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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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120/139

第120話 白狐神と群れの映画鑑賞


 異世界生活88日目。

 六の月17日の夜。


 食堂タープの一角に、百インチの白いスクリーンが立っている。


 その少し離れた場所には、プロジェクター。工事事務所から持ってきたDVDプレーヤー。電源は食堂用のポータブル電源から取った。


 配線は壁際と言ってもタープだから柱際だが、そこへまとめ、ニナとベルタにも確認してもらった。


 準備完了。問題は……。


「で、何を見るんだ?」


 レオンが椅子へ座りながら聞いてきた。


「びゃっこじゃ!」


 こびゃっこが最前列のテーブルで前足を上げる。


「最初はびゃっこの思い出の映画じゃ! これは譲れぬ!」


「そもそも、お前のリクエストから始まったからな」


「うむ!」


 こびゃっこの細い吊り目が、今日は妙に輝いて見える。ユキ、ミーシャ、トト、ニナは前の方。その後ろにリリア、アルノ、マリベル、マルタ。さらに職人たち。《東風の牙》《蒼岩の盾》。非番の近衛騎士。特使セレナと随員ファビイ、ビオラ。


 さすがに全員ではない。警備や馬の世話に出ている者もいる。それでも、四十二インチテレビでは絶対に無理だった人数だ。


「三本用意した」


「三本?」


 ユキが指を三本出す。


「全部見るの?」


「体力次第」


「びゃっこは見るぞ!」


「お前の体力基準に合わせるな」


「千年級じゃ!」


「途中四百年以上休眠してただろ」


「そこを毎回数えるでない!」


 俺は最初のDVDを持ち上げる。


「まず、こびゃっこの希望。俺の世界で昔作られたアニメ映画だ」


「アニメ?」


 セレナ。


「絵を少しずつ動かして、本当に動いているように見せる映像ですね」


「絵が?」


 ベルタがもう怪しい顔をしている。


「機械の図面ではないぞ」


「まだ何も言っていません」


「先に釘刺した」


 こびゃっこが前足をワキワキさせ、尻尾をぶんぶん振る。


「早う! 早う入れるのじゃ!」


「はいはい」


     ◇


 一本目。画面が暗くなり、音楽が流れ始めた。


 物語の舞台は遠い未来。人間は地上だけでなく、宇宙に巨大な人工居住地を作り、そこで暮らしている。


 やがて地球側の政府と、宇宙側で独立を求める勢力が戦争を始める。


 そして、その戦争へ巻き込まれた少年が、偶然、地球側の新型巨大人型兵器へ乗り込む。……そう、こびゃっこが寝言で名セリフを語った、あの有名なロボットアニメだ。


「待て」


 開始早々、冒頭のナレーションを聴いたレオンが言った。


「何?」


「今、何と言った?」


「何が?」


「宇宙に人が住んでいる」


「そこから?」


「そこからだ!」


 シルヴァンまで画面を凝視している。


「空より上ですよね?」


「ずっと上」


「どのくらい?」


「説明すると長い」


「鳥でも行けない?」


「無理」


「飛行魔法でも?」


「たぶん無理」


 フィンが眉を寄せる。


「たぶん?」


「少なくとも普通の飛行魔法で行く距離じゃない」


 セレナが映像の巨大な人工居住地を見る。


「都市そのものを、空の外へ?」


「そう」


「何人くらい住むんです?」


「作品の設定だと、とんでもない人数」


「国家を入れるような都市を建造して、浮かべる……」


 グレゴールが既に映画ではなく構造物として見ている。


「浮かべてるというより、宇宙に置いてある」


「余計分からん」


「俺も最初から説明できる自信ない」


     ◇


 巨大な人型兵器が初めて画面へ現れる。食堂タープ全体が静かになった。


「……」


 ベルタ。


「……」


 ニナ。


「……」


 ドラン。


「……」


 ボルガ。ドワーフ勢の沈黙が怖い。


「何?」


 ベルタがゆっくり聞く。


「あれは?」


「巨大な人型兵器」


「兵器?」


「戦うための機械」


