第129話 白狐神、お姉ちゃんになる
ミナが目を覚まし、ユキとお互い自己紹介をしてから、三十分ほど経った。まだ熱は少しある様だ。水分は一度に飲ませず、少しずつ。
スプーンで口元へ運ぶと、ミナは最初こそ警戒するように見ていたが、隣にテオがいることを確かめてから小さく口を開いた。
「はい。ゆっくりな」
「……あい」
一口。そしてもう一口飲ませる。飲み込むたびに赤茶色の狐耳が少し動く。
「もう少しいける?」
「う?」
「お水。もう少し飲む?」
「あい」
返事が少し強くなった。さっきまで弱々しかった声に、少しずつ三歳児らしい音が戻ってきている。ベッドの横では、なぜかユキが真剣な顔でその様子を見守っていた。
「おっちゃん」
「何?」
「ミナ、みずのんだ」
「ああ」
「ミナ、えらい」
「そうだな」
するとミナがユキを見る。
「……えらい?」
「うん」
ユキが頷く。
「ミナ、えらい」
ミナはしばらくユキを見つめたあと、ほんの少し笑顔で胸を張った。
「……ムフー」
「君は褒めると伸びるタイプかな?」
体調はまだ完全ではない。でも本来の性格は、どうやらちゃんと戻ってきているらしい。
◇
昼過ぎ。ミナはお粥を数口食べた。テオもラウルも、午前中よりは顔色が良くなっている。
三人とも診療所へ運び込んだ時点で、身体は温かいタオルで拭いてある。服も、汚れと衛生状態を考えて全部交換した。
今着てもらっているのは診療所用に以前用意していた、前合わせの甚平に近い患者着だ。薄手で柔らかく、寝たままでも着替えさせやすい。
ラウルは紺、テオは薄い緑。ミナは薄いピンク色。俺の世界なら病院の検査着と作務衣の中間みたいな物だ。
「これ、ふく?」
ミナが自分の袖を引っ張る。
「今はな。病気とか怪我してる人が着る服」
「びょーき?」
「ミナは疲れてるから、元気になるまで着よう」
「げんき?」
「元気になったら別の服を選ぶ」
そこへユキが反応した。
「ユキ、えらぶ」
「ユキが?」
「えらぶ、だいじ」
前にも同じことを言っていた気がする。するとミナが首を傾げる。
「う?」
ユキは自分のデニムサロペットの胸元を両手で持った。
「ユキ、これ、えらんだ」
「……」
ミナがじっと見る。白いトレーナーに青いデニムのサロペット。背中から出た大きな白い尻尾。その尻尾がゆらりと動くと、ミナの目も一緒に動いた。
「……しろ?」
「うん。ユキ、しろ」
「……あお?」
「うん。これ、でにむ」
「でにむ?」
「これ、じょうぶ、えらい」
「ミナに同じ服を選ぶのか?」
ユキは当然のように頷いた。
◇
少しして、ミナがベッドから降りたがった。
「まだ歩くのは少しだけな」
「あい!」
元気のいい返事だ。マリベルが一応身体鑑定をしてから頷いた。
「少しなら大丈夫そうです。でもふらついたらすぐ座らせてください」
「了解」
俺が手を伸ばそうとすると、それより早くユキが前へ出た。
「ミナ」
「う?」
「て」
ユキが小さな手を差し出す。
「て、つなぐ」
ミナはその手を見る。それからユキの顔を見る。そして……。
「あい」
ぎゅ。ミナはユキの手を握った。するとユキの耳がぴんと立つ。そして二人はゆっくりと歩く。ユキがいつになく慎重だ。
「ミナ、ゆっくり」
「あい」
「ここ、だんさ」
「だんしゃ?」
「つまずく、あぶない」
「ヤッ!」
「拒否しても段差はなくならないぞ」
思わず口を挟むと、ミナが俺を見る。
「……う?」
「すまん。何でもない」
数歩。また数歩歩く。診療所の中を歩いただけだが、ミナにとっては十分な運動だった。ユキが振り返る。
「おっちゃん」
「何?」
「ユキ、ミナより、おおきい」
「そうだな」
「ユキ、おねーちゃん?」
「まあ、そう言えなくもないが……」
その瞬間だった。ミナがユキの手を握ったまま、小さく言った。
「……おねーちゃ」
ユキが固まった。
