第12話 白狐神とエルフの青年
森の中を歩き始めて、しばらく経った。
隊列は、先頭にロク。その後ろにガラン。中央にユキと俺。左右をリーファとマリベル。最後尾にドラン。
予定通りの配置だ。
ただし、一つだけ予定と違うことがあった。ユキは俺の手を握って歩いていない。俺の胸の前にいる。
「おっちゃん、だっこ」
途中までユキは俺の手を握って歩いていたが、神様と言えどやはり五歳児。歩幅の違う大人達と森の中を長時間歩くのは無理の様だ。
「疲れたか?」
「しっぽ、むーってする。あしも、むーってする」
「尻尾も足も、むーってするのか」
「うん。だから、だっこ」
ユキはフード付きマントを着たまま、こびゃっこを胸に抱えている。背中には尻尾隠し用の大きなリュック。耳はフードで隠れているが、抱っこするとリュックが少し邪魔だ。
だが、ユキは当然のように俺に抱きついていた。
「……まあ、しょうがないか」
「ユキ、かるい?」
「軽い」
本当に軽い。いや、五歳児相当なのだから軽いのは当然だが、それにしても身体への負担がほとんどない。昨日の朝までの俺なら、十数分で腕と腰が悲鳴を上げていたはずだ。
なのに今は違う。息が乱れない。足も重くならない。腰も痛くない。前にユキを抱えて歩いているのに、驚くほど疲れない。
「……おかしいな」
「おっちゃん?」
「いや、疲れない」
俺がそう呟くと、近くを歩いていたリーファがこちらを見た。
「ユキを抱えて、森道を歩いているのに?」
「ああ。正直、ほとんど疲労がない」
ガランが振り返る。
「加護の影響だろうな」
「身体能力軽度上昇と疲労回復力上昇、だったか」
「軽度、という言葉にしては効果が大きく見える」
「俺もそう思う」
ロクが鼻をひくひくさせながら言った。
「ヒカルさん、汗の匂いが少ないっす。普通、子供を抱えて森を歩けば、もっと体力を使うっすよ」
「そんなところまで分かるのか」
「鼻は便利っす」
ドランが最後尾から豪快に笑った。
「白狐神の加護つきの父親か。なかなか見ない組み合わせだな」
「父親じゃない。世話係だ」
ユキが俺の胸元で顔を上げる。
「おっちゃんは、おっちゃん」
「そうだ」
「でも、だっこする」
「まあ、それはする」
「おっちゃん、えらい」
「はい、評価いただきました」
ユキの背中のリュックが、もこっと揺れた。
「しっぽも、えらい」
「尻尾は今、リュックの中で我慢中だろ」
「しっぽ、がまんしてる。えらい」
「確かに偉い」
そんなやり取りをしながらも、俺の神経はずっと尖っていた。木々の奥に何かいるかもしれない。足元の落ち葉の下に穴があるかもしれない。
枝の影が魔物に見える。鳥が飛び立つだけで肩が跳ねる。肉体は疲れていない。だが、精神はかなり疲れる。
レイクサーペントの後だから、余計に警戒しているのだろう。
「おっちゃん、きょろきょろ」
「警戒してるんだよ」
「こわい?」
「怖い」
「ユキも、こわい」
「そうか」
「でも、ロクが、まえにいる」
「ああ」
「ガランもいる」
「いるな」
「リーファも、マリベルも、ドランもいる」
「うん」
「だから、こわいのちょっと」
「ちょっとは怖いのか」
「こわいの、ぜんぶなくならない」
俺は少し驚いて、ユキを見た。
五歳児らしい言葉なのに、妙に本質を突いている。
「そうだな。怖いのは、全部なくならないな」
「でも、ちょっとなら、あるける」
「抱っこされながら言う台詞か?」
「ユキ、あるいてるきもち」
「気持ちだけか」
ユキは真面目な顔で頷いた。
