよ」


「ムフー!」


「じゃあ、俺たちの部屋に飾ろうか」


「うん!」


「どこがいい?」


 ユキが少し考える。


「おっちゃんの、つくえ!」


「机の上か」


「うん! いつも、いっしょ!」


「そうだな。そこなら毎日見られるな」


 横から、こびゃっこがふわりと近づいてきた。


「ほう。二羽の鳥とは、なかなかよいのう」


「こびゃっこも、いっしょにみる!」


「そうじゃの」


 ユキはもう一度、木製の鳥を交互に動かした。コクン。コクン。


「ユキ、ぺこり!」

 

 ユキがちょこんと頭を下げる。


「おっちゃんも、ぺこり!」


「はいはい」


 俺もユキに合わせて、ちょこんと頭を下げる。


「……ぷっ!」


 ユキが吹き出した。


「おっちゃん、とりみたい!」


「俺が鳥なのか?」


「うん!」


「じゃあ、ユキも鳥だな」


「ユキ、しろぎつね!」


「そこは譲らないのか!」


 ユキが声を上げて笑った。……まったく。みんなへのお土産を選んでいる時も、帰りの車の中でも、ユキはずっと俺のことを気にしてくれていたんだな。俺はユキの小さな頭を撫でた。


「大事にしような、ユキ」


「うん!」


「二人のお土産だからな」


「ふたりの!」


 ユキが満足そうに頷いた。


 東岸補給基地での買い物は、これでようやく本当に終わりだな。みんなの手元には、それぞれのお土産が行き渡った。


 テーブルには菓子と茶葉。子供たちの笑い声。そして、ミナに抱きしめられているこびゃっこ。うん。金貨を使った甲斐があったな。


 ユキが俺を見上げた。


「おっちゃん!」


「ん?」


「みんな、うれしい!」


「そうだな」


「おみやげ、せいこう!」


「ああ。大成功だ」


 ユキが満足そうに頷く。


「なら、よし!」


     ◇


 お土産の配布が一段落したところで、ガランが俺のところへやってきた。


「ヒカル。ロクから聞いたぞ」


「ああ、棘狼のことか」


「そうだ。十頭ほどの群れだったそうだな」


「今まで遭遇した中では、一番多かったと思う」


「場所は?」


「東岸補給基地から、湖岸沿いに百十四・六キロの地点だ」


 俺は手帳を開き、帰路で書いた記録を見せた。


 ガランが覗き込む。


「……ずいぶん細かいな」


「車の距離計で測ったからな」


「なるほど」


「湖畔からなら、およそ百四十九・二キロ。途中の草地で囲まれかけた」


「被害は無かった様だな」


「ああ。棘狼の方は二頭を倒して、残りは逃げた」


 ガランが頷いた。


「なら、ひとまずよかった」


「ただ、十頭近い群れがいるなら、今後の通行には注意が必要だな」


「そうだな。あの辺りは、まだ十分に調べられていない。群れが移動している可能性もある」


 そこへ、リーファが近づいてきた。


「棘狼の話?」


「ああ。帰り道で遭遇したんだ」


「十頭ほどいたって聞いたわ。随分大きな群れね」


「そうなんだ。二頭は倒したけど、残りは逃げた」


 リーファが少し考える。


「それなら、周辺に別の群れがいないかも気になるわね。棘狼は獲物を追って移動することもあるし」


「やっぱりそうか」


「ええ。ただ、今すぐ危険が迫っていると決めつけるのも早いわ。場所と移動方向を記録しておくのがいいと思う」


「そのつもりだ」


 ロクも横から頷く。


「狼型の魔物は、群れが大きいと厄介っす。あの辺りを通るなら、見張りを増やした方がいいっすね」


「王国側にも情報を共有するつもりだ」


 セレナが言った。


「アルノ殿と相談して、報告書へ追加しましょう」


「お願いします」


 俺は頷いた。


「それと、倒した二頭を収納してある。魔石もまだ取り出していないから、あとで確認したい」


 ドランが横から顔を出した。


「棘狼の棘なら、素材として使えるかもしれんぞ」


「ああ。鑑定でも素材の表示が出ていた」


「実際に使えるかは、実物を見てからじゃな。硬さや加工のしやすさも分からん」


「じゃあ、前に倒した二頭分と合わせて明日確認しよう。今日はもう遅いし」


 前に倒した二頭とは、俺がこの世界に来てすぐに出くわした、ユキを襲おうとしていた一頭と、レイシス皇国への移動中、森で出くわした一頭の事だ。こちらの二頭は既に魔石は回収している。


「うむ。それがよかろう」


 リーファも頷いた。


「そうね。ヒカルたちは長距離を移動してきたんだから、今日は休んだ方がいいわ」


「そうするよ」


「ユキちゃんも、ずっと車に乗っていたんでしょう?」


「うん!」


 ユキが胸を張る。


「ユキ、がんばった!」


「ええ。お疲れ様」


 リーファが微笑む。


「でも、今夜は早く寝るのよ」


「む?」


「明日も元気に遊びたいでしょう?」


「うん」


「だったら、しっかり休まないとね」


「わかった!」


 ……ユキは相変わらず、リーファの言うことには素直だな。


     ◇


 夕食の支度が進み、食堂タープにはいつもの賑やかな声が戻ってきた。


 ミーシャは新しい小物入れをリリアへ見せ、トトは早速、手帳の最初のページに何かを描き始めている。ニナは工具袋を腰へ当てて、ドランと収納位置の相談をしていた。


 テオはテーブルで木製の車輪付き玩具を動かし、ミナは子狐のぬいぐるみを抱えたまま、横に座っている。


「ほらほら、みんな。もうすぐ夕飯だよ!」


 厨房からマルタの声が飛んできた。


「手を洗って、席に着きな!」


「はーい!」


 ミーシャが返事をする。ユキも勢いよく手を上げた。


「てあらい!」


「そうそう、ユキもちゃんと洗うんだよ」


「うん!」


「ミナも一緒にね」


「あい!」


 ミナがユキの後ろを追いかける。……まるで小さな狐の姉妹だ。

 

 この世界へ来て、三か月以上になった。最初は、ユキと二人きりで、明日の事を考えるだけで精一杯だった。


 だが今では、旅先で何十人分ものお土産を買って帰るようになった。……随分と大きな群れになったものだ。


「おっちゃん」


「何?」


「つぎも、おみやげ?」


「……行く機会があったらな」


「ユキ、またくばる!」


「そうだな」


 こびゃっこが横から口を挟んだ。


「次は、びゃっこ専用の土産袋も必要じゃな!」


「何をそんなに入れるんだよ」


「夢と希望じゃ!」


「昭和のアニメか!」


 ユキが笑い、ミナも笑う。食堂の向こうから、ミーシャとトトの笑い声が聞こえた。


 ……さて。明日からは、また仕事だ。《始マリノ祠》の工事もある。東岸補給基地への報告を受けて、王国側との連絡も続けなければならない。


 シオンのことも、ガルムのことも、まだ何一つ解決していない。八の月1日まで、残された時間は限られている。それでも今夜くらいは、みんなで無事に帰ってきたことを喜んでもいいだろう。


続く


     ◇


【第150話・収支報告】

異世界生活103日目

七の月2日・夕方

オリエント王国歴952年


開始残高:3,114,180pt


今回の新規購入:なし


今回支出合計:0pt


残高:3,114,180pt − 0pt =3,114,180pt

円換算目安:311,418,000円相当(1pt=100円)

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