「ん?」
「ユキ……おねーちゃ」
今度は少しはっきり。ユキは自分を指差す。
「ユキが?」
「あい」
「おねーちゃん?」
「あい!」
ミナの尻尾がぱたぱた動く。
「ユキねーちゃ!」
ユキの目が丸くなった。そのまま俺を見る。
「おっちゃん!」
「ああ。聞いてた」
「ユキ、おねーちゃん」
「そうらしいな」
「……」
ユキが胸を張った。ものすごく張った。
「ユキ、おねーちゃん!」
「二回も言った。俺も言った事がないのに」
今日は診療所でおとなしくしていたこびゃっこが横から飛んでくる。
「ほう。ついにユキにも妹分が出来たか」
「いもうと?」
「血の繋がった妹という意味ではないぞ。慕ってくれる年下ということじゃ」
ユキは少し考えた。
「こびゃっこ。ミナ、ユキのむれ?」
「そうじゃな」
「ユキ、おねーちゃん」
「気に入ったな、その肩書き」
◇
ミナは、初めて飛んでいるこびゃっこをまともに認識した。
「……」
赤茶色の狐耳が立ち、目が大きくなる。その視線はこびゃっこを追っている。
「しろいけ?」
「ぬ?」
「ちちゃい」
「何じゃ?」
「ふわふわ」
ミナの尻尾がぶんぶん振れ始めた。まずい。幼女のこの反応は……。
「こびゃこ!」
「こびゃっこじゃ。びゃっこは由緒正しき白狐の守護神使であって――」
「だっこしゅゆ!」
「ふむ」
こびゃっこが胸を張った。
「幼子よ。モデルの経験もあるびゃっこの高貴なる毛並みに、惹かれる気持ちは分からぬでもない」
「こびゃこ!」
「特別に抱くことを許そう」
「待て」
俺は止めようとしたが遅かった。
「あい!」
ミナが両腕を伸ばすと、こびゃっこが、その腕の中へふわっと降りる。
ぎゅううううっ。
「むぐっ!?」
「こびゃこ!」
すりすりすりすり。
「ま、待て幼子! 少々力が強――」
わしゃわしゃ。
「耳! 耳は引っ張るでない!」
「ふわふわ!」
ぎゅううう。
「ぬおおおおっ!」
神使の威厳が約五秒で崩壊した。
「ヒカル!」
「何?」
「見ておらんで助けるのじゃ!」
「いや、お前が特別に許したんだろ」
「程度というものがあろう!」
ミナはこびゃっこを胸へ押しつけ、頬ずりしている。
「こびゃこ、しゅき!」
「愛情が重いのじゃ!」
ユキが腕を組んだ。お姉ちゃんの顔をしている。
「ミナ」
「う?」
「こびゃっこ、やさしく」
「あい!」
腕が少し緩む。
「うむ。それくらいじゃ」
こびゃっこがほっとする。ミナが満面の笑顔になった。
「こびゃこ、しゅき!」
ぎゅうううう。
「むぎゅう!」
「全然分かっておらぬ!」
テオが笑った。小さな声だったが、俺は初めてこの子が普通に笑ったところを見た気がする。それに対して、ラウルは額を押さえていた。
「……神使様が」
「慣れろ」
「慣れるものなのか?」
「湖畔だと割とな」
「おっちゃん!」
ユキが呼ぶ。
「こびゃっこ、たすける」
「分かった」
俺はミナの腕の中から白い毛玉を回収した。
「ヤッ!」
ミナが頬を膨らませる。
「こびゃっこも休憩が必要だから」
「こびゃこ……」
「またあとでな」
ミナは不満そうだったが、ユキが横から言う。
「じゅんばん」
「……じゅんばん?」
「だいじ」
ミナは少し考えてから頷いた。
「あい」
こびゃっこが俺の肩の上で毛並みを整える。
「……恐ろしい幼子じゃ」
「かなり好かれたな」
「好意にも限度がある!」
◇
その後、もう一つ呼び名が増えた。俺がミナへ水を渡した時だ。
「はい」
「あい」
「おっちゃんに、ありがとうって――」
そうユキが言いかけ、ミナが俺を見ると……。
「……おちゃ?」
「俺?」
ユキが訂正する。
「おっちゃん」
「おちゃ?」
「おっ・ちゃん」
「おっ・ちゃ?」
「ちゃん」
「ちゃ」
「ん」
「……」
ミナが真剣に考える。そしてハッと何かに気づいたように耳を立てた。
「おっちゃ!」