「人が中に?」


「乗る」


 ニナが俺を見る。


「おっきい」


「でかいな」


「つくれる?」


「無理」


「まだ何も調べてない」


「調べても無理」


「ほんと?」


「なぜ七歳児に技術的可能性を疑われてるんだ俺は」


 ドランが腕を組む。


「関節はどうなっておる」


「知らん」


「脚で歩く必要は?」


「作品だから」


「車輪の方が効率が――」


「映画だから!」


 ベルタが続ける。


「でも、あの重さを二本脚で支えるなら――」


「ベルタも!」


「考察です」


「今日は休みだぞ!」


「映画を見るのは休みです」


「その論法、アルバートから感染した?」


     ◇


 戦闘が始まる。巨大人型兵器同士が宇宙空間で戦う。光の武器や飛び交う弾。そして爆発。


「うおおお!」


 レオンが立ち上がりかける。


「座れ」


「今の動きは何だ!」


「見たまんま」


「急に方向を変えたぞ!」


「宇宙だから」


「ウチュウはそんなことができるのか!」


「説明が面倒になってきた!」


 こびゃっこだけは当然知っている。


「そこじゃ! そこで回頭するのじゃ!」


「お前、台詞だけじゃなく動きまで覚えてるだろ!」


「当然じゃ!」


「凄いな、何回見たんだよ」


「数えるものではない!」


 ユキがこびゃっこを見る。


「こびゃっこ、すき?」


「大好きじゃ!」


「おっちゃんより?」


「比較の対象がおかしいから」


「それは別腹じゃ!」


「俺を違う腹に入れるな」


     ◇


 物語は、少年が何の準備もないまま戦争へ放り込まれる。避難民を乗せた白い木馬と呼ばれる宇宙船。軍人ではない若者たち。逃げながら戦い、敵にもまた人がいる。


 最初は巨大兵器に夢中だった近衛たちも、少しずつ静かになった。


「……子供ですよね」


 クラウディアが言う。


「十代だな」


「兵士ではない?」


「最初は違う」


「それを戦わせるのですか」


「状況に押されてな」


 ハロルドの顔が曇る。


「人員不足か」


「それだけでもないけど、まあ」


「嫌な状況ですね」


 レオンも、さっきまでの勢いが少し消えていた。


「戦争だから、か」


「ああ」


「巨大兵器があっても、結局そこは変わらないのだな」


「何が?」


「人間がやることだ」


 珍しく静かな声だった。


     ◇


 その一方で、敵側の仮面を着けた男が出てくるたびに反応するレオンをガランが見る。


「何だ」


「いや」


「何だその目は」


「お前、こういうの好きそうだなと思って」


「格好いいではないか!」


「やっぱりな」


「仮面だぞ!」


「そこなの?」


 俺が突っ込むとセレナが笑う。


「副団長。明日から仮面を着けて巡回しないでくださいね」


「……しない」


「少し考えたでしょう」


「考えてない!」


 ベルタも言う。


「顔に出ています」


「お前は今日ずっとそれだな!」


     ◇


 そして終盤。主人公の少年が、戦いの中で少しずつ変わっていく。ユキが画面を見つめていた。


「おっちゃん」


「ん?」


「このこ、こわい?」


「怖いと思うぞ」


「でも、のる」


「乗るな」


「なんで?」


「仲間を守らなきゃいけないと思ってるんじゃないか」


「ひとり?」


「最初はそう思ってる感じがあるな」


 ユキはしばらく考える。


「でも、いっぱい、いる」


「そうだな」


 船の中には仲間がいる。


「むれ?」


「まあ、近い」


「なら、ひとりじゃない」


「そうだな」


 ユキは満足そうに頷いた。


     ◇


 一本目終了。エンドロールが流れる。こびゃっこが立ち上がった。


「続きじゃ!」


「今日は第一作だけ!」


「三部作じゃぞ!」


「知ってる!」


「続けて見るのが礼儀じゃ!」


「夜が明ける!」


「若者は夜更かしできる!」


「お前は千歳超えてるだろ!」


 ユキが聞く。


「つづき、ある?」


「ある」


「みる」


「次の休みにな」


「こびゃっこと、いっしょ?」


「ああ」


「なら、よし」


 こびゃっこだけが納得していない。


「むう。びゃっこはよくない!」


