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スキル四十(しじゅう)の手習いで神獣幼女を養います  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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11/18

第11話 白狐神、旅立つ


 異世界四日目の翌朝。俺はまだ空が白み始める前に目を覚ました。理由は簡単だ。眠りが浅かった。


 昨日のレイクサーペント。ハンターたちとの出会い。レイシス皇国。奴隷制度。そして、明日ではなく今日、俺たちはその方向へ向かう。


 不安にならない方がおかしい。


「……ライフルは、使えないよな」


 俺は小さく呟いた。ライフルも、サバゲーショップの武器も強力だ。強力すぎる。だからこそ、表立って使えない。


 森の中で魔物相手ならともかく、人里や街道で使えば間違いなく目立つ。異界人だと叫んで歩くようなものだ。


 だが、丸腰では困る。狩猟用ナイフはある。サバゲースキルでナイフの扱いも多少は分かる。だが、充分とは言えない。


「この世界なら、剣を持ってる方が自然か」


 俺は四十の手習いを開いた。



【四十の手習い候補】

現在の状況に適した手習い候補:

・剣術

・居合

・抜刀術

・古武術

・護身術


最優先候補:剣術



「……剣術か」


 趣味としての剣術。居合。抜刀術。日本刀。


 元の世界なら、道場に通う趣味だったかもしれない。だが、今の俺には旅の護身手段だ。



【手習い:剣術を取得しますか?】

必要魔石ポイント:1,500


取得内容:

・剣術基礎

・日本刀の扱い

・抜刀、納刀

・居合基礎

・間合いの理解

・足運び

・刀剣の安全管理


関連ショップ:

