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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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第138話 白狐神と収穫前夜


 異世界生活98日目。

 六の月27日の朝。


「灯った」


「一個目な」


「こっちも灯ったにゃ!」


「ミネット、屋根から照明確認しなくていいから降りてこい」


「上からの方が分かりやすいにゃ」


「屋根に上がりたいだけだろ」


 朝食を終えたあと、俺たちは昨日の続きで仮設厩舎に集まっていた。


 今日の残工事は多くない。屋根の南寄りに取り付けておいた架台へソーラーパネルを固定し、配線を建物内へ引き込んでポータブル電源へ接続したあと、厩舎内の照明回路を最終結線して点灯確認を行えば工事そのものは終了する。


 ソーラーパネルの架台は以前、ミネットと俺で屋根工事の途中に取り付けておいたので、今日はパネル本体を載せて固定するだけだった。


 もちろん「載せるだけ」と言っても高所作業なので適当に済ませるわけにはいかない。


 朝一番で屋根材と架台の固定状態を再確認し、ミネットが安全帯を付けて屋根へ上がり、俺とエリオットが地上側から部材と配線を渡す。


 グレゴールは厩舎全体の最終確認、カイルとレイルは給水、ドランとボルガは馬房金具、ニナは工具と点検表。


 ユキは青ライン入り白ヘルメットで規制線の外、こびゃっこは今日は俺の肩ではなくユキの横に浮いている。


「おっちゃん」


「ん?」


「あと、なんこ?」


「照明?」


「うん」


「全部点くか確認するだけだから、あと少し」


「きょう、できる?」


「問題なければな」


「もんだい、でる?」


「出ないでほしい」


「じゃあ」


 ユキが両手を胸の前で合わせた。


「でませんように」


「神様が工事の無事故祈願してる」


「よいではないか」


 こびゃっこが頷く。


「白狐神直々の祈願じゃ。これほど縁起のよい現場はないぞ」


     ◇


 屋根のソーラーパネル固定は一時間もかからなかった。


 ミネットが架台へパネルを載せ、ボルトと金具を順番に締めていく。固定後は端部を一つずつ確認し、風で浮かないか、波板へ無理な荷重が掛かっていないかを見る。


「固定よしにゃ」


「配線側は?」


「こっちへ落とすにゃ」


「了解」


 屋根から下ろしたケーブルは事前に通してある保護管へ入れ、壁際から厩舎内の電源区画へ引き込む。


 ポータブル電源は馬が直接触れられない管理区画へ置いたスチール製収納ボックスの中へ収め、水場からも離し、埃や藁が溜まり過ぎないよう周囲にも余裕を取った。


「ニナ」


「うん」


「電源区画、何を見る?」


「水、来ない。馬、届かない。線、踏まない。熱、こもらない」


「よし」


「あと」


「何?」


「前に道具、置かない」


「それ大事」


 ニナは点検表へ鉛筆で印を付けた。


     ◇


 最後は照明回路だ。


 エリオットが昨日までに済ませていた配線を俺がもう一度確認し、端子処理、極性、ケーブル保護、器具側の固定を順番に見る。


「ヒカル」


「ん?」


「そこは昨日俺も見たぞ」


「分かってる」


「三回目だぞ」


「三回見て壊れるわけじゃない」


「まあな」


「電気は見えないから嫌なんだよ」


「そこは俺も同意する」


 結線を終え、ポータブル電源を起動。


 異常表示なし。


「じゃあ点けるぞ」


 近くにいた全員が照明を見る。


「点灯」


 スイッチを入れると、ぱっと馬房列のLED照明が一斉に灯った。


「おお」


 グレゴールが声を上げる。


「明るいな」


「昼だから分かりにくいけど、夜なら十分」


 エリオットが奥を見る。


「影も思ったより少ない」


「馬の目へ直接入らない角度にしたのが効いてる」


「保護カバーも問題ない」


 カイルが給水側から声を掛けてきた。


「水も全部出るぞ!」


「漏れは?」


「なし!」


「レイル側は?」


「排水もよし!」


 ドランが最後の馬房扉を開閉し、ボルガがその横で腰壁を拳で軽く叩いた。


「ぐらつきもないよ」


「床も終わった」


 グレゴール。


「マット端部も浮いてない」


「ニナ」


「記録、全部した」