     ◇


「次は?」


 ミレイが聞いた。


「今度は、実写」


「実写?」


「本物の人間や建物を撮影して作る映画」


「さっきは絵?」


「そう」


「次は本物?」


「人や街はな」


「魔物も?」


「それは作り物」


「……ややこしいですね」


「映画ってそういうもんだ」


 俺は二枚目を入れた。


     ◇


 二本目。夜の海を進む船。そして、海から現れる巨大な生物。最初にざわついたのは職人より近衛だった。


「……魔物?」


 ハロルド。


「作り物」


「さっき言っていた?」


「そう」


「でも人間は本物?」


「役者」


「街は?」


「模型も使う」


「どこからどこまで本物なんです?」


「それを楽しむのも映画だ」


「難しい文化だ」


     ◇


 巨大な怪獣が海から姿を現す。


「……でかいな」


 グレゴールが呟いた。


「家どころではないな」


 ハロルドが身を乗り出す。


「こんな魔物が本当にいるのか?」


「だから作り物だって」


「ですが……」


 クラウディアが画面を凝視する。


「動きが妙に生々しいですね」


「着ぐるみや模型、特殊撮影を使ってる」


「着ぐるみ?」


「人が中に入って演じるものもある」


 一斉に俺を見る。


「……中に人が?」


「そう」


 レオンが怪獣を見る。俺を見る。また怪獣を見る。


「死なないのか?」


「撮影だから!」


     ◇


 怪獣が街へ侵入、建物が壊れる。


「建物まで壊れたにゃ!」


 ミネットの猫耳がぴんと立つ。


「あれも撮影用」


「壊すために作ったのかにゃ!?」


「そういう映画だからな」


 エリオットが前のめりになる。


「この建物、全部模型?」


「かなりの部分は」


「窓まで付けてある」


「付けるな」


「壊すのに?」


「壊すからこそ本物っぽく作るんだよ」


「……もったいない」


 グレゴールが深く頷く。


「分かる」


「職人に怪獣映画見せるとそこなの?」


 バドルまで画面へ寄る。


「石壁の壊れ方が軽い」


「模型だから!」


「フン。やはりな」


「そこで勝ち誇るな!」


     ◇


 近衛たちは近衛たちで違う。


「防壁がない」


 クラウディア。


「都市だからな」


「避難経路も複雑です」


「そこ分析する?」


「巨大魔物に市街へ侵入された時の参考になります」


「ならないと思う」


「しかし――」


「休み!」


「……はい」


 レオンはもっと単純だ。


「いいぞ!」


「何が?」


「巨大魔物戦だ!」


「まだ人間側押されてるけど」


「それがいい!」


「子供か!」


     ◇


 やがて、人間側の軍隊が出る。鉄の車両に長い筒を持つ兵器。そして火を噴く武器。ベルタが反応した。


「ヒカルさん」


「うん」


「先ほどから出てくる、あの鉄で覆われた車は?」


「戦車」


「センシャ?」


「戦うための車。厚い金属で覆われていて、あのでかい筒から金属の弾を飛ばす」


「弾?」


 そうだった。この世界には、銃火器そのものがない。


「あー……」


 俺は少し考える。


「俺の世界には火薬っていう、火を付けると一瞬で大量の熱とガスを出す物がある」


「火薬」


「それを頑丈な筒の中で使う。逃げ場を一方向へ限定して、その力で金属の塊を猛烈な速さで飛ばす」


 ベルタの目が変わる。


「弓矢のようなものですか?」


 シルヴァン。


「目的だけなら近い。でも仕組みは全然違う」


「魔力は?」


「使わない」


「……魔力なし?」


「そう」


 今度は近衛側が静かになる。


「訓練さえすれば、魔力を持たない者でも?」


「使える」


 フィンが腕を組んだ。


「それは……かなり社会を変える武器ですね」


「実際変えたと思う」


 ベルタが画面から目を離さない。


「ヒカルさんの世界は、妙な方向へ技術が進んでいますね」


「否定できない」


     ◇


 その時。隣のユキが怪獣を見ながら呟いた。


「おっちゃん」


「ん?」


「おっちゃんも、おおきい、まもの、たおした」


 食堂タープが静かになる。