すると前方でロクが足を止める。同時に、耳がぴんと立った。ガランが低い声で聞く。
「どうした」
「魔物っす。近い」
空気が一瞬で変わった。リーファが弓を構え、ドランが斧に手をかける。マリベルが杖を握る。
俺はユキをそっと下ろした。
「ユキ、俺の後ろへ」
「うん」
ユキはこびゃっこを抱えたまま、俺の後ろへ回った。草むらが揺れる。
低い唸り声。木々の間から現れたのは、背中に黒い棘を生やした狼型の魔物だった。
棘狼。スパイキーウルフ。俺が異世界に来て、最初に撃ち殺した魔物。
鑑定が反応する。
⸻
【鑑定結果】
対象:スパイキー・ウルフ
分類:魔物
危険度:低〜中
状態:興奮、空腹
推奨:距離を取り、落ち着いて対処してください。
⸻
「……棘狼」
俺の手が一瞬、ライフルを探しかけた。だが、ライフルは収納している。ここで銃声を響かせるわけにはいかない。
俺の左腰には日本刀がある。今朝取得したばかりの剣術。抜刀術。実戦で使ったことなど、当然ない。
ガランが剣に手をかける。
「俺が出る」
「待ってくれ」
俺はそう言った。自分でも声が少し震えてるのがわかる。
「ヒカル?」
「試したい。危なそうなら止めてくれ」
ガランは一瞬だけ俺を見た。それから頷く。
「分かった。だが無理はするな」
「ああ」
スパイキーウルフが唸る。俺の心臓が跳ねた。怖い。銃で撃った時とは違う。距離が近い。相手の牙も、息も、爪も見える。
刀で斬る。そんなことを本当に俺ができるのか?
指先が冷え、喉が乾く。足が逃げたがっている。その時、頭の奥に静かな表示が浮かんだ。
⸻
【マインドフルネス スペシャリスト資格】
恐怖反応を検知しました。
呼吸を整えてください。
推奨:
一、息を吐く
二、吸う
三、視界を広げる
四、今できる行動を選択する
⸻
「……息を吐け」
俺は自分に言い聞かせようと、小さく呟き息を吐く。
「ふー……」
吸う。
「すー……」
もう一度、吐く。怖いものは怖い。だが、恐怖に飲まれたまま動くよりはましだ。
足。間合い。刀。鞘。ユキの位置。ガランたちの位置。スパイキーウルフの肩。踏み込み。
見えた。
スパイキーウルフが跳んだ。俺は半歩だけ引き、左手で鞘を押さえる。間合いぎりぎり。近い。近すぎる。だが、剣術スキルが告げる。
今。
「――ッ!」
抜いた。自分の腕が、自分のものではないように動いた。鞘引き。朝の森に、銀色の線が走る。
刃は飛びかかってきたスパイキーウルフの首から肩口へ入り、そのまま斜めに抜けた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、魔物の巨体が崩れ、地面に転がった。血が落ち葉に散る。俺は刀を振り抜いた姿勢のまま固まった。
「……え?」
自分で声が出た。斬れた。いや、斬れすぎた。ガランが目を見開いている。リーファも弓を構えたまま動かない。
ドランが低く唸った。
「今のは……」
ロクの耳がぴんと立ったまま固まっている。
「速すぎるっす」
マリベルが小さく息を呑む。
「一撃で……」
ユキだけが、俺の後ろから顔を出した。
「おっちゃん、かたな、すごい」
「いや、俺もびっくりしてる」
本当にびっくりしている。心臓はまだうるさい。手も震えている。だが、刀は確かに魔物を斬っていた。
ガランが近づいてくる。
「ヒカル。今のは…抜刀術っだったか?」
「……ああ、そのはずだ」
「はず?」
「今日覚えたばかりだからな」
「今日覚えた技で、棘狼を一刀両断したのか」
「言われると俺が一番困る」
ドランが腕を組んだ。
「細身の剣で、あの速度と斬れ味。異界の剣術、恐ろしいな」