 俺は厩舎の入口から中を見渡した。


 二十三頭分の馬房に腰壁、扉、給水、ゴムマット、照明、屋根、それに広めに取った端部二馬房と掃除道具や敷料の管理場所。


 建物としては、これで完成だ。


「じゃあ」


 俺は少し声を張った。


「仮設厩舎、工事完了!」


「おお!」


 グレゴールが手を上げ、ドランとボルガが拳を合わせる。


「終わったにゃー!」


 ミネットが猫耳を立てる。


「かんせい!」


 ユキも両手を上げた。


「完成じゃ!」


 こびゃっこまで浮き上がり、ニナは点検表の一番下へ大きく丸を付けた。


「完成」


「お疲れ」


「うん」


「でもまだ終わりじゃないぞ」


「馬、入れる」


「そう」


 ニナはすぐ理解した。


 工事は終わった。


 次は運用だ。


     ◇


 そこへハロルドと近衛の騎士数人がやってきた。


「終わりましたか?」


「ああ。建物としては完成」


「では午後から馬を?」


「急がなくていい。今日は馬房の匂いと床を確認させて、順番に入れた方がいいと思う」


 ハロルドが頷く。


「その方がいいでしょう。馬によっては新しい場所を嫌がります」


「そこは任せる」


「承知しました」


 少し後ろにはレオンとベルタもいた。


「ついに完成か」


「昨日あれだけ仮設扱いを疑っただろ」


「まだ疑っている」


「仮設だって」


「二十三頭入って水と灯りがある物を、王都では普通、仮設とは呼ばん」


「解体しやすいから仮設」


「もうそこは諦めた」


 ベルタは俺たちの会話を無視してポータブル電源の管理表を見ている。最近彼女は電気やバッテリーなど色々と勉強している。


「充電量の確認は毎朝ですか?」


「基本はな。日照が悪い日が続いたら使用時間も見る」


「夜間に残量が落ちた場合は?」


「予備電源へ切り替え。電源自体は収納にも予備がある」


「切替手順を後でください」


「手順書を作るよ」


「ありがとうございます。私も確認します」


「分かった」


 ベルタに設備を渡すと点検項目が増える。


 でも、その方がいい。


     ◇


 午前十時を少し回った頃には、仮設厩舎の工事区域も解除した。


「おっちゃん」


「ん?」


 ユキが完成した厩舎を見る。


「おうま、きょう、ねる?」


「たぶんな」


「おうち、できた」


「馬のな」


「よかった」


「そうだな」


「つぎ、ほこら」


「午後からな」


 ユキが腕を組む。


「かんとく、いそがしい」


「昨日も言ってたぞ」


「おっちゃんも」


「俺もな」


 こびゃっこが割り込む。


「びゃっこも忙しいぞ」


「お前は午後、歴史監修と撮影見習い」


「現場総監督補佐兼神事監修主任兼撮影――」


「長い。増やすな」


     ◇


 昼食後、午前の厩舎工事組は少し長めに休憩を取り、午後から森の《始マリノ祠》予定地へ移動した。


 昨日張った水糸と丁張りはそのまま残っている。


 今日から本格的な整地と基礎工事へ入るが、大木の根があり、排水があり、祠本体だけでなく鳥居と参道もあるので、全員で同じことをするのではなく仕事を分ける。


 俺はツチノコで整地と排水溝の掘削。


 バドルは石材基礎とU字溝。


 カイルとレイルは排水勾配。


 グレゴールは祠本体の据付高さ。


 ミネットは屋根と枝、それに砕石均し。


 エリオットは将来照明を入れる場合の配線経路。


 ドランとボルガは基礎石材と固定金物。


 ニナは測量、記録、工具と撮影機材管理。


 ユキは監督。


 こびゃっこは神事監修兼撮影見習い。


 セルドとフィン、それにシルヴァンたち近衛弓士班は少し離れた外周警戒だ。


     ◇


「びゃっこは撮影じゃ!」


 こびゃっこが首から4K小型カメラを下げ、三脚の横で前足を上げる。


「頼むぞ、撮影見習い」


「まだ見習いなのかえ! もう相当撮っておるぞ!」


「撮影回数と昇格は別問題」


「厳しいのう……」


 そこへニナが赤いワゴンから工事記録用カメラを取り出した。


「こびゃっこ、三脚」


「うむ! 撮影主任復帰のためにも今日は自分でセッティングしてみようかの」


「持てるの?」


「……」


 こびゃっこが、自分より遥かに大きい三脚を見る。


「ニ、ニナよ、共同作業としようではないか」


「やっぱり持てないよね」


「共同作業じゃ」