「惜しい」
「おっちゃ!」
「まあいいか」
ユキは納得していない。
「ミナ。おっちゃんは、おっちゃん」
「おっちゃ」
「おっちゃん」
「おっちゃ!」
「ユキ。もうそれでいいよ」
俺に新しい呼び名が増えた。
◇
夕方になって、三人を風呂へ入れることにした。
診療所へ運んだ時にも身体は拭いてあるが、三年間の収容生活と逃亡生活だ。身体を洗えるなら洗った方がいい。
ただしラウルの脚は今日処置したばかり。湯船につけるのは禁止。防水処置をして、シャワーだけにする。
「まずミナからね」
いつもユキを風呂に入れてくれるリーファに、ミナの入浴をお願いした。彼女は快く引き受けタオルと着替えを抱える。
「それじゃあミナちゃん。私とお風呂行こうか」
「ユキも?」
ミナが聞く。
「ユキも入るか?」
俺が聞くと、ユキは即答した。
「はいる!」
「おねーちゃんだから?」
「うん」
ユキは胸を張る。
「ミナ、ふろ、しらない?」
「たぶんな」
「ユキ、おしえる」
「リーファの言うことも聞けよ」
「うん。リーファ、しっぽのかかり」
するとミナがユキへ近づく。
「ユキねーちゃ、いっしょ!」
「あい」
「お前まで『あい』になってるぞ」
リーファが笑いながら二人を連れていった。
◇
しばらくして、風呂の方では声が響いていた。
「おゆ!」
ミナが驚いた様に声をあげる。
「おゆ、でた!」
すかさずユキが言った。
「しゃわー、えらい」
「しゃわー、えらい!」
ミナはユキの言葉を完全に真似している。
一方、診療所に残っていたテオが聞いてきた。
「本当に、お湯が出るの?」
「出る」
「火を焚いてないのに?」
「給湯器って道具で温める」
「きゅう……?」
「見た方が早いな」
ラウルも窓の外を見ている。診療所から北側に住居ユニットと、その裏手には風呂場がある。
更に奥の方には、二階建てプレハブの職人宿と近衛騎士団の宿が並ぶ。
風呂場の方には、一番手前に洗濯物の干し場所のポリカーボネイト屋根が見える。次に洗濯ハウス、風呂場、男女別トイレユニット、工事事務所、作業場兼倉庫が順に並び、倉庫の裏手には群れの鍛冶場がある。
診療所から東の湖側を見ると、食堂の大型タープテントが四つ並び、脇には厨房として設置された八坪のユニットハウス。その裏手には手洗いや歯磨きで使う、洗面所スペースがある。
診療所から南側は祠が見える。更にその奥には鋼橋、そして畑を囲む単管パイプと緑色のネットで作られた塀が見える。
拠点各所のポールライトが灯り始めた。再度北側を見ると、一番遠くには厩舎。
「ここは……村なのか?」
「俺も分類に困ってる」
「オリエント王国の砦とか」
「近衛騎士団が常駐しているが違う」
「町を開拓しているのか?」
「まだそこまでは」
「だが、水が出て、灯りがあり、診療所があり、風呂まである。しかも今まで見た事がない資材で造られている」
「増えた」
「増えた?」
「ああ。必要になったから作った」
ラウルはしばらく黙っていた。
「……白き神獣の里とは、こういう場所なのか」
「伝承の里の事を言うのであればそれは違う」
「違うのか?」
「昔の里はここよりも大きな里だった」
「知っているのか?」
「あー、それについては話が長くなる」
◇
ミナとユキが風呂から戻ってきた。ミナの赤茶色の髪と耳はふわふわだ。尻尾も汚れが落ちて、本来の色が分かるようになっている。
「ミナ、ふわふわ!」
本人も分かっているらしい。
「綺麗になったな」
「ムフー!」
ミナが得意気に尻尾を膨らませている。ユキも白い尻尾をいつも以上に膨らませていた。
「おっちゃん」
「何?」
「ミナ、あらった」
「リーファがだろ」
「む。ユキも」
リーファが後ろから苦笑する。
「尻尾にお湯を掛けてあげてたわ」
「ユキ、おねーちゃん」
「はいはい」
「む」
◇