「ああ刀がすごい。スキルもすごいが、俺本人は今、膝が笑ってる」
ロクが俺の足元を見る。
「本当っす。ちょっと震えてるっす」
「そこは見るな」
ユキが俺のズボンを掴む。
「おっちゃん、こわかった?」
「ああ。怖かった」
「でも、たおした」
「スキルのおかげだ」
「おっちゃん、えらい」
「ありがとう」
俺は深く息を吐いた。刀についた血をどうするか分からず、剣術スキルに従って慎重に払う。さらに布で拭き、納刀した。
かちり、と鍔が鳴る。その音で、ようやく自分が生きている実感が戻ってきた。
鑑定する。
⸻
【鑑定結果】
名称:棘狼
読み:スパイキー・ウルフ
分類:魔物
状態:死亡
素材:牙、皮、棘、肉、魔石
魔石位置:胸部中央付近
⸻
「魔石は回収しておくか」
俺は防護手袋とナイフを出し、手早く魔石を取り出した。以前よりは、少しだけ作業に慣れている。慣れたくはないが。
⸻
【魔石を回収しました】
棘狼の魔石:魔石ポイント換算 350
【魔石ポイントに変換しますか?】
⸻
「変換」
⸻
【魔石ポイント +350】
⸻
「少し戻ったな」
死骸は収納する。牙、皮、棘、肉も一応素材として保存しておく。
ガランがその様子を見ながら言った。
「今の一件で分かった。ヒカルは銃を使わずとも、相当戦える」
「やめてくれ。自信を持たせないでくれ。調子に乗ると死ぬタイプだ」
「それを自覚しているなら大丈夫だ」
「そういうものか?」
「ああ。自信過剰よりはずっといい」
リーファが微笑む。
「それに、ユキを守るなら、剣を使えるのは大きいわ」
マリベルも頷く。
「レイシスでは、異界の武具よりも刀の方が目立ちません」
「この刀も十分珍しいだろ」
「珍しいですが、異国の剣の一種として説明できます」
「なるほど」
ユキが俺を見上げる。
「おっちゃん、かたな、つかう?」
「できれば使わない方がいい」
「なんで?」
「使う時は危ない時だから」
「じゃあ、つかわないほうがいい」
「ああ」
「でも、つかうとき、おっちゃん、えらくなる」
「その評価はありがたいな」
ロクが周囲を確認してから言う。
「今の棘狼、単独っす。他に近い気配はないっす」
ガランが頷く。
「なら進む。だが、ヒカルの刀は戦力に数える」
「数えないでほしい」
「無理だ」
「即答か」
こうして、俺の抜刀術実戦初使用は、俺自身が一番驚く形で終わった。
森の中を進む。しばらくして、ガランが休憩を告げた。
少し開けた場所だった。大きな倒木があり、周囲は視界が通る。ロクが周囲を確認し、リーファが木の上を見上げる。安全だと判断されて、ようやく腰を下ろした。
俺はユキのリュックを外した。中から、ふわっと白い尻尾が解放される。
「しっぽ!」
ユキが嬉しそうに尻尾を抱えた。
「しっぽ、むー、なくなった」
「よかったな」
「しっぽ、ふわふわ」
「潰れてなくてよかった」
リーファが微笑ましそうに見る。
「本当に立派な尻尾ね」
ユキは尻尾を抱いたまま胸を張る。
「ユキのしっぽ、えらい」
「ええ。とても」
ロクが小さく呟く。
「俺の尻尾、完全に負けてるっす」
「勝負するものなのか?」
「獣人的には、ちょっと気になるんすよ」
「そういうものか」
ユキがロクの尻尾を見る。
「ロクのしっぽも、ふつうにえらい」
ロクが感動した顔をした。
「ユキさ……!」
「ユキでいい」
「ユキちゃん」
「それでいい」
ロクは許されたようだった。
俺は収納から水と軽食を出す。ユキにはビーフジャーキーを小さく切ったもの。それから小さな飴。