「その身体のサイズで無謀なことするな」


「ヒカルは黙っておれ!」


 結局いつも通り、ニナが三脚を運んだ。


     ◇


 撮影場所は、祠予定地から鳥居まで全体が見える少し斜め前方にした。


「ここ?」


 ニナが三脚を開く。


「もう少し右じゃ」


「これくらい?」


「そうじゃ。祠と鳥居が両方入るようにしたい」


 ニナがカメラを載せ、高さを調整する。


 こびゃっこは地面からでは画面を確認しづらいので、ふわりとカメラの横まで浮き上がって液晶を見る。


「もう少し下じゃな」


「下?」


「うむ。水糸も入れたい」


 ニナが雲台を少し下へ向ける。


「これ?」


「よいぞ!」


「水平見る」


 三脚の水準器を確認し、ニナが脚を少し調整した。


「泡、真ん中」


「完璧じゃ!」


「助手にセッティングさせる大御所カメラマンか!」


 俺は思わず突っ込む。


「思い出すのう……モデル時代に、カメラマンの横で助手が三脚を動かしておったものじゃ」


「お前、動かす側じゃなくて撮られる側だっただろ」


「細かいことを言うでない。撮影現場というものは、皆で一枚を作り上げるものなのじゃ」


「急にそれっぽいこと言い始めたな」


「びゃっこはモデル《イナリ・ミコ》として数多の撮影現場を経験しておる。構図を見る目は養われておるぞ」


 こびゃっこが得意げに胸を張る。


 ニナはそんなこびゃっこを見上げたあと、三脚の脚へもう一度手を伸ばした。


「こびゃっこ」


「なんじゃ?」


「まだ、みならい」


「ぐっ……」


「しかも三脚、自分でできない」


「身体の大きさは技量とは別問題じゃ!」


「カメラも、ニナがつけた」


「それも身体の大きさの問題じゃ!」


「水平も、ニナ」


「……」


「大御所、助手に全部やらせてるぞ」


「大御所ではない! 撮影見習いじゃ!」


「自分で言ったな」


「ぐぬぬ。言わされた気がするのじゃ!」


 ユキが三脚の横から液晶を覗き込み、小さく頷く。


「ニナ、えらい」


「ありがと」


「びゃっこは?」


「……みならい」


「ユキよ、せめて『がんばってる』くらい付けてくれぬか?」


 ユキは少し考える。


「こびゃっこ、がんばってる、みならい」


「む。昇格せんのう……」


     ◇


 三脚カメラは固定撮影。


 こびゃっこは必要な工程だけ首の小型カメラで空撮する。


 ただし重機が動いている間は勝手に飛ばない。空撮する時はいったん作業を止め、ツチノコやプレート転圧機のエンジンを切ってから行わせる。


 まず祠の基礎予定地から鳥居予定地まで表面の草と柔らかい土を取り除き、昨日印を付けた大木の根には近づかず、ツチノコの排土板で表土だけを薄く押していく。


 表土を取り終えると、祠基礎の場所から鳥居予定地まで砕石を敷き、グレゴール、エリオット、ドラン、ボルガ、ミネットがレーキで広げていく。


 ニナも子供用の軽いレーキを持った。


「ユキも!」


「監督はレーキ持たない」


「む」


「全体を見る仕事」


「ぜんたい、みる」


「そう」


「だいじ」


「大事」


     ◇


 祠予定地と参道の砕石がだいたい均一になったところで、今ある約八十キロタイプのプレート転圧機を出した。


 広い場所では使いやすいが、今回のように参道が狭く、木の根や排水溝予定地を避けながら動かすには少し重い。


「もう一台あった方がいいな」


「同じのを買うにゃ?」


 ミネットが首を傾げる。


「いや、軽いやつ」


 ショップを開き、六十キロ級の小型プレート転圧機を見つけた。


【小型プレート転圧機・60kg級 620pt】


「これだな」


 購入して収納から出す。


「小さいにゃ」


「今あるのより二十キロくらい軽い」


「私でも使いやすそうにゃ」


「最初は俺がやるから見てろ」


「分かったにゃ」


     ◇


 一往復だけ俺が操作を見せ、そのあとミネットへ交代する。


「おお……軽いにゃ」


「八十キロのより取り回ししやすいだろ」


「方向変えるのが楽にゃ!」


 ぶるるるるるる。


 猫耳を揺らしながらミネットがゆっくりプレートを進めていく。


「これはいいにゃ。前のは向きを直す時に少し気合いがいるにゃ」


「狭い現場ならこっちの方がいいな」


「ミネット専用にゃ?」


「違う」


「即答されたにゃ」


 広く取った祠基礎周囲はドランとボルガが八十キロタイプ、参道と鳥居周辺は俺、ミネット、エリオットが六十キロタイプを交代で使った。