木刀、模造刀、居合刀、日本刀、刀袋、手入れ道具、帯、吊り下げベルト、防具



「取得」


 知識が流れ込む。


 柄の握り。

 抜く角度。

 鞘の扱い。

 間合い。

 刃筋。

 足運び。

 斬るのではなく、まず生き残るための動き。


 そして同時に、ショップが開いた。


 俺は日本刀を選んだ。華美なものではない。実用重視の日本刀。黒い鞘。地味な柄巻き。手入れ道具一式。


 それから、軍刀用の吊り下げベルト。俺の茶色いハーフコートにはサイドスリットがある。そこからデニムパンツのベルトに吊るせば、外套の下にある程度隠せる。



【購入内容】

・手習い:剣術取得 1,500 pt

・実用日本刀一式 2,300 pt

・軍刀用吊り下げベルト、刀袋、手入れ道具 300 pt


【購入合計:4,100 pt】



「購入」


 手元にずしりと重みが生まれた。刀を腰に吊るす。違和感はある。だが、ライフルよりはこの世界に馴染むはずだ。


 俺は湖畔の少し開けた場所に立ち、深く息を吐いた。


「……抜く」


 左手で鞘を押さえ、右手で柄を取る。足を半歩引き、鞘引きしつつ抜刀。刃が朝の薄明かりを受けて、すっと走る。自分でも驚くほど静かな抜刀だった。


「……ほう」


 背後から声がした。振り返ると、ガランが立っていた。すでに起きていたらしい。


「今の動き、見たことがない」


「俺の故郷の剣だ。抜刀術と言う」


「速いな。斬る前に、もう抜けている」


「俺も今、ちょっと驚いてる」


「また手習いか?」


 ガランには昨日、俺のスキルのことをそれとなく話をしている。


「ああ。銃を人前で使うわけにはいかないからな」


 ガランは真面目な顔で頷いた。


「良い判断だ。ここでは、異界の武器より刀の方がまだ説明しやすい」


「問題は、俺が昨日まで刀なんて振ったことがなかったことだ」


「今の一太刀を見る限り、そうは見えんな」


「スキル様々だな」


 俺は刀を納めた。かちり、と鍔が鳴る。その音で、テントの中から白い耳がぴょこんと出た。


「おっちゃん……?」


「起こしたか」


 ユキがこびゃっこを抱えたまま、眠そうに出てくる。


「おっちゃん、ながいの、もってる」


「刀だ」


「かたな」


「危ないから触るなよ」


「いたい?」


「すごく痛い」


 ユキは真剣に頷いた。


「かたな、こわい」


「怖いものとして覚えておけ」


「おっちゃん、つよくなる?」


「少しはな」


「ユキも、ぱちってする」


「お前はまず無理しない」


「むー」


 その頃には、他のハンターたちも起き出してきた。ドランは刀を見るなり目を輝かせた。


「ほう! 細身の剣か!」


「分解するなよ」


「剣は分解せん!」


「ならいい」


 マリベルは俺の腰の吊り下げベルトを見て感心していた。


「外套の下に吊るすのですね。確かに、遠目には旅人の剣に見えます」


 リーファも頷く。


「レイシスで目立ちすぎるのは避けたいものね」


 ロクは鼻をひくひくさせる。


「鉄と油の匂いっす。新しい武器の匂いっすね」


「鼻が便利だな。刀剣油も分かるのか」


「便利っす。でも肉の油の匂いには弱いっす」


「そこはユキと同じだな」


 ユキが胸を張る。


「にくは、えらい」


「そこは昨日から変わらないな」


 朝食は簡単に済ませた。ロールパン。目玉卵。ソーセージ。コーンスープ。温野菜。ユキにはホットミルク。


 昨日の焼き肉でハンターたちはだいぶ俺の食料事情に慣れたらしい。いや、慣れていいのかは分からない。


 ドランはソーセージを噛みしめながら言った。


「朝からこれか。ヒカル、お前さん、本当に同行してくれるんだろうな?」


「飯目当てか?」


「もちろんだ」


「そこは否定しろ」


「戦力としても頼もしいぞ。飯も頼もしいが」


 リーファが呆れていた。


「ドラン、少しは遠慮しなさい」


「遠慮で腹は膨れん」


「それを言ったら終わりです」


 ユキがソーセージを持って、ドランを見る。


「ドラン、にく、すき?」


「大好きだ」


「ユキも」


「神獣様とは気が合うな」


 ユキはそこで首をかしげた。


「さま?」


 ドランが固まる。


「え?」


「ユキ、さまじゃない。ユキ」


 ユキはこびゃっこを抱えたまま、少しむっとした顔で言った。


「おっちゃんはユキっていう。ドランも、ユキっていう」


 ドランは俺を見る。俺は肩をすくめた。


「本人がそう言ってる。呼んでやってくれ」


 ガランが静かに頷いた。


「分かった。これからはユキと呼ばせてもらう」


 リーファも微笑む。


「ええ。ユキ」


 マリベルは少し迷ったが、やがて柔らかく頭を下げた。


「では、ユキ。そう呼ばせていただきます」


「うん」


 ロクは耳を立てた。


「ユキ、でいいっすか?」


「うん。ロク、いぬだけど、いい」


「狼族っす……でも、ありがとうっす」


 ドランは豪快に笑った。


「では、ユキ。肉は偉いな」


「にくは、えらい」


 二人の間に、肉同盟が正式に成立した気がした。


 朝食後、ユキが急にしゃがみ込んだ。


「おっちゃん、みて」


「ん?」


 ユキは枝を持って、地面に数字を書き始めた。1、2、3、4、5。少し歪んではいるが、ちゃんと数字になっている。


「おお。数字、覚えたのか」


「マリベルに、おしえてもらった」


 マリベルが少し嬉しそうに頷く。


「昨日のうちに少しだけ練習しました」


「すごいぞ、ユキ」


「ユキ、えらい?」


「ああ。かなり偉い」


 ユキのフードの下で耳が動いた。


「ユキ、すきなすうじ、ある」


「好きな数字?」


「2」


 ユキは地面に大きく2を書いた。


「それと」


 次に、9を書く。


「9」