「これは?」
「飴だ」
「あめ?」
「甘い」
ユキの耳が立つ。
「あまい」
「噛まずに舐める」
「なめる」
「喉に詰まらせるなよ」
「ユキ、つよい」
「強さと飴は関係ない」
俺は小さな飴を渡す。ユキはそっと口に入れた。
一瞬、固まる。次に、目が丸くなる。
「……あまい」
「そうだ」
「あまい、石?」
「食べられる石みたいなものだな」
「すごい」
「気に入ったか?」
ユキは頷いた。
「でも、ほっとみるくのほうが、しあわせ」
「ホットミルク、強いな」
「にくは、えらい。ほっとみるくは、しあわせ。あめは、すごい」
「分類が増えた」
ドランが興味津々で飴を見る。
「ヒカル、それは酒に合うか?」
「たぶん合わない」
「そうか」
なぜ少し残念そうなのか。俺は皆にも飴を配る。休憩中、ガランが改めて地図を広げた。
「今日の目標は、この沢の手前までだ」
彼は地図に記された一点を指す。
「ここに野営できる場所がある。水も取れる。森の中では比較的安全な地点だ」
「比較的、か」
「ああ。この森で絶対安全な場所はない」
「湖畔は?」
「ユキの結界があるなら別だ。むしろ相当安全だろう」
そう考えると、ユキの鳥居結界はかなり貴重だ。低級魔物の侵入抑制だけでも、野営の安心感が違う。
「途中、レイシス側の斥候や奴隷狩りに遭う可能性は?」
「ゼロではない」
ガランの声が低くなる。
「森の外縁部では、奴隷狩りが動くことがある。だが、この深さまでは普通入らない。入れば死ぬからな」
「でも、ユキは見たと言っている」
「ああ。それが気になる」
ガランはユキを見た。
「ユキ、その首に紐をつけられた者を見た場所は、湖に近かったか?」
ユキは飴を舐めながら首を傾げた。
「んー」
「ゆっくりでいい」
「みずのにおい、ちかくなかった。木がいっぱい。こわいにおいのひと、さんにん。くびにひも、ひとり。ないてた」
「その時、ユキはどうした?」
「かくれた」
「捕まえようとされたのは?」
「べつのとき。おおきい声のひと。ユキ、いや。だからとりい、かいた。ぱちってして、にげた」
「なるほど」
ロクが顔をしかめる。
「奴隷狩りの小隊かもしれないっすね。逃げた奴隷を追って森に入ったとか」
リーファが頷く。
「レイシスでは、逃亡奴隷を追う者たちがいるわ。森に逃げ込む奴隷もいるでしょうね」
ユキが俺の袖を掴む。
「おっちゃん」
「大丈夫だ」
「くびに、ひも、いや」
「ああ。嫌だな」
俺はユキの頭を撫でる。胸の奥が重い。奴隷制度。物語やゲームの中ではよく見る言葉だ。だが、ここでは現実らしい。
首に紐をつけられて泣いていた誰か。捕まえようとした大人たち。ユキがそれを見ていた。五歳の神獣が。
「ガラン」
「何だ」
「もし道中で逃亡奴隷を見つけたら、どうする?」
ガランは少しも迷わなかった。
「助けられるなら助ける。だが、親書の任務を危険に晒すなら判断が必要だ」
「現実的だな」
「助けたいと思うことと、助けられることは違う」
「……そうだな」
「ただ」
ガランは俺を見る。
「お前がいるなら、できることは増えるかもしれない」
「俺に期待されても困る」
「レイクサーペントを倒して、棘狼を一刀両断した男が、それを言うか?」
「できれば、どっちも二度とやりたくない」
「分かっている。だが、選択肢があることは重要だ」
選択肢。確かにそうだ。サバゲースキルの火器は危険だが、選択肢にはなる。剣術も、さっき初めて実戦で使えると分かった。
使うかどうかは別。でも、どうしようもない時に打てる手があるのは大きい。俺は深く息を吐いた。