     ◇


 転圧が終わったところで、ツチノコと二台のプレートを停止させ、周囲の作業員もいったん手を止める。


「こびゃっこ」


「待っておった!」


「空撮していいぞ」


「遂に見習い空撮班の出番じゃ!」


 ニナが三脚カメラの録画状態とバッテリー残量を確認したあと、こびゃっこの首の4K小型カメラを真っ直ぐに直す。


「これでいい」


「うむ。ありがとう、ニナ」


「三メートルくらいまで。大木の枝へ近づくなよ」


「了解じゃ!」


 ふわりと浮く。


「おお、よく見えるぞ!」


「どんな感じ?」


「鳥居から祠まで、砕石が一本につながっておる!」


「ゆっくり横へ流して撮れ。急に向きを変えると映像酔いする」


「びゃっこも学んでおる!」


「撮影見習いだからな」


「そこを毎回付けるでない!」


     ◇


 次は排水だ。


 昨日の雨の残り方を見て、祠の周囲と参道の両脇へ幅十五センチのU字溝を入れることにした。


【15cm U字溝・接続材・敷砂・追加砕石一式 840pt】


 祠の大木側から来る水を左右へ逃がし、そこから参道両側へU字溝を伸ばして鳥居より先で既存地形へ自然に流す。


 もちろん大木の根は横切らない。


 ツチノコのバケットで製品幅より少し広めに掘削し、根が近い場所は人力へ切り替えた。


 底へ薄く砕石を入れ、カイルとレイルが勾配を確認しながらU字溝を並べていく。


「動く」


 バドルが一つを足で軽く押した。


「下?」


「ああ。砕石が足りん」


 持ち上げ、少し足して据え直す。


「よし」


 こういうところは完成すればほとんど目立たない。


 でも雨が降った時には、こういう部分が一番働く。


     ◇


「次、石だな」


 バドルが祠の基礎予定地を見る。


 今回の《始マリノ祠》は、湖畔祠より森の湿気を受けやすく、大木の根を避ける必要もあるので、位置を調整した独立基礎の上へ石材台座を組む。


 ショップのカタログから候補を出す。


「これは?」


「柔らかすぎる」


「こっち」


「水を吸いそうだ」


「じゃあ、これ」


 バドルの目が止まる。


「……これだ」


「即決?」


「色もいい。目も詰まっている」


【基礎・台座用石材、固定材一式 1,900pt】


 購入して一つ出すと、バドルは表面を撫で、側面を見て、軽く叩いた。


「いい石だ」


「気に入った?」


「気に入った」


「じゃあ決定」


「余った石も捨てるな」


「もう余りの予約?」


「使える石は使う」


「了解」


     ◇


 夕方が近づく頃には、朝まで水糸だけだった場所がかなり変わっていた。


 祠の設置場所は砕石を入れて転圧済み。


 そこから鳥居予定地までの参道も締め固めた。


 両側には幅十五センチのU字溝が途中まで並び、大木側から来た雨水を祠へ溜めず、参道の外へ逃がす形も見えている。


 基礎用石材も決まり、バドルが気に入った石が施工場所の脇へ積まれている。


「おっちゃん」


「ん?」


「ここ、あるく?」


「完成したらな」


「ユキ、いちばん?」


「監督様が最初?」


「うん」


 こびゃっこが三脚カメラの横から口を挟む。


「その時は正面から撮るぞ!」


「ニナにセットしてもらってからな」


「分かっておる!」


「こびゃっこも、いっしょ」


「む?」


「あるく」


「びゃっこは撮影せねばならぬぞ」


「三脚」


「……」


 こびゃっこがニナを見る。


「撮影、手伝うよ」


「頼もしいのう」


「じゃあ一緒に歩けるな」


「うむ!」


「なら、よし」


     ◇


 作業を終えて湖畔へ戻ると、南側の橋からアルノ、ミーシャ、トト、ロク、リーファ、それにミミとクロメが帰ってきた。


「ヒカル」


 アルノが少し笑う。


「例の件です」


「……スイカ?」


「はい」


 一週間ほど前から報告は受けていた。


 実が大きくなり、果実の近くの巻きひげが枯れ始め、地面に接した部分の色も変わり、叩いた時の音も変化している。


「明日には収穫出来そうです」


「やっぱりか」


 トトも記録帳を開く。


「音も書いた」


「そこまで?」


「同じ場所で叩いた」


「ちゃんと記録してるな」


     ◇


「すいか!」


 ユキが飛んできた。


「明日採れそうだって」