「……ああ」


 来たか。


「みずの、おっきいへび」


「レイクサーペントだな」


「うん」


 ガランが補足する。


「全長およそ三十メートル」


 レオンの顔が変わった。


「そうだ!」


「何?」


「ヒカル殿!」


「嫌な勢いだな」


「ぜひ聞きたい!」


「何を?」


「討伐の時の話だ!」


「やっぱり」


     ◇


 周囲を見ると、近衛騎士やセレナ、ベルタ、シルヴァン、クラウディア、ハロルド、エレナ、アルバート、ミレイ。職人までこっちを見ている。


「……そんなに聞きたいの?」


「当然だ!」


 レオンが即答した。


「王国が何十年も討伐できなかった厄災級だぞ!」


 ハロルドも頷く。


「東湖岸では、漁船や護衛船だけでなく、討伐隊にも被害が出ています」


 シルヴァンが言う。


「王城へ牙を運んだ伝令隊長も東湖岸の出身です。幼い頃、父親の漁船が襲われ、同船者三名を失っています」


 俺は黙った。その話は本人から聞いている。でも、改めて聞くと重い。


 セレナが静かに続ける。


「ヒカルさんにとっては、ユキを守るために倒しただけなのでしょう」


「そうですね」


「ですが、王国側の受け止め方は違います」


 外交官としてではなく、一人の王国民として話しているようだった。


「特に東湖岸の漁師たちにとって、ヒカルさんとユキは英雄に近い存在になると思います」


「英雄って……」


「否定しても無理だ」


 ガラン。


「俺、最初は逃げようとしてたんだけど」


「それを含めて聞きたい」


 レオン。


「そこ?」


「武勇とは、恐怖を感じないことではない」


 珍しくまともな顔をする。


「怖くても必要なことをした。だから武勇なんだ」


「……」


 少し格好いい……腹立つな。


     ◇


「ユキ、いっぱい、ぱちした」


 ユキが突然両手を前へ出す。


「おい」


「こう」


 ぱちっ。小さな青白い光。


「その時はそんな可愛いのじゃなかっただろ」


「いっぱい」


 両腕を大きく広げる。


「ぱちぱちぱちーって」


「説明が雑!」


 レオンが食いつく。


「ユキが雷撃を?」


「結果的にはな」


「どの程度?」


「俺にも正確には分からない。でもレイクサーペントが一瞬動けなくなった」


 クラウディアの表情が変わる。


「厄災級を?」


「一瞬だけ」


「それでも十分です」


「ユキ、がんばった」


 胸を張る。


「ものすごく頑張ったよ」


「おっちゃん、こわかった」


「それ言う?」


「て、ふるえてた」


「そこまで言う?」


 周囲から笑いが漏れた。


     ◇


「怖かったよ。普通に」


 俺は頭を掻く。


「鑑定したら危険度は厄災級。即時撤退を推奨された」


「撤退しなかった理由は?」


 ハロルド。


「しようとは思った。でも徒歩じゃ逃げ切れない」


「それで戦う方へ?」


「そう」


「いいな!」


 レオン。


「何が?」


「そういう話が聞きたかった!」


「全然格好良くないぞ」


「だからいいんだ」


     ◇


 ユキがさらに言う。


「おっちゃん、ぶろーにんぐで、たおした」


「……ぶろーにんぐ?」


 レオンが首を傾げる。当然、全員知らない。ユキ、よく覚えてたな……。


「武器の名前」


「さっきのセンシャと同じ?」


「原理は近い」


 俺は手で筒を作る。


「人間が持って使える小型の物を銃と呼ぶ。その中でも、俺が使ったのはかなり大きい」


「ジュウ」


「そう。火薬で金属の弾を飛ばす」


「弓のように一発ずつ?」


 シルヴァン。


「物による。俺が使ったのは次の弾を自動で送り込んで、続けて撃てる」


「続けて?」


「ドン、じゃなくて」


 俺は口でやる。


「ドドドドドドッ」


 ユキも嬉しそうに続ける。


「どどどどど!」


「おっちゃん、いっぱい、どどどした」


「五歳の幼女に説明させると、全部擬音になるな」


     ◇


 俺はM2ブローニングの仕組みをざっくり説明する。人間が肩に当てて使うような小型の銃ではない。かなり重い機関銃だ。通常は台に固定して使う。俺の場合は、ピックアップトラックの荷台へ固定されていた。