次はテオとラウル。俺が風呂ユニットへ連れていく。ラウルは松葉杖代わりの補助具を使う。
「ここだ」
扉を開ける。テオが固まった。
「小さい四角の部屋の中に……水?」
「蛇口をひねれば出る」
俺はシャワーを出す。最初は水だがすぐ温水になる。
「うわっ!」
テオが後ろへ下がった。
「大丈夫。熱くない」
手で触らせる。
「あったかい……」
「温度は変えられる」
「これ、ずっと?」
「タンクの水と燃料がある間は」
ラウルもシャワーを見つめている。
「これは王侯貴族の魔道設備か?」
「俺の世界だと普通の家にもある」
「……信じられん」
テオに先に身体を洗わせる。シャワーの使い方。シャンプーやボディソープ。最初は泡に戸惑ったが、すぐ慣れた。
「泡、すごい」
「ニナも同じこと言ってたな」
「ニナ?」
「湖畔にいる女の子だ。あとで会うと思う」
ラウルは傷を防水カバーで保護。
「脚は湯船に入れない。今日はシャワーだけ」
「分かった」
「絶対だぞ」
「……信用がないな」
「患者の『大丈夫』は信用しないことにしてる」
「厳しいな」
◇
風呂の後。三人の服を用意することにした。
「元気になったら着る服な」
診療所のテーブルへ並べる。まずミナ。小さなデニムのサロペットに白いトレーナー。狐族なので後で尻尾穴を加工する。ユキの物とほぼ同じデザインだ。
ミナが見た瞬間、耳を立てた。
「ユキねーちゃ!」
「ん?」
「おなじ!」
自分の服とユキを交互に指す。
「それがいい?」
「あい!」
「白でいい?」
「あい!」
「デニムだけど?」
「でにむ、えらい!」
「そこまで継承したか」
ユキが満足げに頷く。
「ミナ、わかってる」
次にテオ。同じくデニムのサロペットに緑のトレーナー。
「緑でいい?」
「俺が選んでいいの?」
「もちろん」
テオが服を見つめる。
「……緑がいい」
「じゃあ決まり」
最後にラウル。ジーンズに白のTシャツ。その上に羽織るデニムシャツ。
「私にも?」
「滞在中は必要になる」
「軍服は」
「洗って保管してある。補修も必要だし、まだ着ない方がいい」
「補修まで?」
俺は診療所用の患者着を指す。
「数日はそれ」
「数日?」
「最低でもな」
「明日には――」
「怪我と体調の回復次第だ」
「……」
エレナが横から笑う。
「諦めてください」
◇
夕食も三人は診療所で摂ってもらう。まだ普通食へは戻さない。柔らかいご飯に薄味のスープ。煮た野菜に少量の白身魚。ミナは小さなスプーンを持っている。
ユキがここでも、お姉ちゃんになる。
「ミナ、ごはんのとき、『いただきます』いうの」
「たーきましゅ?」
「いただきますな」
「たーきましゅ!」
「……まあいいか」
一口食べると目が丸くなる。
「おいし!」
狐耳がぴん。尻尾がぱたぱた。テオが安心したように笑う。ラウルはその二人を見てから、静かに頭を下げた。
「本当に……すまない」
「まず食べろ」
「ああ」
◇
夕食後。換気のため開放してある診療所の扉の隙間から、何かが見えていた。猫耳が……。
「……何してる?」
ぴくっ。引っ込んだ。今度は反対側から赤毛の頭が出る。
「ニナか?」
引っ込んだ。その上から別の猫耳。
「トト」
引っ込む。さらに、もっと大きい猫耳が……。
「……ミネットまで何してるんだ?」
「にゃっ」
「鳴いて誤魔化すな」
扉の外にはミーシャ、トト、ニナ。そしてなぜかミネットの四人が並んでいた。
「見に来た」
ニナが正直に言う。
「何を?」
「新しい人」
「珍獣扱いするな」
ミネットが胸を張る。
「私は付き添いにゃ」
「一番覗いてたぞ」
「気のせいにゃ」
ミーシャが診療所の中の三人を見る。ラウル、テオ、ミナ。一瞬だけ表情が変わった。首元を見たんだと思うが、もう首輪はない。たぶん、自分たちと同じ匂いを感じたのだろう。
「入っていい?」
「ああ。ただし騒がない」
「うん」