「たべる?」


「収穫出来たらな」


「つめたくする?」


「何個かは冷やしたいな」


「すいか、えらい」


「そこはもう知ってる」


 以前、試食した時から評価は変わっていない。あの時はショップで買ったスイカだった。今回は違う。自分たちで植えて、世話をして、ここまで育てたスイカだ。


     ◇


 話を聞きつけ、近衛、職人、《蒼岩の盾》、特使一行まで食堂前へ集まってきた。


 《蒼岩の盾》は畑警備で外観を知っている。カイルとレイルも水捌けの下見で見ている。ミネット、ミレイ、アルバートも畑を手伝ったことがある。ただ、緑色の大きな玉に黒い縞模様という姿は、皆やはり食べ物には見えないらしい。


「中は赤い」


 俺が言うと、セレナが目を丸くする。


「……赤い?」


「黒い種もある」


「外と全く違うのですね」


 ラウルまで疑わしそうな顔をしている。


「本当に果物なのか?」


「明日分かる」


 ユキが胸を張る。


「おいしい。すいか、えらい」


「白狐神のお墨付きなら信用するしかないか」


「ユキ」


「失礼、ユキのお墨付きだ」


     ◇


 明日と明後日はカレンダー通りの休日だ。


「工事は休み。畑も最低限の世話だけ。ただスイカは収穫時期を選ぶから、希望者がいるなら明日の午前中に採りたい」


「行くにゃ」


 ミネットが即答する。


「私も」


 エレナ。


「僕も」


 テオ。


「ミナも!」


 ほとんど全員が手を上げた。


「休みだぞ?」


「だから行くにゃ」


「全員参加イベントじゃないんだけどな……」


     ◇


 夕食はいつも以上にスイカの話で盛り上がった。


 以前の試食でスイカを気に入っているユキは早くも「すいか、えらい」と明日の収穫を楽しみにし、ミナは「しゅいか、あか」と覚え、テオはどれくらい重いのか予想し、ニナは秤をどこへ置くか考えている。


 トトは今日描いたスイカの絵を騎士たちへ見せながら、前に食べた時と同じように種にも興味を示していた。


 ミレイとミネットは、


「やっぱり不気味にゃ」


「赤い実に黒いタネがたくさん……」


「そこにゃ。本当に食べられるのかにゃ?」


 と猫族同士で妙なところに意見が一致している。


 アルバートは甘味としてどう出すかを考え、マルタはまずそのまま食べてからと言い、ドランは酒に合うかをまだ考えていた。


 セレナたちは何故か、


『白狐神の里における、豊穣の加護を授かった初の自家栽培スイカ収穫』


 と記録し始めた。


「ただのスイカ収穫だから」


「でも白狐神が監督を」


「そう記録すると全部儀式になるから」


     ◇


 夜。風呂を済ませ、明日の予定を確認してから住居ユニットへ戻った。


「おっちゃん」


「ん?」


「あした、すいか」


「ああ」


「つめたくする?」


「何個かは冷やそう」


「うんみゃあ」


「もう食べた顔してるな」


「しってる」


「そうだった」


「すいか、あまい。みず、いっぱい」


「覚えてるな」


「えらい」


「そこも変わらないか」


「でも、こんど、ユキたちの」


「ああ。みんなで育てたスイカだ」


「もっと、えらい?」


「それは明日食べてから決めろ」


「む」


 こびゃっこは枕の間に置いた籐籠へ入りながら笑った。


「自分たちで育てた西瓜となれば、また格別じゃろうな」


「そこは俺も楽しみだよ」


「夏といえば西瓜じゃからの。日本の夏じゃ!」


 明日は休みだ。工事も止まる。


 スイカを採って、食べて、少しくらいのんびりすればいい。


 そんな普通の休日になると、この時の俺は思っていた。


続く。


     ◇


【第138話・収支報告】


異世界生活98日目

日付:六の月27日

オリエント王国歴952年


開始残高:3,122,365pt


今回の購入:


・小型プレート転圧機・60kg級 620pt

・15cm U字溝、接続材、敷砂、追加砕石一式 840pt

・《始マリノ祠》基礎・台座用石材、固定材一式 1,900pt


今回支出合計:3,360pt


現在残高:


3,122,365pt − 3,360pt

= 3,119,005pt


円換算目安:


3,119,005pt × 100円

= 約311,900,500円相当


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