「車両へ?」


 ベルタ。


「そう」


「なぜ?」


「重いし、撃つ時の反動が大きいから」


「反動?」


「金属の弾を猛烈な勢いで前へ飛ばせば、武器は後ろへ押される」


「なるほど」


「弾の太さは大体これくらい」


 一センチ少しを指で示す。


「小さいな」


 レオン。


「小さいけど、秒速八百メートル以上で飛ぶ」


「……」


 シルヴァンが止まった。


「一秒で八百メートル?」


「物によって差はあるけどな」


「私の矢など……」


「比べるものじゃない」


「それを連続で?」


「できる」


「魔法なし」


「なし」


 近衛側がまた静かになった。


     ◇


「でも、最初はもっと小さい狩猟用の銃を撃った」


「効きました?」


「全然」


「厄災級ですからね」


「鱗に弾かれた」


「では、なぜ?」


「ユキから注意を逸らしたかった」


 少し静かになる。


「結界が押されてたからな」


「ユキ、ここ、まもった」


 ユキが床を指す。


「ここ、ユキのところ。おっちゃんのところ」


「ああ」


「くるな、した」


 セレナが聞く。


「怖くなかった?」


「こわかった」


 即答。


「でも、おっちゃんも、こわかった」


「それ安心材料?」


「いっしょだから」


「……」


 言い返せなかった。


     ◇


 レオンが身を乗り出す。


「それでユキが止め、ヒカル殿がジュウキカンジュウで」


「撃った」


「どこへ?」


「頭、首。鱗が割れたところ。最後は目の周辺」


「倒れるまで?」


「撃った」


「死亡確認は?」


「鑑定でした」


「見事だ!」


「だから、その場で腰抜けそうだったんだぞ」


「なおさらだ!」


「武勇伝に変換する気しかないだろ」


「事実だ!」


 ベルタが冷静に言う。


「副団長。声が大きいです」


「今日は休日だ!」


「休日でも大きいです」


     ◇


「その魔物は、その後どうしたんです?」


 アルバート。


「収納したよ」


「丸ごと?」


「丸ごと」


「……三十メートルを?」


「入った」


 ベルタが額を押さえる。


「その収納が一番おかしい気もします」


「俺もそう思う」


 レオンが即座に聞く。


「まだあるのか?」


「ある」


「見たい!」


 セレナが苦笑した。


「陛下もかなり見たがっておられます」


「なら俺も!」


「今日は出さない」


「なぜ!」


「休日だから」


「そこまで徹底するのか!」


「三十メートルの死骸を広げるのは、休みの日の娯楽じゃない!」


「それはそうですね」


 クラウディアが真顔で頷いた。


     ◇


「東湖岸の者がこの話を直接聞けば」


 シルヴァンが静かに言う。


「泣く者もいると思います」


「……」


「湖へ出るたびに、帰れないかもしれないと考えていた者もいますから」


 セレナが続ける。


「ヒカルさんとユキが何を意図していたかとは別に、結果として多くの命を救っています」


 俺はスクリーンへ目を戻した。巨大な怪獣が街を壊している。あの日、俺はただユキを守りたかった。自分も死にたくなかった。それだけだ。


「おっちゃん」


「ん?」


「ユキも、まもった」


「ああ」


「おっちゃん、ユキ、まもった」


「ああ」


「いっしょ」


「そうだな」


 ユキが満足そうに頷く。


「やはり武勇伝だ」


 レオン。


「だから――」


「二人のな」


「……それなら、まあ」


「認めた!」


「うるさい」


     ◇


「ちなみに!」


 こびゃっこが前足を上げる。


「何だよ」


「びゃっこは、その時ヒカルの収納の中じゃった!」


 一瞬の沈黙。そこ、力入れて言うところか?


「……参加してないんですか?」


 ミレイ。


「保護されておった!」


「格好良く言うな」


「最重要VIPの警備待遇じゃ」


「当時は覚醒していないぬいぐるみだったから、戦闘も出来ないしな」


「まだ実体化前じゃったから仕方なかろう!」


 ユキがこびゃっこを持ち上げる。


「あとで、だしたよ」


「うむ!」


「みんな、ぶじだった」


「うむ!」


「なら、よし」


「白狐神から正式承認が出たのじゃ!」


「会話がひどい。何の承認だ」


 重くなりかけた空気が、また笑いに戻った。


     ◇


「もういいだろ。映画見ないか」


 俺が言う。


「後で戻してみれるのか?」


 レオン。


「できるが……」


「では、もう少し詳しく」


「はい事情聴取はこれで終了な!」


「まだジュウキカンジュウについて――」


「ベルタまで乗るな!」


 結局、怪獣映画を少し戻して再開する羽目になった。休暇の日まで厄災級討伐の事情聴取をされるとは思わなかった。


     ◇


 二本目が終わった頃には、それなりに夜も深くなっていた。


「そろそろ終わりますか?」


 リリアが聞く。


「子供たちはな」


「むう」


 ユキが不満そうにする。


「三本目」


「長いぞ」


「ユキ、みる」


「かなり長いぞ」


「みる」


 強い。ミーシャとトトを見る。


「私は見る!」


「僕も」


 ニナ。


「見る」


 満場一致に近かった。


「眠くなったら途中で寝ること。後でも見れるからな。明日も休みだから朝寝坊はいいけど、無理して起きてる必要はないぞ」


「はい!」


「うん」


「分かった」


 大人たち?聞くまでもなかった。特にエルフとドワーフが、俺の持っているDVDのパッケージ写真を気にしている。


「何が出る?」


 ドラン。


「お前ら」


「ワシら?」


「正確には、俺の世界の人間が想像したエルフとドワーフ」


 空気が変わった。


「……ほう?」


 ドランの眉が上がる。リーファも身体を起こした。


「異界の人間が考えたエルフ?」


「そう」


「面白そう。見たいわ」


「即決だな」


 俺は三枚目をDVDプレーヤーへ入れた。


     ◇


 三本目。これは、俺が選んだ。舞台が完全な架空世界(ファンタジー)のあの有名な映画だ。人間、エルフ、ドワーフ、小柄な人族に魔法使い。そして、世界を滅ぼしかねない力を秘めた指輪。その指輪を破壊するため、小柄な青年が仲間たちと旅に出る。……ざっくり言えば、そういう話だ。


