4.別れそして
カームと暮らし始めて、十年が経った。
僕の背は伸び、銀色の髪は腰に届くほどになった。
この十年、カームは僕を一度も縛らなかった。「ああしなさい」「こうしなさい」なんて言われたこともない。ただ、僕がしたいと思うことを、隣で「いいよいいよ、楽しいねぇ」と笑って見ていてくれた。
そして、カームが僕を生み出してから、ちょうど十年の月日が流れた午後のことだ。
「おや、ルミナス。……そろそろ、お茶の時間も終わりかなぁ」
いつも通り、二人でテーブルを挟んで座っていた時だった。
西日の差し込む家の中で、カームの足元がキラキラと光の粒になって、静かに消え始めていた。
僕はそれを見ても、悲鳴を上げることはなかった。ただ、その時が来たのだと、静かに受け入れていた。
「カーム、足、消えてるよ」
僕が淡々と言うと、カームは自分の体を見下ろして、いつも通りおっとりと微笑んだ。
「おや本当だねぇ。約束通り、十年間。君が一人で歩けるようになるまで、しっかり見届けられたねぇ」
カームは、自分の最期の十年をすべて、僕を育てるためだけに使い切ってくれた。
僕がこの世界を「いいところだ」と思えるようになるまで、彼はこの場所に踏みとどまってくれていたのだ。
カームの体は、どんどん光に溶けて、透明になっていく。
「ルミナス。君は、君が思う通りに生きなさい。……楽しんでおいで」
最後まで凪のような笑顔のまま、カーム・アイテールという存在は光となって空気に溶け、完全に消えた。
さっきまでカームが座っていた椅子には、もう誰もいない。
テーブルの上には、まだ温かい飲みかけの茶器だけが残されていた。
「……うん。行ってくるよ、カーム」
悲しくないわけじゃない。でも、前世で感じていたような「絶望」はどこにもなかった。
カームがくれたのは、僕を縛る鎖ではなく、どこへでも行ける翼だったから。
僕は銀髪を一つに束ね、開け放たれたドアの先――どこまでも続く森の出口を見た。
「さて。まずは、世界を覗きに行こうかな」
僕は一つ伸びをして、一歩、森の外へと踏み出した。