「無茶はしない。けど、見捨てる前に考える」
ユキが俺を見る。
「だんどり?」
「ああ。段取りだ」
「ユキも、だんどりする」
「頼む」
ユキは飴を口の中でころころしながら、真剣に頷いた。
「にくも、わすれない」
「それは別の段取りだ」
休憩後、俺たちは再び森を進んだ。昼近くになると、少しずつ森の様子が変わってきた。
木々の間隔が広くなり、地面に湿った苔が増える。小さな沢の音が聞こえるようになった。
ロクが前方で手を上げ、全員が足を止めた。ガランが低い声で聞く。
「どうした」
「血の匂いっす」
緊張が走り、ユキも鼻を動かした。
「ち、ある」
「魔物か?」
俺が聞くと、ユキは首を振った。
「ひとのにおい、ちょっと」
人の血。俺の背中に冷たいものが走る。するとガランが手で合図を出した。
リーファが弓を構え、ドランが斧を握る。マリベルが杖を構え、ロクが低い姿勢で前へ進む。
俺も刀の柄に手をかけ、ユキを背中に隠す。
「ユキ、俺の後ろにいろ」
「うん」
「こびゃっこも離すな」
「こびゃっこ、まもる」
森の奥へ、慎重に進むと沢の音が近くなる。そして、倒れた木の陰に、それはいた。
人だった。若い男。耳が長い。エルフか?服は破れて首には、金属の輪。そこから切れた鎖が垂れていた。
腕と足には傷。背中にも鞭のような痕。生きているが、かなり弱っている。
ユキが小さく息を呑んだ。
「くびに、ひも」
いや、これは紐ではない。首輪だ。奴隷の首輪。俺は思わず拳を握った。
ガランが短く言う。
「マリベル」
「分かっています」
マリベルがすぐに駆け寄る。
彼女は男の状態を確認し、杖をかざした。淡い光が男の身体を包む。
「命はあります。ただ、衰弱がひどい」
リーファの顔が険しくなる。
「レイシスの奴隷首輪ね」
ドランが低く唸った。
「胸糞悪い」
ロクが周囲の匂いを確認する。
「追っ手の匂いがあるっす。まだ新しい」
ガランの表情が鋭くなる。
「人数は?」
「四、いや五。人族。犬もいるかもしれないっす」
「奴隷狩りか」
俺の心臓が早くなる。いきなりもう遭遇した。逃亡奴隷。そして追っ手。
ユキが俺の服を掴む。
「おっちゃん」
「ああ」
「たすける?」
俺は倒れているエルフを見る。首輪。傷。衰弱。見なかったことにはできない。けれど、ガランの言葉も頭にある。助けたいことと、助けられることは違う。
俺は深く息を吸った。
「ガラン。追っ手は来るか?」
「このままなら来るだろう」
「逃げる時間は?」
「負傷者を抱えてでは厳しい」
「なら、迎え撃つしかないか」
ガランが俺を見る。
「やるのか」
「やらない選択肢も検討したいが」
俺はユキを見る。ユキは真剣な目をしていた。
「くびに、ひも、いや」
「ああ」
俺は頷いた。
「やるしかないな」
ただし、異界の火器は出さない。ここは森の中だ。視界も悪いし、音も目立ちすぎる。できるだけ、この世界の常識から外れすぎない方法で。
俺は四十の手習いを開いた。鑑定が連動提案を出す。
⸻
【四十の手習い連動提案】
現在の状況に適した手習い候補:
・応急手当
・ロープワーク
・護身術
・トレイルランニング
・かくれんぼ
最優先候補:応急手当、ロープワーク
⸻
「かくれんぼって何だよ……」
いや、隠れる技術としては馬鹿にできないのかもしれない。だが今は応急手当とロープワークだ。
応急手当は負傷者の管理に必要。ロープワークは罠や拘束に使える。
⸻
【手習い:応急手当を取得しますか?】
必要魔石ポイント:500
⸻
「取得」
⸻