「まず言っておく」


 俺はリーファ、リリア、アルノ、ドラン、ボルガを見る。


「怒るなよ」


「なぜ先に謝る」


 ドラン。


「俺の世界に本物のエルフもドワーフもいない」


「知っておる」


「全部、人間が想像して作った種族だからな」


「それも分かった」


「だから『違う』って怒るな」


「……見てから決める」


「怖いな」


     ◇


 物語の歴史が語られる。人間とエルフにドワーフ。彼らへ力を持つ指輪が渡される。そして、さらに強大な一つの指輪。開始して間もなく経ったところで……。


「待て」


 とドラン。


「早いな、おい!」


「ドワーフの王が七人?」


「そういう設定」


「多くないか?」


「そこ?」


「山一つに一人ずつか?」


「知らん!」


 リーファは画面のエルフを見ている。


「……これが?」


「そう」


「異界人の想像したエルフ」


「そう」


「綺麗すぎない?」


「本人が言う?」


「何というか」


 自分の耳に触れる。


「全員、妙に気取って見える」


「映画だから」


 リリアが微笑む。


「髪も長い方が多いですね」


「そこから?」


「気になります」


 アルノは別方向。


「寿命は?」


「ものすごく長い」


「具体的には?」


「千年単位の話が普通に出てくる」


「……長いですね」


「こっちのエルフは?」


「長命ですが、そこまでではありません」


「なら別種族だと思って観てくれ」


 アルノが真顔で言う。


「耳だけ少し親戚ですね」


「分類が雑になったな」


     ◇


 小柄な種族の村のシーン。丸い扉の家、畑、宴会、料理、酒が出てくる。


 ユキがすぐ反応した。


「おっちゃん」


「何?」


「ちいさい」


「大人だぞ」


「こどもじゃない?」


「違う」


 ニナも見る。


「ニナくらい?」


「もう少し大きい」


「でも、おとな」


「そう」


 ベルタが腕を組んだ。


「ドワーフより小柄ですね」


 ドランが頷く。


「しかし」


「何?」


「飯をよく食うのう」


 そこか。


「朝飯を食って、また朝飯を食う」


 こびゃっこが立ち上がる。


「これはよい!」


「何が?」


「素晴らしい文化じゃ!これは見習うべき習慣じゃ」


「一日何食にする気だ」


「六食!」


「却下!」


 ユキが指を折る。


「あさ、おやつ、ひる、おやつ、よる……」


「数えなくていい」


「いい、むら」


「何が?」


「いっぱい、たべる」


「お前もそこか!」


     ◇


 長い髭と杖を持つ魔法使いが出る。マリベルが前のめり。


「魔術師?」


「この世界でいうなら近い」


「術式は?」


「詳しく分からない」


「詠唱は?」


「毎回しない」


「魔力回路は?」


「知らない」


「杖は媒体ですか?」


「たぶん」


「たぶん?」


「これ映画だから!」


 エレナが笑う。


「マリベルさん、患者を診る時みたいになっていますよ」


「気になるじゃないですか」


「気持ちは分かります」


 こびゃっこが言う。


「異界人は魔法使いを長い髭にするのじゃな」


「全員じゃないがな」


「では、なぜこの者は長い髭じゃ」


「知らん!」


     ◇


 指輪を持つ青年が故郷を出る。親友がついていく。さらに二人の仲間。そこへ黒い衣装の騎手が迫る。


 クラウディアの顔が変わる。


「追跡者が馬を使っています」


「そうだな」


「小柄な徒歩の四人を追うには十分すぎる」


「映画を戦術評価するな」


 ハロルドも頷く。


「街道から外れたのは正解ですね」


「お前もか!」


「追跡回避としては基本です」


「休日どこ行った!」


     ◇


 荒野を旅する謎の剣士が現れる。レオンが静かになった。


「……」


「どうした?」


「この男」


「何?」


「強そうだ」


「俳優だからな」


「歩き方が剣士だ」


「演技だが、本職が見てもそう思うか」


「剣の持ち方が自然だ」


 ベルタが横を見る。


「副団長」


「何だ」


「手合わせはできませんよ」


「分かっている!」


「顔に出ています」


「ベルタ!」


 ガランが肩を震わせて笑っている。


「お前、映像の中の人間にまで勝負を挑むのか」


「挑まん!」


「今、挑みたそうだったぞ」


「強そうな剣士を見れば気になるだろう!」


「ならないな」


「嘘だ!」


     ◇


 エルフの里のシーン。美しい建物に川や木々。優雅な服と長い髪。湖畔のエルフ三人が揃って黙った。


「……」


「どう?」


 俺が聞くとリリアが言った。


「綺麗ですね」


「だよな」


「でも」


「何?」


「洗濯物はどうしているんでしょう」


「そこ!?」


「これだけ人が住んでいるのに」


「映画で洗濯物を映す必要ないから!」


 リーファ。


「薪割りしてる人もいないわね」


「だから!」


「弓の手入れも」


「画面外!」


 アルノが真顔で続ける。


「行政を誰が担当しているのでしょう」


「ファンタジー映画に役所を要求するな!」


 セレナが笑う。


「私は少し分かります」


「外交官まで!」


「これだけ長命な種族の共同体なら、権利関係と記録管理が大変ですよ」


「そこまで考えて作られてる……かもしれないけど今見るところじゃない!」