四人が入る。テオが少し緊張する。ミーシャが最初に頭を下げた。
「わたしミーシャ。八歳」
「トト。六歳」
「ニナ。七歳」
ニナは少し考えて付け加えた。
「工具担当」
「そこ必要?」
「必要」
ミネットが続く。
「ミネットにゃ。猫族。大人担当にゃ」
「最後だけ雑だな」
「細かいことは後にゃ」
テオが戸惑いながら答える。
「テオ。十歳」
ラウルも頭を下げる。
「ラウル・ブルースだ」
そしてミナ。ベッドの上でユキの隣で座っていた。そこへ俺が話かける。
「ミナ」
「言える?」
「う?」
「名前」
ユキが横から言う。
「ミナはミナ」
ミナは胸を張った。
「ミナ!」
「何歳?」
「う?」
「そこはまだ分からないよな」
ミーシャが笑った。そしてベッドの横に置いてある服を見る。
「それ、ユキと同じ?」
まだ着てはいないが、ベッド横に新しいサロペットが置いてある。
ミナがすぐ答える。
「あい!」
「ユキねーちゃと、おなじ!」
ミーシャの目が丸くなる。
「ねーちゃ?お姉ちゃんのこと?」
ユキが胸を張る。
「ユキ、おねーちゃん」
「いつの間に?」
「きょう」
「今日からなんだ」
「うん」
トトが少し笑う。
「ユキ、妹できた」
「いもうと?」
ユキが俺を見る。
「こびゃっこも言ってたけどまあ、妹分だな」
「ミナ、いもうと」
「血縁じゃないけどな」
「おなじ、むれ」
「それなら合ってる」
ミナも真似して頷く。
「あい。むれ!」
意味をどこまで分かっているのかは怪しい。でも……まあいい。
◇
その時。
「こびゃこ!」
ミナが何かを見つけた。俺の肩の上のこびゃっこ。
「ぬ?」
「だっこしゅゆ!」
「待つのじゃ」
こびゃっこが一歩下がる。
「先ほど十分抱いたであろう」
「こびゃこ!」
「まず話し合おうではないか」
ミネットが面白がって目を輝かせる。
「神使様、かわいいにゃ」
「ミネット!幼子を煽るでない」
ミナが両手を伸ばす。こびゃっこが俺の頭の後ろへ逃げる。
「おっちゃ!」
「今度は俺か」
「こびゃこ!」
「こびゃっこは休憩中」
「ヤッ!」
頬がぷくっと膨らむ。ユキがお姉ちゃんらしく前へ出た。
「ミナ」
「う?」
「こびゃっこ、つかれた」
「……」
「あとで」
「……あとで?」
「うん」
ミナは少し考える。こびゃっこを見て、もう一度ユキを見る。
「あい」
こびゃっこが盛大に息を吐いた。
「助かったのじゃ……」
ユキが胸を張る。
「ユキ、おねーちゃん」
「今日はそれ何回目だ」
ミナがユキへ抱きつく。
「ユキねーちゃ!」
「うん」
そしてユキもミナを抱き返した。少しぎこちない。でもちゃんと、落とさないように。
いつも俺に抱っこされていた五歳の白狐神が、三歳の狐族の子を一生懸命抱えている。
俺はそれを見ながら思う。また増えた。守る家族みたいなものが。群れの家族が。
「おっちゃん」
「何?」
「ユキ、おねーちゃん、なった」
「ああ。そうだな」
ユキは嬉しそうに笑った。その腕の中で、ミナの赤茶色の尻尾がぱたぱたと揺れていた。
湖畔の群れに、新しい姉妹が一組増えた。
続く。
◇
【第129話・収支報告】
異世界生活93日目
日付:六の月22日
オリエント王国歴952年
開始残高:3,122,955pt
今回の購入:
・ミナ用デニムサロペット、白トレーナー、下着、靴下、子供靴、尻尾穴加工用品 105pt
・テオ用デニムサロペット、緑トレーナー、下着、靴下、子供靴 105pt
・ラウル用ジーンズ、白Tシャツ、デニムシャツ、下着、靴下 100pt
・追加タオル、歯ブラシ、コップ、洗面用品等 三人分 60pt
今回支出合計:370pt
現在残高:3,122,955pt − 370pt
= 3,122,585pt
円換算目安:3,122,585pt × 100円
= 約312,258,500円相当




