5.新しい居
森を出た僕は、カームに教わっていた「ある場所」を目指して歩いていた。
そこは、国一つ分ほどもある広大な土地でありながら、生き物の精神を蝕む猛毒の「瘴気」が絶え間なく溢れ出している、世界から見捨てられた絶望の地だ。
境界線に立った時、僕の鼻を突いたのは、前世のあの部屋を思い出させるような、よどんだ嫌な匂いだった。
「……ま、まずは掃除からだね」
僕は一歩、その暗闇の中へと踏み込んだ。
そして深く息を吸い込み、ただ頭の中で結果を定義する。
(――消えて。ここは、僕の場所にするんだから)
僕がそう願った瞬間、溢れ出した魔力が波紋のように広がり、数千年の間この地を支配していた瘴気を、一滴残らず食い尽くしていった。
黒い霧が晴れ、分厚い雲に穴が空く。差し込んだ太陽の光が、数百年ぶりに大地を照らした。
僕はさらに、自分のイメージを形にしていく。
瘴気が消えた地の中心に、白亜の城を。そしてその周囲を囲うように、地中深くから岩石を隆起させ、ただの人間には見上げることさえ困難なほどの巨大な城壁を築き上げた。
これで、僕の許可なしにここへ入れる者は誰もいない。
城の中、大きな鏡の前に立った僕は、着ていた服を少し寛げ、自分の体を確認した。
白磁のような肌の上、腹部から背中にかけて刻まれた緻密で美しい「紋様」。
「……これを人に見られるわけにはいかないな」
精霊族は、その美しさと魔力を欲しがる連中に狙われやすい。魔法を見せれば、すぐに正体を悟られるだろう。だから魔法は、どうしようもない非常時以外は隠しておかなければならない。
僕は腰に差した一振りのナイフを抜き、その重みを確かめた。
カームは魔法だけでなく、こうした「喧嘩」のやり方も教えてくれた。魔法に頼らずとも、この10年で叩き込まれた身のこなしとナイフ一本あれば、大抵のことはなんとかなる。
「さて。のんびりさせてもらうよ、カーム」
高い壁、広大な庭、そして白い城。
僕は誰に気兼ねすることもなく、贅沢な独り占めの生活を始めた。