「……二と九」


 俺は直ぐに察した。


「に、く」


 ユキは真剣な顔で俺を見上げる。


「にく!」


「数字まで肉に寄せるな」


「2と9、えらい」


 ガランたちが吹き出した。マリベルはノートに何かを書き始める。


「マリベル、今何を書いてる?」


「ユキ、数字の2と9を好む。理由、肉」


「いや、記録しなくていいし」


「聖なる記録です」


「新約聖書が珍訳聖書になるから」


 ユキは得意げに胸を張った。


「ユキ、べんきょうした。にく、わかった」


「分かったのは肉じゃなくて数字だからな」


 朝からユキに翻弄されつつ、出発準備に入る。まず仮拠点の整理。テント、タープ、ポータブル電源、ソーラーパネル、調理器具、シャワー用品。すべて収納へ入れる。


 ハンターたちは、何度見てもそのたびに驚いていた。


「……やっぱりおかしいっすよ、その収納」


 ロクがつぶやく。


「俺もおかしいと思う」


 ドランが腕を組む。


「馬車一台どころではないな。家が丸ごと入りそうだ」


「たぶん入る」


「入るのか」


「容量は無限らしい」


 ガランが苦笑した。


「国が知れば、取り合いになる能力だ」


「言うな。怖くなる」


「実際、隠した方がいい」


「そうする」


 収納持ちはこの世界で百人に一人くらい。珍しくはない。ただし、普通は袋一つから馬車一台分。俺の無限収納、時間経過なしは異常。


 これは人前で気軽に見せるものではない。すでに彼らには見られているが、信頼できそうな連中で助かったと思うしかない。


 湖畔の結界は、出発前に補強しておく。鑑定してみた。



【鑑定結果】

名称:簡易連結結界

基点:鳥居紋 八箇所

効果:低級魔物の侵入抑制

状態:やや消耗

維持予測:術者不在で約三日

備考:基点の再活性化により維持時間延長可能



「三日か」


「みっか?」


「ユキがいなくても、三日くらいは残るらしい」


「ユキ、ぱちってする」


「ああ。出発前に補強しておこう」


 荷物は全て収納したので、この場所には何も残らない。ただ、戻ってくる目印は欲しい。俺はショップを開き、ホームセンター用品からソーラーポールライトを購入した。



【購入内容】

・ソーラーポールライト

高さ:約一・八メートル

自動点灯

必要魔石ポイント:179



「購入」


 アンティーク調のポールライトが現れる。湖畔の少し高い場所、鳥居紋の近くにうU字の鉄筋アンカーをハンマーで地面に叩き込む。


「これで夜なら光るはずだ」


「ひかる?」


「太陽の光をためて、夜に光る」


「たいよう、えらい」


「本当に偉い」


 ユキは湖畔の鳥居紋を一つずつ回った。


「ここ、ユキのかりのいえ」


 ぱちっ。


「まもの、くるな」


 ぱちっ。


「おっちゃん、またくる」


 ぱちっ。


「こびゃっこも、またくる」


 ぱちっ。


「にくも、またくる」


 ぱちっ。


「肉は来るのか?」


「くる」


「概念として?」


「にくは、えらい」


 鳥居紋が再び淡く光る。鑑定結果が変わった。



【鑑定結果】

名称:簡易連結結界

状態:安定

維持予測:術者不在で約三週間


 

 ユキの神格が幼神二段に上がったからか、明らかに維持力がアップしている。


「凄いな。三週間くらいは持つらしいぞ」


「また、くる?」


「ああ。帰ってきたら、ここにキットハウスを建てるかどうか決めよう」


「いえ」


「そうだ」


「ふかふか?」


「ふかふかにする」


「しゃわー?」


「シャワーも使えるようにする」


「ほっとみるく?」


「毎朝は検討する」


「むー」


 そこはまだ交渉が続くらしい。次はユキの服装問題だ。狐耳はフードで隠せる。問題は尻尾。


 俺は昨日のうちに買っておいた大きめのマントと、ぬいぐるみ収納リュックを出した。


 ユキの尻尾を背中側に沿わせ、柔らかい布を詰めたリュックの中へ入れる。表向きは、大きな荷物を背負っている子供だ。


「どうだ?」


 ユキは不満そうに後ろを見る。


「しっぽ、せまい」


「痛いか?」


「いたくない。でも、しっぽ、むーってしてる」


「尻尾がかくれんぼしてるんだ」


「かくれんぼ?」


「隠れている人を見つけたり、逆に見つける人から隠れる遊びだ」


「あそび?」


「ああ、見つかったら負け」


「ユキのしっぽ、まけない」


「人がいる場所だけだ。森の中では出していい」


「ほんと?」


「ああ」


「じゃあ、かくれんぼする」


「偉いぞ」


「ユキ、えらい?」


「かなり偉い」


 リュックの中で尻尾が動こうとして、もこもこ揺れた。


「尻尾も偉い」


「しっぽ、えらい」


 ロクが横から言う。


「遠目なら問題なさそうっす。近づかれると少し怪しいっすけど、子供の荷物と言えば押し通せるかもっす」


 リーファも頷く。


「耳はフードで隠れています。人目のある場所では、なるべく私たちの中央を歩かせましょう」


 マリベルが補足する。


「レイシスの兵士は怪しいものを調べたがります。検問では特に注意が必要です」


「検問か……」


 面倒だ。いざとなれば収納にいろいろ隠せるが、ユキ本人は隠せない。生物収納は不可だ。


 俺は紺色の地味な旅用マントを羽織った。ハーフコートの上からでも動けるよう調整する。


 刀は左腰。ハーフコートのサイドスリットから、デニムパンツのベルトに付けた軍刀用吊り下げベルトで下げている。


 ライフルは収納する。ピックアップトラックや重火器も封印。いざという時の保険はある。だが、表に出すものではない。


 出発前に、ガランが地図を広げた。羊皮紙のような素材に描かれた簡易地図。東にオリエント王国。西にレイシス皇国。その間に広大な森。湖は、その森の西寄りに位置しているらしい。