     ◇


 エルフの弓士が登場。リーファの目が変わった。シルヴァンまで同時に前へ出る。


「弓」


「弓ですね」


 画面では素早く矢を番え、正確に射る。


「速い」


 シルヴァン。


「かなり」


 リーファ。


「射撃姿勢は綺麗ですね」


「そこは認めるんだ」


「ただ」


 リーファが画面を見る。


「あの長髪、森だと邪魔」


「現実的!」


「枝に引っかかるわ」


「映画!」


「耳も出てる」


「エルフだから!」


「フードが欲しいところね」


「装備レビューするな!」


 シルヴァンは真剣なまま。


「矢筒の位置は参考になります」


「参考にするんだ……」


     ◇


 そして、ドワーフの戦士。


「おお!」


 ドラン。


「出た!」


 ボルガ。


「何でそんなテンション高いの」


「ドワーフじゃ!」


「知ってる!」


 低い身長、がっしりした体格。長い髭に斧を持っている。ドランが何度も頷く。


「この映画、よく分かっておる!」


「何を?」


「ドワーフには斧じゃ!」


「偏見を肯定するな!」


「それに髭!」


「そこも?」


「非常に重要じゃ」


 ボルガが聞く。


「女ドワーフは?」


「この映画にはほぼ出ない」


「なぜ」


「俺に聞くな」


「まさか女にも髭があるの?」


「原作では、外見で男女を区別しにくいみたいな話があったと思う」


「何!?」


「俺に怒るなって!」


 ベルタまで自分の顎へ触れる。


「私は生えませんが」


「知ってるよ!」


「異界では、ドワーフ女も髭があると思われている?」


「それは作品による」


 ドランが自分の髭を撫でる。


「だが、ドワーフに髭は似合う」


「お前はな」


「斧もある。高得点じゃ」


「映画を種族基準で採点するな!」


     ◇


 やがて種族の代表たちが集まり、指輪をどうするか話し合う。


 人間、エルフ、ドワーフ、魔法使い、小柄な種族。最初から仲良しではない。意見がぶつかり、疑いもある。セレナが真剣になった。


「……ここは面白いですね」


「外交官が急に食いついた」


「異種族同士の不信を無視していません」


「そこ?」


「そこが重要です」


 ガランも腕を組む。


「エルフとドワーフは仲が悪い設定か」


「そういう歴史がある設定だな」


「人間側も一枚岩じゃない」


「そう」


「それでも共通の目的で組む」


「そういう話だ」


 セレナが頷く。


「かなり現実的ですね」


「ファンタジー映画を外交事例として見るな」


「でも、異種族が複数集まれば、普通はこちらです」


「湖畔は?」


「かなり特殊です」


「そんなに?」


「かなり」


     ◇


 小柄な青年が、自分が指輪を運ぶと言う。そのシーンをユキが見て言った。


「このこ、ちいさい」


「ああ」


「こわくない?」


「怖いと思う」


「でも、いく?」


「行く」


「なんで?」


「自分がやらなきゃって思ったんじゃないかな」


 ユキは少し考えた。


「おっちゃんみたい」


「俺?」


「こわくても、する」


 さっきレイクサーペントの話をしたばかりだ。妙に刺さる。


「でも」


 ユキが続ける。


「ひとりじゃない」


 画面では、一人ずつ仲間が加わっていく。人間、エルフ、ドワーフ、魔法使いと小柄な仲間たち。


「いっぱい」


「そうだな」


「むれ?」


「まあ、そうだな」


 ユキが頷く。


「なら、よし」


     ◇


 旅が始まる。険しい山、雪、森、岩場。ロクが呟く。


「馬、使わないんすか?」


「事情がある」


「荷物重そうっす」


「そこ?」


「長距離移動は大事っす」


 ナージャまで頷く。


「装備、かなり持ってるよね」


「冒険映画を現役ハンターが荷物重量で見るな!」


「でも気になる」


「……俺も今はちょっと気になる」


     ◇


 そして、地下へ。巨大な坑道に石柱。そして大広間、地下都市が現れる。


「うおお!」


 ドラン。


「柱!」


 ボルガ。


「天井高っ!」


「削り出しか?」


 バドルまで身を乗り出す。


「石だ」


「見れば分かる!」


「この柱間隔なら――」


「荷重計算するなよ」


 グレゴールが笑う。


「職人に見せる映画じゃなかったな」


「今さら言われてもな」


 だが、その地下都市が滅びていると分かると、ドワーフたちの声が小さくなった。


「……滅びたのか」


 ドラン。


「そういう場所だ」


 ボルガが腕を組む。


「ドワーフの都市が」


「ああ」


「……嫌だね、こういうの」


 それだけは、冗談じゃなかった。


     ◇


 さらに奥。炎と影に包まれた巨大な怪物が現れた。食堂が静まる。


「……これ」


 クラウディア。


「厄災級?」


「こっちの基準を持ち込むな」


「でも……」


「気持ちは分かる」


 レオンが前のめり。


「戦うのか」


「ああ」


「魔法使い一人で?」


「ああ」


「剣も使う!」


「静かに観てくれ!」


 ユキが俺の袖を掴んだ。


「おっちゃん」


「ん?」


「これ、こわい」


「少しな」


「でも、じいじ、にげない」


「仲間を逃がすためにな」