【手習い:ロープワークを取得しますか?】
必要魔石ポイント:400
⸻
「取得」
知識が流れ込む。
止血の方法。
包帯の巻き方。
傷病者を動かす時の注意。
ロープの結び方。
素早くほどける結び。
逆にほどけにくい結び。
「よし」
俺は収納から救急用品、毛布、水、ロープを出した。
マリベルが驚く。
「救護用品まで……」
「今は説明より処置だ」
「はい」
俺は倒れているエルフの体温を保つために毛布をかけ、水を少しずつ飲ませる準備をする。
首輪はどうするか。鑑定する。
⸻
【鑑定結果】
名称:奴隷拘束首輪
性質:魔力封印、位置追跡、所有者命令反応
解除:専用鍵、または高度な解呪が必要
危険:無理に破壊すると装着者に損傷の恐れ
⸻
「最悪だな」
無理に壊せない。位置追跡もある。
「マリベル、解除できるか?」
彼女は首輪を見て首を振った。
「時間があれば試せますが、今すぐは難しいです。無理に解呪すると彼が危ない」
「追っ手に位置が分かるのか」
「おそらく」
鑑定どおり隠れても追われる。なら、ここで待つしかない。
ガランが短く言う。
「迎撃する。ヒカル、ユキを守れ」
「分かった」
だが、ユキが俺の袖を引いた。
「ユキも、する」
「何を?」
「とりい」
ユキは地面を指差した。なるほど。鳥居結界。
人間には完全には効かないが、魔物や犬には効くかもしれない。それに、ユキの結界があるだけで心理的な壁になる可能性もある。
「できるか?」
「できる」
「無理はするな」
「ユキ、だいじん」
「湖畔防衛担当大臣だったな」
「ここも、まもる」
ユキは地面に小さな鳥居を描いた。
「くびにひも、いや。こわいひと、くるな」
指先がぱちっと光る。鳥居紋が淡く輝いた。さらに俺も周囲に鳥居を描くき、ユキが一つずつ放電していく。即席の小さな結界が、倒れたエルフと俺たちの周囲に張られた。
鑑定。
⸻
【鑑定結果】
名称:簡易守護結界
基点:鳥居紋 五箇所
効果:低級魔物の侵入抑制、敵意ある接近への軽度阻害
術者:白狐神ユキ
補助:左近 光
状態:安定
⸻
「敵意ある接近への軽度阻害」
人間にも少しは効くようだ。ガランがそれを見て、低く感心した。
「神獣の結界か。ありがたい」
ユキは少し誇らしげに胸を張る。
「ユキ、えらい」
「ああ、偉い」
尻尾がふわっと揺れた。ロクが耳を立てる。
「来るっす」
森の奥から、足音が聞こえた。犬の唸り声。人間の荒い息。金属の音。そして、男の声。
「いたぞ! 逃亡奴隷だ!」
ユキが俺の後ろに隠れる。俺は刀の柄に手をかけ、前を見る。
奴隷狩り。人族至上主義のレイシス皇国。その現実が、いきなり目の前に現れようとしていた。
四十の手習いで神獣と呼ばれる幼女を養う。そう始まった異世界生活は、どうやら平和な湖畔暮らしだけでは済まないらしい。
俺は小さく息を吐いた。
「段取り、崩れるの早すぎるだろ……」
ガランが剣を抜いた。
「来るぞ」
森の影から、首輪を持った男たちが姿を現した。
⸻
【収支報告】
開始残高:994,986 pt
今回の収入:
・棘狼の魔石変換:+350 pt(約35,000円相当)
今回の購入:
・手習い:応急手当取得 500 pt(約50,000円)
・手習い:ロープワーク取得 400 pt(約40,000円)
今回支出合計:900 pt(約90,000円)
現在残高:
994,986 pt + 350 pt − 900 pt = 994,436 pt
円換算目安:
994,436 pt × 100円 = 約99,443,600円相当
続く