「現在地はこの辺りだ」


 ガランが湖を指差す。この湖の南西部が現在地となる。


「ここから西へ進めば、二日ほどで森を抜ける。普通なら三日はかかるが、俺たちは慣れている。ヒカルとユキがいるなら、無理をせず二日半くらい見ておけばいい」


「急ぐ必要は?」


「親書は早く届けたいが、急ぎすぎて事故を起こす方がまずい」


「同感だ」


 無理はしない。これが大事だ。俺はユキの加護で見た目が若返り、身体能力軽度上昇と疲労回復力上昇と危険察知が微上昇したが、精神は四十歳のままだ。念のため段取りなしの強行軍はしない。


「途中で魔物は出るか?」


「出る」


 即答だった。


「この森だからな。だが、レイクサーペントのような厄災級はまず出ない。出ないはずだ」


「はず、か」


「森では絶対とは言わん」


 嫌な言い方だが、正直でいい。ロクが補足する。


「魔物の気配は俺が見るっす。ユキの鼻もあれば、かなり早めに分かると思うっす」


「ユキ、におい、わかる」


「頼りにしてる」


「ユキ、えらい?」


「ああ。偉い」


 リュックがもこっと動いた。


「しっぽも、えらい」


「はいはい」


 出発前、俺は湖畔を振り返った。仮拠点は片付け、地面には鳥居紋が残っている。そしてポールライトが目印として立っている。結界は三週間ほど持つ。


 ここに戻ってきたら、キットハウスを建てるか考え、ユキの最初の寝床には祠を建てる。中に納める神棚と白狐一対、ミニ鳥居は収納の中にある。


「戻ってくるからな」


 俺が呟くと、ユキも湖を見た。


「ここ、かりのいえ」


「ああ」


「また、くる」


「来る」


「ほっとみるくも?」


「作る」


「にくも?」


「出す」


「いえも?」


「検討する」


「けんとう」


 ユキはこの言葉を覚えたらしい。


「おっちゃん、けんとう、すき?」


「大人は検討しがちだ」


「ユキ、けんとうしない。にく、すぐいる」


「即断即決だな」


 ガランたちが笑う。こうして、俺たちは湖畔を出発した。隊列は、先頭にロク。その後ろにガラン。中央にユキと俺。左右をリーファとマリベル。最後尾にドラン。


 ユキはフードを深く被り、こびゃっこを胸に抱えている。尻尾は背中の大きなリュックの中。歩き始めてすぐ、ユキが俺の手を握った。


「おっちゃん」


「どうした?」


「しっぽ、むーってする」


「我慢できるか?」


「できる。でも、あとで、ふわふわする」


「ああ。人目がないところで出してやる」


「やくそく」


「約束だ」


 森の中へ入る。湖の光が木々に遮られ、空気が少し暗くなる。昨日までなら、この森はただ怖いだけだった。


 だが今は、隣にユキがいて、前後にハンターたちがいる。心強い。同時に、これから向かう先のことを思うと、胃が重くなる。


 レイシス皇国。人族至上主義。奴隷制度。亜人差別。ユキを連れて行っていい場所ではない。だが、知らないまま湖畔に家を建てる方が危ない気もする。


 俺は自分の手の中にあるユキの小さな手を見る。この子を守るためには、周囲を知らなければならない。危険から目を逸らしても、危険が消えるわけではない。


「おっちゃん」


「ん?」


「こわい?」


「ああ。怖い」


「ユキも、こわい」


「そうか」


「でも、おっちゃん、いる」


「いる」


「ガランたちも、いる」


「いるな」


「こびゃっこも、いる」


「いる」


「じゃあ、ちょっと、だいじょうぶ」


 俺は少し笑った。


「そうだな。ちょっと大丈夫だ」


 ロクが前方から小声で言う。


「魔物の気配は今のところ薄いっす」


 ガランが頷く。


「このまま進む」


 森の中、東から西へ。神聖と畏怖の森を抜け、俺たちはレイシス皇国へ向かう。


 四十の手習いで始まった異世界生活は、気づけば国境と奴隷制度の問題に近づいていた。無趣味の四十男だった俺には、あまりにも重い。


 だが、ユキが俺の手を握っている。なら、歩くしかない。段取りを組んで。無理はしないで。でも、見なかったことにはしない。それが今の俺にできる、大人のやり方だった。



【収支報告】


開始残高:999,265 pt


今回の購入:

・手習い:剣術取得 1,500 pt(約150,000円)

・実用日本刀一式 2,300 pt(約230,000円)

・軍刀用吊り下げベルト、刀袋、手入れ道具 300 pt(約30,000円)

・ソーラーポールライト 179 pt(約17,900円)


今回支出合計:4,279 pt(約427,900円)


現在残高:

999,265 pt − 4,279 pt = 994,986 pt


円換算目安:

994,986 pt × 100円 = 約99,498,600円相当


続く

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