 魔法使いに、じいじと名付けしたユキは黙って画面を見る。その先では、さっきまでうるさかった連中まで声を失った。こびゃっこもだ。


「お前も静かなんだな」


「失敬な!こういう時くらい黙るわい」


     ◇


 物語が進む。エルフとドワーフの戦士も、少しずつ互いを認め始める。ドランが腕を組みながら頷く。


「分かる」


 リーファが横を見る。


「何が?」


「最初はこうなる」


「そう?」


「エルフとドワーフじゃぞ」


「私、ドランとは最初から普通だったけど」


「お主が変わっておる」


「ドランもね」


「ほら始まった」


 シルヴァンが笑う。


「ただ、一緒に戦えば得意分野は分かりますね」


 ベルタも頷く。


「武器も身体能力も考え方も違いますから」


「湖畔みたいだな」


 俺が言う。皆が少し黙った。


「確かに」


 ガランが数える。


「人族、エルフ、ドワーフ、猫族、狼族、狐族」


「ユキも」


 白い狐耳が動く。


「そして白狐神」


「びゃっこもじゃ!」


 俺が補足する。


「毛玉も」


「最後が雑じゃ!」


     ◇


 終盤。指輪の力に心を乱される者、仲間を守ろうとする者。敵との戦い。そして、一行は別々の道へ進み始める。途中まで種族の描かれ方へ好き放題言っていた連中が、もう誰も喋っていない。


 アルバートも、ミレイも、ベルタも、ニナも。ユキはいつの間にか俺の腕へ身体を寄せている。


 やがて映画が終わり、画面へ文字が流れる。しばらく誰も立たなかった。


     ◇


「……ながい」


 最初に口を開いたのはユキ。


「三時間近いからな」


「でも」


「何?」


「つづき、ある?」


「ある」


 狐耳が立つ。


「みる」


「今日はもう無理」


「つぎ」


「次の休み」


「やくそく?」


「ああ」


「なら、よし」


「びゃっこも賛成じゃ!」


「お前は前にも見てるだろ!」


「何度見てもよいものはよい!」


     ◇


 問題は、その後だった。


「ヒカル殿」


 レオン。


「何?」


「あの剣士の構えについて――」


「知らない」


「まだ聞いていない!」


 ベルタ。


「あのドワーフが使っていた斧ですが」


「映画の小道具!」


「形状に意味が――」


「俺は美術担当じゃない!」


 リーファ。


「あのエルフ弓士の矢筒」


「お前まで?」


「位置が気になる」


 シルヴァン。


「私もです」


「弓士二人で検証会始めるな!」


 マリベル。


「あの魔法使いの術式体系は――」


「分からん!」


 セレナ。


「種族代表者による会議運営についてですが――」


「外交分析するな!」


 ドラン。


「地下都市の柱間隔を――」


「建築図面ないから!」


 ボルガ。


「女ドワーフの髭ってどうなのさ」


「まだそこ!?」


     ◇


「普通に映画を見られないのか、お前ら」


 俺は頭を抱えた。


「おっちゃん」


「ん?」


「おもしろかった?」


「映画はな」


「みんなも?」


 周囲を見る。エルフはエルフを気にして、ドワーフはドワーフを気にしている。騎士は剣と戦いを見て、弓士は弓を見る。魔術師は魔法を見て、外交官は種族会議を興味深く見る。もちろん職人は建物だ。


 ベルタとニナは、巨大兵器から斧まで何でも構造を見る。そして子供たちは、ただ物語を楽しんでいた。


「……まあ、面白かったみたいだな」


「なら、よし」


 ユキが笑った。アニメに巨大人型兵器。怪獣映画に、自分たちが倒した厄災級。そして異世界の人間が想像した、もう一つの異世界。


 一本見せるたびに質問は増えた。映画鑑賞というより、異文化交流会に近い。しかも、上映時間より上映後の質問会の方が長くなりそうだ。


「おっちゃん」


「何?」


「つぎのやすみ」


「うん」


「つづき」


「分かったよ」


「それと!」


 こびゃっこが割り込んだ。


「最初の続編もじゃ!」


「わかった、わかった!」


「その次は二十一日と二十二日の二日間あるぞ!」


「そういう計算だけ速いな!」


「段取りじゃ!」


「休日まで段取りするな!」


 笑い声が食堂タープに広がる。工事は、一ミリも進んでいないけれど。この二日間は、たぶんそれでいい。湖畔に増えた人たちが同じものを見て、笑って、驚いて、自分たちの世界との違いを話す。それも、ここで一緒に暮らしていくための時間なのだろう。


 スクリーンの白い光が消え湖畔には、いつものポールライトだけが残った。


 明日も休みだ。少なくとも今夜は――。もう何も作らなくていい。


続く


⸻


【第120話・収支報告】


異世界生活88日目

日付:六の月17日・夜

オリエント王国歴952年


開始残高:3,126,078pt


今回の購入:


・休日上映用DVD 3本

 SFロボットアニメ劇場作品、怪獣特撮映画、異世界冒険ファンタジー映画

 90pt(約9,000円)


・上映中の飲料、ジュース、茶、コーヒー、軽食類

 42pt(約4,200円)


今回支出合計:


132pt(約13,200円)


現在残高:


3,126,078pt − 132pt = 3,125,946pt


円換算目安:


3,125,946pt × 100円 = 約312,594,600円相当


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